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国債急落の際の国内金融機関による国内の資金シフト

 欧州の信用不安において、ユーロ域内での国債の資金シフトが起きた際に、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアさらにベルギーやフランスの国債が売られ安全資産としてドイツ連邦債が買われる構図となっていた。統一通貨であり、為替リスクなしに資金シフトが可能であり、それがイタリアやスペインの国債下落を促した面はある。

 それでは、日本国内ではどうであろうか。もしも、日本国債への信用不安が起きた際に何が起きるのか、少し頭の体操をしてみたい。

 すぐに資金がドルやユーロ等に流れることは想定しづらい。ましてや金などに向かうことも考えられない。国債への投資資金の規模が大きすぎるためである。本当に日本がヤバイとなれば、海外資産への逃避は起きるかもしれないものの、その前に起きることが予想されるのは、デュレーションの短期化である。つまり保有する国債の平均残存年数の短期化である。

 国債は長い期間のものほど、同じ利回りに対する価格変動幅が大きい。つまり、日本国債への信用不安が生じた際には、まずは長い期間の国債が売られる可能性が高い。ただし、生保・年金などはその運用期間にマッチさせるべく長い期間の国債に投資しており、これらの投資家がいきなり売却を急ぐことは考えづらい。それよりも動きが速い大手銀行などが、保有する債券の期間をより短期に修正してくる可能性がある。国内投資家による売りが入れば、債券先物はヘッジファンドなどの売りから下げを加速させよう。

 つまり国内の銀行などは長期金利上昇による損失をなるべく回避するため、10年債などを売って、その資金をより安全とされる日銀の当座預金に残すなり、1年以下の期間の国庫短期証券などより短期の国債に振り向けて来る可能性がある。これは国内での資金シフトであり、債券相場全体に影響はないように見えるが、これにより短期金利は低位で張り付くのに対し、長期金利は大きく上昇してくることになる。

 長期金利が上昇すれば、本来であれば投資家により絶好の収益を向上させるチャンスとなるが、その背景が経済・物価動向ではなく、財政プレミアムがオンされてしまっている状況であれば、残念ながら投資家は利回りだけを見て国債を購入することはない。日本の信用不安が解消されるまでは、手は出せないであろう。これについては、これだけ利回りが上昇しても見向きもされない現在のギリシャ国債を見れば明らかである。


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# by nihonkokusai | 2011-12-12 15:49 | 国債

若さとスピードが売りの英国の財政再建

 欧州連合(EU)首脳会議はユーロ圏の財政規律強化で基本合意した。ただし、EUに加盟している27か国による基本条約改正では合意できず、条約改正を通じた財政規律の強化については英国が反対した。英国のキャメロン首相は、首脳会議に提案された内容は英国の国益に沿わなかったと発言しており、国際金融街ロンドン・シティを抱えることで、金融取引税の導入に対する強い反対が背景にあったと藻指摘されている。ただし、これで英国が財政再建に後ろ向きと捉えるべきではない。むしろ、英国は積極的に財政再建に取り組んでいる。

 1997年5月に英国ではブレア政権が誕生し、ブラウン財務相は就任わずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、独立性を高めるという大胆な改革に踏み切った。

 ブレア政権によるイングランド銀行の改革により、イングランド銀行総裁、副総裁、理事、外部らの委員で構成される金融政策委員会へ政策運営権限が委譲され、外国為替市場介入権限を部分的にイングランド銀行へ委譲され、準備預金制度の法制化、銀行監督権限をイングランド銀行から分離し、新設された金融サービス機構(FSA)へ移管し、そして国債管理業務は財務省へ移管されたのである。

 金融政策に関しては、インフレーション目標の土台が築かれた。インフレーション目標は政府が設定し、イングランド銀行はこれを達成するために必要な政策手段を決定するという役割となった。また、量的緩和策の導入やその拡大にあたっても財務相の了承が必要となっている。

 しかし、この改革の際には「財政安定化規律」がセットとして設けられていることに注意したい。1980年代後半から90年代前半にかけての英国では財政赤字の拡大、公的債務の累増が生じた。こうした状況に陥った最大の要因は、明確で透明性の高い財政政策の目標がなかったことにあった。このためブレア政権下において、1998年に財政安定化規律(The Code for Fiscal Stability)が議会の承認を経て制定されたのである。

 また、1998年4月に英国の国債管理政策に関する権限と責任は、イングランド銀行から「債務管理庁」に移されている。国債の年間発行額、固定利付債と物価連動債の発行額、入札回数、入札予定日等は、年度開始直前(3月)に財務省から債務管理庁(DMO)に通達されるが、債務管理庁はこの通達に基づき、債務管理庁は各回の発行毎に具体的な年限、利率、発行額を決定している。

