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カテゴリ:日銀( 1183 )

マネタリーベースで物価を動かせたのか

 日銀が2日発表したマネタリーベース(資金供給量)の3月末の残高は506兆2932億円となり、3か月ぶりに増加した。

 「教えて日銀」という日銀のサイトによると、マネタリーベースとは、「日本銀行が世の中に直接的に供給するお金」のこと。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と日本銀行当座預金(日銀当座預金)の合計値とある。

 マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

 2013年12月に日本経済団体連合会審議員会における「デフレ脱却の目指すもの」と題する講演で、黒田日銀総裁は次のようにコメントしていた。

 「具体的な金融緩和の手法としては、日本銀行の保有額が年間約50兆円増加するように国債の買入れを行い、マネタリーベースを2年間で2倍に拡大させることとしています。2年後のマネタリーベースは、名目GDPの約60%に達します。これは、現在の米国のFRB(22%)や英国のイングランド銀行(22%)のケースを遥かに凌駕する規模であり、歴史的にも例のない金融緩和と言えます。」

 歴史的にも例のない金融緩和とはこの年(2013年)の4月の金融政策決定会合で決定した量的・質的緩和政策である。黒田総裁は次のように続けている。

 「量的・質的金融緩和は、様々な波及経路を想定していますが、日本銀行のこれまでの金融緩和政策や、海外の主要中央銀行で実施されている金融緩和政策と大きく異なるのは、「期待の転換」を特に重視している点です。「量的・質的金融緩和」は、強く明確なコミットメントとそれを裏打ちする異次元の金融緩和によって、市場や経済主体の期待を抜本的に転換し、インフレ予想を直接的に引き上げることを目指しています。」

 「期待の転換」は起きたのか。マネタリーベースと物価の関係を追ってみたい。日銀のマネタリーベースのデータが1996年7月からであったので、1996年7月以降のマネタリーベースと日銀の目標としている物価指数である消費者物価指数(除く生鮮、前年同月比)を適当に比べてみた。

年月 マネタリーベース コアCPI前年比

1996年7月 489,123 プラス0.3%

1999年12月 929,780 マイナス0.1%

2003年3月 1,062,876 マイナス0.6%

2012年4月 1,230,656 プラス0.2%

2013年4月 1,552,803 マイナス0.4%

2014年4月 2,255,347 プラス3.2%(消費税の影響を除くとプラス1.5%)

2015年4月 3,058,771 プラス0.3%

2016年4月 3,861,893 マイナス0.4%

2017年4月 4,621,733 プラス0.3%

2018年4月 4,983,048 プラス0.7%

2019年2月 4,972,997 プラス0.7%

 上記は適当にピックアップしたものではあるが、そのデータは日銀と総務省のサイトからピックアップできることで参照してほしいが、意図的に何かを無理矢理導こうと抜き出したものではない。

 この数値を見比べて、この両者に何かしらの相関関係はあるかと試験で問うたとすれば、その解答は特に相関は見当たらないとの解答が多いというか、それを正解とせざるを得ないのではなかろうか。タイムラグがあるとしても相関は見えない。

 そもそもマネタリーベースとは何か、日銀が何をしているのかに多くの国民の関心は薄い。量的・質的金融緩和によって国民の「期待の転換」を図るなどということができるのかは甚だ疑問であったし、現実にこれらの数値が期待の転換などできなかったことを示している。

 さらに、ここまで長期国債の買入を主体にマネタリーベースを歴史的にも例のない規模まで増加させたしまった副作用はまったくないものなのか。日銀にあらためて問うてみたい。


by nihonkokusai | 2019-04-03 09:48 | 日銀

現状では日銀の金融政策の変更は困難、副作用が顕在化する前に修正も必要に

 1月22、23日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事要旨が20日に公表された。今回はこのなかの「当面の金融政策運営に関する議論を確認してみたい。

 『一人の委員は、「現在の金融緩和を粘り強く続ける」という情報発信は、日本銀行の緩和的な政策スタンスを示すうえで重要であるが、同時に、金融市場において、当面は政策変更がないという予想が過度に固定化されてしまうことを防ぐ工夫も必要であると指摘した。』

