「白川日銀総裁講演より」
日本がバブル崩壊以降、本格的な回復軌道に乗るのに時間を要した理由として3つの点を白川総裁はあげている。ひとつが、多額の不良債権がマクロ経済に及ぼす影響の深刻さについて認識が遅れたこと。「金融システムと実体経済の間の負の相乗作用」がいかに強力であるかについての認識が遅れたことを指摘している。
総裁の指摘どおり、2007年のサブプライムローン問題が如何に金融システムに影響を及ぼし、金融システムへの影響が実態経済に及ぼす影響への認識が遅れた今回の金融危機にも同様のことが言えそうである。 た。
次に、会計やディスクロージャーが不備であったことを白川総裁は指摘している。将来の損失の発生可能性を会計上どのように認識するかは、現在のテーマでもあるが、当時はそうした問題以前に、既に発生した金融機関の損失を会計やディスクロージャー面で明らかにすること自体も遅れていた。この結果、金融機関に対し不良債権問題の早期処理を促すメカニズムは不十分にしか働かなかった点を指摘している。
これについては今回の金融危機は過去の経験が生きているが、あまりの損失拡大のピッチについて行けず、危機感が一気に広まったという副作用もあったように思われる。
もう一点として、大規模な金融機関の経営悪化や破綻までを想定した対応の枠組み作りがなかなか進まず、当局として、経営が悪化した金融機関の処理のタイミングが遅れる面があった点を総裁は指摘している。
これは現在の米国の金融当局がまさに悩んでいるところではなかろうか。国有化問題については日本でも長銀の国有化問題など、経営が悪化した金融機関の処理のタイミングが遅れた経験があり、米国は対応のスピードの速さを誇っているような面もあるが、実際にはなかなか対応が進んでいないというのも事実ではなかろうか。