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パリ同時テロの金融市場への影響

 フランスのパリで13日夜、武装したグループによる同時テロ事件が発生した。これによる金融市場への影響も危惧されたが、株価等を含めてその影響は限定的となった。これにはいくつか理由が存在すると思われる。

 2001年9月11日の米国における同時多発テロの際には、米国の金融システムの中心地が大きな被害を受けた。このためニューヨーク証券取引所の取引は中止となり、再開されたのは17日となった。ニューヨーク証券取引所が予定外で連日の休場となったのは、第二次世界大戦の勝利を祝った1945年8月15~16日以来。崩壊した世界貿易センターには数多くの金融機関のオフィースがあったことで、金融システムは一時機能不全に陥った。しかし、米国の金融機関のバックアップシステムが完備していたことや、FRBなどによる懸命の対応により、米国債の取引は13日に再開された。

 今回のテロはフランスのパリではあったが、金融に絡んだ施設等が影響を受けたわけではなかった。このため2001年9月の米国における同時多発テロの際のような影響が金融市場に発生することは考えづらかった。

 日本におけるテロとも言える1995年3月20日の日本での地下鉄サリン事件の際には、東京証券取引所に近い茅場町も被害を受けたが、この日の取引所での取引は行われていた。

 何かしらの要因による金融市場への影響を考える際には、金融システムそのものへの影響の程度を考慮する必要がある。日本においては、日銀ネットが稼働しているかどうか、そして東証などの取引所の取引が可能であるかどうかが、あたりが目安となる。

 2011年3月11日金曜日に発生した東日本大震災の際も、日銀ネットへの影響はなく、金融システムは機能していた。このため政府の判断により14日の月曜日は平常通りに取引所は開かれ、金融取引も滞りなく行われた。

 今回のパリ同時テロの影響が金融市場において限定的であったのは、トルコでのG20が予定通りに開催されたことも大きかったように思われる。トルコも狙われていたとの観測があるが、G20が無事に開催され、ここでテロに対して各国首脳が非難声明を出して連帯を強めたことも、市場におけるリスクの後退要因になったのではないかと予想される。

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by nihonkokusai | 2015-11-18 09:28 | 国際情勢 | Comments(0)

GDPを受けた政府・日銀の対応

 11月16日に発表された2015年7~9月期の実質GDP速報値は前期比0.2%減、年率換算では0.8%減。4~6月期の年率0.7%減から2四半期連続のマイナス成長となった。

 実質GDPの内訳は「内需」が0.3%分のマイナス寄与、「外需」は0.1%分のプラス寄与となった。

 項目別にみると設備投資は1.3%減と2四半期連続のマイナス。個人消費は0.5%増と前の0.6%減から2四半期ぶりに増加に転じている。

 輸出は2.6%増、輸入は1.7%増とそれぞれ伸びている。円安の効果も後退し輸出の回復ペースは鈍くなったが、原油安などの影響で輸入の伸びも小さくなり、外需の寄与度はプラスとなった。

 総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期比プラス2.0%。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%の上昇となった。

 実質GDPが四半期ベースで2期連続してマイナス成長する状態は、欧米などではリセッション(景気後退)とされるが、景気後退局面となっているかどうかの判断は難しいところ。設備投資などが足を引っ張った格好であり、企業収益は伸びてはいるが、それが設備投資には直結していない状況を浮き彫りにしている。新たな投資を妨げているのは日銀の金融緩和が足りないから、ではないことは確かであろう。

 政府はFDP600兆円の実現に向けた緊急対応策を今月中にとりまとめ、一億総活躍国民会議の緊急対策に反映するとしている。しかし、今回のGDPを受けての新たな景気対策のようなものは想定していないようである。甘利明経済財政・再生相は今回のGDPを受けて、景気の先行きについて、海外経済の下振れなどリスク要因はあるものの、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される、との見通しを示した(日経新聞電子版)。

