黒田日銀総裁の言うQEジアンの効果とは何か
「ECBが資産買入れ策を導入した結果、現在、FRBやイングランド銀行(BOE)を含め、世界の主要中央銀行の多くが量的緩和(QE)を採用しています。私の尊敬する友人である伊藤隆敏教授の言葉を借りれば、We are all QE-sians now と言えるでしょう」
正確にはFRBは自らの国債やMBSの買入はQEとは言ってはいない。ECBは国債買入をQEと称したが、ベースマネーの増加を意識した政策ではなく国債を買うことに意義があるような政策であった。ただし、スウェーデンのリクスバンクも含めて皆、QEジアン化していることは確かなようである。
その原因は「2008年のグローバル金融危機(global financial crisis)」にあるとしている。日本ではリーマン・ショックと呼ぶことが多いが、あくまでリーマンの破綻は危機のひとつの象徴にすぎない。サブプライムローン問題に端を発した大手金融機関の経営危機が、金融不安を招き、失業率の上昇などの世界的な景気悪化を招いた現象である。
当初、欧米の中央銀行は伝統的な政策手段である短期金利の引き下げによって対応したものの、政策金利が実質ゼロとなってしまったことで、非伝統的な金融政策が次々と打ち出され、その最終形が大量の国債買入となったことで、みなQEジアンと化してしまったのである。このQE化現象について黒田総裁はその目的を次のようにコメントしている。
「量的緩和は、中央銀行が国債などの債券を多額に買い入れることによって、なお引き下げ余地のある長期金利を低下させることで、景気を刺激することを主たる目的とするものです」
長期金利の低下を促す策であったことで、日米欧の長期金利は確かに過去の歴史にもないところまで低下が進むことになった。ただし、日銀の量的・質的緩和には別の目的があったとしている。
「量的・質的金融緩和の場合、長年続いたデフレのもとで定着してしまったデフレマインドを抜本的に転換するというもう一つの要素が加わっています」
日本がデフレに陥った原因として黒田総裁は、資産バブル崩壊後の企業や金融機関のバランスシート調整、新興国からの安値輸入品の流入、過度な円高の進行などを指摘している。デフレに陥った原因はこのように明らかであるのに、それに対処するのが、何故、大量の国債買入になるのかがわからない。デフレマインドの定着が原因として、そのマインドを変化させることで、デフレの対処となるのであろうか。原因がはっきりしていることに対しての対処がマインドを変化させるというのは説得性に乏しくはないであろうか。
総裁はインフレマインドの好転の事例とて、消費者物価が2013年6月から20か月連続で前年比上昇を続けていることや、名目賃金の上昇を指摘している。しかし、消費者物価が2013年6月から20か月連続で前年比で上昇を続けていることについては、円安や原油価格の上昇でかなりの部分が説明できる。賃上げも円安や株高による効果があったかもしれないが、政府による圧力がその要因となっており、ある意味人為的なものであった。これを日銀のQEによるインフレマインドの変化によるものと結論づけることには無理があるまいか。
QEジアンはそれが何を今後もたらすのか。すでに物価目標からは遠ざかり、日銀は後戻りできない状況に追い込まれつつある。消費者物価はまもなく前年比マイナスとなる可能性が強まっている。そうなるとマインド変化はいったいどこに消えてしまったのかということになるのではなかろうか。
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