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今年の債券相場を振り返る(6月から9月編)

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 6月に入りギリシャの債務問題がかなり深刻化した。米国では景気減速観測もあり、米国市場はかなり神経質な展開となったことで、米債は乱高下し、円債もその影響を受けた。ただし、日々の乱高下はあっても相場そのものはレンジ相場となり、債券先物は140円台後半から141円近辺での動きとなった。

 6月29日にギリシャ議会は緊縮財政案を可決したのに続き、30日には実施方法を定めた関連法案が可決された。これによりEUとIMFから第5弾の融資として120億ユーロを受け取る条件が満たされたことになり、ギリシャのデフォルトは一旦、回避されることになった。

 これを受けて米債が売られ、7月1日に債券先物は141円を割り込み、7月8日には141円51銭まで下落した。5月上旬以降の債券先物のレンジの下限が141円50銭近辺となっていたが、今回もここが下限となり、その後再び上昇基調を強めることとなった。

 今度は欧州の債務危機がイタリアにも波及するのではとの懸念が強まり、7月12日にイタリアの10年国債利回りは6%を上回った。安全資産として日本国債は買い進まれ、7月19日に債券先物は141円89銭をつけ、10年債利回りも1.060%に低下した。ところが、好調な企業決算を受けて米株が上昇してきたことで、7月20日の日経平均は1万円の大台を回復し、これが債券の上値を抑えた。

 その後今度は米国の動向が焦点となった。8月2日が期限となる14.3兆ドルの連邦債務上限の引き上げをめぐる協議で合意が出来ず、これが金融市場に影響を与えた。8月1日にオバマ米大統領は米債務上限引き上げの協議で民主・共和両党指導部が合意したと発表し、この合意により米国債のデフォルトといった事態は回避された。

 しかし、欧州ではイタリアやスペインの債務問題が浮上し、世界的なリスク回避の動きが強まった。スイスフランや円が買い進まれ、スイス国立銀行は3日に金融緩和を実施し、4日には政府・日銀は円買いドル売り介入を行なった、日銀は金融政策決定会合を4日の1日だけに短縮し、資産買入等の基金を40兆円から50兆円と10兆円追加するという追加緩和策を決定した。

 しかし、世界的なリスクオフの動きは止まらず、4日の米国株式市場ではダウが512ドル安に、米2年債利回りが過去最低水準をつけた。日本の債券市場も直近の高値を試す展開となり、10年債利回りは1%を割り込み、債券先物も2日に142円台に乗せた。

 格付会社S&Pは、8月6日に米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。これを受け米国市場はかなり不安定な動きとなり、8日の米国株式市場はダウ平均が634ドルの下落となり、米債は株安などから買い進まれ、米10年債の利回りは2.3%台の前半まで低下した。

 8月9日のダウ平均はFRBの追加緩和期待により今度は429ドル高となるが、10日にはフランスの格下げ懸念などから、519ドルの下落となるなど乱高下した。日本の債券市場では10年債利回りの1%近辺では高値警戒感も強まり、債券先物は一時142円を割り込んだ。

 その後再び世界的なリスク回避の動きが強まり、18日にはドイツ連邦債が2.03%近辺、英国債も2.23%近辺と過去最低水準まで低下し、米10年債利回りも1.976%と記録的な低水準にまで低下した。19日には日本国債も買われ、10年債利回りは1%を割り込み、ドル円も76円を割り込んだ。

 しかし、その後は少し相場は落ち着きを取り戻した。8月24日に格付会社のムーディーズは、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けをAa2からAa3に一段階引き下げたが、この格下げによる影響も限られた。

 8月29日に実施された民主党の代表選挙は野田氏が勝利して民主党代表となり、30日の衆院本会議で野田氏は首相に指名された。野田氏が今回の立候補者の中では唯一の財政再建論者でもあっただけに、債券市場はこれを好感し債券先物は一時142円60銭台に上昇した。

 9月2日に発表された8月の米雇用統計を受け米国のリセッション入りへの懸念が強まり、欧州の債務不安が再燃し、6日に債券先物は143円台に乗せ、10年債の利回りも1%を割り込んだ。6日にスイス国立銀行は無制限の市場介入を表明した。

