シリアへのミサイル攻撃に対し金融市場は冷静に受け止める
米国のトランプ大統領は東部時間13日午後9時(日本時間14日午前10時)にホワイトハウスでテレビ演説を行い、シリア・アサド政権の「化学兵器施設」に対する局所攻撃を命じたと発表した。首都ダマスカス郊外東グータ・ドゥーマに対してシリア政府軍が化学兵器を使用したと疑われている攻撃に対応するもので、英仏軍との合同作戦が「すでに始まっている」と述べた(BBC)。
国防総省によると、発射されたミサイルは105発(米85発、英仏20発)。地中海東部などに展開する米艦船や原子力潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」を発射。B1戦略爆撃機からも空中発射ミサイルで攻撃した。英仏の戦闘機や艦船もミサイル攻撃に加わった(朝日新聞)。
アサド政権軍が40発以上の地対空ミサイルを発射したが、米側への影響はなく、ロシアの防空システムは稼働しなかったとされる。米政権は昨年4月にもアサド政権軍がシリア北西部で化学兵器を使用したとして、シリア中部の政権軍基地に巡航ミサイルを発射し、戦闘機約20機を破壊した(朝日新聞)。
これを受けてロシアは「国際法と国連憲章に違反する」と米英仏を非難する決議案を安保理に提出したが否決された。決議案に賛成した国はロシア、中国、ボリビアの3か国であったようである。
11日にトランプ大統領は、シリアに対しミサイルが飛んでいくぞ、とツイッターに書き込み、シリアに対するミサイル攻撃を強く示唆した。加えて、シリアのアサド政権を支援しているロシアを批判した。これを受けて11日米国市場は、リスク回避の動きを強め、米株は売られ、米国債は買われて利回りは低下した。
ところが、12日にトランプ大統領はシリアをいつ攻撃するかを言ったことは一度もないとツイートした。これを受けて12日の米国市場はリスク回避の巻き戻しといった動きとなり、米株は買い戻され、米債は売られ利回りは上昇した。
これらの動きを見る限り、米国によるシリアへのミサイル攻撃は準備されていたが、11日にトランプ大統領は軍の最高司令官として、攻撃のタイミングについて、本来言ってはいけない軍事機密を呟いてしまい、それを慌てて修正したのが、12日の発言とみられる。
11日から12日の金融市場の動きを見る限り、シリアへの米英仏による攻撃は中東の地政学的リスクを拡大させかねず、ロシアとの関係悪化により、緊張が高まることによってリスク回避の動きを強めさせかねにかった。
ところが週明け、ミサイル攻撃後に開かれた16日東京市場での動きを見る限り、市場はかなり冷静さを取り戻している。ドル円は107円半ばに上昇し、米株先物や日経平均もしっかり。噂で売って、現実で買うといった動きにも見えなくもないが、想定していたような混乱は起きておらず、ロシア側からの出方も慎重となっていたことを好感か。これをきっかけに戦局が拡大するといったこともなく、一回限りの攻撃との見方もあり、市場は冷静さを取り戻しつつあるのではないかと思われる。
これでシリアを巡る状勢が改善するとも思えないものの、トランプ大統領とすればやるべきことをやり、プーチン大統領も国連に訴えることでこちらも抗議すべきことはやったということであろうか。
シリア大統領府は空爆から一夜明けた14日午前に、大統領府に出勤するアサド大統領の様子だという映像をツイートしたそうである。このように比較的冷静に受け止められていることも市場を安堵させているようにも思える。いまのところ、シリアへの攻撃は金融市場を大きく揺るがすような要因とはなっていない。