 政策変更がないという予想が過度に固定化されてしまう理由は、物価目標が達成される見込みはないものの、その目標を下ろすようなことはしたくない。そうであれば、過度の金融緩和を続けるほかはない。さらに追加緩和を模索するにしても、数字上は量を増やすなり、金利を下げることは可能ながら、現実的には量を増やすにも、金利を引き下げるにもすでに限界に近い。副作用を考慮すると動くに動けないというのが現実と思われる。そうなると「工夫」に頼らざるを得ないということであろうか。

 『別のある委員は、物価安定目標への到達が遠ざかっている現状を踏まえると、何か大きな危機が起きるまでは行動しないという態度は望ましくなく、むしろ、状況の変化に対しては、追加緩和を含めて迅速、柔軟かつ断固たる対応を取る姿勢を強調するとともに、一部で指摘されている緩和限界論に反論していく必要があると述べた。』

 異次元緩和と呼ばれるように、当初からやり過ぎていたものをさらに強化した上で、それでも効果なく、量から金利に戻してマイナス化したことで、金融機関の経営を圧迫させ、金融そのものに悪影響を与えている可能性がある。そのなかでどのような追加緩和手段があるというのか。その追加緩和手段があったとして、金融市場の動揺を一時的に抑えられたとしても、物価目標達成にどれだけ寄与できるというのか具体的に示してほしい。まずは物価目標を柔軟化させて、金融政策そのものもフレキシブルなものに戻すことが必要なのではなかろうか。

 『これに対し、ある委員は、不確実性の高い状況のもとで急いで政策を変更することは、かえって金融不均衡の蓄積や実体経済の振幅拡大に繋がるリスクもあるため、十分に情報を収集・分析したうえで、その時々の状況に応じて適切に対応していくことが大事であるとの認識を示した。』

 このあたりが冷静な判断といえるであろう。なにも緩和すればすべて良しというものではない。

 「この間、複数の委員は、海外経済の下振れリスクが顕在化し、経済・物価情勢が大きく悪化するような場合には、政府との政策連携も一段と重要になるとの見解を述べた。」

 それとなく金融政策から財政政策に比重を移したらどうかとも読めなくもない。しかし、財政政策も効果うんぬん以前に、膨大な債務を抱えている以上、信認毀損にも繋がりかねないことで、慎重に行う必要はある。まさかとは思うが、MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が持ち出されるようなことはないと思いたいが。

 金融緩和の効果についての議論では、多くの委員は、今後とも、強力な金融政策を続けていくためには、政策の効果と副作用をバランスよく考慮していくことが重要であるが、現時点では、金融緩和の効果が副作用を上回っているという認識を示したとある。

 副作用はじわりじわりと広がってきている。それが顕著に現れたときには取り返しがつかなくなる恐れがある。もし金融緩和の効果が副作用を上回っているという認識であるのであれば、いまのうちに修正を施して、危機を未然に防ぐことも必要なのではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-03-22 10:49 | 日銀

麻生財務相が日銀の物価目標の柔軟化に言及

 日本商工会議所の三村明夫会頭は7日のインタビューで、日銀が黒田東彦総裁の下で2013年4月から実施している異次元緩和について「非常に効果があった」と評価する一方で、長期化に伴い「弊害もいろいろ出てきている」と指摘。「もうそろそろ2%物価上昇にこだわらない、もう少し柔軟な金融政策をとってほしい」と述べた(ブルームバーグ)。

 そして、麻生太郎財務相は12日の参院財政金融委員会における共産党の大門実紀史氏への答弁において、日本銀行が達成を目指している2%の物価目標について「もう少し考えを柔軟にやってもおかしくないのではないか」と語った(13日付日経新聞)。

 三村会頭は2013年4月から実施している異次元緩和について「非常に効果があった」と評価しているそうだが、そもそも2013年4月から実施した異次元緩和は2%という物価目標を2年で達成するというものであり、何の効果があったというのてあろうか。

 日銀の異次元緩和によって日本の雇用が回復し、息の長い景気回復が実現されたというのであれば、それは日銀の掲げた物価目標は達成されずとも、日本経済はどういうわけか回復してきたということになる。これは手段とその効果の関係からはおかしな見方となる。

 日銀の異次元緩和は物価目標達成を掲げたが、その目標は達成しなかった、それでも効果があったと判断される理由を述べよと大学入試の問題で出されたとすれば、どのような解答が得られるであろうか。

