「過去の長期金利の1%割れ」
最初に1%割れとなったのは1998年9月1日である。9月3日のコラムで私は下記のようなものを書いていた。
「世界の金融市場はこれまでにない衝撃を受けている。日本の景気低迷というのが、その大きな要因となっていることは確かである。これまで日本の金融市場は自国の事情により影響を受けていたが、日本の地震が津波となって、世界の金融市場に被害をもたらせた。その津波は地球を回って日本にしっかり帰ってきている。
まず、日本国内の景気低迷については、ついに「日立、初の赤字」という事態にまで陥った。半導体不況をもろにかぶったことは確かであるが、設備投資・個人消費の低迷が大きく影響しているはずである。そして、日本の景気悪化の最大要因はやはり「金融再生法案」でもめている金融機関処理問題である。長銀一行でこれだけごたごたしているということは、問題解決にはかなりの時間が必要とされそうである。それより解決の糸口さえいまのところ見出されない。この銀行の不良債権処理にさらに悪影響を与えているのが、アジア市場である。ついに「マレーシア固定制へ」そして「香港は空売り禁止」、まさに時代に逆行する施策を取らざるをえない事態にまで発展してしまった。香港には中国の元切り下げ懸念が大きく影響している。そして、このアジアの金融危機が飛び火したのがロシアと中南米である。「米露首脳会談」がモスクワで開かれているが、ルーブルを切り下げてもさらに混乱を加速させたロシアは、首相の承認すらままならない。エリツィン大統領もかなり追い込まれている。
そして、先進国で唯一景気がしっかりしていた米国が揺れている。「スイス金融機関も損失」の原因がロシアであったようにロシアの金融危機がユーロに影響を与え、また「メキシコ、大幅な金融引き締め」せざるを得なくなったように中南米へと影響が広がった。そうなると、米国経済もさすがに打撃を受ける。ニューヨークダウ平均は大きく下落した。加えて大統領自信がセックススキャンダルで信任を失いつつある。宮沢蔵相は「日米協調利下げ、提案せず」と語っていたが、ドイツを含めての協調利下げの可能性すら指摘されるようになってきた。為替市場もこれまでと様相が変化し、米国は自国経済のためにドル安政策をとるのではとの観測も流れている。世界の市場が揺れに揺れている。そして相場に対する見方も大きく変化しつつある。今、まさに大きな変革期にいるのであろうか。 」(1998年9月3日の「若き知」より)
ちなみに日銀は9月10日の通常の金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0.25%引き下げるという3年ぶりの緩和策をとっている。1998年の長期金利の1%割れは、このようにロシアの金融危機が大きな引き金になっていた。また、このロシア危機がLTCMの破綻を招き、FRBによる金利引き下げとともに日欧の中銀も金利を引き下げたのである。これについては拙著にも下記の記述がある。
「ロシアが資本主義体制へ移行して間もなく、ロシアの銀行の多くは海外から米ドル建てで資金を調達していたことで、ルーブルの暴落と共に破綻した。このロシアの金融危機がユーロに影響を与え、またメキシコが大幅な金融引き締めをせざるを得なくなったように中南米へと影響が広がり、資金の貸し手となっていた欧米などの債権者は大きな損失を蒙りました。これにより先進国で唯一景気がしっかりしていた米国にも影響が及んだのである。そして、ロシアの通貨危機はヘッジファンドにも影響を及ぼし、とりわけノーベル賞受賞者が設立に関与したLTCMが1998年9月に破綻に追い込まれたのである。FRBは9月17日から11月17日まで三回に渡り積極的な金利引き下げを実施し、日欧の中央銀行も政策金利を引き下げた。この機動的な金融緩和措置により、米国の金融システム不安はとりあえず払拭されたといえる」(拙著「金融のことがスラスラわかる本―歴史に学ぶ金融の基本」より)。(続く)