その2年前の2011年7月下旬頃の米長期金利は3%台にあったが、そこから8月上旬にかけて2%近くまで低下した。このとき何か起きていたのか。
2011年8月4日の米国株式市場ではダウが512ドル安となり、またS&P総合500種は60ポイントの下げと2009年2月以来で最大の下げとなった。米国債券市場では、2年債利回りが過去最低水準をつけ、米10年債利回りは2.4%近辺に低下。資金を預金にも移す動きが出ていた。外為市場では、スイスフランや円が買い進まれ、この対応のため、3日にスイス国立銀行は突然、金融緩和策を発表した。4日に政府・日銀は円買いドル売りの為替介入を行ない、日銀は予定していた金融政策決定会合を午前11時15から前倒しで開催し、それも2日の予定から1日だけに短縮し、資産買入等の基金を40兆円から50兆円と10兆円追加するという追加緩和策を決定した。
これらの動きはいわゆる「リスクオフ」と呼ばれたものであった。資金の運用対象をリスクの大きなものから、より安全な資産に振り向けるという動きである。当時の欧州の信用不安はイタリアやスペインまで波及していた。また、懸念材料となっていた米国の債務問題は期限ぎりぎりになって合意に向かうこととなり、安全資産として米国債が一気に買われた側面もあったとみられる。
ここにきてドイツの長期金利も上昇してきており、1.9%台に乗せてきた。こちらは2%が見えてきたが、もし2%台を回復となれば、2012年3月以来となる。その2012年3月当時の状況を確認してみると、欧州ではECBによる3年物の資金供給オペ(LTRO)の効果が発揮されていた。ECBは二度に渡る3年物資金供給オペで総額1兆ユーロに上る流動性を供給し、これがドイツの長期金利の一段の低下に繋がった。
米国とドイツの長期金利はそれぞれ2012年7月と2013年5月に底打ちした格好となっている。2012年7月にはスペインの銀行救済向けの最大1000億ユーロの金融支援を最終承認したが、銀行問題だけではなく地方財政の問題があらためてクローズアップされ、ギリシャの債務問題が再浮上する可能性も指摘されるなど、欧州の信用不安が高まりを見せたときに米長期金利は底打ちしていたのである。
ドイツの長期金利も2012年7月にいったん底をつけて上昇していたものの、2013年5月に再び最低金利を更新した。これは5月2日のECB政策理事会で政策金利の0.25%引き下げを決定。中銀預金金利はゼロ%に据え置いたが、ドラギECB総裁はこの中銀預金金利をマイナスに引き下げる可能性を示唆。これを受けて2日のドイツ連邦債先物は過去最高値を更新し、2年債利回りは再びマイナスとなっていた。しかし、ここを底にしてドイツの長期金利は上昇に転じたのである。
米国とドイツの長期金利は、2013年5月初旬あたりから最近にかけて上昇基調が続き、それぞれ3%と2%という節目に接近している。英国債も米国債と同じような動きをしており、こちらも3%と言う節目に接近しつつある。そのきっかけはFRBの量的緩和の縮小観測となっているものの、それはあくまできっかけに過ぎない。米独英の長期金利の推移を見る限り、欧州の信用不安が後退し、それとともに欧米の景気も回復基調となっていたことが要因であるのは確かであろう。
これに対して、日本の長期金利が0.7%台にいることにむしろ違和感を覚える。世界的な金融経済危機が後退し、長期金利の歴史的な超低金利時代からの脱却が始まっており、足下の国内景気についても回復基調となっているにも関わらずである。FRBによる大量の国債買入はいまだ継続されているが、それでも米債は売られている。日本の長期金利が低位安定しているのは日銀の大量の国債買入も一因ではあろうが、それだけで相場が支えられるものではない。何故、日本の長期金利は上昇しないのか。日銀の異次元緩和によるデフレ脱却を債券市場参加者は信じていない側面もあろうが、日本の長期金利が超低位に居続けている要因も、あらためて意識する必要がありそうである。
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菅官房長官も法人税減税について安倍晋三首相が検討を指示したとの一部報道について、総理がそのような指示をした事実はない、と否定した。
