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英国大手銀行の不正事件の要因

 8月6日に、英国の老舗の世界的な大手銀行「スタンダード・チャータード銀行」は、過去10年近くに渡って「イラン政府」と合計で約19兆円ものの不正取引を行ったとアメリカ・ニューヨーク州の金融当局が発表しました。

 英国のこちらも世界的な大手銀行といえるバークレイズは2005~2009年に虚偽申告を繰り返し、経済の実態とかけ離れてLIBORを上げ下げしたとして、英国の金融当局は約70億円(5950万ポンド)の課徴金を課され、バークレイズのボブ・ダイヤモンド最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれました。  世界でも最大級の金融グループで英国に拠点を置く、HSBCホールディングスはメキシコの麻薬カルテルなどの大量のマネーローンダリングを行なっていたとして非難されました。

 そして、米金融大手のJPモルガン・チェースは、デリバティブと呼ばれる取引で失敗し、約20億ドルの損失を計上すると発表しましたが、この舞台となったのはロンドンです。

 これらの銀行が起こした事件は英国の銀行が起こしたもの、もしくは英国で起きたものです。ロンドンの金融街はシティと呼ばれ、今でも金融の一大中心値であり、ここには世界の中央銀行の基になったとされるイングランド銀行があるように、近代の金融システムそのものが形作られたのがロンドンです。

 つまりオリンピックが行われていたロンドンは、ギリシャ発祥のオリンピックが近代オリンピックとなってフランスやイギリスで開花されたように、イタリアやオランダで生まれた金融取引を近代的な金融システムとして成立・発達させたのがイギリスです。この近代金融システム発祥の地であるイギリスで大きな金融の不祥事が発生したということは、これまでの金融の歴史も大きく関わっていると思われます。

 そもそも金融取引は信頼・信用が重要な要素となっています。イギリスは17世紀あたりからの大陸との貿易や産業革命などを経て、その信用を積み重ねたことで、ロンドンを拠点とした一大金融取引の中心地となってきました。

 そのことを示すものとして、London InterBank Offered Rate(LIBOR)があります。LIBORは複数の銀行が出している金利を平均値化して、ロンドン時間午前11時に毎日発表される指標となる金利です。これは英国内の住宅ローンや預金金利などに直接影響する金利であるともに、国際的な融資などにおける国際金融取引の基準金利として、またスワップ金利などデリバティブ商品の基準金利としても利用されています。

 LIBORの金利は各銀行が提示するものですが、その金利については銀行ごとの裁量に任された部分があり、不正しようと思えば可能となっています。ただし、これは制度的な欠陥というよりも、金利が相対取引でつくものである以上は致し方ない面もあります。担当者が適切な数値を出しているであろうとの信頼に委ねられていた面も大きかったのです。

 この信頼が結果として裏切られました。リーマン・ショックの際のLIBOR操作については、高い金利を提示することで、自分の銀行が危ないという指標にされかねず、致し方のない面もありました。これについてはこれにはイングランド銀行のタッカー副総裁の関与があったのではないかとの見方もありましたが、この関与は否定されました。ただ、それ以前から自らの利益を挙げるため一部の人間による操作が行われていたとなれば、たいへん大きな問題です。これは現在、調査が行われている段階です。

 国際金融市場の中心は、以前はロンドンのシティでした。ところが2つの大戦を経て、基軸通貨がポンドからドルに移り、アメリカのウォール街が国際金融市場の中心となり、イギリスの金融街は衰退しました。

 それを回復させたのが1980年代のサッチャー政権による金融大改革、ビッグバンでした。これは金融に関わる規制を緩め、民間の裁量を高めるのが目的で、これにより金融街シティは復活し、ユーロが発足しても、ヨーロッパの金融の中心地はロンドンであり続けたのです。

