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欧州でのマイナス金利の背景と日本のマイナス金利の可能性

 7月18日にドイツの2年債の入札において、平均落札利回りがマイナス0.06%(前回0.10%)と初めてマイナスとなった。

 流通市場では、スイスやドイツ、デンマークの2年債利回りはすでにマイナス圏にあるが、17日にフィンランドの2年債利回りが、18日にはオーストリア2年債利回りも初めてゼロを下回った。また、フランスの短期国債もマイナス利回りとなっており、ベルギーの短期国債は17日の入札ではじめて発行利回りがマイナスとなった。

 ちなみにデンマーク中銀ではECBの利下げに合わせて、7月5日に主要政策金利である貸出金利を0.25%引き下げ0.20%にし、譲渡性預金(CD)金利を0.05%からマイナス0.20%に引き下げている。

 これはEUには属しているがユーロ圏には入っていなデンマークが、自国通貨のクローネが、ユーロに対し強くなり過ぎないようにするための措置とみられた。この際、当座預金金利はゼロ%に据え置き、市中銀行が中銀の当座預金に保有する預金残高の上限を697億デンマーククローネに引き上げた。当座預金にこのような上限があることで、譲渡性預金のマイナスの効果も発生するものとみられる。

 さて今回の欧州での国債のマイナス金利の背景であるが、そこには欧州の信用不安が根底にあり、その結果、高格付けの国債が希少性を帯びてきた事に加え、銀行に対する警戒感が要因となっていると思われる。

 つまり、ユーロ圏内の銀行は大量に抱える資金の保管場所として、最も安全とされる中央銀行、つまりECBの当座預金口座などが使えるが、当座預金口座に預けられない運用者にとり、安全な運用先は格付けの高い国債となり、たとえ金利を払っても、それは安心料との認識となっているものと思われる(実際にはマイナスだから資金の運用者が利息を支払うわけではなく、買い付け価格と償還価格において損失が発生する格好)。

 このような資金運用者にとり、銀行の口座に資金を置くという手段もあるが、欧州の信用不安による南欧国債の暴落、さらにギリシャへの貸し出しやスペインでの金融不安も加わり、域内銀行は大きな痛手を負っている。このため欧州の銀行への不安も根強く、いわゆるクレジットリスクがあるため、ここに大量の資金を置くという選択肢も考えづらい。

 また域内の銀行にとってECB等から資金を借りるには当然、担保が必要となる。その担保として主に使われるのが国債であるが、銀行としてもこの担保の国債はより安全なものとせざるを得ない。このため、格付けの高く、為替リスクのない、価格変動リスクも小さな期間の短いユーロ圏内での国債へのニーズが強く、それが結果として、該当する国債のマイナス金利を生んでいるということも考えられる。

 これらが欧州におけるマイナス金利の要因と思われるが、日本においても2003年1月に無担保コールオーバーナイト取引においてマイナス金利が発生したことがある。これについて、当時の私のコラム(若き知)では下記のように説明していた。

 「2002年から外銀の間では、日本国債の格下げなどから日本のカントリーリミット及び日銀へのクレジットラインを減らす動きがあった。すでに外銀はユーロ市場などを通じてジャパンプレミアムなどにより円をマイナスで調達することが可能になっており、そのような資金を含め日銀の当座預金に残していた。もちろん日銀の量的緩和による影響も大きい。しかし、資金が日銀へのクレジットラインへのリミットに達しそうになり、ついに一部の外銀がマイナス金利でも良いからと資金を放出してきたのが要因と言われる。すでにユーロ円市場ではマイナス金利は発生していたものの、国内では初めてであった。」

 これについては、日銀の「短期金融市場におけるマイナス」(2005年1月5日)というレポートでは以下のような説明があった。

「金利取引円のリスクフリー・レートがゼロ%近辺まで低下しているなかにあって、為 替スワップ取引でドルの希少性(需要)が高まると、円転コストのマイナス化は容易に発生する現象である。 」

「通常の資金貸借を想定すれば、金利がマイナスになることは考えにくい。しかし、資金取引の裏側にあるモノ(担保)に関するニーズがある程度強まると、資金の取引レートがマイナスになることは十分にありうる。」

 さて、日銀は7月17日に基金ではなく通常の長期国債買い入れ、市場関係者は輪番オペと呼んでいる国債の買入において、残存期間1年以下を対象に0.1%の下限金利を撤廃し、マイナス金利での買い入れも容認することにした。これまでは正の金利を入力することになっていたものを、短期国債や1年以下について、「正、負、ゼロのいずれかの値」を入力することに変更したのである(ブルームバーグより)。

 現実に日本でのマイナス金利が再び生じるかどうかについては、過去の日本のマイナス金利は、ジャパンプレミアムがついたことによる影響であり、現在とは全く状況が異なる(むしろ正反対か)だけに考えづらい。

 またユーロ圏というかEU内の特殊な事情が、EU内でのマイナス金利を形成しているとみられるため、これが日本国債にも波及し、日本でのマイナス金利が発生するということは現状、考えづらい。もちろん超過準備の付利の存在も大きく影響しよう。ただし、短期債主体に海外資金が日本国債に流入し続けているという状況は確かにあり、さらに日銀が短国やCP買入の入札下限金利の0.1%を撤廃したこともあり、今後、何かしらの事情が加わることで、日本でのマイナス金利の可能性が全くないとはいえないことも確かであり、日銀としてもそれに備えた措置を取ったものと考えられる。

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by nihonkokusai | 2012-07-20 09:51 | 債券市場
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