安倍首相による法人税引き下げ検討の指示報道とは、8月13日の日経新聞一面の「法人税率下げ検討指示」との記事である。このなかで、複数の関係者によると、首相が法人実行税率の検討を関係付省に指示したそうである。関連記事には「税率引き下げには財務省が強く反対する見通し、ともあった。
15日の麻生財務相の発言によると、法人税を支払う企業が全体の3割強に過ぎない点を指摘し「今の段階での法人税引き下げは効果が少ない」と言い切ったそうである。13日の日経新聞のニュースソースは少なくとも財務省からのものではなさそうである。
これに対して、甘利明経済財政・再生相は15日午後の記者会見で、法人税率の引き下げは「原資が厳しい中で、プライオリティー(優先度)でいえば、産業の、企業の競争力を強化するための順序としては、設備投資減税あるいは研究開発減税が先行する」との考えを示した。
ロイターによると、首相による具体的な指示は出ていないものの、一部閣僚や官邸周辺で法人税率の引き下げが有効だとの声が出ているという。
消費税の引き上げ実施の有無、さらに引き上げる際の引き上げ幅についても最終判断は安倍首相が行うとみられるが、その消費税引き上げについてもいまだに方向性が見えてきていない。しびれを切らした関係者が、法人税減税とセットの可能性をほのめかした可能性があり、それにより市場はいったん安心感から円安株高の動きを強めることになった。つまり法人税減税とセットで予定通りの消費税の引き上げが実施されるとなれば、財政規律を維持させた上で、成長戦略との両立も可能との認識である。しかし、これにも安倍首相は結果としては乗る気ではないことが、今回の麻生財務相や菅官房長官による発言からも明らかである。
政府は8月の月例経済報告で、物価の基調判断をデフレ状況ではなくなりつつあるとし、7月よりも脱デフレの動きが進んでいるとの認識を示した(日経新聞)。物価の持続的な下落が止まりつつあると分析したそうである。ただし、景気の基調を表す総括判断は前月から据え置いた。
甘利明経済財政・再生相は15日午後の記者会見で、デフレ脱却の定義は「多少のショックがあっても物価が下がり続ける状況に陥らない」と説明した。デフレ脱却への達成度を問われた甘利氏は「富士登山で言えば7合目くらいだ」と応じた。(日経QUICKニュース)。
デフレ脱却も道半ばであるとの見方を示したが、アベノミクスやそれによる異次元緩和がなくとも、コアCPIのプラス展開はだいぶ前から予想されていたことで規定路線である。円安による影響は加わっているものの、コアCPIのプラス転換を持ってアベノミクスがデフレからの脱却の大きな要因としては捉えることはできない。コアCPIが1%程度まで上昇してくるようであれば、あらたな物価上昇圧力が加わったということになると思われる。これは今後の動向を確認しなければならない。異次元緩和の効果も半年以上のラグが必要となれば、それが現れるとしても10月以降となる。
デフレ脱却も道半ば、2013年4~6月期実質GDPは年率でプラス2.6%と予想を下回ったように、力強い回復とまではいっていない。また、軽減税率の導入とセットで行わなければ悪影響が大きいとの意見も出ているそうである。
しかし、実質的な国際公約となっている消費増税だけに、予定通りに実施するのが筋であろう。もしどうしても延期するというのであれば、その理由も求められる。ただ単純に景気回復を待つといったことでは、これまでのように、いつになっても財政再建に向けての消費税の引き上げはできなくなる。最悪なのは1%ずつとの引き上げ方法であり、これはシステムにかなりの負担がかかる。単純に3%という数値を1%に替えれば済むという問題ではない。このあたりについてもしっかりと現場の関係者を含めて議論する必要があろう。
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FRBの量的緩和縮小観測が要因とされるが、それとともに欧米の景気回復も背景にある。ユーロ圏の4~6月期の域内総生産(GDP)速報値は前期比0.3%増となり、7四半期ぶりにプラスとなり、リセッションから脱却した。この欧州のリセッションからの脱却の背景には、欧州の信用リスクの後退がある。サブプライム・ショック、リーマン・ショック、そして欧州の信用不安による世界的な金融経済危機が収束しつつあることが、今回の欧米の長期金利上昇の背景といえる。