 11月18、19日には日銀の金融政策決定会合が開催される。政府の一億総活躍国民会議の緊急対策などに合わせて、もし何らかの追加緩和を画策しているのであれば、12月よりは11月の方が適切ではないかと思う。それはサプライズといった意味合いからではなく、12月のFRBの利上げに合わせない方が良いと思われるためである。

 FRBは12月15、16日のFOMCで利上げを決定する可能性が高く、ECBはユーロ安も意識下上で、12月3日の理事会で追加緩和を検討するとみられる。このようにもし通貨安を狙いに行くのであれば、日銀も12月17、18日の金融政策決定会合での追加緩和の検討が適切かもしれない。しかし、いまは米国だけでなく日本政府もここからの円安は望んでいない。円安の物価への効果はあっても、それがデフレ脱却に直結するものでもないため、円安を意識した政策も取りづらい。

 量を積み上げても効果が出ていないという状況下で、日銀が次に手を打つとすれば、ターゲット、手段とともにかなりの修正を施す必要がある。このため、11月18、19日の金融政策決定会合での追加緩和というのも、現実的にはかなり無理があると思われる。

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by nihonkokusai | 2015-11-17 09:40 | 日銀 | Comments(0)

FRBが追加利上げの前にするべきこと

 12日にフィッシャーFRB副議長は講演で、「10月のFOMCの声明は次回12月の会合での政策金利の引き上げが適切だろうということを示した」との見解を示した。つまりこれは、12月のFOMCでは政策金利の引き上げが適当との考えを示唆した格好となった。ニューヨーク連銀のダドリー総裁も12日の講演で、「金融政策の正常化を始める条件は近いうちに満たされるだろう」と述べ、利上げの開始時期は近づいているとの認識を示した(日経新聞電子版)。

 イエレン議長も昨日挨拶し、こちらは金融政策には直接言及しなかった。しかし、いわば執行部と言うべき、フィッシャー副議長とダドリー総裁の発言で、よほどの経済データの悪化や予想外のリスクが発生するようなことがない限り、12月15、16日のFOMCで利上げを決定し、正常化に向けた動きを進めることが予想される。

 また、セントルイス連銀のブラード総裁は「経済はわれわれが考えていたよりもずっと好調なようなので(利上げの)ペースは速まるだろう、と言える選択肢を残しておくべきだ」と指摘し、リッチモンド連銀のラッカー総裁は「FRBは固定観念に縛られ、事前に決めた利上げの道筋にとらわれることがあってはならないとし、FOMCごとに政策金利を0.25%ずつ引き上げた2004~06年のようなことは避けたいと話した(WSJ)。

 ラッカー総裁は事前に決めた利上げの道筋にとらわれることがあってはならない、と発言していたが、少なくとも12月に利上げを決めるとすれば、かなり前からそれに向けての準備をしてきたと見る方が自然であろう。ただし、今後の「追加」利上げについては、ラッカー総裁の指摘したようにFOMCごとに利上げをするといったことは想定していないと考えられる。個人的には来年、追加利上げがあっても1回か2回程度ではないかと予想している。しかし、その追加利上げの前にFRBはやるべきことがある。

 非伝統的な金融政策からの脱却に際し、FRBはまず量的緩和政策の解除をテーパリングというかたちで進めた。それが終了後、今度はあらためて金融政策の軸を金利に戻すべく、ゼロ金利の解除を進めることになる。12月の利上げにより、金融政策は伝統的な政策に戻ることになり、正常化に向けて大きく前進する。しかし、もうひとつの大仕事が残っている。

 それは膨らみすぎたバランスシートを適正水準まで減少させることである。ただし、金融市場への影響を配慮すると、急激な金利上昇は招きたくないため、国債の売りオペは技術的には可能ながら現実的には難しい。そのため、償還が来たものを乗り換えず、自然に減少させていく必要がある。現在は償還した債券を乗り換えてバランスシートは維持させている。ところがすでに中央銀行のバランスシートを大きくさせても物価への影響は日銀の壮大な実験もあって疑問視されていることもあり、維持させる必要性は薄れていよう。

