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ハリケーンが米国の債務上限問題を進展させる結果に

 米国のトランプ大統領と議会指導部はハリケーン「ハービー」の被害救済法案に、12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることで合意したと伝えられた。

 テキサス州を直撃した大型ハリケーン「ハービー」は、進路に当たる地域に甚大な被害をもたらした。テキサス州のアボット知事は今回の被災地域は2005年の「カトリーナ」襲来時よりも大きいと述べていた(NEWSWEEK)。

 このハリケーンの被害救済が米国の政治に思わぬ影響を与えることとなった。今回のハリケーンの被害を受けて、トランプ政権は145.5億ドルの補正予算を議会に要請することとなり、うち78.5億ドルを2018年度の暫定予算に組み入れる方針と伝えられた。

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても壁を建設すると述べた。これにより政府閉鎖への懸念が強まった。もうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げを要望している。いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びてきたのである。

 しかし、ハリケーン「ハービー」による緊急事態に対処するため、ここで議会が動き、トランプ大統領も強行な発言を控えてきた。被害対策の補正予算を通すため、それぞれ妥協の必要が出てきたといえる。ここで主義主張を振りかざしては、国民からの批判がより強まることも予想されるためである。

 その結果が12月15日までの債務上限引き上げと政府運営資金の確保を抱き合わせることでの合意である。ただし、これは野党である民主党指導部が明らかにしたものである。

 共和党指導部と民主党指導部との会合で、共和党の指導部は18か月の債務上限引き上げを要請し、6か月引き上げ案も可能性として挙げた。しかし、民主党のペロシ下院院内総務、シューマー上院院内総務の両氏は6か月引き上げ案を拒否し、債務上限3か月の引き上げ案を出していた。

 ムニューシン財務長官ら共和党メンバー全員が、より長期間の債務上限引き上げを支持したが、トランプ大統領は結果として野党・民主党の債務上限3か月の引き上げ案を受け入れた格好となったのである。

 ちなみに上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 共和党のライアン下院議長は民主党案に強く反発していたようだが、補正予算を早期に通すためには、民主党案を飲まざるを得なかったことも確かであろうが、これでまたトランプ大統領と共和党の議会首脳部との間に溝が拡がった可能性もある。しかし、市場で懸念されていた政府機関閉鎖の懸念とデフォルトの懸念がひとまず後退したことも確かである。


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# by nihonkokusai | 2017-09-08 10:06 | 国際情勢 | Comments(0)

FRBの年内利上げに黄色信号

 FRBのブレイナード理事は5日のニューヨークでの講演で、「物価上昇率が(2%の)目標達成に向けて軌道に乗っていると確信が持てるまで、追加利上げには慎重になるべきだ」と発言した。

 これを受けてFRBによる年内の利上げ観測が後退し、地政学的リスクやハリケーンのイルマが勢力を強めていることも意識され、5日に米債は買い進まれて、10年債利回りは2.06%と1日の2.16%から大きく低下した。

 格付け会社ムーディーズは米国がデフォルトに陥れば最上級の格付けを下げると表明したことも、リスク回避要因となっていた。米国債の格下げ観測で米債が買われるというのも興味深い。実際に2011年8月6日にS&Pが米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた際に米国債は売られるのではなくリスク回避の動きから買い進まれていた。

 それはさておき、ブレイナード理事は市場を動揺させるほどのサプライズなものではない。7月10日にもブレイナード理事は、バランスシート縮小について早期に進めることを支持した上で、追加利上げについては慎重な姿勢を示していた。

 元々ブレイナード理事はハト派とされ、利上げには慎重な姿勢を示すとみられていたことで違和感はない。ただし、このタイミングでの同じような発言が市場に多少なりインパクトを与えたのは、イエレン議長のこれまでの発言内容と足元物価の動向が影響していた。

