ここにきて米国、英国、そしてドイツ、さらにフランス、オーストリア、ベルギー、オランダ、フィンランドの各長期金利(通常は10年満期の国債の利回りを示す)が、連日のように過去最低を記録していた(今週に入りやや調整はしているが)。
ドイツは1871年のドイツ帝国の成立以来の低金利。英国も記録がある1700年台初めに遡れる記録だとか(4日の日経新聞より引用)。
1929年の大恐慌の頃の米長期金利が2%台半ばから3%台にあったのに対し、現在の米景気は減速懸念はあるといってもプラス成長となっている。EUについても減速懸念はあるが2012年はゼロ近辺での成長予測となっている。物価についても日本のようなデフレに陥る兆しはいまのところ欧米では観測できない。
ファンダメンタル面では、これほどの長期金利の低下の理由は見出せない。ただし、需給面から見ると、欧米の長期金利の低下要因が垣間見えてくる。供給だけからみれば、特に米英などの財政状況見る限り、良い状況ではないのは明らかであるが、需要面からみれば、比較的安全とされる国債に資金が向かいやすくなっている。
言うまでもなくギリシャやスペインなどに対するリスクが意識されている。ギリシャにはユーロ離脱の可能性があり、そしてスペインについては金融危機への懸念が強まっている。この欧州に対しての信用不安の強まりが、安全資産への資金シフトを強め、それが英米独を中心とした国債買いを強めることとなった。
為替リスクがないことで、ユーロではこれまでドイツ国債などに比べて比較的利回りの高い国債に買いが入ってきた。ところがギリシャ危機により、この動きが反転した。これには格付け会社の格下げも大きく影響し、特に南欧諸国の国債が売られ、それにより域内金融機関等の資金が今度はドイツ国債中心に向かい、さらに為替リスクはあるものの米国債や英国債にもユーロ圏内の資金が向かった。米国債の保有国の残高推移を見ると、たとえばルクセンブルグやベルギーなどが、大きく米国債の残高を伸ばしていたことが伺える。これに加え、中東やアジア諸国の資金などもより安全性を求めて、英米独、さらには円高にともなって日本国債にも短期債を中心に資金が流れ込む構図となっている。
このあたりの動きは2003年の日本の債券市場にも起きていた。ただし、こちらは国内要因だけでの話であり、グローバルな資金移動が起きていたわけではないが、国債バブルを形成するのは需給面であることを示していた。
2003年6月のいわゆるVARショックと呼ばれた日本国債の価格が急落した背景には、たしかに銀行のリスク管理上の不備がひとつの要因とされた。ただし、これを不備と呼ぶべきかどうかはやや疑問もある。このリスク管理上の欠点を利用して、積極的に大きな相場を仕掛けていたような気配すらあったのも事実である。それだけの資金が銀行に流れ込む構図が要因としてあった。そのひとつが日銀による量的緩和政策と時間軸の強化である。量的緩和は当座預金の残高を引き上げて、余剰資金を貸し出し等に向けさせようとするものであったが、その貸出が伸びない以上、資金の行き先は国債となった。さらに銀行に対しての公的資金の導入もあり、この資金も当然ながら国債に向かうこととなった。その結果、2003年6月11日に0.430%という世界の歴史上でも最低といわれる長期金利の水準をつけたのである。
米国、英国、そしてドイツの長期金利が果たしてどこまで低下するのかは、結局はファンダメンタルズなどで説明ができない以上、2003年6月の日本の長期金利のように、マーケットが勝手に決めることとなろう。そうなればその反転の兆しもマーケットの動きから読み取る必要がある。
日本では2003年6月に入り、マスコミ等ではさすがに長期金利の低下に対して警戒感を強める内容のものが出てきていた。そして、6月の20年国債入札ではあまりに利率が低すぎて購入を見送るとの大手生保の指摘も出た。さらに株式市場も反発の兆しを見せているなど、いくつもの兆しのようなものが出ていた。
現在の一部欧米諸国の長期金利は、ある意味、欧州の恐怖指数の裏返しようになっているため、欧州への不安が後退しない限りは、高値警戒そのものも出にくい面がある。2003年の日本でも長期金利の低下過程では、買う要因ばかり目について、売る要因が見当たらない状況にあった。しかし、それはあくまで幻想であり、いずれ相場の反動はやってくる。国債には価格変動リスクが存在することをあらためて思い知らされることになる。そのときのための心の準備をしておく必要があり、何かしらの兆候は見逃さないようにしておくことが重要となろう。
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