カナダの財政再建
カナダの財政赤字は、1970年代以降、景気低迷の中での歳出拡大、それに伴う国債費増大などにより大幅なものとなり、累積債務残高も急速に増加しました。累積債務残高の対GDP比で、1991年度以降、カナダはG7各国の中でイタリアに次いで高い水準となっていました。このため、財政再建が重要課題となっていたのです。
本格的に財政再建に取り組み始めたのが1993年11月に発足したクレティエン政権でした。同政権では財政赤字削減のために閣僚級のメンバーからなる特別委員会を設置し、選挙公約である「3年以内に財政赤字の対GDP比を3%以内に抑える」という目標をもとに財政の立て直しを進めていきました。その結果、1994年度以降、財政再建は強力に進められ1997年度以降は単年度ベースで財政黒字を計上したのです。
クレティエン政権はプログラム・レビュー(Program Review Tests)を導入し、6つの基準を設定し、これに基づいて全ての既存政策について徹底した見直しを実施したのです。その6つの基準とは、国民に求められているのかという公共の利益の基準、政府が提供すべきなのかという政府の役割」の基準、連邦政府に適切な仕事なのか州政府の仕事なのかの基準、民間に任せることはできないのかという民営化の基準、効率を上げることはできないのかという効率性の基準、 その結果残った仕事についての費用負担の適切さの基準です。
州への交付金や州との権限関係の見直し、失業保険制度や年金制度の改革、産業補助金の削減、政府企業の民営化やエージェンシー(外局)化、連邦公務員の削減、内閣組織の簡素・効率化などが積極的にすすめられ、各省庁の予算を1994年度から4年間で平均22%も削減したのです。
歳入についても大規模法人税の税率引上げ、付加法人税の税率引上げ等が実施されたものの、カナダでの財政再建は主に歳出削減により進められていったのです。
財政再建を進めた時期に、米国経済の回復によりその影響を受けやすいカナダ経済が回復したことも、カナダの財政再建を支えた要因として指摘されています。 しかし、カナダの経済に対する信任が国内外で厳しく問われたことで、そうした危機感が国民に共有されたことが、カナダの財政再建を成功させた大きな原動力になったことも確かであると思われます。
日本でも2009年の民主党政権が行った事業仕分けは、カナダのプログラム・レビューが参考にされたものです。しかし、カナダの財政改革は腰の座ったものであったのに対し、日本における短時間での仕分け作業では財政削減効果は限定的です。すでに1990年代のカナダ以上に危機的な状況となっている日本でも、本格的な財政再建が必要であり、それは国民も求めているものであるはずです。(参考、財務省資料「カナダの財政再建について」)