 イエレン議長は、ここ数か月の物価指標が著しく低水準にとどまっていることは、FRBも確認しているものの、それは一時的要因が物価昇を抑制しているとの認識であった。ところが、米商務省が8月31日発表した7月の個人消費支出(PCE)統計によると、FRBが利上げ判断で重視するPCEデフレーターは前年同月比1.4%上昇にとどまり、目標の2%に届いていなかった。

 市場ではここにきての物価の低迷が一時的なものではないかもしれないとの見方も強めている。ジャクソンホールの講演でイエレン議長が金融政策に触れなかったことも、利上げについては慎重になっていたためではないかとの見方もできなくはない。

 9月のFOMCでのバランスシート縮小の決定については、むしろない方がサプライズとなっている。しかし、12月の利上げについてはFRB内部でも、また市場の観測でもかなり不透明感が強まっていることは事実なのかもしれない。


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# by nihonkokusai | 2017-09-07 09:58 | 中央銀行 | Comments(0)

金融市場との対話が何故必要なのか

 市場との対話というのは、たとえば財務省や日銀などがその政策を実施するにあたって市場参加者の意向も配慮するということになろうか。

 日本で金利が自由化されたのはそれほど大昔のことではない。国債が市場で積極的に売買されて国債の利回りが市場で決定されるようになったこともそれほど昔ではない。

 1985年に金利が市場の実勢で決められる大口定期預金が導入され、また金融機関によるフルディーリング開始されたのが1985年であり、このあたりから金利が市場で決定されるようになった。1994年に民間銀行の金利は完全に自由化される。

 財務省や日銀が市場との対話を本格化させるきっかけとなったのが1998年だと思われる。この年に改正日本銀行法が施行され、金融政策決定会合が始まった。これまでの日銀の金融政策の透明性は高くなかったのが、改正日銀法により独立性を強めるとともに、透明性も強め、それはつまり市場と直接向き合うようになった。政策金利も公定歩合(日銀貸出の基準金利)から市場で決定される無担保コール翌日物金利に変わった。

 1998年には大蔵省資金運用部の国債運用に関する報道をきっかけとした運用部ショックと呼ばれた国債急落が起きた。これをきっかけに当時の大蔵省は市場の対話を重視しながらの国債管理政策を進めることになる。その結果のひとつとして日本版プライマリーディーラー制度などが作られた。

 日銀も金融政策に関しては市場と直接向き合う必要がある。そもそも現在の金融政策は金融調整によって市場で形成される金利に働きかけて、経済や物価動向に影響を与えようとするものである。

 ところがアベノミクスによる政策によって状況が大きく変わった。まさに先祖返りとも言うべき状況となってしまっているのである。国債の大量発行などもあって金利は自由化された。ところが日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和政策は日銀が国債を年間発行額分も買い込んで、さらにその長期金利も操作しようとするものであり、ここに市場の思惑等は入り込めなくなってしまっている。こうなると市場との対話は当然失われてしまうリスクが存在する。

 別に政府が大量に発行する国債をすべて日銀が購入するとなれば、市場などいらないということにもなる。しかし、このパターンは歴史上数々の悲劇を生んできたものであり、日本でも財政法で本来禁じられている中央銀行による国債引受となんら変わらないものとなる。現在のやり方がこのまま永久に続けられるとは思えない。

 市場もいずれ日銀も出口を模索することで、いまの財政ファイナンスに近い状況は解消されるはずと認識し、国債に対する信認は維持されている。しかし、本当に出口からすんなり出られるのかは、日銀と市場との対話に掛かっている。これに失敗することになると国債価格の急変という事態も招きかねない。もし出口から出られないとなれば、今度は国債への信認そのものが失われかねない。いずれこの市場との対話が大きなキーになることも予想されるのである。


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# by nihonkokusai | 2017-09-06 09:21 | 債券市場 | Comments(0)

日本の長期金利が再びマイナスに

 9月1日の債券市場では、後場に入り先物が一段高となり、引けにかけて10年国債のカレント(直近発行された銘柄)である347回債がマイナス0.005%をつけ、昨年11月16日以来の長期金利のマイナス化となった。

