「福井総裁も自ら解除時期を示す」
須田委員のコメントは個人的な意見といった捉え方もされていたようだが、武藤・岩田両副総裁、そして昨日の総裁コメントを見ても明らかなように、日銀執行部としても、今年度末から来年度初めにかけての量的緩和解除をすでに視野に入れていたことが伺える。
ただし、CPIがゼロにもなっていないのにそのようなコメントをするのは早すぎるといったような意見も垣間見られ、昨日の会見などでも総裁はむしろ慎重姿勢を示すことで、8日の記者会見同様に市場へのインパクトを軽減させるのではないかとの見方もあった。私もその可能性があると思っていたが、むしろここで総裁自ら方向性をはっきりさせたいとの意思が働いたものと思われる。加えて、日銀の庭先ともいえる短期市場に対して量的緩和解除に向けての準備を進めさせるとの意図が働いた可能性もある。そのためにはある程度の期間といったものも当然必要になるためである。
このタイミングでの発言の背景には、市場でもすでに来年4月末における量的緩和解除といったことをある程度織り込みつつあったことにより、大きなインパクトはないとの認識が働いた可能性もある。また、総裁は会見において、量的緩和解除後もゼロ金利を当面維持することを示した。このため、当預残を所要準備近辺にまで引き下げていくための必要期間以上にゼロ金利が維持される可能性もあり、それをもって市場への安心感をも与えることでインパクトを軽減させることができるとの判断が働いたのであろうか。
日銀総裁のコメントにより、来年1-3月内での量的緩和解除の可能性もあらためて出てきている。22日の「量的緩和解除へのステップ」においても指摘したが、たとえ今年10月のCPIからゼロ以上となったとしても、3か月分のコアCPIを確認できるのは1月27日であり、確認後の決定会合は2月8・9日となる。この時点で「安定的にゼロ以上」と確認することが可能かどうか。もう少し余裕を持って、来年4月末の「展望リポート」での数値上の裏づけ(2006年度、2007年度の審議委員の見通し)とともに実施するのが、対外的にも理由を得やすいとも考えられる。
それでも年度内の可能性を示していることは、日銀執行部としても条件が揃い次第、なるべく早いタイミングでの解除実施を模索している可能性もある。景気の踊り場からの脱却も明確化しつつあり、土地の下げ止まりなどデフレ脱却への動きも見えつつある。企業業績の回復などを見越しての株の上昇などもあり、政府や財務省などもゼロ金利がある程度維持されることとなれば、日銀の量的緩和解除への姿勢には理解を示してくるものと考えられる。
日銀の量的緩和は、デフレという重い病気にかかった病人を回復させるために、必要以上の薬を投与し続けていたことにも例えられる。その薬の効果を計ることも難しいものの、その副作用も当然あったはずである。病人はすでに病気の改善も見えてきている上に、基礎体力を回復しつつある。大量の薬の投与は本来やめるべきであるが、やめたことによって病気が再発するような懸念も指摘されてしまい、医師もかなり慎重にならざるを得なかった。しかし患者もここにきて目に見えての回復基調となったことで、やっと回りの理解も得られるようになり、薬の投与を必要最低限に抑えることが可能になったと医師たちは判断したものと思われる。当分の間、患者はベッドに寝たままで、さらなる回復を待つことを条件に、薬の大量投与をやめるタイミングをある程度固めてきたものと思われる。