 この規制緩和などにより金融業界はおおいに発展し、デリバティブなど多くの金融商品が生み出されたこともあり、金融取引は膨張しました。その結果、金融機関の利益そのものも巨額となり、信用よりも利益を稼ぐことが重視されるようになったのです。

 その膨張が止まり、さらにリーマン・ショックや欧州の信用不安などにより一段と金融機関の収益が圧迫されるようになりました。このため不正をしてまでも利益確保に走る者が現れ、今回のような事件が起きたものと思われます。

 また、英国銀行の不正がここにきて明らかになった背景には、米国の金融当局による欧米を中心とした大手金融機関に対する規制強化の動きも影響しているようです。いずれにせよ、今後は金融機関に対する規制はさらに強化され、金融機関への風当たりもますます強まり、金融機関や金融市場にとってはたいへん厳しい時代になることが予想されます。


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# by nihonkokusai | 2012-08-13 09:42 | 国際情勢

6月の海外からの日本国債への投資状況

 財務省は8月9日に6月の国際収支(速報)を発表した。これによると経常収支は前年比19.6%減の4333億円の黒字となった。「貿易・サービス収支」が赤字転化したことに加え、「所得収支」の黒字幅が前年同月比で縮小したことから、経常収支の黒字幅は縮小した。ただし、所得収支の縮小は利払いの集中する6月末日が週末と重なり7月にずれ込んだことが主因だそうである(ロイター)。

 国際収支の発表には、付表として対外・対内直接投資、対外・対内証券投資も発表されている(財務省トップページ > 国際政策 > 関連資料・データ > 国際収支状況 > 報道発表資料)。このうち、6月の対外・対内証券投資を確認してみたい。

 国内から海外の国債等への投資は、主要国・地域ソブリン債への対外証券投資で確認できる。米国債への国内からの投資は、ネットで6月は9466億円の増加となり、5月も9855億円の増加となっており2か月連続の増加となった。ユーロ圏の国債についてみると、6月のドイツのソブリン債への投資は3214億円の減少。フランスは185億円の減少、英国は920億円の増加となっていた。

 日本の債券に対する海外からの投資を見てみると、6月はネットで1兆6661億円の増加となり、5月の1兆6630億円の増加とほぼ近い増加となった。内訳としては中長期債が1兆2660億円、短期債が4001億円の増加となっていた。5月は中長期債が5247億円、短期債が1兆1383億円の増加となっていた。

 6月の対内証券投資の地域別内訳をみると、中長期債での購入額が大きいのが、英国の1兆3534億円、中国の1484億円。流出ではシンガポールの955億円、フランスの760億円。

 中長期債への英国の差し引き購入額し5月の3145億円増から1兆3534億円増となっており、ヘッジファンドなどが中長期債主体に購入してきたようである。

 短期債の購入が大きいのは、英国の5兆8434億円、中国の949億円。これに対して流出は、フランスの1兆795億円、ルクセンブルグの1兆7129億円、シンガポール3867億円、UAE2887億円、タイ2480億円等々。

 6月の日本の国債を主体とする債券への海外からの投資は英国経由もしくは中国を中心に継続しており、それが4月と同様に中長期債主体になっていた。6月の債券相場のじり高の背景には、こうした海外投資家からの長めの期間の国債買いも影響していたものと思われる。

 ちなみに8月8日に発表された7月の対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)によると、対内証券投資については中長期債が2554億円(6月が1兆2348億円)、短期債が5771億円(6月が3867億円)のそれぞれ取得超となっており、7月については中長期債の投資は6月に比べてやや手控えていたことがうかがえる。


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# by nihonkokusai | 2012-08-11 09:53 | 国債

「近いうち」と「近い将来」の違い

 「近い将来」と「近いうち」にはニュアンスからみて、どの程度の違いがあるのであろうか。「近い将来家を建てます」と「近いうち家を建てます」では、確かに「近いうち」のほうが現実味がある。このため、自民党の谷垣総裁は、8月に入り突然渋りだした消費増税法案の早期成立をあらためて受け入れたのであろうか・・・(たぶん何か別な要因があると思われるが)。