それに対して日本の長期金利は0.8%も割り込んで低位安定している。欧州の信用リスクが強まった際には、円が買われ株が売られ、安全資産として日本国債は買われた。欧州の信用リスク後退の波にアベノミクスがうまく乗って、円安株高を演出したが、そのアベノミクスの中核にあったのが、日銀による大規模な日本国債の買入となっていた。
国債の年間発行額の7割も日銀が購入することで、市場機能そのものへの懸念も出ていたが、これだけの買入が行われている以上、余程の悪材料が出ない限り、需給面では支えられることは確かである。
日銀の異次元緩和の目的のひとつが、銀行の国債投資から貸出などへのシフトであったが、国内銀行の預金に対する貸出金の比率(預貸率)は6月が70.4%となり、四半期ベースでは過去最低を更新した。このあたり異次元緩和の効果に対する疑問も出てくるが、それよりも銀行は引き続き国債投資に依存せざるを得ない状況にあることを示しており、日本国債が売られないひとつの要因となっている。
このように需給面でみると日本国債が売られない、それはつまり日本の長期金利が上昇しない理由が存在する。政府は「デフレ状況ではなくなりつつある」としているが、この日本の長期金利を見る限り、いまだにデフレからの脱却が進んでいないことの現れともいえる。さらに債券市場参加者の多くが2年でコアCPI2%への上昇が現実的ではないと見ている。
ただし、独英の長期金利と日本の長期金利のスプレッドがこのまま拡大していけば、日本の長期金利が何かしらのきっかけで跳ね上がるリスクも出てくる。日本の長期金利を押さえ込んでいたのは需給面やデフレだけでなく、リスク渦巻くなかで安全資産として買われていた面も大きかったはずである。さらに政府は消費税の引き上げを決めかねており、財政再建に対する実質的な国際公約が守られないリスクも存在する。日本の長期金利がこのまま低位安定すればするほど、いずれ大きな変動が待ち受けているように思える。
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6月調査の「生活意識に関するアンケート調査」(日銀)によると、1年後の物価に対する見方(消費税率引上げの影響を除くベース)について、かなり上がるが17.3%(3月は10.4%)、少し上がるが62.9%(3月は63.8%)となっていた。
物価が上昇すればそれに応じて長期金利も上昇する(はずである)。もちろん異次元緩和による日銀の国債大量買入で、その上昇が抑制されたとしても、日銀の思惑通りにコアCPIが2%に上昇するとなれば、現在の水準を維持させることは難しくなる。
欧州はリセッションから脱却しつつあり、米国ではFRBが量的緩和の縮小開始時期を探るぐらいに景気は回復基調となっている。これらの背景には欧州リスクの後退がある。欧米の経済が立ち直りを見せれば、ここにきてやはり回復基調となっている日本経済にも好影響を与えよう。
主に円安によるアベノミクス効果だけでなく、外部環境も好転しつつあり、それにより物価も上昇しやすい状況にある。また消費増税による影響等も意識する必要もある。
生活意識に関するアンケート調査からは個人の物価観としては上昇すると予測しており、日銀の異次元緩和によって2%の物価上昇もありうると思うのであれば、最適な金融商品となるのが、個人向け国債の10年変動金利型となる。
今後長期金利は上昇すると予想するのであれば、固定利付きの債券であればなるべく期間の短いものを購入し、金利がある程度上昇してからあらためて利率の高く期間の長い債券を購入するというのが理想である。ところが、個人向け国債の10年変動金利型であれば、長期金利の上昇に応じて利率も上昇する(半年のラグはあるが)。
さらに個人向け国債であれば、1年間という売却できない期間はあるものの、1年経過すれば財務省が額面で買い取ってくれる。つまり債券の大きなリスクとなっている価格変動リスクと流動性リスクが「ない」。残る信用リスクについては、日本国債をどうみるかであるので、それはそれぞれ見方は異なろうが、債券市場の動向を見る限り、いまのところは日本国債への信用リスクはほとんど意識されていない。
個人向け国債はこのようにリスクが抑えられている分、利率は普通の国債より低めに設定されている。これもあり、現在のように長期金利が1%を割り込むような低金利の状況では、なかなか販売も苦戦している状況にある。しかし、もし物価上昇の可能性を意識しているのであれば、個人の資金の安全な投資先として、さらに金利上昇分も享受できるものとしての10年変動金利型はなかなかの魅力ある商品かと思われる。