 日本の長期金利は慣例で、10年国債のなかで最近発行されたカレント物の利回り(単利)を差している。実は10年国債のなかでもカレント以外のものはすでに利回りがマイナスとなっていたことで、カレントのマイナス化は時間の問題となっていた。

 日本の10年債利回りは7月7日に日銀が指し値オペを実施したあたりから、低下基調となっている。ちなみに7月7日に10年債利回りは0.105%まで上昇し、0.110%で指し値オペが実施されている。

 7月7日には指し値オペとともに国債買入で5年超10年を5000億円に増額し、7月12日には3年超5年以下を3300億円に300億円増額していた。その後の利回りの低下もあり、5年超10年以下は8月25日に300億円減額したことで今年1月27日前の水準の4100億円まで戻していた。また、9月1日には3年超5年以下を300億円減らして3000億円と7月7日以前の水準に戻している。

 これらの国債買入の減額は売り要因とはならず、むしろ国債は買い進まれている。それだけ地合が好転しているということであるが、その背景には米国の長期金利の低下がある。

 日銀が指し値オペを実施した7月7日あたりを天井として、米国の長期金利も低下基調となっていたのである。もちろん米国債が日銀のオペレーションの影響を直接受けて買われたわけではなく、物価上昇が抑制されていることもあり、FRBの正常化の動きがかなり慎重になるのではといった思惑もあろう。この米長期金利の低下もあって日本の国債利回りも低下基調となり、日本の長期金利も再びマイナスとなったといえる。

 しかし、日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和の背景には、マイナス金利政策への金融界からの批判等があったことで、イールドカーブを立てることが目的としてあったはずである。そもそも20年債利回りまでマイナスとなってしまい運用難となっていたことが長期金利操作の要因となっていた。つまり市場としては、ここからさらなる10年債利回りのマイナス化は受け入れづらいはずであり、日銀としてもあまりマイナスが深掘りされたくはないのではなかろうか。

 とはいえ外部環境次第ではさらに10年債利回りが低下してしまう可能性はある。4日の債券市場では北朝鮮の核実験によるリスク回避の動きも手伝って、10年債利回りはマイナス0.010%をつけている。なぜ北朝鮮と地理的に近い日本の国債が、北朝鮮の地政学的リスクが意識されて買われるのかといえば、安全資産とされるものへの資金シフトの動きが連想されたためといえる。


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# by nihonkokusai | 2017-09-05 10:06 | 債券市場 | Comments(0)

米国の政府機関閉鎖の懸念と債務上限問題

 トランプ大統領は8月22日のアリゾナ州フェニックスで開かれた支持者の集会で、政府を閉鎖しなければならなくても、壁を建設すると述べた。

 議会は会計年度が終了する9月末までに、新年度の歳出法案を成立させなければならない。しかし、議会で合意が得られない場合には、つなぎ予算案を承認しつつ、新年度の本予算の協議を続けることになる。今回のそのケースとなる可能性が高い。しかし、つなぎ予算と本予算のどちらも折り合いがつかないとなれば、政府機関の閉鎖という事態が発生する。

 政府機関閉鎖は過去何度か起きた。直近では2013年10月にオバマ前政権の医療保険制度改革法(オバマケア)向け支出を巡り、ねじれ状態となっている米国議会で次年度予算が成立せず、与野党の対立が解けないまま、およそ18年ぶりとなる政府機関の一部が閉鎖される事態が発生した。

 米国のムニューチン財務長官やポール・ライアン下院議長などは「連邦政府機能の一部閉鎖」という事態は発生させないと主張したものの、22日のトランプ大統領の発言により、政府閉鎖の可能性が現実化しつつある。

 トランプ大統領は選挙公約にメキシコ国境の壁建設を掲げていたが、2018年度の歳出法案には、この建設費用は含まれていない。上院(定数100)での可決には60の賛成票が必要となるが、上院の共和党議席は52で、民主党の一部が支持しなければ可決できない。

