「ブラード総裁による時間軸効果への見解」
ブラード総裁は、FRBによる低金利を長期間維持する確約によって、企業や消費者のデフレ期待が若干高まる可能性があるが、長期間との文言の本来の狙いは「成長と生産を促進させ、それに伴いインフレを上昇させていくこと」と述べた。
ブラード総裁総裁は、米景気が緩やかに回復し、追加金融緩和の必要はないというのが最も起こり得るシナリオと引き続き考えている、としたが、FRBは予想外の衝撃が現実のものとなる事態に備え、追加措置の用意はすべき、と述べた(以上、ロイターより、http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-16508120100729)。
ブラード総裁は、欧州の債務危機を受けたFRBの政策対応に関する市場の見方を取り上げ、「長期間」という言葉のおかげで、金利の正常化はさらに遠のいたと受け止められ予想に反する効果をもたらしていると論じた。さらに、こうした時にインフレ期待を高める適当な手段として、量的緩和の拡大、すなわち長期国債の買い上げを指摘。量的緩和策は米英のほか日本でも採用されたが、日本では長期的な信頼感が生まれず失敗に終わったと述べた(ブルームバーグ)。
日本がデフレに陥った際の量的緩和政策について日銀の検証がある。日銀は「量的緩和政策から抽出された最も大きな緩和効果は、将来にわたる予想短期金利の経路に働きかけるチャネルを通じたものであった。」とし、「量的緩和政策が総じて緩和的な金融環境を作り出し、企業の回復をサポートしたとの見方が多い。」としている。(「量的緩和政策の効果:実証研究のサーベイ」より、http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/wps/wp06j14.htm)
そして、将来にわたってゼロ金利が継続されるという予想が金融市場の長めの金利や他の金融資産の利回りに影響を及ぼすことによって効果を生み出すメカニズムについて、実証分析結果から、短中期を中心にイールド・カーブを押し下げる効果(時間軸効果)は、明確に確認されたとしている。
量的緩和政策においては、日銀はその時間軸効果らよる影響が大きいとしているが、ブラード総裁は時間軸効果が恒常的な低水準の名目金利を促すことで、逆効果を生む可能性があるとの指摘である。
たしかに長期に渡りデフレが続く可能性を意識させれば、それはインフレ期待どころかデフレの長期化を意識させる可能性はある。これは中央銀行による金融政策の「アナウンスメント効果」によりどのような影響を及ぼすのかという大きな問題提議にも繋がる。アナウンスメント効果よりも、米国債の購入による直接的な量的緩和により、インフレ効果を高めるというのは、実践的ではある。
FOMCでの投票権のあるブラード総裁から、時間軸効果は諸刃の剣であったとの提言が出されたことは、日銀の量的緩和政策の効果をあらためて検証してみる必要もあるかもしれない。時間軸効果は果たして、インフレ期待を強めたのか、それともむしろデフレ期待を強めていたのか。