ちなみに、個人向け国債10年変動金利型の次回募集期間予定は9月で、発行は10月である。今年の12月募集分以降は個人向け国債の「変動10年債」及び「固定5年債」の募集・発行は毎月行われる予定となっている。
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「長めの金利への働きかけについて、多くの委員は、6月中旬以降の世界的な金利上昇局面においてわが国の長期金利が安定的に推移したことを指摘した。そのうえで、これらの委員は、日本銀行による巨額の国債買入れが、海外金利上昇や景況感改善などに伴って生じる長期金利の上昇圧力を、リスク・プレミアムの圧縮によって強力に抑制していると述べた。」
6月中旬以降の世界的な金利上昇とは、6月19日の会見でバーナンキFRB議長は年内に緩和策の縮小に踏み切る可能性を示し、これをきっかけとした欧米の長期金利の上昇である。7月8日に米長期金利は2.74%近辺まで上昇。ドイツの長期金利も1.72%近辺に、英国の長期金利も2.48%近辺に上昇した。しかし、日本の長期金利の上昇は限られ0.9%以下での推移となっていた。
FRBの緩和縮小の背景には、世界的なリスク後退がある。リスクオフからリスクオンの動きが起き、米独英の長期金利は上昇した。しかし、日本の長期金利の上昇が限定的であったのは、日銀の国債買入がかなり効いていたことはたしかである。
8月12日の欧米市場でも欧米の長期金利が再び動意を見せ始め、米国の長期金利は2.72%近辺となり、再び2.7%台に上昇した。ドイツの長期金利は1.81%近辺に、英国の長期金利は2.60%近辺に大きく上昇していた。しかし、8月14日の日本の長期金利は0.8%以下のままであった。
「複数の委員は、債券市場の流動性に関して、長国先物の値幅・出来高比率がなお高めであると指摘した。このうちの一人の委員は、これが流動性プレミアムとして金利に上乗せされている可能性もあると付け加えた。」
債券先物の値幅・出来高を確認しても、それほど目立った動きとはなっていない。これを見る限りは、特に6月中旬以降は流動性プレミアムが長期金利にオンされているようには思えない。現物債についても、4月や5月に一時流動性が低下する場面はあったが、それは改善されつつある。
「ある委員は、債券市場の不安定さは潜在的にはなお残されており、今後の国内物価や米国金利の動向が及ぼす影響に注意が必要と述べた。」
6月のコアCPIはプラスに転じ、米長期金利はここにきて再び2.7%台に上昇ていたが、日本の債券市場にはほとんど影響は出ていない。外部環境等よりも、需給面での日銀の存在感が大きくなっている。ただし、潜在的な不安感が払拭されたわけではないことも確かである。
「多くの委員は、今後も、市場との緊密な対話や弾力的なオペ運営によって、金利の安定的な形成を促していく」
日銀の国債買入が長期金利の上昇を抑制していることは確かであるが、これは見方を変えれば長期金利の上昇リスクを無理矢理押さえ込んでいるともいえる。ファンダメンタルズに沿った金利の形成に、もしゆがみが生じているとすれば、そのゆがみがのちに変動リスクに変化する可能性はある。
これに関しては財務省の出席者から以下のような指摘があった。
「長期金利の乱高下はこのところみられていないが、国債市場の流動性が低下している中で、依然として、小さなショックでボラティリティが高まる惧れがある。」
債券市場はひところに比べれば安定化しているように見えるものの、池の中に日銀というクジラがいる状態は続き、業者も入札で買った国債を一部投資家に販売し、残りは日銀に買い取ってもらうという簡単なお仕事となりつつある。市場機能が低下していることは確かであり、この財務省出席者(浅川雅嗣大臣官房総括審議官)の指摘は正しいと思われる。
「何人かの委員は、金利の安定を確保するためには財政運営に対する信認が維持されることも重要であり、政府が財政健全化に向けた取り組みを着実に進めていくことを期待しているとの認識を示した。」