 さらにあっという間に当座預金残高を元に戻した2006年の日銀の量的緩和解除の際とは違い、FRBが購入したのは期間の長い国債やMBSであり、その削減にはかなりの時間を要することが予想される。このため利上げをもし無事達成できたのであれば、次は追加利上げよりもこのバランスシートの削減に着手する必要があろう。

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by nihonkokusai | 2015-11-16 09:38 | 中央銀行 | Comments(0)

あさが作った銀行

 NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」のモデルとなっている広岡浅子は銀行設立にも携わった。

 明治政府は1868年に純正画一な貨幣を製造することを決定し、1869年の大隈重信の建議により、新貨幣は十進法によるものとし、その価名を「円」とすることを決定した。1871年には、最初の貨幣法である新貨幣条例が公布された。日本の貨幣の単位として円が正式に採用されたのである。これによって、近代的な貨幣制度の枠組みが整った。

 しかし、新貨幣の鋳造は進まず、明治政府は緊急の必要に応じるため「太政官札」「民部省札」などの、いわゆる不換紙幣を発行した。金銀貨による幣制の統一を目指していたものの、貨幣素材の不足や造幣能力の不十分さもあって、金銀貨の鋳造はなかなか進まなかった。その結果、金銀貨に代わる支払手段として不換紙幣の発行に依存せざるを得なかったのである。

 銀行の設立も明治政府にとっては大きな課題となる。民間からも銀行設立の願いが相次いだ。しかし、政府内ではこの銀行設立を巡って、米国のナショナルバンク制度をモデルにした地方分散型の発券銀行制度を主張した伊藤博文と、イングランド銀行をモデルにした中央銀行制度を主張した吉田清成の間で銀行論争が起こっていた。

 結果的には伊藤案が採用され、国立銀行条例が発布された。外国でバンクと呼ばれていた金融機関を日本語の「銀行」に翻訳したのは渋沢栄一とされるが、実際には渋沢が「金行」を提案したものの、三井の三野村利左衛門が「交換には銀も含む」として「銀行」となったとの説もある。国立銀行といっても、ナショナルバンクを日本語に直したものであり、これは国営ではない。あくまで国立銀行条例に基づき設立された銀行券を発券できる民間の銀行である。当初は銀行券の発行条件が厳しかったことなどから、設立されたのは第一国立銀行など4行だけとなった。

 その第一番目の第一国立銀行は、三井、小野両組が井上馨と渋沢栄一の勧めで、共同出資に踏み切って設立したとされる。本来は新貨幣為替ご用のお役目を受けていた三井が単独で銀行を設立しようとしていたが、ひとつの財閥が独走するのは望ましくないとして、渋沢栄一が三井、小野両組の共同出資に持っていったようである(小説「土佐堀川 広岡浅子の生涯」より一部引用)

 1876年に「国立銀行条例」は改正され、金貨との交換義務が廃止され、銀行券の発行限度も拡充された結果、全国的に銀行設立ブームが起こり、153行もの国立銀行が誕生した。また、民営銀行が設立される機運が高まり、特に浅子の実家の三井家は単独で私立の銀行を設立することになる。1876年に日本初の民間銀行である三井銀行が開業した。

 1882年に日本銀行が設立され、国立銀行が発行した紙幣は、1883年の国立銀行条例の改正により兌換銀行券である日本銀行券に置きかえられた。1899年には政府紙幣とともに通用停止となり、日本における流通紙幣は日銀券に統一された。これらを受けて国立銀行は普通銀行に転換した。

 実家の三井の動きに触発されて、広岡浅子も銀行の創立を目指し、渋沢栄一のアドバイスをもらって1888年に開店したのが加島銀行である。

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by nihonkokusai | 2015-11-14 11:43 | 金融の歴史 | Comments(0)