 また、麻生財務相は「2%と最初に目標に掲げたのでどうしてもそれをやらざるを得ないという形になっている」と指摘。「2%に行っていないからといって怒っている一般庶民がいるか、私の知っている範囲では1人もいない」と語った(日経新聞)。

 政府が日銀に2%という物価目標を押しつけ、そのために日銀に財政ファイナンスに近い政策を取らせ、そこまでしても結果として物価は日銀の過度な緩和でも動かせなかった。そもそも2%という物価が日本に本当に必要なのか。そう思っている「庶民」は麻生大臣ではないが、ほとんどいないと思う。2%はグローバルスタンダードというが、日本の物価指数そのもののクセなどもあるが、これまでの推移をみてみると、日本の消費者物価指数はせいぜい1%程度あたりが適切な水準との見方もできよう。無理矢理2%に引き上げる必要はないというか、金融政策で引き上げようとの考え方はおかしい。

 三村会頭は異次元緩和の長期化に伴い「弊害もいろいろ出てきている」と指摘した。その具体的な弊害としては、超低金利の長期化で中小企業の資金繰りを支える地域金融機関の経営悪化を招いていることや、国債の発行コスト低下で政府の財政規律を緩めていることに加え、企業が設備投資や賃上げを行うインセンティブを削いでいる可能性があることを挙げた(ブルームバーグ)。

 特に金融機関への副作用は今後、じわりじわりと表面化してくることも予想される。これは金融機関の経営だけに止まらず、日本経済そのものを悪化させかねず、状況によっては日本発の金融危機を招きかねない。

 日銀は物価目標を柔軟化するとともに、マイナス金利の撤廃、長期金利の調節レンジの拡大、できれば長期金利操作そのものの停止を行う必要がある。

 すでに日銀の資産は膨大なものとなっており、それを維持することによって緩和効果が得られることを前面に打ち出し(いわゆるストック効果)、その緩和効果を今後も継続させることをあらためてガイダンスで示すことで、金融市場への影響を極力抑えることはできるのではなかろうか。そうすることによって金融機関への影響を軽減させ、結果としてこれは株式市場にもプラスの影響を与えうるのではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-03-14 10:09 | 日銀

年内の日銀の追加緩和の可能性は低い

 米国の中央銀行にあたるFRBは、これまでの正常化路線にブレーキを掛ける姿勢を示しており、年内の利上げ、さらに資産買入の縮小も年内にも停止すると予想されている。

 ECBは夏以降の利上げを探ると予想されていたが、こちらも現状は年内の利上げ観測は後退している。英国のEU離脱問題も抱えてイングランド銀行も動けないとみられる。

 中国の第13期全国人民代表大会(全人代)では、2019年の経済成長率の目標を「6~6.5%」と、2018年の「6.5%前後」から2年ぶりに引き下げた。米中貿易摩擦の影響もあり、中国での景気減速観測も根強い。

 ただし、さすがのトランプ大統領も公約優先では米国経済に深刻な打撃を与えかねないことも理解し始めたのか、米中の通商問題は関税の引き下げ等も検討されはじめているようで、解消に向かう期待も出始めている。

 そして景気の減速観測の強い欧州についても、やや楽観的な見方も出ている。しかし、フランスでの政治情勢、そして英国のEU離脱問題など課題も多く抱えており、それほど楽観視できないことも確かではなかろうか。

 株価をみると昨年のクリスマスあたりを底にして米国株式市場は値を戻しており、日経平均も同様に反発相場となっている。この動きを見る限りにおいて、現状は少なくとも欧米、さらには日本の中央銀行が、追加緩和にまで追い込まれる可能性はそれほど高くはないとみられる。

 為替動向も気になるところではあるが、ドル円についても112円近くまで戻している。いまのところ円高リスクが再燃するような状況とはなっていない。

 国内経済も中国の景気減速などの影響から、減速することも予想されるが、米中の貿易摩擦が解消に向かうことになれば、大きく落ち込むことは考えづらい。今年の改元、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、さらには2025年の大阪万博なども控えて、お祭りムードが継続することも予想される。

