原油下落の背景と今後の動き
WTIはザラ場ベースでみると、2009年12月19日に32.40ドルまで下落していた。2009年にかけて大きく下落した原油価格の動きは、2008年7月11日に147.27ドルという史上最高値を記録した反動と言えた。OPECの生産調整や、中国の経済成長を背景にした需要増等によって、2007年あたりから原油価格は大きく上昇を続けていた。欧米の中央銀行による資金供給も手伝い、原油先物には投機的な動きが発生していた。いわば原油先物でプチバブルが発生していたものの、それが現実を見据えて弾け、その結果がWTIの147ドル台から32ドル台への急落となった。
今回の原油下落の背景には、米国でのシェールオイル生産拡大で対米輸出が減っていることなどがあり、原油は世界的に供給過剰となっていたことがあった。12月4日に開かれた石油輸出国機構(OPEC)総会では、日量約3150万バレルの現行生産量を維持する意向を明らかにした。このため供給過剰の状態が当面続くという見方が広がり、売り圧力が強まった。サウジアラビアなどは市場占有率の確保を優先し、高い生産量が維持されている。イランが核開発問題の最終合意を受けて生産量の拡大を目指しており、こちらも供給過剰要因ともなりうる。先物にはこのヘッジ売りに加え、投機的な売り圧力も加わっているとみられる。
米国ではFRBが利上げに向けた準備を進めているが、雇用は改善していても景気そのものは緩やかな回復基調となっている。ECBは4日の理事会で追加緩和を決定したぐらいに景気への懸念も強い。日本では8日に発表された7~9月期の実質GDP改定値は速報のマイナスからプラスに上方修正されたが、年率換算では1.0%増と低迷している。さらに中国の景気減速が顕著になっており、これによる原油需要の後退も大きく影響している。原油価格の下落そのものが資源国経済に対して打撃要因となる。資源国通貨は対ドルで軒並み下落しており、ノルウェークローネは2002年4月以来の安値をつけ、カナダドルも2004年6月以来の水準となった。
原油価格の下落は物価の上昇抑制要因ともなり、世界的なディスインフレ傾向を強める可能性がある。日銀は原油価格の下落による影響を排除して、生鮮食品とエネルギーを除くベースでみた消費者物価指数も示しているが、エネルギーを除いても原油価格下落による間接的な影響は無視できない。そもそも日銀の物価目標は総合指数であり、原油価格のさらなる下落は物価目標達成を困難にしかねない。
原油価格の下落がどこまで、いつまで続くのかを予想することも難しいが、原油価格が上がりにくい状況となっていることは確かである。WTIのチャートからみると30ドルあたりまで下落してもおかしくはない。この基調が変化するためには、予想以上の景気回復などの環境変化が必要になってくるのではなかろうか。
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