12月のECBの追加緩和は不透明

 10月22日にマルタで開かれたECB理事会後の会見でドラギ総裁は、「今日、事態は変わった。これは必ずしも、特定のこの手段を使うことを示唆しているわけではないが、議論は非常にオープンだった」と述べた。ドラギ総裁は、採用の可能性がある複数の緩和手段について、「非常に濃い議論」があったとし、さらに金融緩和の度合いを最新のマクロ経済予測が手に入る12月に再検証する必要があると発言した上で、近い時期の緩和を示唆する「警戒を怠らずにいたい」とトリシェ前総裁が使った言葉を付け加えた。つまり次回、12月3日のECB政策理事会において追加緩和を打ち出す可能性を示唆した。

 追加の緩和手段としては、2016年9月までとしている量的緩和の期間を延長することのほか、銀行が中銀に余剰資金を預け入れる際の手数料(マイナス金利)を拡大することなどを、今回の理事会で協議したこともドラギ総裁は認めた。

 ところがその後に、追加緩和の決定にはまだ議論の余地があるとのドラギ総裁の発言があった。しかし、その翌日、12月に緩和水準見直しへ行動する意欲と能力あるとも発言し修正を図った。いずれにしてもドラギ総裁としては12月3日のECB理事会で追加緩和を決定したいようだが、それはかなり不透明のようである。

 ECBは追加緩和策の一環として、資産買い入れの対象に地方債を含めることを検討していると伝えられた(ロイター)。パリやマドリードなどの都市やバイエルンなどの州が発行する債券を買い入れる方向という。ただし、関係筋の1人は、12月のタイミングでは準備が不十分なため、来年3月までに導入される可能性があると話したそうである。

 ECBのクーレ理事(フランス出身)は、フランスのフィガロ紙とのインタビューで、追加金融緩和に関してECBはまだ決断しておらず、来月の追加緩和を確約しているわけではないと述べた(ブルームバーグ)。

 さらにドイツのショイブレ財務相は11日、ECBの低金利政策をめぐって、緩和的な金融政策は「モラルハザード」を生み出す可能性があるとして警告した(ロイター)。

 追加緩和に対してドイツなどが反対するであろうことは想定できるが、あらためてドイツの「財務相」がこのタイミングで警告を発したことは、少なくとも12月3日のECBの利上げに向けた動きを牽制しているともみられる。

 ECBが12月3日に追加緩和を決定するとなれば、12月15~16日のFOMCでの利上げの可能性を意識した動きともなり、通貨安に働きかけようとする意図が明らかとなる。これに対して米国などが牽制しているとしてもおかしくはない。

 このように12月3日のECB理事会での追加緩和の決定については、技術的な問題を含めて、現実はかなり難しくなっているのではないかと予想され、今後のECB関係者などの発言にも注意が必要となる。

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by nihonkokusai | 2015-11-13 09:41 | 中央銀行 | Comments(0)

クルーグマン氏の心変わり

 ポール・クルーグマン氏はアメリカの経済学者であり、コラムニスト、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授を兼任し、2008年にノーベル経済学賞を受賞している。辛口のコラムニストとしても知られており、かつては日本のデフレ不況に対し、政府や日銀の対応の遅さを繰り返し批判してきた。しかし、アベノミクスについては、コーディネートされた金融・財政政策が登場したと評価し、「そして日本経済が世界の希望になる」との著作も出している。そのポール・クルーグマン氏がいまになって心変わりしたようである。

 クルーグマン氏は6日にIMF主催の会合で講演した際、「フォワードガイダンスは経済に極めて限定された参加者しかいない場合にのみ機能する」との見方を示した。さらに「無責任であることを信頼できる形で約束すれば、後は自動的に問題を解決できるという考え方は楽観的すぎる。そうなることはない」と話したそうである(WSJ)。

 クルーグマン氏は「将来において無責任な行動をとることを信用してもらう」ことが必要だとこれまで唱えてきた。つまり市場に対し、日銀が大胆な金融緩和に、より慎重にはならず、インフレ促進へ動くと信じ込ませるような驚きを与えるべきだと主張していたのである。