 9月14日にはドイツとフランスそしてギリシャの首脳が電話会談を行ない、15日には日米欧の中央銀行5行は10月から年末を越す期間約3か月のドル資金を無制限に供給する枠組みを設けることで合意したが、欧州の信用不安は燻り続けた。

 9月21日のFOMCではツイスト・オペの実施を決定した。これを受け米国債券市場では長い期間の債券主体に買われ、米30年債は3%割れとなった。ただし、円債は上値の重い状態が続き、先物で143円が上値の壁となったのである。 (だいぶ長くなってしまった関係で、10月以降の分は明日、お送りいたします)


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# by nihonkokusai | 2011-12-29 11:11 | 債券市場

震災直後を除き比較的動きが鈍かった2011年前半の国債市場

 2011年は東日本大震災、それによる福島原発事故などが起きたが、日本の債券相場そのものの動きは鈍く、これを見る限り、今年の債券相場はあまり印象には残らないかもしれない。

 とはいうものの、時期的にもそろそろ、債券先物の中心限月のチャートを見ながら今年の債券相場を振り返ってみたい。

 一見してわかるのは、震災直後にやや乱高下はあったものの、それ以外にはさほど大きな動きはなく、先物の値幅も昨年11月から12月にかけて相場が急落した際の値幅の中に収まってしまっているということであった。

 今年の債券先物は140円70銭で、10年債利回りは1.150%近辺での出合いでのスタートとなった。その後、米国経済の回復期待の高まりや米国債の入札が低調な結果となるなどしたことで、2月に入り米10年債利回りは3.7%台に上昇した。これを受けて2月9日に日本の債券先物は138円32銭まで下落し、10年債利回りも1.350%まで上昇した。1月27日に格付け会社のS&Pは日本国債の格付けを、AAからAA-に一段階引き下げたがこれによる影響は限定的であった。

 その後、エジプトやリビアでの政情不安の強まりなどにより、中東の地政学的リスクとともに、原油価格の上昇による景気への悪影響なども意識され、債券は買戻し圧力を強めた結果、先物は2月末から3月上旬にかけて140円近くまで上昇し、10年債利回りも1.3%割れとなった。

 3月11日の引け際の14時46分に巨大地震が発生した。のちに東日本大震災と名付けられたこの地震の影響で、中心限月が6月限に変わったばかりの債券先物は139円90銭まで急騰し、その後戻り売りに押され大引けは139円20銭と乱高下した。10年債利回りは1.2%台半ばあたりまで低下した。

 東日本大震災を受けて週明けの3月14日に、日銀は15兆円に達する積極的な資金供給を実施し、これを受けて債券先物は140円台に乗せ、10年債利回りは1.2%割れとなった。

 3月17日にドル円は一時76円台をつけ、史上最高値を更新。株安から債券先物は140円36銭まで上昇するが、その後株が戻し債券先物は139円70銭で引けるなど、やや波乱含みの展開に。18日には日米欧の金融当局が日本の要請に基づき協調介入に参加で合意し、介入が実施された結果、ドル円は79円台から一気に81円台をつけ、ユーロ円も111円台から114円近辺に跳ね上がった。

 ECBの利上げ観測に加え、FRBの出口政策が意識され米債が再び下落し、震災復興のための国債増発は避けられないものとの認識も強まり、4月に入り債券先物は139円割れとなった。8日には138円38銭まで下落し、10年債利回りも1.3%台に上昇した。しかし、ここがボトムとなり、その後債券相場は切り返した。

 債券先物中心限月のチャート(前後場のみ)を見ると、2月9日の138円32銭と4月8日の138円38銭がいわゆるダブルボトムとなったのである。

 債券相場はその後、5月上旬に向けて上昇相場となった。4月15日に格付け会社のムーディーズはアイルランドの格付けを2段階引下げ、ギリシャの債務再編の話も出てくるなど欧州の債務問題により、質への逃避の動きが強まった。米国債は4月上旬あたりからの上昇トレンドが継続し、日本の債券も同様に上昇基調が続き、債券先物は4月28日に140円台を回復し、10年債利回りは1.2%近辺に低下した。