 参考までに、2009年3月末に英国の国債入札による発行予定額に応札が届かない未達が7年ぶりに発生した際、DMOは金融機関によるシンジケート団の提示した買い入れ額に応じて発行する仕組みも再導入した(朝日新聞の特集記事より引用)。

キャメロン政権による財政再建

 2010年5月の総選挙により政権についたキャメロン首相は財政再建を最優先課題とした。その5年間という任期在任中に財政再建を果たすために、6月に財政再建に向けた緊急予算案を発表した。オズボーン英財務相が発表した緊急予算案によると、第二次大戦後で最悪規模に膨らんだ公的債務を減らすため、2011年1月4日から付加価値税の基礎税率を現在の17.5%から20%に引き上げた。

 オズボーン財務相は2010年度の公的債務が1490億ポンドに上るとの見通しを示した。このため、年間20億ポンド規模の銀行新税を2011年から導入するとともに子供手当てや福祉給付カットなどの歳出削減を組み合わせ、財政赤字のGDP比を2015年度までに1%まで引き下げるとした。

 財政再建には大きな痛みを伴う。これは財政再建に向けた動きに対して、デモが発生したギリシャなどの例を見ても明らかである。しかし、ギリシャなどは外部からの財政再建の圧力に屈したものであり、内部からその声が強まったわけではない。

 これに対して英国では、選挙で財政再建を最優先課題とした保守党を国民は支持したことになり、内なる声に耳を傾けた結果の財政再建であり、国民は自らの責任において財政再建を推し進めるべきとしたものである。ちなみに、1990年代でのカナダのクレティエン政権による財政再建も同様に国民の声に答えたものである。

 英国の政治を見ると、スピード感が日本などとまったく異なる。キャメロン政権の財政再建もそうであるが、1997年5月に誕生したブレア政権もやはりそうであった。当時のブラウン財務相は就任わずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し独立性を高めるという大胆な改革を進めている。

 キャメロン首相もブレア元首相も非常に若いときに首相に就任しており、若さ故のスピード感もあった。また、高い支持率がある政権交代時にすぐに行動に移すことにより、時間をかけることによって生じかねない反対意見を抑えこんで、とにかく既成事実化する必要もあったと思われる。


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# by nihonkokusai | 2011-12-12 09:55 | 財政

日本国債のバルスを避けるには

 消費増税の行方も怪しくなっているようだが、日本国債でも「滅びの呪文」が唱えられる日が刻々と迫りつつあるように思われる。市場内で、9日の放映で話題となった天空の城ラピュタの有名な呪文「バルス」が唱えられないようするためにはどうすれば良いのであろうか。

財政制度等審議会 財政制度分科会がまとめた下記レポートもおおいに参考になるのではなかろうか。
「財政の健全化に向けた考え方について」

 このレポートをざっと読んでいて、ふと目にとまった箇所があった。下記の部分である。

 「例えば、経常収支黒字国であるにもかかわらず大きな財政赤字と債務残高の増加、そして言語対立等による政治混乱に苦しんでいたベルギーでは、1993年に、実質経済成長率がマイナスの中で、付加価値税の増税などの増収措置と社会保障の効率化などを決定して実行に移し、その後も着実に歳出歳入の両面にわたって財政健全化の取組を行うことによって、2001年度には一般政府ベースでの財政黒字を実現している。」

 実質経済成長率がマイナスの中で付加価値税の増税を行ってまで財政健全化を目指した国もある。しかもベルギーは経常収支黒字国でありながら、大きな財政赤字と債務残高の増加が問題となりまさに現在の日本と同様の状況にあったようであり、このあたりの事例も参考になりうる。

 ただし、財政再建を進めたベルギーの国債は、政権の不在が1年半に渡るという異常な事態が続いていた事に加え、ユーロ圏の信用不安の影響を受けてイタリア・スペインなどの金利上昇にも影響され、10年債利回りは一時6%近くまで大きく上昇していた。このあたり、日本のような経常黒字国の国債急落はありえないとする見方に対して疑問符を投げかけよう。経常黒字国であろうが、財政リスクプレミアムの上昇などにより長期金利の上昇、つまりは国債価格の急落はありうるのである。

 マーケットに少しでも不安心理が生じれば、「バルス」の呪文が唱えられる懸念が強まる。日本国債は暴落するわけないと唱えたり信じるのは勝手だが、国債への信用は、あくまで市場参加者の漠然とした信頼感の上に成り立っていることを認識すべきである。先日のJGB関係者のパーティーに参加した際、近くにいた若手の資金運用担当者たちの会話をつい聞いてしまった。