小さなショックでボラティリティが高まる惧れを回避するために必要なのが、政府による財政健全化に向けた取り組みである。消費増税について今頃になって再検討するよりも、消費増税をまず決定した上で、法人税減税等などもあらたに検討し、悪影響を抑えるとともに成長戦略も意識した行動を取るべきである。財政規律が維持される限りは、日銀による巨額の国債買入により、日本の長期金利は当面は安定していると予想される。ただし、それは潜在的なリスクを潜ませて、見かけ上だけかもしれないことも注意する必要がある。
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「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとではゼロ%となっており、先行きはプラスに転じていくとの見方で一致した。」
7月11日時点ではまだ6月の全国消費者物価指数の発表はされていないが、7月26日に発表された6月全国消費者物価指数(除く生鮮食品)は、前年同月比0.4%の上昇となった。前年比プラスは2012年4月以来1年2か月ぶりとなる。消費者物価指数は、ある程度予測が可能であり、6月の数字がプラスに転じるであろうことは、かなり前から予想されており、市場でもコンセンサスとなっていた。
「ある委員は、流通の各段階で値上げの動きが徐々に増えてきていると指摘した。」
6月のコアCPIを品目別でみると、電気代の上昇やガソリンの値上がりなどが、指数全体の押し上げに寄与していた。8月12日に発表した企業物価指数では前年同月比2.2%の上昇となっていたが、これもガソリン価格の上昇の影響が大きかったものの、円安の影響から食品などへの価格転嫁の動きも出てきており、消費者物価指数にも影響が出てくる可能性はある。
「別の一人の委員は、外食産業の一部で高価格商品を投入する動きもみられるなど、企業の価格設定行動に変化の兆しが窺われるとの見方を示した。」
これがマクドナルドの1000円バーガーのことを示しているのかはわからないが、マクドナルドの決算等からはあまり売り上げには寄与していなかった。この発言がマクドナルドを意識したものあったとすれば、話題性に飛びついてしまった発言のようにも思われる。
「この間、複数の委員は、消費者物価の前年比プラス幅は、夏頃までは前年のエネルギー価格下落の反動などから拡大するが、その後、拡大が一服する可能性があるとの認識を示した。」
この見方は白川総裁時代からあったものであり、6月のコアCPIのプラス回復についても、異次元緩和以前からの想定の範囲内にあったものである。異次元緩和が効いて急にプラスに浮上したものではない。そして拡大一服も想定されていた。ただし、もしもここからさらに1.0%近辺に向けた上昇が始まるとなれば想定外となる。
「このうちの一人の委員は、世界的なディスインフレ傾向の中で、わが国の物価が、わが国独自の要因でプラス幅を拡大していくか引き続き注視していると述べた。」
なかなか思い切った発言のようにも思われる。欧米での物価が上昇しづらいディスインフレ傾向のなかで、日本独自の要因、つまりは4月の異次元緩和により本当に物価上昇に寄与するのかと疑問を投げかけた格好である。リフレ派と呼ばれる人達を除けば、これが本音ではなかろうか。
「予想物価上昇率について、委員は、マーケットの指標などで上昇が一服しているものもあるが、6月短観の販売価格判断をはじめ企業や家計、エコノミストに対する調査なども踏まえると、全体としては上昇を示唆しているとの認識を共有した。」
マーケットの指標はさておき、インフレ期待が果たしてどこまで広まっているのか。個人ベースでの調査などはさておき、2%の物価上昇を意識している企業やエコノミストが果たしてどの程度存在しているのか。異次元緩和で唯一の期待のあった円安についてもブレーキが掛かっている状況下、期待という不安定なものを計測することは難しい。
「一人の委員は、消費税率引き上げの蓋然性に対する認識の影響を識別することは引き続き難しいとの見方を示した。」
当然ながら消費増税により消費者物価指数は上昇する(ただしその影響は1年間)。このため消費増税を念頭に置けば、当然ながら企業やエコノミストもその分の物価上昇は意識せざるを得ない。異次元緩和による物価上昇にはこの消費増税の影響を取り除く必要がある。
「別のある委員は、「生活意識に関するアンケート調査」では、1年後の物価が「上がる」との回答が約8割まで増加していると指摘した。」