 そしてもうひとつの問題がここに絡む。債務上限問題である。財務省は9月29日までに議会が債務上限を引き上げてくれることを要望している。ただし財務省には緊急時の予備財源があり、デフォルトが起きるのは早くて10月半ば以降になる。

 いずれの法案も上院を通すには民主党の一部が支持しなければ可決できない。ここに民主党が反対するメキシコ国境の壁建設の予算を強引に求めると、かなりこじれ、政府機関の閉鎖やデフォルトが現実味を帯びる。

 トランプ大統領は高い支持を得ている退役軍人関連の法案に、債務上限引き上げ措置を盛り込むよう議会の共和党指導部に求めていたが、共和党上院院内総務と下院議長は両法案を抱き合わせにしない決定を下した。

 メキシコ国境の壁建設の費用を予算で捻出するため民主党からの賛同者を売るのは極めて難しい状況にある。トランプ大統領が壁抜きで共和党のまとめた予算案を受け入れず、拒否権を行使すれば、政府機関が閉鎖されるだけでなく、共和党議員との対立姿勢を強めることも予想される。今回は政府機関閉鎖が解かれる状況も見づらくなる。何らかの妥協が求められるがトランプ大統領がそれを行えるのかが注目点となろう。


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# by nihonkokusai | 2017-09-04 09:35 | 国際情勢 | Comments(0)

FRBもECBも正常化に慎重?

 31日に発表された7月の米個人消費支出(PCE)は前月比0.3%の増加となった。FRBの物価目標の基準とするPCEデフレーター(価格指数)は前年比1.4%の上昇と前月と同水準となった。市場が注目している食品とエネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年比では1.4%の上昇に止まった。

 FRBのイエレン議長はここにきての物価の低迷が一時的なものかどうかを見極めて、追加利上げを検討するとしているが、この数字を見る限り一時的なものではない可能性もあり、30日の米国市場では年内利上げ観測がやや後退した。

 今月19、20日に開催されるFOMCにおいてバランスシートの縮小を決定するであろうことは、市場はかなり織り込んでいるため、こちらはその決定がない方がサプライズとなる。12月のFOMCでの利上げについてはかなり不透明感も残る。このあたり、次期FRB議長の後任人事なども微妙に絡んでくる可能性もある。

 31日には8月のユーロ圏消費者物価指数も発表されており、こちらも前年同期比1.5%上昇となり、コア指数は前月から変わらずの1.2%上昇にとどまった。

 ここにきての対ドルでの急激なユーロ高を懸念するECB当局者が増えており、資産買い入れ縮小が緩慢なペースとなる可能性が高まっているとロイターが伝えている。関係筋によると、2017年末までを期限としている量的緩和に関する討議は始まったばかりで、9月7日の次回理事会で何らかの決定をする可能性は非常に低いとしている。

 25日のジャクソンホールでの講演でイエレン議長もドラギ総裁も金融政策に関しては触れなかった。特にドラギ総裁は前回出席した2014年のジャクソンホール会議への出席時には政策変更の可能性を示唆していたので、3年ブリに出席した今回も政策変更の可能性を示唆するのではとの観測も出ていた。

 ECBが資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月の政策理事会で示唆するのではとの見方も出ていたが、これも不透明感も出てきた。ただし、正常化という意味合いだけでなく、国債買入そのものに対しても限界が見え始めていることで、何らかの対応は必要となる。このあたりどのような検討をされるのか、まずは7日のECB理事会の検討内容にも注意しておく必要がありそうである。


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# by nihonkokusai | 2017-09-03 12:19 | 中央銀行 | Comments(0)

物価のコントロールは金融政策では難しい

 日銀の政井貴子審議委員は愛媛県での31日の講演で次のように述べていた(日銀のサイトにアップされた亜視察分より引用)

 「わが国では、1990年代の後半から15年以上にわたり消費者物価の前年比がゼロないし僅かなマイナスが続くデフレの状態が続いてきました。わが国において、所謂デフレ・マインドがなかなか払拭されない背景の1つには、わが国の家計および企業が、デフレ期の環境に順応してきたことがあると思います。これを踏まえると、「物価は毎年2%くらい上がってくるものだ」という物価観が人々の間にしっかりと根付いていくには、このようなコミットメントを通じて日本銀行の強い決意を示すことが重要だと考えています。」