「日本の国債って大丈夫なんだろうか」
「たぶん大丈夫だと思うけどな」

 市場参加者は日本国債に万全の信頼を置いているわけでは決してない。特に今回の欧州の信用不安で、多少の揺らぎも国内投資家の間では広がっている可能性もある。 その揺らぎが本格的な懸念に繋げないよう何をすべきか。それは今、政治家が判断しなければいけないことである。一度呪文が唱えられてしまうと、取り返しのつかない状況に陥りかねないのが現在の日本の財政状態であり、それを支えているのは、市場参加者の心理状態が大きく影響する国債市場であることを認識しておくべきである。


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# by nihonkokusai | 2011-12-11 10:46 | 国債

ECBに見る市場との対話の難しさ

 8日に欧州中央銀行(ECB)は定例理事会で、政策金利であるリファイナンス・オペ金利を0.25%引き下げて年1.0%にすると決定した。また、上限金利である限界貸出金利と、下限金利である中銀預金金利もそれぞれ0.25%引き下げた。総裁会見によれば、利下げについては全会一致ではなく多数決での決定だったようである。

 さらに非標準的手法として、流動性を供給するため期間36か月の長期リファイナンス・オペ(LTRO)を新設する。また、ファインチューニングオペの再開、支払い準備率の2%から1%への引き下げ、適格担保要件の緩和なども行われるようである。

 ただし、証券市場プログラム(SMP)を通じた国債等の買入については、物価安定の使命を外れたことはできない、とドラギ総裁は否定的とも言えるコメントをした上、IMFへの融資を通じた域内国債の買い支え案についても、EU条約に触れるとして応じられないと発言した。

 12月1日にドラギ総裁はブリュッセルの欧州議会で「新たな財政協定が、信頼を回復させ始めるための最重要の要素であることは間違いない」とし「その後には他の要素もあるかもしれないが、順序は大切だ。共有される共通の財政協定を整えることが、何よりも重要だ」と語った(産経新聞)。

 債券購入は「限定的にのみ可能だ」と述べたとも伝えられたが、市場ではこのドラギ総裁の発言から、かなりの期待も込めてか、ECBによる国債買入拡大の可能性ありと判断していたようである。

 ただし、昨日の会見でドラギ総裁は、EU首脳会議で財政規律の強化策に合意すれば、ECBとして積極的に国債を買い入れると言った観測について「答えはノーだ」と言い切り、理事会で議論しなかったと明言した(日経新聞)。

 つまりは市場が勝手に期待してしまったとも言えるものではあろうが、この発言等により欧米の株式市場は大きく下落し、ユーロ圏の債券市場では、イタリア・スペイン国債の利回りが急上昇するなどしてしまった。

 このあたり、ドラギ総裁による欧州議会での発言に考慮が必要であったように思われる。ECBの政策への期待感を出すつもりはなかったのかもしれないが、特に国債買入拡大についてはもう少し明確に否定しておくべきであったと思われる。ドラギ総裁にとって、言わずもがな、であったとしても。

 まだ、ドラギ氏はECB総裁となって日も浅く、マーケットとのコミュニケーションの難しさを今回、かなり認識したのではなかろうか。今後は発言等により気を配ってくる可能性もあるが、とにかく総裁が誰であれ、ECBはあくまでブンデスバンクの血を引いているという事実をマーケットも認識すべきである。

 ちなみにECBは再び政策金利を史上最低水準に戻した。この動き、どこかで見たことを思い出す方もいるのではなかろうか。

 2006年3月に量的緩和政策を解除した日本銀行は、7月にゼロ金利政策を解除し政策金利を0.25%に引き上げ、2007年2月に政策金利を0.50%に引き上げた。しかし、2008年10月に政策金利を0.5%から0.3%に引き下げ、12月には0.3%から0.1%に引き下げた。

 日銀も金融緩和からの方向転換は一時的であり、再び実質的なゼロ金利政策に戻ってしまった。今回のECBの動向を見ても、どうやら歴史は繰り返されるようである。


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# by nihonkokusai | 2011-12-10 10:34 | 中央銀行

石田日銀審議委員の講演より、最近の情勢のまとめ

 12月7日に行われた石田浩二日銀審議委員の静岡の講演内容が、日銀のサイトにアップされており、今回はその内容について見て行きたい。ちなみに石田審議委員は、住友銀行出身で今年の6月30日に日銀の審議委員に就任している。

 やはり注目すべきは欧州の動向をどのように見ているかであろうが、それについて石田委員は以下のようにコメントしている。

 「欧州債務問題は、09年10月、政権交代により発足したギリシャの新政権が、同国の財政赤字がそれまで公表されていたものよりも大きいことを明らかにしたことに端を発しております。翌10年4月に、ギリシャはEU/IMFに支援を要請しました。その後、問題はより拡大し、同年11月にアイルランドが、また翌11年4月にはポルトガルが同じく支援を要請することとなりました。さらに、足もとではユーロ圏の大国であるイタリア・スペインへの伝播もみられており、これらの国々の国債の利回りが歴史的な高水準まで上昇しています。」