 以上のことから少なくとも日銀が年内に追加緩和をせざるをえない事態が生じることは考えづらい。むろんブラックスワンが突如現れる懸念もないわけではないが、いまのところはその兆候もない。日銀の国債の買入は来年度の国債発行額の減額に即したものとし、買入額は実質減額しても、ストック効果が意識されて、債券市場での金利上昇もある程度抑えられると思われる。2%の物価目標が達成される見込みはないが、その達成を誰も望んでもいないこともたしかである。


by nihonkokusai | 2019-03-06 09:43 | 日銀

金融緩和で物価を上げられるという発想はやめるべき

 総務省が22日発表した1月の全国消費者物価指数は、総合が前年同月比プラス0.2%と昨年12月のプラス0.3%から上昇幅を縮小させた。日銀の物価目標ともなっている生鮮食品を除く総合は、同プラス0.8%となり、こちらは12月のプラス0.7%から上昇幅を拡大させた。生鮮食品及びエネルギーを除く総合はプラス0.4%と12月のプラス0.3%からこちらも上昇幅を拡大させた。

 総合の落ち込みはキャベツやレタスなどの生鮮野菜が、昨年に高騰した反動で下落したことが大きい。生鮮食品を除く総合は、電気代や都市ガス代などエネルギー関連が押し上げた。生鮮食品とエネルギーを除く総合は宿泊料の上昇なども寄与した。

 ということで、今年に入っても日銀の物価目標の2%に、全国消費者物価指数の生鮮食品を除く総合が届く気配はない。日銀は非常時対応ともいえる異次元緩和をすでに6年近く続けている。いくらタイムラグがあると言っても、日銀の金融緩和策が物価を直接押し上げる効果を持っていないことは明白ではなかろうか。

 これは2014年の消費増税が影響したとの主張があるが、これによって消費の落ち込みは一時的にあっても、息の長い景気回復は継続しているとしているのは何故か。消費増税と物価との関連について、それほど影響があるという前提はおかしい。

 デフレからの脱却というが、日本の物価が上がりにくいという面もあるが、グローバルスタンダードとされる2%という数字に日本の物価を当てはめること自体に問題があるといえるのではなかろうか。

 いま統計がいろいろな意味で脚光を浴びている。毎月勤労統計(毎勤)の不正問題が国会でも取りあげられているが、もし現政権がアベノミクスの効果を強調したかったのであれば、賃金以前にこの物価の統計を操作すべきであったと思われる。むろん、そのような操作はあってはならないし、消費者物価指数についてはそのような操作が行われたという気配はない。

 結果として生鮮食品を除く総合は1%あたりにとどまった状態が続いている。これをみても、もうすでに日銀の金融緩和によって能動的に物価を上げられるという発想はやめるべきではなかろうか。その考えに基づいて、あらためて現行の日銀による異次元緩和策の修正を図る必要もあるのではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-02-24 11:30 | 日銀

日本の景気回復のためにはマイナス金利政策の解除も必要に

 中国や欧州の経済指標などをみると昨年は景気の減速感が強まった。中国国家統計局が発表した2018年の国内総生産は、物価変動の影響を除いた実質で前年比6.6%増となり、天安門事件の影響で経済が落ち込んだ1990年の3.9%増以来、28年ぶりの低水準となっていた。欧州連合(EU)の欧州委員会がユーロ圏の2019年の成長見通しを引き下げ、イングランド銀行も英国の経済成長見通しを引き下げた。

 いわゆる循環的な景気減速との見方が強いものの、米中の貿易摩擦といった政治的な要因も絡んでいる。米中の貿易摩擦の背景には、米中のハイテク分野などを含む覇権争いがあり、これは米国経済を牽引してきたアップルなどのIT企業にも影響を与えることになる。

 中国や欧州、さらに米国の景気が減速となれば、当然ながら日本の景気動向にも大きな足かせとなろう。2013年あたりからの日本の景気回復は、アベノミクスが成果を挙げたというよりも百年に一度と言われた世界的な金融経済リスクの後退と、それに伴う円高調整、そして世界的な景気の回復が大きく寄与した。

 日銀の異次元緩和政策は急激な円高調整には多少は寄与したかもしれないが、結果として物価目標が達成できなかったように、実質的な効果には疑問符が付く。しかし、物価目標が未達となったことで日銀は現在、長短金利操作付き量的質的緩和政策という複合的な緩和策を行っている。

