今回の格下げでフランスとオーストリアは最上位格付けを失った。また、フィンランドとルクセンブルク、オランダの格付け見通しは「ネガティブ」となっており、ユーロ圏で安定的とされているのはドイツだけとなる。
先月にS&Pはフランスを含めたユーロ圏各国の国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発表しており、今回の格下げ発表は時間の問題とはみられていた。ただし、ここにきてスペインなどの国債入札が順調であったことでユーロ圏の信用不安がやや後退しつつあっただけに、13日のユーロ圏の債券市場ではイタリアの国債利回りが大きく上昇し、外為市場ではユーロが下落するなどの影響があった。
また欧州金融安定ファシリティー(EFSF)も格下げされた。16日にS&Pは、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の発行体格付けをAAAからAA+に1段階引き下げ、見通しはデベロッピングとした。そしてEFSFの長期債券格付けもAA+に引き下げている。13日のS&Pによる格下げで、フランスとオーストリアは最上位格付けを失っており、今回のS&PによるEFSFは、ある程度想定されていた。これを受けて、EFSFのレグリングCEOは、EFSFの実質融資能力を4400億ユーロに維持する方針を表明している。
今後は欧州の銀行そのものも格下げされる可能性もあり、20日提出期限の欧州金融機関の自己資本調達計画の動向を含めて注意する必要がある。
しかし、この格下げで再びユーロを取り巻く地合が急速に悪化するようなことは考えにくい。少なくともフランスの格下げの心の準備は出来ていたはずである。ただし、ここにきてややユーロ圏の信用不安が和らいだのは、ECBによる資金供給によるものとみられ、根本的な解決がはかられているわけではない。ギリシャを含めて先行きの不透明感も強いことも確かである。
ただし、一時に比べて欧州の信用不安は和らいでいるように感じる。ユーロ崩壊という最悪のリスクも残るが、ユーロ圏諸国の政治家は最大限の努力を行ってきていることも確かである。それに対して格付け会社は悲観的な見通しから格下げを行っているが、格下げそのものが不安を拡大させている面もあり、ソブリン格付けを無視はできないが、それはあくまで格付け会社の意見であることを市場も認識する必要もあろう。
16日の日本の債券市場は、S&Pによるユーロ圏9か国の格下げもあり、債券先物は買いが先行し直近の高値をつけてきているが、10年債の0.9%近辺では高値警戒も強まるとみられ、今後は現物債などは上値が重くなると予想される。質への逃避による海外投資家による日本国債の購入も短期債中心であり、欧州の問題は超長期債などへの需給にはそれほど影響は与えないものとみられる。
ユーロの情勢も気になるが、それとともに米国の景気動向なども、チェックしておく必要もある。米国市場では欧州の信用不安よりも国内景気の動向に焦点を移しつつあるように思えるためである。11日に発表された米国の地区連銀経済報告(ベージュブック)では、12月末にかけて大半の地域で経済活動が拡大したとされるなど、米国では景気回復への期待も出てきている。特に今週は注目すべき経済指標の発表も多い。17日に1月ニューヨーク連銀製造業景気指数、18日に12月の鉱工業生産・設備稼働率、19日に12月の消費者物価指数、12月の住宅着工件数・建設許可件数、そして1月のフィラデルフィア連銀景況指数が発表予定となっている。
米国の経済指標により景気回復が示されるとなれば、米債の上値が抑えられ、それが円債の上値を重くさせる可能性もある。ただし、最近の円債は米債の動向に影響を受けづらくなっているようにも見受けられる。その意味では米国市場より東京市場のほうが欧州動向を気にしているとも言えようか。
国内については政治の動向にも注意する必要がある。内閣改造により岡田克也元民主党代表が社会保障と税の一体改革と行政改革の担当相を兼務する副総理に任命されたように、野田政権は税と社会保障の一体改革に向けた動きをさらに強めているが、野党の動向次第では解散総選挙の可能性も出てきている。今年は米仏露などを含めて、世界的に選挙の年であるが、そこに日本も加わる可能性もある。今後、もし財政再建に向けた動きが選挙等を通じてブレーキが掛かるようなことになれば、それは債券相場の上値を重くさせる要因ともなりうる。
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