債券先物の障害発生と債券相場下落の関係
債券先物の取引がこのようにシステム障害などで一時停止すると何が起きるのが。債券先物は、国債を中心とした債券取引の大きなヘッジツールであるとともに、債券相場のベンチマークのような存在である。また、現物債などに比べてヘッジファンドなどの海外投資家の売買が盛んであるという特色を持っている。
ヘッジツールという意味では、8日には40年国債の入札があったが、7年国債の価格に連動する長期国債先物を40年債入札でのヘッジに使うことはあまり考えられず、入札への影響は軽微であったと考えられる。しかし、これが5年国債や10年国債の入札であれば、債券先物をヘッジツールとして使うことが考えられるため、状況次第では国債入札そのものが延期されるような事態になった可能性もあった。
債券相場のベンチマークという意味では、相場の居所が掴みづらくなることが考えられる。このため前回、大規模なシステム障害が起きた2008年7月22日には、現物取引も閑散となり、日本相互証券での現物取引もほとんど出合いがない状況に陥った。しかし、今回は長期債主体に現物売りが入り、7日の午前中の日本相互証券では、10年債利回りは前日比+0.030%の0.765%、30年債も+0.0030%の1.810%が売られていた。
これは債券先物を買い建てていた投資家が、ヘッジとして長期債を売却した可能性とともに、政局の行方が影響していた可能性がある。自民党が衆院への内閣不信任決議案や、参院への首相問責決議案を提出する構えを見せたためで、もし消費増税が先送りされるようなことになると財政への懸念が強まり、国債への売り圧力が強まるとの連想である。
たしかにこれが相場に大きく影響していたことは確かであり、その後さらに債券相場は売り圧力を強め、8日に10年債利回りは0.8%台に乗せてきた。債券先物も144円を大きく割り込んだ。これには海外での米債安や欧米の株高、さらには円高の動きが落ち着いてきたことなども背景としてはあろう。ただし、今回の債券の売りにはシステム障害がひとつのきっかけとなっただけでなく、海外投資家などからの売りを誘う大きな要因となった可能性がある。
それは、今回と同様のシステム障害が債券先物で発生した2008年7月22日にも起きていたのである。当日の様子を私の当時のコラム「若き知」から見てみたい。
「債券先物は後場に入り次第に上値が重くなり、あっさりと136円も割り込んだ。14時半近くには、ややまとまった売りが債券先物に入り、この時間に先週末比88銭安の135円68銭に下落した。同じ時間帯に、日経平均先物もやはり出来高を伴っての買いが入り、13180円に上昇。その後引けにかけて、再び日経平均が先物主導で上昇してきたこともあり、債券先物は一時先週末比91銭安の135円65銭をつけ、大引けは86銭安の135円70 銭となった。」
このとき何が起きていたのか。これについては下記のようなコメントをしていた。
「どうやら、債券先物買い、日経平均先物売りのポジションを組んでいた投資家がそのポジションを外してきた可能性がありそうである。これは債券先物のシステム障害が嫌気されて、債券先物に絡んだポジションを外してきた可能性も否定できない。」
今回、8月7日と8日の日経平均先物は確かに上昇しており、債券先物は7日の後場に入り売り圧力を強めている。消費増税の先行きが不透明となり、これによる投資家からの売りが入った可能性はある。ただし、これまで消費増税の先送りの懸念など何度もあったはずで、今更このように反応することもやや違和感がある。もちろん2010年8月の小沢ショックと呼ばれた債券相場の下落が意識された可能性はないとは言えないが。
しかし、今回も東証のシステム障害を嫌気した海外投資家などが、債券先物買い・日経平均先物売りのポジションを解く、もしくは日本の債券先物ポジションを縮小させたような動きが出ていた可能性がありうる。
さすがに2008年7月というリーマン・ショック前の頃に比べれば、値動きの大きさに違いはあるものの、今回もこれまであまり日中の動きがなかっただけに、久しぶりに大きく売られたとの印象がある。これにより相場そのものの方向性が変わったり、あらためて日本の財政が材料視されることになるのかもしれない。しかし、8月7日から8日にかけての今回の債券相場の下落は、このシステム障害そのものが2008年7月22日と同様に大きく影響した可能性が高いのではないかと思われる。
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