 しかし、のちほど加えられたマイナス金利政策と長期金利コントロールは金融機関の収益を悪化させることになる。大手金融機関は多少余力があったとしても、中小金融機関にとってはマイナス金利が継続され続けると収益がさらに悪化しかねない、いわゆる異次元緩和の副作用が今後は顕在化しかねない。

 日銀の緩和効果は膨大に膨れあがった日銀の買入資産の保有によるものを考慮すれば良いと思われ、マイナス金利や長期金利のコントロールによる影響はほとんどないと見て良いのではなかろうか。むしろ金融機関の収益悪化が日本経済の減速要因ともなりかねず、将来の金融不安が生じるリスクすら伴うものとなる。

 このあたりの認識を強めさせることで、日銀の出口政策とか引き締め策ではなく、日本の景気回復の後押しともなりうるマイナス金利政策の解除と、できれば長期金利コントロールの解除を目指すことが必要となるのではなかろうか。

 これ以上の日銀のポートフォリオの膨張もブレーキを掛け、巨額のポートフォリオを長期間にわたり維持させることで、緩和効果の継続をアピールするといったことも必要になってくるのではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-02-16 11:06 | 日銀

2008年のリーマン・ショック後の日銀の対応

 日銀は1月29日に2008年7~12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。特にリーマン・ショックを受けて、どのような議論が決定会合でなされ、どのような対策が講じられていったのか興味深い内容となっていた。

 サブプライムローン問題を契機に始まった金融混乱は、2008年秋以降、未曾有の世界的な金融経済危機へと発展していった。2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、カウンターパーティ・リスクに対する市場参加者の警戒感が高まった。

 9月16、17日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事録によると、中曽金融市場局長(当時)から、「全くフェーズが変わってしまったので」との発言があり、情勢が大きく変わったことで資料が差し替えられた様子が窺える。議事録では当時の差し迫った状況が見て取れるが、一部、固有名詞が空白となっている部分があり、国内銀行あたりの固有名詞はさすがに議事録でも伏せられていたようである。

 かなり危機的状況となっているなか、議事録を読むとなかなか踏み込んだ議論が行われていたことがわかる。決定会合がたまたまリーマン破綻直後ということで、その影響が大きなものであるのは理解されていても、その影響がどの程度あるのかが、まだ読み切れない段階での議論だけに、ある意味興味深い。

 16日にはFOMCも開催されており、全員一致で政策金利を2%に据え置く事を決定している。リーマン破綻による金融市場の混乱などから、利下げを期待する声もあったが、FRBは今回の金融市場の混乱に対しては大規模な資金供給で対処した。

 17日の日銀金融政策決定会合でも全員一致での現状維持が決定されていた。しかし、その後、事態はさらに悪化することになる。金融と実体経済間の負の相乗作用が強まり、景況感は急激に悪化。先進国経済だけでなく、これまで比較的堅調に推移してきた新興国経済にも影響が及び、その影響は世界各国に同時にかつ急速に広がるという異常事態となり、日本経済も大きな打撃を受けた。

 10月8日に欧米の中央銀行に加え一部新興国も含め、10の中央銀行が同時に0.5%の緊急利下げを実施したが、この利下げには日銀は加わっていなかった。

 実は10月6、7日に日銀の金融政策決定会合が開催されていた。この議事録を読む限りにおいて、8日の世界同時利下げを示唆するようなコメントはなかった。日銀は0.5%下げるとゼロ金利に戻ることになり、利下げをためらったとの見方もある。10月14日の臨時に開催された金融政策決定会合では利下げではなく新たな市場安定化策を決定した。しかし、10月31日の金融政策決定会合では、0.2%の利下げが提案され、4対4の可否同数となったため議長が決するという事態となったのである。


by nihonkokusai | 2019-02-11 15:14 | 日銀

2019年度の1万円札の発注量はどうして減少するのか

 日銀は2019年度に1万円札から千円札までの新札を30億枚発注する。1万円札は10億枚と過去最少の発注とし、18年度から2億枚減らす。日銀は4~5年に一度の頻度で1万円札を廃棄し、お札の品質を管理。お札の破損が減れば、新札の発注枚数も減る(4日付日経新聞)。