 「1998年にクルーグマン教授は非伝統的金融政策に関する理論モデルを構築し、流動性のわなへの処方箋を提示しました。具体的には、当時の日本経済がゼロ金利のもとでも需要不足にあることを指摘したうえで、デフレを克服するためには、金融政策によって、マネーサプライを大幅に増加させ、インフレ予想を高めることにより実質金利を十分にマイナスにする以外方法はないと主張しました」

 上記は2014年6月の日銀の黒田総裁の講演内容の一部である。その上で、「量的・質的金融緩和」の導入は、「クルーグマン教授およびウッドフォード教授やエガートソン氏による理論に共通するメカニズムを実践したものです」としている。

 つまり異次元緩和と呼ばれた大胆な金融緩和の発想元となっているクルーグマン教授が、自らその考え方が誤りであることを認めた格好となった。これは日銀にとっては事件とも言えよう。アベノミクスの背景にあるリフレ派の考え方をその教祖とも呼べる人が疑問視したのである。

 このクルーグマン氏の心変わりは、日銀の異次元緩和による物価への影響が出なかったことや、FRBのQEも物価の上昇を促すことはなかったことで、壮大な社会実験の結果が出なかったことを認めた結果なのであろうか。

 ただし、FRBはすでに出口に向けて進み始めており、実験により行き過ぎた部分の修復を図ろうとしている。これに対し日銀は身動きができなくなっている状況にある。ここで日銀が追加緩和をしても成果が出るのかという疑問は残るが、少なくとも市場へのインパクトを考えての次の行動を取りたいのであれば、リフレ派の教祖といえる人物が考え方を改めた以上、日銀もリフレ的な政策を改めるべきかと思われる。政策目標を金利に戻すなりしてのフレキシブルな金融政策に変更すべきときが来ているのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2015-11-12 09:33 | 日銀 | Comments(4)

米国利上げはいつ以来となるのか

 米国では12月のFOMCでの利上げの可能性が高まっているが、果たして米国の利上げはいつ以来となるのであろうか。

 米国の政策金利であるフェデラル・ファンド金利を確認してみると、2008年12月から0.25%となって現在まで続いており、ここから実質的なゼロ金利政策が始まっている。

 2008年9月に証券化商品により大きな損失を抱えていた投資銀行のリーマン・ブラザーズが資本調達にも身売りにも失敗し、経営不安に陥り破綻したことでリーマンショックが発生した。そもそもこれはサブプライムローン問題が発端となっていたが、これをきっかけに世界的な金融経済危機が発生し、そのためFRBは政策金利を実質的にゼロ%にし、今後の政策の焦点はFRBのバランスシートの規模を高水準に維持する手段を通じて、金融市場の機能を支え景気を刺激することに置くとして、量的緩和政策の導入を示唆した。2009年3月にFRBは最大3000億ドルの長期国債購入を決定し、量的緩和政策がスタートする。その量的緩和政策はテーパリングの実施によって2014年10月に終了した。

 2008年9月に実質的なゼロ金利政策を決定するまで、FRBは数度に渡る利下げを実施していたが、最後の利上げは2006年となる。2006年といえば日銀が前回の量的緩和政策の解除(3月)とゼロ金利政策の解除(7月)を行った年である。2006年6月29日にFRBは政策金利を0.25%利上げ5.25%とした。これが直近で最後の利上げとなった。

 もし来月のFOMCで利上げが決定されるとなれば、2006年6月以来となる。実質的なゼロ金利政策の解除となれば、2008年12月以来となることになる。FRBが量的緩和政策の解除、つまりテーパリングに対してかなり慎重に実施したように、それ以上に利上げに関しても慎重になっていたのは、まさにこの長期にわたるゼロ金利の期間と、長らく利下げしか経験のなかった市場に配慮したためと言える。

