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先物取引の重要性と課題

 日銀の白川総裁は、Futures Industry Association(先物業協会)が主催したコンファランスにおいて「先物取引市場と業界の課題」というテーマで講演を行ったが、この邦訳が日銀のサイトにアップされており、今回はこの内容について見てみることにする。

 先物取引は商品だけでなく金融の世界でも歴史はあるが、一般にはあまり知られていない。個人的にも債券先物が取引されるまではほとんど関心はなかった。しかし、現在では金融のデリバティブの世界では中心的に存在ともなっており、たとえば債券市場の動向を見るにあたって長期国債先物(債券先物、JGB先物とも呼ばれる)は、ペンチマークのような存在となっている。

 先物取引といえばシカゴでの取引が有名であるが、そのシカゴが参考にしたのが、18世紀初頭、大阪の堂島では始まった米の先物取引である。この時代すでに証拠金や差金決済といった仕組みがあり、限月などの仕組みも出来ていたのである。白川総裁も先物取引所と呼べる組織が、世界でおそらく最も早く日本で設立されたとしている。

 「洗練された市場が自律的に発展したという事実は、条件さえ整えば、日本において先物取引が繁栄し得るのではないかとの期待が全くの的外れでなはいことを示唆している。」と白川総裁は指摘しているが、現実に債券市場での長期国債先物取引を見る限り、十分活用されていることは確かである。また、日経平均先物も個人を含めて活発な取引が行われている。

 ところがこの先物市場を含めての取引が危機を迎える場面があった。「金融危機の頂点、とくに2008 年の後半においては、欧米を中心に金融市場はほとんど機能を停止した」(白川総裁)状況にあり、カウンターリスクが強まり、CDS取引を含む店頭(OTC)デリバティブ市場において、問題が先鋭化していた際、問題への対応を検討するにあたり、「店頭デリバティブ市場については、比較的問題が少なかった先物市場の経験が広く参照された」とある。

 ここで注意しておくべきは、「先物取引」と呼ばれる取引は、大阪堂島、シカゴのCME、CBTで発達したことでもおわかりのように「取引所取引」である。債券先物は東証、日経平均先物は大証で売買されている。つまり相対で行う店頭取引ではない。外為市場では先渡し取引を先物取引と称することもあるが、厳密な意味では先物取引ではなく、外国為替証拠金取引についても厳密には先物取引ではない。

 改革を進めるにあたり「店頭デリバティブ市場は、先物市場に一層近づくことになる。標準化になじまない商品についても、証拠金の受払いや取引の報告という、先物市場で有効性が確認されている義務が課されることになっている」(白川総裁)とされ、店頭デリバティブは、歴史のある先物取引が参考にされ、今後同じような形式の取引になっていくことが予想されている。

 また、白川総裁は、「先物市場は、取引所とそれに関連した清算を行う仕組みという、すぐに活用できるモデルを示しているが、そのモデル自体に改良の余地が残されている。」とも述べている。この清算を行う仕組みに関しては、下記のような事例も総裁は指摘している。

 「リーマン・ブラザーズの破綻によっても日本では大きな混乱は発生せず、その結果国境を越えた影響は最小限に止まったが、日本国債清算機関(JBGCC)における危機管理の手順に改善の余地があることも明らかになった。・・・リーマン・ブラザーズの法的な倒産手続が始まり、同社が日本国債清算機関に対し国債と資金を引き渡すことができないと判明したところから、必要な国債と資金を手当てできるまでの間、日本国債清算機関は多大な労力を費やした。それは綱渡りであった。」

 この事例研究はかなり重要なものであろう。何かしら大きなアクシデントが生じた際の対応はこのような清算機関にも当然求められるものとなる。しかし、「清算機関は、その利用者が破綻した時でも健全性を維持しなければならないが、これを実現するのは容易ではない」(白川総裁)。

 国債取引に関するリスク軽減への取り組みとして、総裁は日本国債の決済期間の短縮も指摘している。今年4月以降、日本国債の取引は、それまでの T+3 決済からT+2 決済に短縮され、未決済残高が削減された。さらに決済期間を T+1決済まで短縮するための検討も開始されている。

 金融という大きなインフラが構築されているが、その中にあって国債の取引が円滑に行われているのは、実は多くの仕組みに支えられている。特にあまり目立たないが決済や清算機能であり。これが円滑に働いていなければ、市場そのものは成り立たないことにもなる。

 ちなみに資金の決済は最終的に日銀の口座が使われることになろうが、白川総裁は「日本銀行は、証券取引所や東京金融取引所を含むさまざまな金融市場インフラ運営者との間で、長きにわたり建設的な関係を構築してきた。同時に、中央銀行に口座を保有しているからといって、緊急時に中央銀行から自動的に資金供給を受けられるとは限らない点も強調したい。」とも釘を刺している。


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by nihonkokusai | 2012-07-30 13:30 | 債券市場
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