 そもそも何故、1990年代の後半から、消費者物価の前年比がゼロないし僅かなマイナスが続くデフレの状態が続いてきたのか。日銀の異次元緩和の背景にあったリフレ的な発想からすれば、日銀の金融緩和が足りなかったからということになっていたが、大胆な金融緩和で消費者物価の前年比がゼロ近傍にある状況を変えることができないことを日銀は自ら証明するかたちとなってしまっている。

 これはつまり消費者物価の前年比がゼロ近傍にある状況が生み出された背景をしっかりと分析し、さらにその状況は本当に日本経済にとってマイナス要因となっているのかを含めた検証をする必要があるのではなかろうか。

 1990年台といえばバブルが弾けた時代であり、それに合わせて日本の雇用環境が大きく変わった。そして日本の債務残高が膨れあがっていく時代とも重なる。年功序列・終身雇用といったこれまでの体制が維持しづらくなり、それはつまり雇用環境を悪化させることになった。それは人々の将来を不安にさせることとなる。これは企業も同様であり、積極的に設備投資等を控えざるを得ない。これはつまり、資金は貯蓄から投資へではなく投資から貯蓄に向かうこととなる。

 物価の低迷は金利の低迷となり、安全資産として国債に資金が流入し、大量の国債が発行されてもそれは国内で消化可能となり、金利の低下で大量の債務を抱えた政府も利払い負担が軽減されることになる。これは財政リスクを覆い隠すことにもなっている。

 現在の日本における物価とそれに合わせた金利の環境は、このように日本の債務リスクを見えにくくさせるとともに、物価の安定がむしろ人々の満足度を高めるような状況ともなっている。

 中国などの新興国経済の成長が日本の景気を支える格好となった際も物価への影響は限定的となっていた。一時投機的な動きから原油価格が急騰し、日本の物価も2%を超える場面もあったが一時的なものであった。その後、今度は世界的な金融経済危機が度重なって景気も低迷したものの、危機の後退により欧米の景気も回復基調となり、日本も緩やかながら回復基調となっている。

 この間にあって日銀の金融政策が果たした役割はいったい何であったのか。日銀に限らず欧米の中央銀行も非伝統的手段を講じたが、これは景気物価に働きかけるというよりも、金融市場の不安感を取り除くことが大きな目的となっていた。その意味ではしっかりとその効果はあったと思われる。

 しかし、金融政策であたかも簡単に物価をコントロールできるかのような発想のもとに出てきたアベノミクスとそれを受けた日銀の異次元緩和は、物価上昇そのものが目的と化してしまった。このため身動きが取れなくなりつつある。人々のデフレマインドも含め、金融政策では簡単にはコントロールができないことを前提にしての金融政策というものを考えることも必要ではなかろうかと思う。


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# by nihonkokusai | 2017-09-01 10:11 | Comments(0)

10年債利回りのマイナス化で日銀は動くのか

 29日の引けあとに10年債利回りはゼロ%ちょうどをつけた。日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和で、長期金利操作については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行うとしており、まさにその目標値をつけたことになる。

 29日の米国市場ではいったんリスク回避の動きを強めたが、すぐに軍事衝突に至る状況でもないことで、リスク回避の反動が起きていた。このため、30日の東京市場はドル円は上昇したこともあり、株式市場はしっかり。円債は戻り売りに押され、ひとまず10年債利回りがマイナスとなることはなかった。ただし、これはカレント(直近に発行された銘柄)だけの話であり、直近発行の347回債はマイナス金利ではないものの、その前に発行された346回までの銘柄の利回りはマイナスとなっている。

 30日の10時10分に日銀は、残存期間5年超10年以下4100億円、残存期間10年超25年以下2000億円、残存期間25年超1000億円、物価連動債250億円の国債買入をオファーした。買入額はいずれも前回から変わらずとなっていた。

