日銀は物価目標を変更すべきなのか
議事要旨のなかでも注目すべきは金融政策を決定する政策委員の発言内容となる。金融経済情勢に関する委員による検討のところをみてみると、
「原油価格の大幅下落やギリシャ政局の不透明感の高まりに加え、スイス中銀による為替目標の廃止などもあって、神経質な動きがみられているとの認識を共有した。何人かの委員は、米国での利上げ時期が近づいてくる中で、それが国際的な資金フローに与える影響について注意する必要があると述べた」とある。
原油価格の大幅下落については、世界経済全体でみれば先進国を中心にプラス面が大きいとの認識で一致したそうだが、そうなると昨年10月31日に慌てて追加緩和を実施した目的が問われるが、円安を見込んだ政策とみれば納得できなくもない。
スイス中銀による為替目標の廃止については、そのあとに具体的な発言はなかったものの、それなりに気になっているであろうことも確かである。
国内経済について、特に個人消費については雇用・所得環境が着実に改善するもとで、基調的に底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は全体として和らいでいるとの認識で一致した。このあたりの認識を見る限り、追加緩和に動くような様子は見られない。当然ながら、政策目標の変更も伴うことになる超過準備の付利の変更などは一切、議論はされていないようであった。
「物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、+0%台後半となっており、エネルギー価格の下落を反映して、当面プラス幅を縮小する可能性が高いとの見方で一致した」
「委員は、このところ原油価格が大幅に変動しており、消費者物価の見通しは、先行きの原油価格の想定によって大きく影響を受けることを踏まえると、今回の中間評価では、前提となる原油価格を委員間で揃えることが適当であるとの認識で一致した」
もしそうであるのなら、大胆に国債など買わず、原油価格に影響を与える何かで政策を行ったほうが物価目標達成を容易にするのではなかろうか。それ以前にリフレ政策の前提にマネタリーベースを思い切って増加させ、レジームチェンジが起きてインフレ期待が強まれば、簡単に物価は上がるものではなかったのか。
「エネルギー価格の寄与度の試算を公表することが有用であるとしたうえで、消費者物価指数(除く生鮮食品)前年比におけるエネルギー価格の寄与度は、2015年度で-0.7~-0.8%ポイント程度、2016 年度で+0.1~+0.2%程度になるとの認識を共有した」
大胆な国債買入とマネタリーベース増加による期待インフレと実際のCPIへ影響試算はどこにいったのであろうか。すべてを原油価格下落のせいにして、異次元緩和の効果がなかったことは完全に無視なのであろうか。
「もっとも、多くの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調的な動きに変化は生じておらず、着実に高まっていくとの見方を示した」
言葉で言うのはたやすいが、この根拠は何を持って示せるのか。岩田副総裁はBEIが使えないことはその数値の下振れもあり認めてしまっている。アンケート調査で人々のインフレ予想というのが見えるものなのか。もし自分が調査を受ける側として考えるとそこに何か意味が見いだせるとも思えない。
「多くの委員は、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提に立てば、2015年度を中心とする期間に達する可能性が高いとの見方を示した」
これがいわゆる希望的観測と呼ばれるものであろう。これについて3人の委員が反対の意見を述べている。一人の委員は、円安にもかかわらず消費者物価の前年比プラス幅が足もとゼロ%台前半にとどまっていることを踏まえると物価目標は難しいとの認識を示した。別の一人の委員も消費者物価は見通し期間中に2%に近づくにとどまるとの見方を示した。さらに別の一人の委員も先行きの物価は委員の中央値よりも低いとみており、2015年度を中心とする期間に2%に達するのは難しいとの見方を示した。 この3人とは昨年10月の追加緩和に反対票を投じた木内委員、佐藤委員と、森本委員か石田委員と予想される。この見方がむしろ素直だと思われる。さらに、現在の日銀のリフレ政策を先導したとされる浜田宏一内閣官房参与は日銀は2%の物価安定目標の早期達成にこだわる必要はないとの見解を示した。浜田参与は「原油安は外生要因であり、かつ日本経済に恩恵をもたらすと指摘。目標水準を1%近くに引き下げたり、達成期限を現行の2年程度から3年程度に延長しても日銀への信認が損なわれることはないとし、目標を再検討すべき」と語ったそうである(ロイター)。黒田総裁以前の日銀の金融政策に戻せとどうやらおっしゃっているようにも思われる。
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