 「欧州債務問題は、発生当初から、国債価格の下落が、こうした国債を多く保有する欧州金融機関の財務状況を悪化させ、これが貸出の抑制へ繋がり、企業・家計の経済活動を下押しし、実体経済を悪化させるとともに、財政赤字をさらに増加させ、一段の国債価格の低下を招くという「負の相乗効果」に繋がることが懸念されていました。夏場以降、こうしたリスクが急速に高まり、既に一部では顕現化しています。」

 欧州の債務問題は、このように金融システム問題に波及する可能性があり、というか、かなり波及しつつあり、それが実態経済にも影響が及ぶ可能性が出てきている。それによりさらに財政を悪化させて、財政再建が滞るという悪循環が生まれつつある。

 「金融市場の不安感が高まるなかで、グローバルな投資家の安全資産選好が強まっており、株式市場の下落を招いたり、相対的に安全とみられる資産に資金が集まることになっています。こうしたもとで、外国為替市場では円が買われているということであります。」

 なぜ欧州の信用不安で、日本の円が買われるのか。これはなかなか理解しがたい部分もあろうが、「安全資産選好」、「相対的に安全」というあたりがポイントとなろう。

 「先行き国際金融資本市場において、投資家のリスク回避姿勢が一段と強まることがあれば、新興国からの資金流出に繋がる可能性もあります。また、欧州金融機関では、ドル資産を圧縮する動き─いわゆるデレバレッジング─もみられており、先行き、新興国向けの貸出が抑制され、貿易金融などに影響が及ぶことも懸念されます。」

 すでにこれについても影響は出てきているとみられるが、リスク回避志向による新興国からの資金流出については、投資信託などを経由して日本の個人投資家にも影響が及ぶ可能性がある。ちなみに、デレバレッジングは負債圧縮とも訳される。

 「わが国の輸出に占めるユーロ圏向けの輸出は1割弱ですが、わが国の主たる貿易の相手国である米国、新興諸国のユーロ圏への輸出比率は高く、これらの国の景気の減速がわが国の輸出に与える影響が懸念されます。また、円高は、企業収益を下押ししますし、企業や家計のマインドを悪化させます。」

 日本からのユーロ向け輸出は全体の1割しかないものの、最大の輸出先である米国や中国などからのユーロ圏への輸出額は多いことで、間接的ながらもユーロの景気減速はこれらの国を通じて日本にも影響を与えかねない。

 「(欧州の)問題の本質は、財政状態や経済力の格差が大きな国々が単一の通貨を利用しているにも拘わらず、財政政策は統合されていないという構造にありますので、抜本的な解決には相当な時間を要すると思われます。抜本的な解決に向かうための時間をつくるうえでも、ひとつひとつの問題に対する処方箋を実行していくことが望まれます。」

 まさにこのあたりが、現在、最大の問題点であり、それについてどのような対策をするべきかが、今回のEU首脳会議でも大きなテーマになるものと思われる。

 「現在、ギリシャなどの各国の国債に非常に高い金利がついています。しかし、つい3年ほど前にはギリシャをはじめこれらの国々の金利は一番信用の高いドイツの金利とほぼ同程度でありました。一旦、国の信用が失われれば、如何に大きな打撃を受けるのかということが分かります。」

 欧州の債務危機は、国や国債に対する信認・信用の揺らぎが大きな要因となっており、いったんその信認を失えば、それを再構築するにはたいへんな努力がひつようとなり、それ以前に世界経済にも大きな影響を与えることが実証された。

 「翻ってわが国をみますと、政府債務残高の対名目GDP比は先進国では突出しています。現在、日本の国債金利が極めて低水準を保っている背景としては、大幅な経常黒字国であること、国債の国内消化率が高いこと、などが指摘されていますが、今後とも低水準の金利が続く確たる保証があるわけではありません。信認をしっかりと確保していくことが大変重要であると考えます。」

 これについてはいまさら言うまでもないことではあるが、日本も決して安泰ではない。債務の規模も非常に大きく、何かのきっかけで日本に対する信認が揺らぐ可能性がないとは言えない。日本国債が暴落するなどありえないから、積極的に財政出動や日銀による国債直接引き受けを行えとの意見をいまだに目にするが、それで信認が失われたら誰が責任をとってくれるのであろうか。


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# by nihonkokusai | 2011-12-09 09:59 | 日銀
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