黒田日銀総裁はオズの魔法使いか
「魔法使いのふりをして」
これは現在公開されているディズニー映画、「オズ はじまりの戦い」の中に出てくる台詞である。私はまだこの映画は見ておらず、予告編の中から拾ったものであるが、この台詞の意味するところは、多くの方はご存じかと思う。
「オズ はじまりの戦い」は、ライマン・フランク・ボームの名作児童文学「オズの魔法使い」(1900年5月に出版)に登場する魔法使いのオズがいかにして誕生したのかを描いたものである。そのオズはどのような人物であったのか。
その前に「オズの魔法使い」がどういう物語であったのか、簡単にあらすじを追ってみたい。
アメリカ・カンザス州に暮らす少女ドロシーは竜巻に家ごと巻き込まれ、飼い犬のトトと共に不思議な「オズの国」へと飛ばされてしまう。途中で脳の無いカカシ・心の無いブリキの木こり・臆病なライオンと出会い、それぞれの願いを叶えてもらうため「エメラルドの都」にいるという「魔法使いのオズ」に会いに行くというストーリーである。
1939年に製作された映画「オズの魔法使い」では、ジュディ・ガーランドが主人公となり、白黒の画面がオズの世界に入るとカラーとなる演出が当時の話題となった。この映画を知らなくても主題歌となった「虹の彼方に(over the rainbow)」は誰もが知っている名曲である。
この「オズの魔法使い」には政治的な解釈ができるとの説があるのをご存じか。それは当時の米国の金融政策をめぐる議論、特にデフレからの脱却が大きなテーマになっていたとの解釈である。
アメリカでは南北戦争時の不換紙幣発行増によるインフレなどから兌換制度への要望が強まり、1873年の「貨幣法」によって金本位制をアメリカの通貨制度として定め、1879年に施行された。この金本位制への移行が、その後の不況やデフレの要因とされ、金銀複本位制を求める運動が広まった。
1896年の米大統領選挙はデフレ対策が大きな争点となった。金本位制を維持するか(アンチリフレ派)、金銀複本位制とするのか(リフレ派)が争点となっていたのである。金銀複本位制は通貨の価値を落としかねないとして、金本位制を主張していたマッキンリーが勝利した。
「オズの魔法使い」を書いたジャーナリストでもあった原作者のライマン・フランク・ボームは、農民達が苦しんでいるのをみてリフレ政策に賛同していたとの説がある。農民をイメージしていたかかし、工場労働者をイメージしたブリキのきこり、さらに金銀本位制を主張していた大統領候補を臆病なライオンにたとえて、金の重さを表す「トロイオンス(oz)」つまり、「オズ」の魔法使いにそれぞれの願いをかなえてもらいに会いに行くという解釈である。
実際には原作者にこのような意図があったのかどうかは定かではなく、純粋な文学作品として書かれた可能性もあるが、どうやらこのオズの物語が現代の日本に蘇ったかのようである。
ドロシー達が頼ったオズは本当は魔法使いなどではなかった。それが「オズ はじまりの戦い」の中でも描かれている。そんなオズがどうして大魔法使いと認識されたのか。まさにここにはオズの世界にいる人達による「期待」に働きかけられていた面が大きい。そんなオズと、期待先行の新体制の日銀がオーバーラップしてしまう。原作でもそんなオズに頼ろうとしたというのは、当時はまだ米国にはなかった中央銀行という存在を原作者はイメージしていたのであろうか。
黒田日銀総裁は果たしてデフレ脱却を可能にする本当の魔法を持っているのであろうか。それともその魔法が使えると信じさせることで、魔法のような効果を生み出せるのであろうか。4月3日、4日にその魔法の一端が見えてくる。
いよいよ4月3日、4日の黒田総裁にとり最初の日銀金融政策決定会合も控え、その前に是非、拙著「アベノミクスを理解するための日銀入門」で、さらっと現在の日銀の姿を確認してみてください。
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