西村副総裁、議案を提出せず
前回4月28日の金融政策決定会合では、西村副総裁より、資産買入等の基金を5兆円程度増額し、45兆円程度とする議案が提出され、反対多数(1対8)で否決されたが、今回、西村副総裁からは同様の議案は出されなかった。
28日の会合で西村副総裁が議案を提出した理由について白川総裁は次のように述べていた。「震災等の影響が長期化し、企業や消費者マインドの悪化を通じて実体経済への悪影響が強まることを防ぐ観点から資産買入等の基金を5兆円程度増額する議案が提出されました。」
議案を出した理由は、総裁などよりもやや悲観的に震災への実体経済の影響を見ていたためとみられるが、4月28日から今回の会合までの間に特に情勢が大きく変わったとは思えない。
その間発表された経済指標をみると、例えば、5月12日に発表された4月の景気ウォッチャー調査では景気の現状判断Diが28.3と前月比0.6ポイントの改善となり、2~3カ月先を見る先行き判断DIは38.4と、前月比11.8ポイントと大きく上昇となっていた。また、16日に発表された3月機械受注統計では、船舶・電力を除いた民需の受注額は前月比プラスの2.9%と予想外のプラスとなった。
しかし、19日に発表された1~3月期実質GDPは前期比マイナス0.9%、年率でマイナス3.7%と事前予想も大きく下回った。4-6月期についても大きく落ち込む可能性があるなど、福島原発の問題も絡んで震災等の影響が長期化し、企業や消費者マインドの悪化を通じて実体経済への悪影響が強まる懸念が、この短い間に後退したとは思えない。
前回、西村副総裁は議案は出したものの、金融政策を現状維持とする議長案には反対していなかった。すでに利下げ余地がないところに反対する必要はない、との見方もあろうが、資産買入れ基金の増額を求めるならば議長案に反対してもおかしくはなかったはずである。
何故、4月28日の決定会合で西村副総裁は議案を出したのか。そして、5月20日の決定会合では何故、それを引っ込めたのか。その本当の意味を知るには本人に聞くか10年後の議事録を確認する他ないのかもしれないが、5月25日に発表される金融政策決定会合(4月28日開催分)議事要旨である程度のことがわかるかもしれない。
震災や原発事故の影響について日銀の政策委員がすべて共通した意見を持っていることは信じがたい。この状況下、楽観的なシナリオを描いて利上げを主張する委員はさすがにいないと思うが、ある程度景気に対してリスクシナリオを描いている政策委員が存在していてもおかしくはないはずである。
市場では西村副総裁が議案を出さなかったこと対して、ほとんど反応はしなかった。また、これにより日銀の追加緩和観測が後退との見方も出ていない。しかし、西村副総裁にはもう少し粘りも見せて欲しかったように思う。そうであれば市場参加者も4月28日の西村副総裁の行動に対し、透明性を高めるためにも反対意見は重要であるとして理解を示していたはずである。
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