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日本国債のデフォルトはあり得ないのか

 日本国債に関しては危機的状況だという見方と、まったく問題はなく日本国債のデフォルトはあり得ないという極端な見方に分かれている。今回は後者の「日本国債のデフォルトはあり得ない」という表現に隠されたリスクについて考えてみたい。

 「日本国債のデフォルトはあり得ない」との根拠について、「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。」との財務省が外国格付け会社に宛てた意見書(2002年5月)の一文が引き合いに出されることがある。

 財務省のムーディーズ宛の意見書には「近年自国通貨建て国債がデフォルトした新興市場国とは異なり」とあるように、自国通貨建ての国債でも過去にデフォルトしたケースはありうる。ただし、「国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい。」ともあるように、日本のような先進国がデフォルトを引き起こす懸念については、極めて低いことが指摘されている。さらに「通常の財政健全化策を疑問視する一方、金融市場を大混乱に陥れるような手段が採られると想定するのは非現実的。」とある。

 ここで財務省のこの意見に異議申し立てをするつもりはないが、最後の「非現実的」との表現は、絶対にないと表現したものではないように思われる。例えば、今年度の特例公債法案の成立が遅れ10月以降の資金繰りが困難となった場合には、国債の利払い等が滞る可能性がありうる。このように国債の利払いがなされないこともデフォルトとみなされる。もちろんそんなことにはならないと思うが、現在の政局状況を見る限り、そのリスクはゼロ%ではなかろう。

 金融市場を大混乱に陥れるような手段が採られる懸念は低いと思うが、ブラックスワンの存在のように皆無ではないはずである。現在でも日銀による国債引受を主張している国会議員が存在する。日銀が財政ファイナンスを行っているとの認識が強まるだけで、日本国債に対して、海外からだけでなく国内投資家からもその信用を失う懸念がある。もちろんこの可能性もいまのところ極めて低いことも確かであるが、政局次第で状況も変わりうる。

 「日本国債のデフォルトはあり得ない」という点については、自国内で借金の貸し借りが成立している限りは、政府が自国民から借金をしているだけなので、国家全体が負担を背負うことにはならない、という見方がある。つまり、家庭内でお金の貸し借りをしているだけなので、さほど深刻な状況ではない、という考え方である。

 政府の借金は膨大でも、その9割程度を国民が背負っているので国全体としての借金ではないから、問題はないとの考え方である。ここにはいくつか問題点がある。まず「自国内で借金の貸し借りが成立している限りは」と条件をつけて、「日本国債のデフォルトはあり得ない」としている点にある。このまま無限に国内資金で日本国債が賄えるわけではない。いずれこれにも限界は来よう。しかし、巨額の新規国債の発行は現時点の予測でも2020年以降も続く予想となっている。自国内で日本国債が消化がむずかしくなった際にはどのように考えるのかが、これには示されていない。

 「家庭内でお金の貸し借りをしているだけなので、さほど深刻な状況ではない」と本当に言い切れるのかも疑問である。何かしらの要因で日本国債への懸念が強まり、日本国債が売り込まれる可能性は皆無では無い。期間リスクが意識され長期や超長期債を売り、その資金が短期市場に向かうだけでも、長期金利は跳ね上がる懸念は存在する。特に日本では長期間にわたり超低金利が継続し、その間に政府債務が積み上がっているだけに、ちょっとした長期金利の上昇でも、その影響が大きくなる。

 また、「家庭内でお金の貸し借りをしているだけなので、さほど深刻な状況ではない」という表現については、もしもの時には政府が借金棒引きをして、国民に負担させるだけなので問題はないとの表現にも置き換えられそうである。さすがにこれをしてしまうと国民生活に深刻な事態を引き起こすことは言うまでもない。先進国ではその可能性は確かに薄いと思われる。

 ただし、太平洋戦争の際の日本の国家財政においても、自国内で借金をしていた。ここには日銀も絡んでいた。戦時中と現在の状況の直接比較は問題もあろう。確かに家庭内でお金の貸し借りをしているだけなので日本国債の「デフォルト」そのものの可能性は低いのかもしれないが、それでも結果として国民にその分の負担を強いて深刻な事態が発生する懸念は将来に向けて存在することも確かではなかろうか。

 日本国債はそう簡単にデフォルトするものではないことは確かであるし、そのような懸念も起こしてはいけないものである。国内でそのほとんどを消化できていることも大きな利点であることは間違いない。日本国債には引き続き買い手も存在しているし、海外からの投資も継続している。需給面では当面問題はない。しかし、だからといって全く安心であり、今後も巨額の国債を発行し続けても何ら問題はないと決めつけてしまうことにはリスクもある。だからこそ財政健全化に向けた動きは今後も必要になってくるはずなのである。


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by nihonkokusai | 2012-09-05 09:26 | 国債
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