6月調査の「生活意識に関するアンケート調査」によると、1年後の物価に対する見方(消費税率引上げの影響を除くベース)について、かなり上がるが17.3%(3月は10.4%)、少し上がるが62.9%(3月は63.8%)となっている。1年後の物価が上がるとの認識を確かに80.2%いる。しかし、この個人のアンケート調査が、どの程度適切に予想物価上昇率を捉えているかは甚だ疑問ではある。もちろんひとつの参考データであることは間違いないが。
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成長に寄与したのは、前期と同様に民間最終消費支出で、前期比プラス0.8%。民間住宅は実質マイナス0.2%。そして民間企業設備は、実質マイナス0.1%と前期のマイナス0.2%からは回復したが、減少は続いている。
これを受けて甘利明経済財政・再生相は、消費税率の引き上げに関して「判断する材料の一つとして、引き続きいい数字が出てきた」との認識を示した(ロイター)。注目すべきはGDP数値そのものよりも、これを受けての消費増税の判断となる。
8月8日の金融政策決定会合後の日銀総裁会見でも、質問はこの消費税の引き上げに関して集中していた。
「一般論として申し上げれば、大幅な財政赤字が続き、既に政府債務残高が極めて高い水準になっていることを踏まえると、政府において、今後の財政健全化に向けた道筋を明確にし、財政構造改革を進めていくことが極めて重要であると思っています。日本銀行としては、その着実な推進を強く期待しています。「中期財政計画」も示されたので、これに沿って、着実に財政健全化が推進されることを期待しています。」
「日本銀行」として財政健全化推進を強く期待と表明している。さらに「脱デフレと消費税増税は両立するか」という質問について、黒田総裁は「私は、両立すると思っています。」と答えている。これがヘッドラインニュースとして流れていた。
もし仮に脱デフレにリフレ政策が必要だとしても、財政ファイナンスと認識されないためには、政府が財政規律を厳守する姿勢を示す必要がある。この場合、両立するかどうかという以前に、脱デフレ政策としてのリフレ政策には消費増税を先延ばしすることは、その分のリスクを日銀や政府が背負い込むことを意味する。これは黒田総裁による次の発言にも現れている。
「財政規律の緩みや、最近言われる「財政ドミナンス」、あるいは「財政ファイナンス」のような懸念が持たれ、その影響が長期金利に跳ね返るようなことがあると、せっかくの「量的・質的金融緩和」の効果が減殺される惧れがあります。」
安倍首相の消費増税に対する曖昧な姿勢というか決断できない姿勢は非常に危険性がある。もちろん先送りされると財政ファイナンスと認識される懸念が生じ、それがわりじわりと株式市場や為替市場だけでなく、これまで日本国債への絶対的な信認を維持させてきた債券市場にも影響を与えかねない。このあたりのリスクを黒田総裁は意識しての発言かと思われる。
消費増税への見解については財務省出身の黒田総裁らしい回答という見方がある。しかし、アベノミクスの片棒を担がされて壮大な実験を政府による依頼で初めてしまった以上は、依頼主が市場等の安定化をはかる装置を起動させないという選択肢はありえない。このあたりの意向が総裁会見に現れているように思われる。ここにきて黒田総裁の会見内容が面白くなってきたが、政府の意向をなぞるだけでなく、日銀としての主張が見え始めてきたことも影響しているのかもしれない。
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この風立ちぬの時代背景は、まもなく出版される拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓 」の内容とシンクロしている。風立ちぬの時代は主に1920年代から1930年代を中心とした日本が描かれていた。高橋是清が活躍した時代と重なるのである。
ロイターは8月7日に「「風立ちぬ」は日本への警告か、震災と不況が重なる今と昔」との記事を出しており、そのなかでこのような記述があった。
「アニメーション研究家の氷川竜介氏は、映画で描かれている1923年の関東大震災と30年代の恐慌が、2011年の東日本大震災と近年の日本経済の低迷に重なるところがあると指摘」。
