「包括緩和策の意味」
そして、すでに政策金利の目標値をゼロ近辺としてしまったことで、今後の追加緩和については量的緩和政策の際にターゲットとなった日銀の当座預金残高といったような別な数値目標が必要となる。それが今回の新たに設けられた35兆円規模の基金であろう。このうちの買入資産5兆円は国債とCP、社債、ETF、J-REITで構成される。もし今後、追加緩和を行う際にはこの基金の量、もしくは期間の延長を行ってくることが予想される。信用緩和策の強化が必要とされるとなれば、CP、社債、ETF、J-REITの買入規模を増額させてこよう。
問題は日銀券ルールに縛られない実質的な国債買入の増額である。今回は残存期間期間が1~2年、長期国債と国庫短期証券と合わせて合計3.5兆円程度としているが、今後はその期間、規模ともに増加してくる可能性が高い、問題はこれ幸いと政府がこれをもって財政拡大を実施してきてしまうリスクである。
今後先々の国債需給を考えれば、国民の金融資産で購入できる国債はいずれ限界を迎える。この際に海外に頼ることはある程度の金利上昇を伴なう可能性があり、またギリシヤ国債を購入するとした中国との関係などのように、政治的な配慮も必要になる。海外に頼るよりも先に日銀の国債購入増額に期待が向かいやすいはずである。財政法で禁じられている直接引き受けも想定され、それはむしろ国債への信認失墜により長期金利の急上昇を招き兼ねない。それよりも早めに日銀が国債買入を増やすことでそのときのリスクを少しでも緩和させることが可能なのではないかと個人的に考えていた。ただし、それには政府による財政拡大は回避させなければならない。このあたりは日銀総裁も釘を指す必要もある。
いずれにせよ、今回の日銀は2001年3月には当時の速水日銀が実施した量的緩和策と同様に、日銀の金融政策の大きな変換を意味しよう。速水元総裁はこのとき、政府との遺恨も残るゼロ金利政策に戻すことをせずに一気に量的緩和政策に持っていった。そして今回の白川日銀は、自ら効果には疑問を投げかけていたリサーブターゲットによる量的緩和策を取らずに、ゼロ金利政策を含めての包括緩和策を実施してきた。実施の仕方はまったく異なるものの、それぞれ開き直っての歴史的な政策変更であったかと思う。