 日銀は8月16日の国債買入のオファーの際、5年超10年以下の買入予定額を前回の4700億円から300億円減額し4400億円とした。さらに25日にも300億円減額し4100億円としていた。

 この国債買入の動きは一時長期金利の0.110%近くまでの上昇を受けて、指し値オペとともに国債買入を増額したことに対し、長期金利が今度は低下基調となっていたことで、買入金額を元に戻すような調整をしたと思われる。目的が長期金利の低下を抑えるものではないことで、減額でオファーされても債券先物などはむしろ買われるような展開となっていた。

 日銀はすでに金融政策の調整目標はマネタリーベースという量ではなく金利に置き変えている。このため保有残高の増加額年間約80兆円をめどとするとの文言は置いてあるものの、実際には国債の需給バランスも意識して買入額を減少させている。これで緩和効果が後退しているのかどうかはさておき、市場参加者も実質的なテーパリングであるものの、正常化に向けた動きとは捉えていない。

 2016年1月の日銀のマイナス金利政策の採用により、10年債利回りどころか20年債利回りまで一時マイナスとなってしまった。これによる民間での資金運用にもマイナスの影響が出始め、大手銀行や生保などのトップから批判が相次ぎ、その結果、イールドカーブを立たせて民間に運用益を確保させようと決定したのが2016年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和であった。

 日銀が金融政策の調整目標はマネタリーベースという量から金利に置き換え、さらに長期金利も操作目標に置いた理由はイールドカーブコントロールにある。正確にはイールドカーブをスティープ化させることが目的となっている。ただし、それも短期金利はマイナス0.1%、長期金利がゼロ%であり、そこから多少オンされた超長期の利回りが意識されていることになる。

 少なくとも長期金利を操作対象に加えた経緯から考えると、日銀としては再び20年債あたりまでがマイナス金利になることは避けたいであろう。つまり10年債が多少のマイナス(マイナス0.1%あたりまで)は許容範囲となろうが、そこからさらなる低下はその要因次第の面はあるものの、長短金利コントロールを打ち出した以上は何かしらの手段を講じる可能性はある。


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# by nihonkokusai | 2017-08-31 09:59 | 日銀 | Comments(0)

北朝鮮の弾道ミサイルが日本上空通過、金融市場はどう反応したのか

 29日の朝6時過ぎ、いつものようにNHKラジオのニュースを聞いていたところ、近くにあったスマートフォン2台が大きな警告音を発した。画面を確認したところ、下記のような表示が出ていた。

「緊急速報 政府からの発表 2017/08/29 06:02 ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に非難してください。(総務省消防庁)」

 そのあと6時14分にあらためて、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。との緊急速報が流れた。

 6時2分の携帯電話へのJアラートに続いて、防災無線でも同様の放送が流れた。テレビで確認したところ、Jアラートが鳴ったのは北関東3県と東北、北海道であった。

 最初のアラートの表示では、日本の国土に向けてミサイルを撃ったようにも解釈できることで、さてどうしようとなったが、とりあえず家の外に出ないようにして続報を待つしかなかった。我が家には地下室もなければ防空壕もない。

 今回の北朝鮮のミサイル発射の分析は専門家が行うであろうが、その方角や時間帯から、日本の本土上空をなるべく避け、さらに航空機が密集している地域も避けたのではとの見方があった。やや方向が違うがハワイ方面を視野に入れて、飛距離を試した可能性がある。いずれにしても許されざる行為である。

 これを受けて29日の金融市場は反応した。26日に北朝鮮が日本海に向け短距離の飛翔体を発射した際には、28日の東京市場はこれを全く無視した格好となっていた。しかし、さすがに日本上空を通過となると、無視できず金融市場ではリスク回避の動きを強めた。

