基調的な物価上昇圧力とは何か
「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、昨年(2013年)12月から4か月連続で+1.3%となった後、4月は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて+1.5%と、プラス幅を幾分拡大しました。その中身をみると、エネルギー関連の押し上げ幅が頭打ちとなる一方で、緩やかな景気回復が続くもとで、幅広い品目で改善の動きがみられています。先行きについては、需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力が強まっていく一方、エネルギーを中心とした輸入物価の押し上げ効果が減衰していくことから、暫くの間、1%台前半で推移すると予想しています。」
2014年4月以降の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はこのときの黒田総裁の発言通りに暫くの間、前年比を縮小させ1%台前半で推移することになる。しかし、その前年比の縮小は止まることなく2014年10月には前年比1.0%を割り込み、2015年2月に前年比ゼロ%まで縮小した。
これに対する黒田総裁の説明は「消費税率引き上げ後の需要面の弱めの動きや、昨年夏場以降、原油価格が大幅に下落したことを背景に、消費者物価の伸び率が鈍化しました」とある(2015年5月15日の講演より)。
昨年6月の説明をみると「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力が強まって」前年比プラス1.5%まで持ってきたが、その基調に変化はないはずだが、事前には想定していたはずの消費増税の影響と予想外の原油価格の下落によって物価の前年比が縮小したとしている。
「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力」が果たしていかほどのものがあったのかを数値化することは難しい。しかし、その部分を除いてこの間の物価の動きをみると説明は意外と楽である。2012年11月のアベノミクスの登場による急激な円安と原油価格の高止まりが、前年比での物価の回復予想されていたなか、物価の前年比を予想以上に押し上げた。そのタイミングをみると日銀が異次元緩和を決定した2013年4月が前年比マイナス0.4%から5月にゼロ%、6月にはプラス0.4%に回復している。
まるで異次元緩和に即効性があったような動きとなっていたが、当然ながら株式市場などとは異なり、大胆な金融緩和で物価の数値がいきなり跳ね上がることはありえない。このタイミングでの物価の回復は異次元緩和そのものによる効果と考えることには無理があろう。
ただし、多少のタイムラグ(そのラグの期間は不明)があって異次元緩和の効果が出て1年後の2014年4月にプラス1.5%にまで上昇したとしよう。その後、1年弱で前年比ゼロ%まで縮小したのが仮に原油価格下落と消費増税の影響だとしても、「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力」分までそぎ落としてしまったと言うことになるのであろうか。
そもそもそのようなものは存在せずプラス1.5%までの上昇要因が、原油価格の下落でそげ落ちたと見る方が自然ではなかろうか。ここから物価の前年比がプラス幅を拡大したとしても、それは「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力」というより、原油価格の下げ止まりによる影響が現れたとみて良いのではなかろうか。
「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力」というものを完全に否定するわけではない。現在の日銀の政策スタンスはこれが基になっていることを考えれば、日銀としてもこの部分を考慮しないわけにはいかないであろう。しかし、現実の物価動向の説明は「需給ギャップの改善など基調的な物価上昇圧力」なるものを除いて説明したほうがすっきりはしまいか。

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