 米国経済については一時の楽観的な見方は後退し、景気減速が意識された上に、ギリシャがユーロ圏を離脱するのではないかとの観測報道もあり、5月の大型連休の間に上昇基調を強めた結果、債券先物は141円近く、そして10年債利回りは1.1%近くまで利回りが低下した。

 6月2日に内閣不信任案の採決が行われたが、菅総理が第二次補正予算などに一定の目処をつけた段階での辞意表明を受けて、民主党の分裂が回避され、不信任案は否決された。これが好感されこの日の債券先物は141円台に乗せてきた。

 その後、ギリシャの債務問題が深刻化するとともに、日本の震災などの影響から米国経済に対して減速懸念も強まり、それが欧州経済にも影響を与える懸念もあり、米債やドイツ連邦債の利回りは低下した。これを受けて円債も買われ、6月24日に10年債利回りは節目とみられた1.1%を割り込み、債券先物も6月28日に141円63銭まで買い進まれたのである(後半に続く)。


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# by nihonkokusai | 2011-12-28 09:42 | 債券市場

日本が中国の国債を買う理由と中国の国債制度

 25日に野田総理大臣と中国の温家宝首相は、日本が外貨準備の資金を使って、中国の国債を購入することで合意した。日経新聞によると、人民元の国際化を急ぐ中国にとり、日本が持ちかけた国債の持ち合いを好機ととらえたようである。

 また、日本にとって最大の貿易相手国である中国と、金融面での協力を含め、経済のうえで一層関係を強めるねらいがあるとNHKは伝えている。日中が互いに国債を購入することにより、定期的な情報交換などにもつながるとして、安住財務大臣は「外交上も必要だろうと思う」と述べたようである(NHKのサイトより)。

 ここで少し中国の国債について見てみたい。中国の国債を発行しているのは中華人民共和国財政部であり、中華人民共和国国務院に属する行政部門で日本の財務省に相当する。中国の会計年度は1月から12月であるが、予算案を可決する全人代は3月に開催され、可決は3月半ばあたりとなる。

 中国の国債には、市場性国債(普通国債、特別国債)と非市場性で個人向けの貯蓄国債(証書式国債、電子式国債)がある。特別国債とは、2007年に外貨準備運用会社である中国投資有限公司(CIC)の資金調達のため財政部が発行した国債である。

 発行される国債はゼロクーポン債(割引債)が期間2年から5年債など。また、利付債が3か月、6か月、1年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、30年そして50年債まである。1996年からは流通可能な国債について全面的に入札制度が導入されている。

 債券の流通市場は、上海と深センの両証券取引所の他、1997年からはインターバンク(銀行間)市場、2002年には店頭市場(個人や非金融法人)が導入されたが、取引の約9割をインターバンク市場が占めている。

 投資家別の国債の保有割合を見ると、ちょっと古い数字だが、2009年12月末で商業銀行が61%、特殊決算メンバーが29%、保険会社が5%となっている。特殊決算メンバーとは、人民銀行など当局者であり、当局者、商業銀行、保険会社で9割弱を保有していることになる。

 海外投資家に関しては、2002年に導入されたQFII(Qualified Foreign Institutional Investors)制度により、QFIIつまり「適格外国機関投資家」以外の海外投資家は投資ができない。このため今回、日本が中国国債を購入するためには、中国人民銀行の認可を得て適格外国機関投資家となる必要がある。

 これまでナイジェリアやマレーシアなどが認可を得て中国国債を購入しているようで、先進国としては日本が初めてのケースとなる。

 日本は最大で100億ドル相当の中国国債を購入するようだが、それでも日本の外貨準備(約1.3兆ドル)に占める割合は0.8%程度でしかない。NHKでは、ドルに偏っている外貨準備の運用を多様化する可能性を指摘していたが、日経では「極めて少額であり、外貨準備運用の多様化という位置づけでは全くない」との政府高官の発言を取り上げている。

 これは極めて政治的な判断であり、「国債の持ち合い」をすることによる経済関係強化が大きな目的であり、日本における外貨準備の多様化や、お互いの国債市場への関与を意識したものではないと思われる。

