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物価安定の目途(ゴール)とはインタゲなのか

 2月14日の日銀の金融政策決定会合では、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)」を示すことにすることを決定した。「中長期的な物価安定の目途」とは、消費者物価指数の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあるとある程度幅を持って示すこととした。その上で、「当面は1%を目途(Goal)」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした。

 この物価安定の目処について、白川総裁は会見で次のように述べている。

 「この数字(物価安定の理解)は、個々の委員の数字を集めているもので、必ずしも、日本銀行という組織、日本銀行政策委員会としての意思、判断を表すものになっていないのではないかという批判がありました。これに対し、今回の「目途」という数字は、日本銀行政策委員会としての判断を示したものであり、そこが大きな違いです。」

 「物価安定と整合的な物価上昇率をどのような言葉で呼ぶかは、それぞれの中央銀行の置かれた状況によって異なると思います。FRBは、今回、「longer-run goal(長期的な目標)」という言葉を導入しました。ECBあるいはスイス国民銀行は「definition(定義)」という言葉を使っています。BOEは「ターゲット」という言葉を使っています。日本銀行は「目途」という言葉を使っています。」

 「わが国ではインフレ目標という言葉が、目標物価上昇率との関係で金融政策を機械的に運用することと同義に使われることが――もちろんそれだけではありませんが――多いように思います。」

 「実際の金融政策運営は、いわゆるインフレーション・ターゲティングを採用している国を含めて、物価の変動と目標との関係で機械的に金融政策を運営するのではなく、今は、中長期的にみた物価や経済の安定を重視した政策運営をするようになっています。日本銀行は、そうした金融政策の運営の仕方を表すのに最も相応しい言葉は何かを考え、中長期的な物価安定の目途という言葉を今回使いました。」

 白川総裁は、インフレ目標もしくはインフレ・ターゲットという言葉が、目標物価上昇率との関係で金融政策を「機械的に運用する」ことと捉えてほしくなかったために、あえて目処という表現をし、さらにその英訳では目途(Goal)とすることで、FRBが1月25日に発表した政策に似ていることを示したのではなかろうか。これについては下記のような発言も白川総裁からあった。

 「日本国内の新聞各紙の報道を見ても、随分、日本語の用語が異なっていたわけですが、バーナンキ議長は、longer-run goalという言葉を使った上で、記者会見でインフレーション・ターゲティングではないと、はっきりとおっしゃっています。」

 物価目標を設定し何が何でもそこに向けて政策を行うということではないことを、あらためて示したものであろう。しかし、それではこれまでの物価安定の理解とほとんど変わりのないもので、単に表現を変えたものでしかないことになる。そこで、総裁は次のような発言もしている。

 「ただ、本人(バーナンキ議長)の否定にも拘わらず、仮に今回のFRBの金融政策運営の枠組みをインフレーション・ターゲティングと呼ぶのであれば、日本銀行の今回の金融政策運営の枠組みは、FRBの金融政策運営の枠組みに近いということは言えるように思います。」

 このあたりに本音が隠れているかに思える。今回の日銀の政策変換はかなり大きなものであったと思う。それはまさにこれまでその採用を見送っていたインフレーション・ターゲティングを実質的に日銀が採用したと思われるためである。しかし、それを強調してしまうと、その目標数値に縛られかねない。現在、インタゲを採用している国も、たとえばイングランド銀行しかり、しゃかりきにその目標値に物価を調整させようとしているわけではない。ただし、インタゲはインタゲであろう。

 インフレ・ターゲットとは、物価上昇(インフレ)率の目標値(または範囲)を設定・公表して、その達成に向けて中央銀行が金融政策運営を実施するという金融政策の「枠組み」とのひとつの定義がある。日銀は今回、「当面は1%を目途」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした、としている。これはまさに、実質的なインフレ・ターゲットという枠組みを導入したということになろう。


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by nihonkokusai | 2012-02-19 08:25 | 日銀
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