「日銀と短期金融市場」
日銀は2月から約半年間のプロジェクトとして「短期金融市場の機能向上への取組み」を進めてきました。2007年7月24日に短期金融市場フォーラム・フォローアップ会合が開催され、福井総裁は次のような挨拶を行なっています。
「今日、短期金融市場は内外の金融機関が活動する場として、国際的な広がりを増しています。金融取引のグローバル化に伴って、より高いスタンダードが求められるようになっています。短期金融市場では、この半年の間にも多くの進展がみられ始めています。レポ指標レートや有担保コールの担保取扱いの見直し、コール市場のデータ整備等はいずれも市場参加者による短期精力的な検討の結果実現されたものです。」
「個社レベルの取組みとしても、新たな取引への参入やレート呈示の充実、取引の電子化・効率化に向けたシステム対応など、新しい動きが広がっています。短期金融市場は、わが国の中核的市場です。これが新たな時代の要請を満たす市場として発展を遂げていくことは、内外の多くの市場参加者に効率的な取引の場を提供するという点で、金融センターとしての東京市場の基盤を強化するものです」(短期金融市場フォーラム・フォローアップ会合における福井総裁挨拶要旨より)。
「短期金融市場の機能向上への取組み」において実現されたポイント(日銀「短期金融市場の機能向上への取組み」最終報告書より抜粋)
(1)市場に関する情報の充実
市場データの整備
市場参加者の資金需給見通しに役立つ情報の充実を図り、短期金利の円滑な形成に資する観点から、「準備預金残高見込みの前倒し公表」、「日銀当座預金の業態別残高の公表」を実施した(4月16日、6月18日)。また、ターム物市場の取引規模に関する情報の充実を図り、同市場の流動性向上に役立てていくため、短資会社の協力を得て「期間別の無担保コール市場残高の公表」を実施(6月7日)。
新たなレポ指標レートの作成・公表
市場参加者とともに「レポ指標レートに関する検討ワーキング・グループ」を設置し、指標レートの有用性や設計について議論した。その結果、日本銀行は、新たなレポ指標レート(東京レポ・レート)を作成・公表することとした(6月12日)。
OIS 市場調査の実施
OIS市場に関しては、多くの銀行、証券会社等が関心を示しているが、取引本格化から僅か1 年強ということもあり、市場の実情を把握できるデータ等に乏しい。日本銀行は、市場参加者の理解や取引方針の検討に役立てていくため、既にOIS取引を行っている先の協力を得て、市場規模、参加者構造等に関する調査を実施。
(2)その他の具体策
有担保コールの担保掛け目の効率化
担保の掛け目の見直し等によって担保効率を高めることは、有担保コール市場の参加者増加、活性化の観点から有益と考えられる。有担保コールの担保掛け目は、市場参加者による議論を受けて、2007年3月に担保効率を高める方向で見直された。
国債担保の差入れ・払出し事務の外部委託可能化
レポ市場等の取引実務の効率化に向けて、市場参加者の間では、国債受渡し事務の外部委託が重要な選択肢の1つと位置付けられている。これを踏まえ、日本銀行は、取引先が日本銀行に対する国債担保の差入れ・払出し事務を外部委託することを可能とするため、日銀ネットのメンテナンスに着手し、7 月13日に骨子と実現時期の目途を公表。
金融政策決定会合の日程公表の拡充
日本銀行は、市場参加者からの意見も踏まえ、金融政策運営にかかる透明性を一層向上させる観点から、従来、「年4回、先行き6か月分」公表していた金融政策決定会合の日程を、本年6月から「年2回、先行き1年分」公表することとした。この結果、常に、少なくとも半年先までの会合の日程が明らかになる。
残された課題と日本銀行の今後の対応
残された課題を大別すると、1つは市場に関する情報の充実である。基本的な市場プロフィールや取引レートに関する情報充実への期待は強く、引き続き検討を進めていく余地がある。もう1つは、有担保の資金取引市場であり、取引実務の効率化が大きな課題として残されている。有担保コール市場の掛け目の効率化や日本銀行に対する国債担保の差入れ・払出し事務の外部委託を可能とするための日銀ネットメンテナンスなど、動き出した具体策もあるが、効率化の余地はなお大きい。
こうした点を踏まえ、日本銀行は、以下の対応を講じていく。
「取組み」で約束した施策の実現
東京レポ・レートについて、2007年度下期入り後の公表開始に向けて準備を進める。開始後は、レファレンス先との協力の下、本レートの適切な運営に万全を期し、信頼性を確保していく。
日本銀行に対する国債担保の差入れ・払出し事務の外部委託を可能とするための日銀ネットのメンテナンスについても、2008 年度中を目途(早ければ2008 年12月頃)に実現する方向で準備を進める。さらに具体的な実現方式等についても、関係金融機関等に対して可能な範囲でなるべく前広に開示していく。有担保コール市場の担保取扱いの効率化に向けた市場参加者の取組みにも引き続き協力していく。
「東京短期金融市場サーベイ」の実施
市場に関する情報充実に対するニーズを踏まえるとともに、今回の「取組み」で明らかになった諸課題への対応状況、市場機能面での新たな動きをフォローアップする観点から、短期金融市場に関する包括的な調査(「東京短期金融市場サーベイ」)を、来年度中を目途に実施する方向で検討する。
市場参加者との意見交換の継続市場参加者とともに、市場に関する情報充実、有担保資金市場の効率化などについて、実務的な視点から意見交換を重ねていく。具体的な検討テーマがあれば「レポ指標レートに関する検討ワーキング・グループ」のような市場参加者との実務者会合も随時開催する。