 それよりも、円と人民元を直接取り引きできる為替市場の整備を支援し、円建てや人民元建てでの貿易決済を促進したりすることでも合意したことによる影響の方が大きいのではなかろうか。


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# by nihonkokusai | 2011-12-27 08:06 | 国債

見かけ上の財政規律と国債への信認

 国の来年度予算案の焦点となっている、基礎年金の国の負担分を二分の一に維持する財源について、政府は「交付国債」を発行して対応する。

 小宮山厚生労働大臣は、将来の消費税率の引き上げ分を充てることを目的に発行する「つなぎ国債」によって財源を確保するべきだと求めていたのに対し、財務省は、消費税率の引き上げを巡る政府・与党内の議論が予算編成の前に決着する見通しが立っていない以上、「つなぎ国債」の発行は難しいとし、安住財務大臣は「交付国債」を発行する案を示した。

 ここで再び交付国債が登場した。交付国債とは、戦没者などの遺族や強制引揚げを余儀なくされた引揚者などに対して、弔慰金、給付金などの金銭の支給に代えて交付されたが、その後、1997年の金融危機に際し、金融システム安定化策として30兆円の財政資金を用意された際に、その財源として交付国債10兆円と政府保証枠20兆円で賄われた。最近では福島の原発事故の賠償金支払いのため交付国債が活用された。

 交付国債は債券の発行による発行収入金を伴わず、出資金の払込、弔慰金の支払及び損失補償金等、国が金銭の給付に代えて交付するために発行する債券のことである。原則として利子が付けられず、必要に応じて現金化できるが、譲渡は禁じられている。

 交付国債にすることで、見かけ上は一般会計の総額を押さえられ、国債の増発もその分避けられる。これは交付国債の発行により、厚労省が支払いを要求するまで、国債増発を先送りできるためである。

 数字上は来年度予算で政策経費は中期財政計画の約71兆円から約68.4兆円に抑制され、新規国債発行額は44兆円以下を堅持するとしても、この数字はあくまで見かけ上のものであり、これにより財政規律が守れているとは決して言えるものではない。

 このような先送りはもちろん今に始まったものではなく、債券市場参加者もそのあたりのことは重々承知していよう。しかし、日本国債の信認が維持されなければそのツケは自分に巡ってくる。交付国債の発行はそれほど簡単には信認低下には繋がらないというのが市場の一般的な見方だが、その本音は繋がってほしくない、というところだろう。

 交付国債が見かけ上の財源を確保するだけのものであるように、日本国債への信認もあくまで見かけ上のものである可能性がある。強固な信認の上で日本国債は買われ続けており、その結果として外部要因もあり日本の10年債利回りは1%以下を保っている、と断言できる国内投資家は果たしてどれだけいるのであろうか。


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# by nihonkokusai | 2011-12-26 09:17 | 国債

日本の為替介入における資金調達の仕組み

 為替介入の資金調達の仕組みについては、以前にも紹介したが、日銀サイトのアドレスが変わり、また基本的な仕組みがいまだに理解されていないようにも思われることで、あらためて紹介したい。

 まずは、日銀のサイトに説明があり、これを参考にしていただきたい。

「日本銀行における外国為替市場介入事務の概要」 
http://www.boj.or.jp/intl_finance/outline/expkainyu.htm/

 日本での為替介入は財務大臣の権限において実施される。日本銀行はその際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行している。

 ニュースなどで以前、しばしば使われていた「日銀介入」という言葉は、やや誤解を招きやすい表現であるとわざわざ指摘している。ただし、最近では政府・日銀による介入と使われることも多くなっているが、いまだに日銀が自らの判断で実施しているとの誤解も一部にあるようだ。

 財務大臣が指示を出し、実務部隊となる日銀の金融市場局為替課は電話もしくは電子ブローキングシステム(EBS)などを使って民間金融機関に注文を出している。

 そして、ここが肝心な為替介入に要する資金の調達についてだが、日本での為替介入はすべて政府の外国為替資金特別会計の資金を用いて行われている。日銀の勘定ではなく政府の勘定において実施されている点に注意していただきたい。