 ただし、この利上げは正常化とも言われているように、世界的な金融経済危機から脱してきたことを象徴するものとなる。有事から平時に戻ってきた以上、その副作用も考慮するといつまでも鎮静剤を打ち続けることはむしろ危険となる。大きく膨らませすぎた中央銀行のバランスシートも時間を掛けて戻す必要もある。今回の利上げはいずれ利下げをするための、のりしろ作りとの見方もあるが、イエレン議長がそのような発想で利上げを目指しているとは考えづらい。危機に慣らされすぎてしまった発想から脱しなければ、いまのFRBの動きは読みづらくなるのではないかと思う。

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by nihonkokusai | 2015-11-11 09:17 | 中央銀行 | Comments(0)

びっくりポンの米雇用統計

 11月6日に発表された10月の米雇用統計で、非農業雇用者数は前月比27.1万人増と前月比の伸びとしては2014年12月以降で最大となり、予想の18万人程度を大きく上回った。失業率は5%と前月から0.1ポイント低下し、2008年4月以来の低い水準となった。平均時給は前月比0.4%増、前年比では2.5%増と2009年7月以来の大幅な伸びとなっていた。

 これは予想以上に強い数字となり、市場はまさに「びっくりポン」となった。「びっくりポン」とは今年の流行語大賞にノミネートされるであろう朝の連続ドラマ「あさが来た」の「あさ」の口癖である。

 単月の数字でもって金融政策が決定されるわけではない。しかし、市場では12月のFOMCでの利上げについては半信半疑といった状態であったところに、この強い数値を見せられて、「データ次第」とのイエレン議長の利上げに向けた条件もこれでクリアーしたとの認識を強めたようである。

 失業率からみるとほぼ完全雇用に近い状態のなか、雇用者数の増加だけでなく、平均時給も伸びている状態で、いわゆる「スラック」も減少しつつある。現在の足元の物価は低迷しているが、この雇用統計の数値からはいずれ、物価も上昇してくるであろうとの見方もできる。

 果たして本当に雇用の回復が物価上昇に結びつくのか、それ以前にQEと呼ばれた量的緩和によって雇用が改善したのか、それにしては物価は上がってきていないが、それはどのように解釈すべきなのか。このあたりの謎はさておき、デュアル・マンデートについて、片方だけでもクリアーすればそれで良しということで、FRBは正常化に向けて舵を取りつつある。

 今回の雇用統計の数字が予想を多少下回っても、12月の利上げの可能性がそれほど後退することはないと個人的にはみていたが、これだけ良い数値となると市場は完全に利上げを織り込みに行く。

 6日の米国株式市場が売られたあとに上昇したのは、利上げの悪影響よりも、雇用の回復が示す景気の堅調さの方が意識されたためと思われる。ただし、米国債券市場では、利回り水準からみて利上げをそれほど織り込んでいなかったため、売り込まれている。米10年債利回りはテーパリングを意識した際につけた3.0%がひとつの目安になろう。外為市場ではドルが買い進まれ、ドル円は123円台に上昇した。こちらは黒田ラインとされる125円を試すかもしれないが、日米政府ともに急激な円安は望んでおらず、ここからは慎重な動きになると予想される。

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by nihonkokusai | 2015-11-10 09:20 | 景気物価動向 | Comments(0)

珍しい日銀総裁会見の一部訂正

 10月30日の日銀金融政策決定会合後の総裁会見の内容が会見要旨で訂正されるという珍事が起きた。このような訂正はたぶん初めてではないかとされる。

 総裁会見において、これだけの大量の国債買入をしていくと、買入れの余地が少なくなるため、この点について総裁がどの程度懸念を持っているかとの問いに下記のように答えていた。

 「確かBOEは、国債発行額の7割ぐらいまで買い進んだと思いますが──別に、7割まで買うと言っているわけではありませんが (注)──、今の時点で買入れに限界がすぐ来るとか、考慮しなくてはいけないということにはなっていないと思います」