 日本が脅威に晒されているにもかかわらず、リスク回避によって何故、円が買われるのか。いろいろな解釈もあろうが、個人的にはこれまでの世界的リスクに反応した際に、円やスイスフランが買われていたことにより、条件反射的な動きとみている。これがリスクや懸念ではなく、日本が被害を直接受けるようなことになれば素直に円買いとはいかなくなるのではなかろうか。

 円高にも反応しての株安は素直に下げたものの、その下げ幅は限定的となった。日本国債も多少なり買われたが、これも円と同様にリスク回避と言えば安全資産としての国債買いの連想が働いたものであろう。日本そのものに対する危機が生じれば、この動きについても疑問符がともる。それ以前にマーケットが開いているのかという問題も生じよう。

 今回、当初のJアラートを聞いて、どこにミサイルが着弾するのかという情報がすぐには来なかったため、戦争への恐怖を覚えたことも確かである。防災無線の警告音は、昔の空襲警報がこうであったのかと連想してしまった。今回の北朝鮮によるミサイル発射は、日本に対して直接的な被害はなかったものの、有事が意外に迫っているのではとの恐怖感も覚えた。

 29日の金融市場もいつも通り開き、一部の電車は遅れていたものの、通勤もいつも通り。そのいつもどおりの生活が脅かされぬよう、何かあっても、円が買われ、日本国債も買われる程度のリスクに収まってもらうよう、祈るしかないのであろうか。


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# by nihonkokusai | 2017-08-30 09:54 | Comments(0)

生活改善はアベノミクスの成果なのか

 内閣府が行った「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活に「満足している」か「まあ満足している」と答えた人の割合が、1963年以降で最も高くなったそうである。所得・収入について、21年ぶりに「満足」と答えた人が「不満」と答えた人よりも多くなったとか(NHKニュースより)。

 所得・収入がそれなりに伸びてくるなど雇用環境が改善し、生活そのものにも満足している人々が増えているそうである。これはアベノミクスによる恩恵と指摘する向きもあるかもしれない。

 しかし、アベノミクスが目指したものは、直接、雇用環境の改善や生活向上に働きかけるというものではなかったはずである。日銀がリフレ政策を行うことで、人々のインフレ期待を高めさせ、日本の物価水準を欧米並みの2%まで高まれば、雇用も改善し、景気も良くなり、人々の生活も豊かになるとの発想であったはずである。

 しかし、現在の生活に「満足している」という結果だけをみて、これがアベノミクスの成果とするのであれば、途中にあったはずの物価目標達成がなされていないことをどのように解釈すべきなのか。

 今回の生活水準の改善は日銀の過度の金融政策によるものではない。まったくないとはいえないが、負債の多い企業や、なにより国の財政が助かっており、その意味での不安は後退しているといえるかもしれない。しかし、それはつまり我々が本来収入として得られるはずの利息収入が犠牲になっていると思えば、低金利政策そのものにより我々の消費が押さえ込まれているとの解釈もできよう。

 なにより物価が低位安定していることそのものも、我々の生活の満足度に繋がっているのではなかろうか。伸びは緩やかながらも賃金の伸びが改善し、物価が抑えられていれば当然、生活の満足感に繋がる。デフレを解消しない(物価が2%に上がらない)と景気は回復せず、我々の生活も豊かにならない、わけではない。

 いったい日銀は異次元緩和で何をしようとしていたのか。今回の「国民生活に関する世論調査」だけで判断すべきではないとは思うが、異次元緩和の前提にあったものが本当に正しいものであったのか。それをしなければ現在の生活満足度は得られなかったのか。異次元ではなく通常の緩和の延長線でも現在の環境は維持できたのではなかったのか。アベノミクスによる円高調整と株高をもってその成果とするのも勝手ではあるが、それがどれだけアベノミクスによるものだったのかついても検証する必要もあるのではなかろうか。少なくとも現在の環境がアベノミクスによってもたらされたものと結論づけることには無理があると思う。


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# by nihonkokusai | 2017-08-29 10:04 | アベノミクス | Comments(0)
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「債券ディーリングルーム」ブログ版


by nihonkokusai
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