 1万円札などお札の発行残高は伸びているにもかかわらず、何故に1万円札の発注量が2018年度から2019年度にかけて2億枚も減少するのであろうか。

日銀「平成31年度の銀行券発注高」(過去の発注額の推移もあり)

 日経新聞の記事によると、キャッシュレス決済の普及やタンス預金の広がりを指摘している。キャッシュレス決済の普及により1万円札の利用頻度が減少すれば、確かにお札の破損する割合が減少することになろう。タンス預金の増加も利用頻度を減少させることになる。

 しかし、キャッシュレス決済がここにきて突然普及が広まったわけではない。電子カードの普及は1万円札というより小額のコインの利用頻度を減少させよう。クレジットカード決済の普及が広まったとしても、それほど急激に増加したというのも考えづらい。

 タンス預金については、2016年のマイナス金利政策によって預貯金につく金利がさらに限られ、それが2016年度あたりからの1万円札の利用頻度の要因となった可能性はある。つまり預金とせずに現金をそのまま手元に残す割合の増加である。ここにきて、タンス預金増加の動きが一巡したとの見方も出来るかもしれない。

 これは景気の動向による影響を受けている可能性もあるのではなかろうか。ここにきての個人消費の低迷なども一因になっているのではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-02-05 09:36 | 日銀

日銀の追加緩和の難しさ

 1月22、23日に開催された金融政策決定会合における主な意見が31日に公表された。最初の「金融経済情勢に関する意見」では、今後の景気に対する見方が割れていた。

 景気の拡大は続くとの楽観的な見方をしている委員と、世界経済を巡る不透明感や不確実性からリスクが生じているとの見方に分かれているように思われる。これは市場参加者も同様かとみられる。

 物価については、賃金・物価が緩やかに高まるという基本的なメカニズムは作動しているとの意見があったが、同日発表した展望レポートでは2019年度の物価見通しを引き下げている。また、ここにきて2018年の実質賃金が、修正するとマイナスではなかったかとの見方が出ている。

 「昨秋以降に原油価格が比較的大きく下落したため、物価は当面押し下げられると見込まれる」

 それはそうであるが、その押し下げも異次元緩和で何とかできるはずではなかったのか。それができずに、原油価格などに大きく左右されるのであれば、異次元緩和そのものを本来であれば見直すべきであると考える。

 「物価の上昇を遅らせてきた諸要因の解消に時間を要しているほか、予想物価上昇率は、想定以上に粘着的である可能性が高い。」

 物価の上昇を遅らせてきた諸要因とは何か。異次元緩和は諸要因によってあっさり効果がなくなるものであったのか。予想物価上昇率は、想定以上に粘着的である可能性が高いのではなく、日本の物価を2%という基準にあてはめることがそもそも問題ではなかったのか。

 「既往の原油価格下落や教育無償化といった特殊要因は、物価を一時的に下押しするとみられるが、中長期的には、実質所得の拡大を通じて物価の押し上げ要因となり得る。この点について明確な対外説明が必要である。」

 もし2018年の実質賃金が伸びていないとなれば、このあたりの説明についても疑問が残ることとなろう。

 金融政策運営に関する意見については、いつも通り「2%に向けたモメンタムは維持されていることから」とあるが、2015年4月以降でみれば、どこにそのようなモメンタムが存在しているというのであろうか。

 「息長く経済の好循環を支えて、「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策方針を継続すべきである。」

 息長く経済の好循環はブレーキが掛かった可能性がある。そして、日本での物価安定の目標の2%に何の意味があるというのか。現在の金融政策方針を継続すべきというが、現在の金融政策が非常時対応のものであり、それをさらに重装備したような格好となってしまっており、それを継続して何が得られるというのであろうか。むろんその重装備を外すような構えをみせるとマーケットが動意を示してしまうというリスクは存在する。

 「不確実性の高い経済・物価動向のもと、政策の効果と副作用のバランスを慎重に点検しつつ、不均衡を蓄積させない程度にプラスの需給ギャップを維持することで、緩やかな景気拡大を持続させることが重要である。」

 プラスの需給ギャップが金融政策で本当に生み出せるのかという疑問はあるが、この意見には総じて賛成である。

 「経済・物価の下方リスクが顕在化するならば、政策対応の準備をしておくべきである。現状、物価上昇率の目標値への到達が遠ざかっているのであるから、何か大きな危機が起きるまでは行動しない、という態度は望ましくない。むしろ、状況の変化に対しては、追加緩和を含めて迅速、柔軟かつ断固たる対応を取る姿勢が望ましい。」

