国債格下げリスクよりも地政学的リスク
1月27日にS&Pがすでに日本国債の格付けをムーディーズのAa3に相当する段階に引き下げていたこともあり、債券市場への影響限定的であった。むしろ、22日の債券相場は買いの動きを強めた結果、債券先物は2月3日から4日にかけて139円19銭から139円40銭にかけて空いていた窓を埋めてきた。
22日に行われた20年国債の入札の結果は決して良くはなかったものの、それもあまり悪材料視されることはなかった。これは日本国債の格下げや入札結果よりも、中東における地政学的リスクが意識されたためと思われる。つまり「質への逃避」が意識されたと思われる。
チュニジアのジャスミン革命の動きはエジプト、さらにリビアにも拡大した。41年間もトップに君臨したリビアの最高指導者カダフィ大佐がエジプトのムバラク大佐と同様に辞任に追い込まれる可能性も出てきている。
さらに22日にはイラン海軍の艦艇2隻がスエズ運河に入ることが確認された。イラン軍艦のスエズ運河通過は1979年のイラン革命以来初めてとなり、特にイスラエルでは緊張を強めている。
中東はかつて世界の火薬庫とも呼ばれ、紛争の絶えない地域であった。それがオイルショックのようなかたちで世界経済に影響し、イラク戦争を招いたりしたが、ここにきては比較的落ち着いていた。しかし、今回の民主化の動きはむしろ政権が数十年にも渡り安定していた国で起きている。しかも、エジプトも今後の政権の行方がはっきりしないなど、不安定な状況が続くとみられる中、またイランとイスラエルなどが衝突するようなことになると、原油価格などに大きな影響を及ぼしかねない。
もし原油価格の上昇によりインフレリスクが意識され、それにより長い期間の米国債が売られるようなことになれば、今度は中東リスクが日本の債券市場にとり売り材料となる可能性もありうる。
日本国内では特例公債法案が年度内に成立しない可能性も高まりつつあり、予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらある。しかし、そのようなリスクよりも海外でのリスクのほうが意識されやすく、それはムーディーズによる日本国債の格付け見通しの変更にも無反応であったことからもわかる。
しかし、外ばかり気にしていると中のリスクが見えなくなってしまう危険性もある。日本の政局の不安定さは予算そのものにも影響するとともに、消費税増税なども先送りされ財政再建への道のりがさらに険しくなる可能性がある。相場はある程度市場のマインドで動いてしまうため、そのマインドに影響を与えやすいイベントに注目が集まってしまう。日本の債券市場では、もう少し日本の財政リスクを意識すべきであると思うが、どうやら債券市場参加者の視線は中東の地政学的リスクに傾きつつあるように思われる。
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