 この(注)として「BOEの国債買入れ額は、正しくは、国債発行額の約4割でした。」との修正が加わっていたのである。

 30日の総裁会見は原稿を書きながら聞いていたが、この7割という数字を聞いて、これはいったいいつの時代の話なのだろうと関心を持った。そこで11月2日にこれに関するコラムを書こうかと思い、関連しそうな資料にあったったのだが、そのような数字は出てこない。

 イングランド銀行は日銀のように国債引き受けは禁じられていない。戦時中などに国債残高の7割も保有していたのかと思ったが、そのような資料はなかった。ただし、2014年11月に黒田総裁は発行済みの国債のうちイングランド銀行が保有している英国債は約40%あったと発言していた。これはQEと呼ばれた国債買入による数字であると思ったが、結局、この4割という数字を言おうとして総裁は7割という数字を発言してしまったようである。

 現在の日銀の国債発行残高に占める保有割合は3割弱であり、まだ4割にも達しておらず、あくまで数字上ではあるが、もし仮に4割になったとしても、あと100兆円程度の買入(償還分を考慮するとさらに多い)が可能となるわけではある。しかし、これは現実には難しい。年間発行額以上の買入となればどこかの投資家の保有分を購入するしかない。ゆうちょ銀行やかんぽ生命の資産の保有比率の変更等次第では、このあたりからの売却も考えられるものの、それでも日銀の国債買入の未達が発生するのが時間の問題となる。

 そもそも中央銀行が国債を何百兆と買い込んでも、物価目標達成ができなければ何の意味のないことではある。いずれにしても日銀がここからさらに大きく国債を買い入れることはあまり現実味はないと思われる。

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by nihonkokusai | 2015-11-09 09:18 | 日銀 | Comments(0)

円安政策がさらに困難に

 11月5日付けの日経新聞によると、米財務省は5日、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する12か国が互いの通貨政策について協議する枠組みを設けることで一致したと発表した。米財務省によると12か国の通貨・財政当局は通貨安競争を回避することで合意。各国の財務当局の担当者が集まり、年1回、会合を開くそうである。関係者によると枠組みの設置を求めたのは米国だとか。

 これは通貨安政策をとっている「新興国」を意識したものとされるが、このTPP12か国には当然ながら日本も含まれている。米議会への対策でもあろうが、アベノミクスという派手な円安政策を取った日本も、ある程度、念頭に置かれている可能性もありそうである。

 ニューヨーク連銀のダドリー総裁は4日、同連銀主催の会合での講演後に行われた質疑応答で12月に利上げする可能性があるというイエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長の見解に同意する考えを示した(WSJ)。

 FRBの理事やダドリー総裁から年内利上げに向けて慎重な発言が出ていたが、12月のFOMCの利上げは予定通りに実施されると予想される。これに対してECBは12月3日の理事会で通貨安を意識しての追加緩和を模索している。しかし、ドラギ総裁の発言はここにきてやや歯切れが悪くなっている。

 日銀も物価目標の達成時期の先送りもあり、追加緩和を期待する声も出ているが、少なくとも「円安」を期待した政策は今後取りづらくなる可能性がある。二度の異次元緩和とその根底にあったアベノミクスと呼ばれたリフレ政策は、物価高はさておき、結果として急激な円安を招いた。しかし、この円安に対しては効果よりも個人消費などへの悪影響が指摘されるようになり、政府関係者からもこれ以上の円安を望んではいないとの発言も相次いだ。これには米政府からの意向が働いていた可能性がある。

 米政府からの意向は以前からあったものではあるが、今度はTPPを絡ませてくるとなれば、あからさまな円安政策はさらに取りにくくなる。日銀が追加緩和をするとしても、円安に働きかけるような政策がやりにくくなる。追加緩和そのものが結果として通貨安を招いてしまうというのであれば、よほどの理由がない限り、日銀の追加緩和そのものも難しくなる。今回のTPPの通貨政策について協議する枠組みが具体的にどのようなものになっていくのか。これはかなり注意してみておく必要がある。

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by nihonkokusai | 2015-11-07 12:17 | 日銀 | Comments(0)
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