 そもそも日銀の緩和余地を狭める無理矢理な政策を迫った人達が、身動きできなくなりつつある日銀に対して、もっと緩和しろというのは不自然極まりない。なぜ柔軟性を残せなかったのか。「追加緩和」がいかに難しい状況となってしまっているのか。まあ、それも理解はしてくれないのかもしれない。

 ちなみに追加緩和は確かに理論上は可能である。マイナス金利を深掘りしたり、長期金利のコントロール目標値をマイナスにしたりは、理屈上は可能である。また、政策目標を量に戻して、国債の買入を増加させたり、ETFの買入を増加させたりすることも数字の上からはできる。しかし、それで物価を上げられる保証はないというか、上げられまい。せいぜい株価の下落にブレーキを掛ける程度にしかならないであろうし、市場はさらにおかわりを要求しよう。このような連鎖が続くと、国内金融機関には大きな打撃となりうるし、日本発の金融危機が発生しかねないことも確かではなかろうか。


by nihonkokusai | 2019-02-02 11:21 | 日銀

日銀は物価の見通しを下方修正

 16日にロイターは、「複数の関係筋によると、日銀は22、23日に開く金融政策決定会合で、原油価格の下落などを踏まえて2019、20年度の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)見通しの下方修正を議論する」と伝えた。ブルームバーグや産経新聞も同様の記事を報じていた。

 1月23日の決定会合後に日銀は、経済・物価情勢の展望、いわゆる「展望リポート」を公表した。昨年10月の前回の同リポートでは、コアCPIの前年比上昇率(政策委員の大勢見通し)の消費税率引き上げの影響を除くケースで2019年度が1.4%、2020年度が1.5%となっていた。

 念のため、直近のコアCPIについて確認してみると、2018年度は4月が前年比0.7%、5月が同0.7%、6月が同0.8%、7月が同0.8%、8月が同0.9%、9月が同1.0%、10月が同1.0%、11月が同0.9%、12月が同0.7%となっていた。

 ここにきてのトレンドも前年比の上昇幅が減少傾向となっている。その要因としては、日銀の買い入れる資産の量が減っているから、ではなく原油価格の下落がある。前回リポート時にWTI先物は1バレル70ドル程度だったが、足元で50ドル台となっている。消費者物価指数は日銀の資産買入の量とかではなく、マイナス金利でもなく、原油価格の動向や為替の動向に影響を受けやすい。

 日銀内では、2019年度の物価見通しについて1.4%を下回る、1%前半への下振れの可能性を指摘する見方が出ていた(ロイター)。

 現実を見据えるのであれば、せいぜい1%あたりではないかとも思われる。2%という物価目標に固執するあまり、どうしても上振れの数字が出やすいような気がする。

 2020年度についても、原油を含めて2019年度の一時的な下押し要因が剥落するものの、米中貿易摩擦などを背景に世界経済は、緩やかな減速が見込まれることで、若干の下方修正の必要性が議論されるもようだ(ロイター)。

 2019年度に実施される予定の幼児教育の無償化に伴って、内閣府によると同年度の消費者物価を0.3ポイント押し下げるという試算結果が出ているそうだが、政府が物価上昇の足を引っ張る格好となっているようである。

 実際に23日に発表された展望レポートでは、2019年度の「消費税率引き上げ・教育無償化政策の影響を除くケース」で、プラス0.9%と10月のプラス1.4%から予想以上に大きく下方修正。現実を見据えた修正となっていた。ただし、2020年度については同ケースとして、プラス1.4%として10月のプラス1.5%から小幅な下方修正に止まっていた。

 そもそも論として物価目標2%に無理があったことを日銀としては認めることも必要ではなかろうか。物価を2%まで金融政策だけによって引き上げるという考え方に間違いがあったことを素直に認め、現実に即した目標に修正し、景気や物価動向、さらには金融市場動向に応じた柔軟な政策となるよう修正すべきだと思われる。


by nihonkokusai | 2019-01-23 09:49 | 日銀
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「債券ディーリングルーム」ブログ版


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