映画「風立ちぬ」の中に現在の日本への警告が含まれていると指摘する声も上がっているが、実際に映画を観てそれは感じた。日本はまだまだ貧しく震災や不況、それによる失業等々が人々の生活を苦しめる一方、身の丈を考えずに戦争に向けて突き進んでいた時代であった。
ロイターの記事では、「有権者はアベノミクスを概ね好意的に評価しているが、中には憲法改正について不安を感じている人もいる。」とある。軍国主義の時代に戻るようなことは考えづらいものの、憲法改正の動きはそれを感じさせる。それだけではない。安倍政権が打ち出したそのアベノミクスの中心に位置する日銀のリフレ政策にもかなりのリスクが含まれている。
風立ちぬで描かれた時代は、関東大震災や世界恐慌の影響を受けた昭和恐慌、井上デフレとも呼ばれた不況があり、それに対処するために登場したのが高橋財政である。その高橋是清の財政政策は結果として軍事産業を発展させることになる。風立ちぬでもその大手財閥企業が登場し、海沿いの工場からの煙が重化学工業の発展を示していた。
高橋財政では財政拡大のために是清が採った国債発行を容易にさせる日銀による国債引受が、結果として軍事費拡大にも対応しうる体制を整えてしまうことになった。是清自身はこれにブレーキは掛けられると自らも、周りからも認識されていた。ところがデフレ解消後、是清が出口政策をとろうとしたところ、軍部と対立しその結果2・26事件で高橋是清は暗殺されてしまう。ゼロ戦などを大量に作ろうとした軍部にとり軍事費の拡大は必要であり、日銀の国債引受という打ち出の小槌は手放すことはできなかった。結局、ブレーキは掛けられず、そのまま日本は戦争に突入し、戦後のハイパーインフレを迎えることになる。
そして現在、日銀による国債の大量買入が財政規律を失わせるとともに、消費増税を含めて、財政再建を先送りするようだと高橋財政時の日銀による国債引受と同様に、財政ファイナンスと認識される懸念が出てくる。日本の財政は悪化しており、国の借金は1000兆円も超えている。
宮崎駿監督は安倍首相が推進する憲法改正について批判しているが、現政権が軍事費を拡大することは考えづらいにしても、このあたりの動きが高橋財政後の動きにオーバーラップする。円安株高によって見えなくされているアベノミクスのリスクもあらためて認識すべきであり、安定政権となった現政権が危険な方向に向かわぬよう我々は監視の目を強める必要があると思う。
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消費増税により国民負担が増加することは確かであるし、1997年の消費増税がデフレを深刻化させた原因と指摘する声がある。ただし、これは日本の不良債権問題の深刻化、アジアの通貨危機等の影響が多分に大きかった。
そもそも消費増税が必要とされるのは財政再建のためである。政府は中期財政計画を閣議了承したが、目標は掲げたものの消費増税を前提にせず暫定的なものであり、具体策は盛り込まれていない。
異次元緩和によるデフレ脱却を前提とした成長率の見通しも高く見積もられているが、異次元緩和で成長率を引き上げる経路はリフレで驚かせて円安とさせた以外には見当たらず、「気合い」に期待が掛かっているような状態にある。ただし、異次元緩和とは別に、世界的なリスク後退に伴う景気回復については期待できる面があることは確かであるが。
問題となるのは、アベノミクスを生み出した安倍首相が消費増税に対する姿勢をぐらつかせていることであり、これはつまり本音では先延ばしを意識していると思えることである。だからこそ、アベノミクスの片棒というか両棒を担がされた黒田日銀総裁が異例ともいえる政府への牽制発言を行ったのではなかろうか。
ここにきての東京市場では午後の時間帯を中心に、円高・株安が進行している。ヘッジファンドなど海外投資家によるポジション整理との見方が強いが、そのポジションを落としている要因として、アベノミクスへの懸念が背景にある可能性がある。
アベノミクスとはデフレ脱却を目指すとして、日銀法改正までちらつかせ、安倍首相が自ら選んだ黒田氏を総裁にして異次元緩和を実行させた。その異次元緩和は国債の大量買いが中心にある。ここで問題になるのは、金融緩和として日銀が積極的に国債を買い入れるというのであれば、市場では好感されるとしても、それはあくまで財政ファイナンスではないということが前提となる。日銀が財政の片棒を担ぐことになれば、結果として財政法で禁じられている国債引受と何ら変わらぬことになる。