 外国為替資金特別会計とは政府が実施する外国為替等の売買(為替介入等)等の円滑化に資するため設けられているものである。円売り・ドル買い介入の場合には、政府短期証券(為券)の発行により円資金を調達し、外国為替市場における為替介入によりこの円資金を売却しドルを購入する。通常、この代金の決済は二営業日後に行われる。

 ここで為券について少し解説したい。

 政府が国庫や特別会計などの一時的な資金不足を補うために発行されているのが、FB(Financing Bills)と呼ばれる政府短期証券である。発行根拠法により財務省証券、食糧証券、外国為替資金証券などに分かれている。このうち外国為替資金証券が為券と呼ばれるものである。

 現在、TBとFBは「国庫短期証券(Treasury Discount Bills)」として統合発行されている。しかし、発行される毎にそれが短国なのか、財務省証券、食糧証券、外国為替資金証券なのかは区別されている。

 ついでに、財政融資資金法の第9条二項をみると、「融通証券の限度額については、予算をもつて、国会の議決を経なければならない。」とあるが、外国為替資金証券は無制限な発行を防ぐため、毎年度の予算で発行残高の上限が規定されている。2011年度第四次補正予算で195兆円に設定されている。

 円売り・ドル買い介入の場合には、政府が政府短期証券(為券)を発行することにより円資金を調達する。

 1999年以前は為券を日銀が主に引き受けていたが同年以降は、為券は公募で発行され市中消化されている。この仕組のもとでは為替介入は常に不胎化介入となる。なぜなら、円売りドル買い買い介入の場合、まず為券が発行されるが、それによって民間銀行の為券保有が増加し、その購入資金の支払いのため銀行準備が減少する。外貨買い介入が行われると民間銀行の外貨資産が減少し、銀行準備が(先ほどの減少分と同額だけ)増加する。したがって、民間銀行の銀行準備は変化せず、マネタリーベースは不変となる。

 日銀による公債の引受けは、財政法により原則として禁止されているが、FBについては当該条項の適用を受けないと解されており、日銀法でも日銀がFBの引受けを行うことができる旨の条項が設けられている(日本銀行法第34条第4号3)。

 ただし、FBの発行が1999年度以降、原則として市場における公募入札により発行する方式に改められ、この公募入札方式への移行後は、日銀がFBの引受けを行う場合は、政府からの要請に応じて例外的に行う臨時引受けと、日銀の業務運営上必要がある場合に自らが行う引受けに限られることとなった。

 このうち、政府からの要請に応じて実施する臨時引受けには、市場における公募入札において募集残額等が生じた場合と、為替介入の実施や国庫資金繰りの予想と実績との乖離の発生などにより「予期せざる資金需要」が発生した場合に限定されている。また、臨時引受けを行った政府短期証券については、可及的速やかに償還を受ける扱いとなっている。このように、臨時引受けについては、中央銀行による政府向け信用のあり方の観点も踏まえ、一時的な流動性の供給と なるような明確な「歯止め」が設けられている。 (以上、「日本銀行の対政府取引」についてより、http://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exseifu01.htm/

 非不胎化させるさせないの議論があるが、現在の日本の為替介入の仕組みでは、結果とすればこのように常に不胎化となる。ただし、不胎化されるまでタイムラグの間、日銀の当座預金残高がその分一時的積み上がる。為券を発行し資金返済がなされてももしその分が上乗せされたまま当座預金残高を維持するというような金融調節を日銀が行うならば、 それは結果として、見た目は非不胎化ということになろう。

 ただし、現在のように金融政策で金利をターゲットにして、さらに当座預金残高の超過準備分には政策金利と同じ0.1%の補完金利が付いている。この状況下にあっては、介入資金を形式上当座預金残高に多少反映させたとしても緩和効果そのものは限定的なのであり、あくまでアナウンスメント効果を意識したものでしかない。それを日銀は上手く使っているようではあるが。

 要するに為替介入により、結果として購入している米国債等は、あくまで国内で借金して円を調達して買ったものであり、それを売却して何かに使おうとするのはその分、単純に借金を増加させるだけである。日本政府は巨額の外貨資産を抱えているといってもその多くは借金をして買っているだけであることを認識しておく必要がある。


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# by nihonkokusai | 2011-12-25 09:11
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