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イングランド銀行の量的緩和策を振り返る

 日銀の国債買入の期間を巡る解釈について、あらためて黒田日銀総裁がオープンエンド型であることを強調していた。この中央銀行による国債の買入を主体とする量的緩和策については、イングランド銀行、ECB、FRB、そして日銀ではその仕様に違いも見える。少しこのあたり整理しておきたいと思ったので、まずはイングランド銀行の量的緩和策について、確認してみたいと思う。

 アメリカのサブプライム問題を発端とする金融危機は世界経済を直撃し、異例のスピードで景気が悪化した。アメリカの雇用は2008年全体の非農業雇用者数が258万人減となり、これは第二次世界大戦が終わった1945年に次ぐ水準となった。2008年は年間ベースで先進国が同時に不況に陥るが、これは第二次世界大戦後初めての事態となった。

 この事態を受けて、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、2009年3月5日の金融政策委員会(MPC)において政策金利を0.5%に引き下げるとともに、量的緩和策として英国債を買い入れる方針を発表した。イングランド銀行はすでに広義の量的緩和の枠組みとして、CP、社債、国債を買い入れる制度を導入していたが、この制度の原資として保有していた英国債を銀行に売却していた。しかし、実質的な量的緩和の導入により、国債売却による資金吸収の必要がなくなった。さらにイングランド銀行の国債買い入れに対し、政府と損失補償の契約を結んだ。量的緩和の内容は、2009年の3月から11月の間に総枠2000億ポンドの資産(対象は主に英国債)を購入するというもので、750億ポンド相当の社債や国債の直接買い取りを行うことになった。

 量的緩和政策の採用を公表した後、3月11日に国債を初購入し、その後国債の購入額を急拡大させた。3月25日には社債を初めて購入したが、買取りの基本は国債となっている。その後、3か月ごとに見直しがかけられ、同年5月7日に1250億ポンド、8月6日に1750億ポンド、11月5日に総枠の2000億ポンドとなった。

 ギリシャの債務問題が深刻化するとともに、欧州の債務危機がイタリアにも波及するのではとの懸念が出る中、世界的なリスク回避の動きが強まったことを受け、2011年10月にイングランド銀行は量的緩和第二弾ともいうべき、2012年11月までに量的緩和第一弾と合計で総枠3750億ポンドの資産を購入する資産購入プログラムを決定した。10月に上限枠を750億ポンド引き上げ2750億ポンドとし。2012年2月に2750億ポンドから3250億ポンド、7月に3750億ポンドに引き上げた。

 その枠はすでに使い切っており、このため追加緩和策としてキング前総裁などはその枠の拡大を提案していた。しかし、イングランド銀行総裁がカーニー氏に変わり初の会合となった7月4日のMPCでは「全員一致」で政策の現状維持を決めた。2013年に入ってからのMPCでは、キング前総裁が量的緩和の枠拡大を提案するものの、多数派の委員がそれを退けるという状況が続いていたが、この際にはマイルズ委員とフィッシャー委員も前月まで続けた購入枠拡大の主張を取り下げた。

 8月7日のイングランド銀行のインフレレポート公表の際に初めての記者会見に臨んだカーニー総裁は、高止まりしている失業率が7%になるまでは、過去最低の水準である年0.5%の政策金利を維持する方針を示した。イングランド銀行は失業率の見通しについて2016年の後半まで7%を上回ると予想していることから、この予想通りとなれば今回の方針は3年後まで現在の低金利政策を維持することを示唆した格好となる。つまりこれがフォワード・ガイダンス(時間軸政策)の具体的な数値目標となった。

 このようにイングランド銀行は軸足を非伝統的な金融政策である量的緩和策から、時間軸政策を意識した伝統的な金融政策に戻してきている。ただし、量的緩和策により決められた総枠3750億ポンドの購入枠は維持されており、その意味では量的緩和政策は継続中ということになる。こちらについてはその枠の縮小といった動きはいまのところない。

 ただし、11月13日にイングランド銀行は、失業率が同中銀が利上げを検討する上で目安とする7%の水準まで低下するとみる時期を、従来の予測から前倒ししている。出口に向けてイングランド銀行が今後どのような政策を打ち出すのか。大量に購入した国債を今後どうするのかも興味深いところである。

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by nihonkokusai | 2013-12-05 09:34 | 中央銀行
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