日銀の巨額の国債買入による異次元緩和が財政ファイナンスではないとする担保として、政府による財政再建があり、財政規律の維持が必要となる。ところがその要となっている消費増税すらアベノミクスを生み出した本人が先送りを意識しているとなればアベノミクスへの信認がほころぶ可能性がある。
麻生財務相は閣議了解された中期財政計画について、財政健全化に向けたきちんとした答えを出したと述べたそうだが、少なくとも消費増税が予定通りに実施されなければ、国際公約が守られているかどうかも疑わしい。IMFも指摘したが、日本政府の財政規律への姿勢が今後の世界的なリスクになる懸念も存在する。アベノミクスはひとつ方向を間違えると大きなリスクを孕む政策であることは、その模範とした高橋是清による高橋財政後をみても明らかである。
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7月4日のカーニー総裁として初のMPCでは、全員一致で政策の現状維持を決めた。今年に入ってからのMPCでは、キング前総裁が量的緩和の枠拡大を提案するものの、多数派の委員がそれを退けるという状況が続いていたが、この際にはマイルズ委員とフィッシャー委員も前月まで続けた購入枠拡大の主張を取り下げた。さらに7月31日・8月1日に開催される次回会合では、インフレ・レポートと同時に、何らかのフォワード・ガイダンスを導入すると示唆した。
8月7日のインフレ・レポートの公表の際に初めての記者会見に臨んだカーニー総裁は、7.8%(6月分)と高止まりしている失業率が7%になるまでは、過去最低の水準である年0.5%の政策金利を維持する方針を示した。イングランド銀行は失業率の見通しについて2016年の後半まで7%を上回ると予想していることから、この予想通りとなれば今回の方針は3年後まで現在の低金利政策を維持することを示唆した格好となる。つまりこれがフォワード・ガイダンス(時間軸政策)の具体的な数値目標となった。
ただし、これにはいくつかの条件がある。そのひとつはインフレ率が18~24か月以内に2%の目標を0.5ポイント上回りそうだとMPCが判断した場合、ふたつ目は中期的なインフレ期待が「もはや十分に抑制されない」とMPCが見なした場合も三つ目は、現行の政策姿勢が「金融安定に著しい脅威」となるとの判断を英中銀の金融行政委員会(FPC)が下す場合である(ブルームバーグの記事を参考)。
これによりイングランド銀行は軸足を量的緩和政策から時間軸政策に移した格好となり、非伝統的手段から伝統的手段に軸足戻すことで世界的なリスク後退を印象づけた格好となろう。ただし、非伝統的手段を完全に封じ込めたわけではない。カーニー総裁は必要となれば、資産購入プログラムの規模をさらに拡大する準備があると表明し、失業率が数値基準に達するまでMPCは資産購入の規模を縮小しない意向だとも語っている。新たなバズーカ砲はいったん武器庫にしまい、現状の武装のまま前線を長期間維持することを表明した格好か。
また、カーニー総裁は8日に、日本が過去に早すぎる緩和解除を行った誤りを英国が繰り返さないことが重要だ、と指摘した(ロイター)。これは2000年のゼロ金利政策の解除を示すのか、2006年の量的緩和政策の解除を示すのか、それとも両方を示すのかはわからないが、とりかく政策金利の引き上げは急がない姿勢を日銀のことを引き合いに出してアピールした。
イングランド銀行がフォワード・ガイダンスの数値目標を失業率に置いたことで、その政策方針はデュアルマンデードを採用したFRBの政策に歩調を合わせた格好となる。FRBは米失業率が6.5%を上回り、向こう1~2年のインフレ率が2.5%以下にとどまると予想される限り、政策金利を低水準にとどめる、というフォワード・ガイダンスをすでに採用している。ECBもフォワード・ガイダンスに軸足を移しつつあり、これが欧米中銀のスタンダードとなってきている。指摘するまでもなく、日銀はこれらの動きからは完全に取り残されている。
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