英国のこちらも世界的な大手銀行といえるバークレイズは2005~2009年に虚偽申告を繰り返し、経済の実態とかけ離れてLIBORを上げ下げしたとして、英国の金融当局は約70億円(5950万ポンド)の課徴金を課され、バークレイズのボブ・ダイヤモンド最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれました。 世界でも最大級の金融グループで英国に拠点を置く、HSBCホールディングスはメキシコの麻薬カルテルなどの大量のマネーローンダリングを行なっていたとして非難されました。
そして、米金融大手のJPモルガン・チェースは、デリバティブと呼ばれる取引で失敗し、約20億ドルの損失を計上すると発表しましたが、この舞台となったのはロンドンです。
これらの銀行が起こした事件は英国の銀行が起こしたもの、もしくは英国で起きたものです。ロンドンの金融街はシティと呼ばれ、今でも金融の一大中心値であり、ここには世界の中央銀行の基になったとされるイングランド銀行があるように、近代の金融システムそのものが形作られたのがロンドンです。
つまりオリンピックが行われていたロンドンは、ギリシャ発祥のオリンピックが近代オリンピックとなってフランスやイギリスで開花されたように、イタリアやオランダで生まれた金融取引を近代的な金融システムとして成立・発達させたのがイギリスです。この近代金融システム発祥の地であるイギリスで大きな金融の不祥事が発生したということは、これまでの金融の歴史も大きく関わっていると思われます。
そもそも金融取引は信頼・信用が重要な要素となっています。イギリスは17世紀あたりからの大陸との貿易や産業革命などを経て、その信用を積み重ねたことで、ロンドンを拠点とした一大金融取引の中心地となってきました。
そのことを示すものとして、London InterBank Offered Rate(LIBOR)があります。LIBORは複数の銀行が出している金利を平均値化して、ロンドン時間午前11時に毎日発表される指標となる金利です。これは英国内の住宅ローンや預金金利などに直接影響する金利であるともに、国際的な融資などにおける国際金融取引の基準金利として、またスワップ金利などデリバティブ商品の基準金利としても利用されています。
LIBORの金利は各銀行が提示するものですが、その金利については銀行ごとの裁量に任された部分があり、不正しようと思えば可能となっています。ただし、これは制度的な欠陥というよりも、金利が相対取引でつくものである以上は致し方ない面もあります。担当者が適切な数値を出しているであろうとの信頼に委ねられていた面も大きかったのです。
この信頼が結果として裏切られました。リーマン・ショックの際のLIBOR操作については、高い金利を提示することで、自分の銀行が危ないという指標にされかねず、致し方のない面もありました。これについてはこれにはイングランド銀行のタッカー副総裁の関与があったのではないかとの見方もありましたが、この関与は否定されました。ただ、それ以前から自らの利益を挙げるため一部の人間による操作が行われていたとなれば、たいへん大きな問題です。これは現在、調査が行われている段階です。
国際金融市場の中心は、以前はロンドンのシティでした。ところが2つの大戦を経て、基軸通貨がポンドからドルに移り、アメリカのウォール街が国際金融市場の中心となり、イギリスの金融街は衰退しました。
それを回復させたのが1980年代のサッチャー政権による金融大改革、ビッグバンでした。これは金融に関わる規制を緩め、民間の裁量を高めるのが目的で、これにより金融街シティは復活し、ユーロが発足しても、ヨーロッパの金融の中心地はロンドンであり続けたのです。
この規制緩和などにより金融業界はおおいに発展し、デリバティブなど多くの金融商品が生み出されたこともあり、金融取引は膨張しました。その結果、金融機関の利益そのものも巨額となり、信用よりも利益を稼ぐことが重視されるようになったのです。
その膨張が止まり、さらにリーマン・ショックや欧州の信用不安などにより一段と金融機関の収益が圧迫されるようになりました。このため不正をしてまでも利益確保に走る者が現れ、今回のような事件が起きたものと思われます。
また、英国銀行の不正がここにきて明らかになった背景には、米国の金融当局による欧米を中心とした大手金融機関に対する規制強化の動きも影響しているようです。いずれにせよ、今後は金融機関に対する規制はさらに強化され、金融機関への風当たりもますます強まり、金融機関や金融市場にとってはたいへん厳しい時代になることが予想されます。
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