物価の上昇とデフレからの脱却
7月1日に発表された日銀短観では、景況感の改善や設備投資計画の上振れも確認できたことで、7月11日の金融政策決定会合で日銀は足下の景況感に対し、「わが国の景気は、緩やかに回復しつつある」として7か月連続での上方修正となり、2011年1月以来2年半ぶりに回復との文字が入った。
物価については公表文では、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとではゼロ%となっている。予想物価上昇率については、上昇を示唆する指標がみられる。」としており、やっとプラスが見えてきたような状況にある。
日銀が7月10日に発表した6月の国内企業物価指数は前年比で1.2%、前月比で0.1%の上昇となった。電力料金値上げなどにより2011年11月の1.3%上昇以来の高い上昇率となった。日銀はこの上昇の背景について、原料・燃料高や円安、新製品投入による価格切り替え、減量による実質値上げなどをあげている。
消費者物価指数についても、いずれ前年比プラス0.5%あたりまでの上昇が予想されている。これにも電気料金の値上げ分が相当に含まれている。政府では本当の意味でのデフレ脱却の判断としては「中身の精査とともに、生鮮食品だけでなく変動の大きいエネルギー関連製品や、公共料金なども除いて、デフレ脱却を判断していく方針」とも伝えられており、通常のコアCPIではなく、値上げの影響が大きい電気料金を除くコアコアCPIを使って判断するとの観測もあるようである。そうなると日銀の目標となっているCPI2%がさらに遠のくことにもなりかねない。以前からこのような話はあったが、現政権としてはデフレ脱却を全面に打ち出してしまっている以上、目標値をコアCPIから変更することは考えづらい。
円安効果もあり、物価が上昇しつつあることは確かではあるが、コアCPIの押し上げは意外なものの要因もある。それはデフレの象徴だった薄型テレビに価格反転の兆しが出てきたことである。これは需要が高まったためではなく、販売量から収益重視にかじを切ったメーカーの戦略転換によるところが大きいとされる(ロイター)。薄型テレビの価格は今年4月からは明確な上昇トレンドに入っている。これはCPIの押し上げ要因となるが、価格が下げ止まった要因の1つは、メーカーが安売りをやめたこと、画面の大型化が進んだことも、価格上昇につながっているとされる。薄型テレビ全体の需要は増えていない。これは決してアベノミクスによる景気浮揚効果によるものではなく、売れないテレビで利益を挙げるためのメーカー側の戦略転換によるものである。
このように物価は上昇しているが、それが異次元緩和による影響があったとは言いがたい。いまのところCPIが1%あたりまで上昇するような展望が開けているわけではない。日銀は展望レポートで2014年度のコアCPI見通しを+1.3%としているが、予想というよりも目標に近い。あらためてコアCPIが1%なり、2%なりに上昇するとはどういうことなのか。それでデフレから脱却できれば、我々の生活は本当に豊かになるのか。このあたり、政府や日銀にあらためて説明してほしい気がする。
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