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8千兆円の債務残高の試算での長期金利3.7%の意味

 財政制度等審議会の財政制度分科会は28日に、国と地方の債務の膨張に歯止めをかけるために必要な試算を公表した。試算は欧州委員会の手法を参考に、財制審の委員で中央大の富田俊基教授らが中心となってまとめた。内閣府の中長期試算にない2024年度以降に、実質2%・名目3%の経済成長率、3.7%の名目長期金利、1%の物価上昇率などが続くとの前提ではじき出したそうである。試算では国と地方の債務が2060年度にGDP比で397.3%(約4倍)まで膨らむとした(28日の日経新聞電子版より)。

 前提となる数字には異論もあるかもしれないが、あくまで試算なので、名目長期金利以外は足元の数値に近いものとなっている。ちなみにQUICK月次調査<債券>によると、消費税要因含む10年先のコアCPIの予想は1.5%近辺となっている。これを参考にすると名目成長率は3.5%あたりでも良いのかもしれない。

 名目長期金利の3.7%に対しては、現状の0.6%近辺から大きく乖離しており、ここに疑問を持つ人もいるのではなかろうか。上記の試算はあくまで仮置きの数値であり、その意味では1%台でも良いかもしれない。日銀は現在の国債買入のペースを長期間維持し、長期金利はこのまま低位安定し続けるという前提もないとは言えないし、マーケットはそれを前提にしているかのような動きとなっている。念のため、10年新発債の利回りは0.6%近辺におり、同20年債は1.5%近辺、30年債は1.7%近辺。40年債は1.8%近辺となっている。

 しかし、本来の長期金利は名目成長率と比較されることも多く、その意味では3%台での予想というのもあってもおかしくはない。3.7%と細かく刻んだ背景は、記事では記されていないが、何がしかの前提があってのものかと思われる。

 足元の成長率と物価の水準が、名目長期金利と乖離していることは、いずれどこかで、その調整が起きることを暗示させる。名目長期金利が正しく、足元の名目成長率が高すぎるとの見方もできようが、現状は日銀の大量の国債買入が長期金利を押さえ込んでいるとの見方が多い。しかし、現在は規制金利の時代ではない。日銀の大規模な国債買入で抑えられるものではない。それで安心している面はあるかもしれないが。ただし、国債市場の流動性は落ち込んでおり、そのため落ち着いた動きのように見える国債市場も何かしらのきっかけで大きく動く懸念がある。

 今回の試算の3.7%という水準についても、先々の話とはいえ、もし仮にその水準にまで上昇した場合、債券市場で何が起きているのかということまでは想定されていない可能性もある。むろん市場の動きなので、想定しようがないと言えばそれまでだが、このまま膨らみ続ける債務残高で長期金利が2%を大きく超える状況を市場参加者は誰も経験していない。長期金利は上がらないということを暗黙の前提で国債を購入していた投資家が、長期金利が上がりだしたらどのような行動を起こすのかは未知数である。

 今回の試算では2060年度に債務残高は8000兆円余になるという「京」にも迫る天文学的な数字が注目されていたようだが、そこにいたる過程においては長期金利の動向が最も注意すべきポイントとなる。日本の財政問題が表面化するとすれば、債務残高そのものよりも、ギリシャで起きたような制御できなくなるような長期金利の動向が警告を示すことになろう。長期金利が現状の0.6%あたりからいずれ3%も超えることになると、市場がパニック的な動きを起こすことも考えられる。債務残高が膨らめ膨らむほど、長期金利が1%上昇することによる影響は大きくなる。そうなってからでは財政健全化政策にも大きな影響を与え、この試算そのものの前提が揺るぎかねないのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2014-05-01 09:19 | 国債
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