 7日から8日にかけて債券市場では国債が売られ、8日に10年債利回りは0.8%台に上昇している。ただし、0.8%であろうが長期金利が非常に低い位置に止まっているのは確かである。債券相場は久しぶりに動いて、先物もそれなりに崩れたが、この程度の下落は過去の下落相場に比べれば大きなものではなく、ごく普通の値幅である。

 しかも今回は昨日指摘したように債券先物のシステム障害による影響が多分にあり、また米債や株式市場の動向も影響していた。もし日本への信認が揺らいだとなれば、東京株式市場も売られてしかるべきではなかったろうか。さらには外為市場の動きを見ても日本売り、つまり円売りが入った形跡はあまり見られなかった。

 もちろん、今回の国債売りが消費増税の行方に全く関係なく、日本の財政再建の行方が国債市場には影響しないと言いたいわけではない。ただし、今回の国債市場の動きを見ても、政局の行方については、市場は一歩引いて見ていることが感じられるのである。

 毎月巨額の国債発行を肌身に感じている債券市場関係者にとり、日本の財政再建は避けられないとの認識を持つ人は多いはずである。それでも国債の入札は順調にこなしており、投資家の需要も引き続き強く、世界的なリスクオフの動きという海外要因もあるが、長期金利は1%を割り込んだままの状況が続いている。しかし、もし何かしらのきっかけで、この好循環の流れに変化が生じた場合には、大きな相場変動も起こりうる。ただし、それがそう簡単には起きない状況にあるのも事実である。

 今回の消費増税の行方については、むしろ三党合意が成立したことが意外、と見ている向きも多かったとみられる。もし仮に消費増税法案の成立が先送りされたとしても、国債相場が急落・暴落するようなことはなかったのではないかと思われる。現実に消費税が引き上げられても、財政に影響するのは数年先の話であるとともに、予定された引き上げでも国債発行額はそれほどは減額されないとの見込みとなっている。

 現在の国債市場の需給バランス等を見る限り、これが大きく崩れるとすればかなり衝撃的な材料がなければ難しい。民主党も自民党も財政再建は避けられないとの見方をしている限り、この安定した国債の需給バランスが変わらない限り、国債への信認失墜とかで急落することは考えづらい。

 ただし、国債も市場で取引されており、国債利回りが歴史的な低水準にあるというのも事実である。この背景には、米国やドイツなどの国債利回りの低下や円高など、欧州の信用危機を背景としたリスク回避の動きが根底にある。このため、こちらの動向に大きな変化が生じれば、日本国債も上昇相場から下落相場に転じる可能性がある。しかし、これはあくまで相場の上げ下げの一環である。

 つまり日本の国債市場は当面大量の国債発行を消化しうる土台があり、日本国債への信認を意識した仕掛け売りが成功するような状況にはない。ただし、永久にこの好環境が継続するということもまた考えられない。まだ消費増税を政局の道具にできるぐらいの余裕はあるのかもしれないが、いずれ真剣に財政再建に向けての舵取りをしなければ、取り返しのつかないことになるのも事実であろう。「近いうち」にはなくても「近い将来」に、日本の財政問題が国債市場で問題視される可能性がある限り、政治家はそのあたりを肝に銘じ、財政再建に向けた真剣な取り組みを行っていくべきではなかろうか。

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# by nihonkokusai | 2012-08-10 09:31 | 国債

債券先物の障害発生と債券相場下落の関係

 8月7日に東京証券取引所においてシステム障害が発生し、長期国債先物(債券先物、JGB先物とも呼称される)を含む金融派生商品の取引が9時22分から10時55分にかけて停止した。日経新聞によるとこれはルーターの故障が原因であったそうである。

 債券先物の取引がこのようにシステム障害などで一時停止すると何が起きるのが。債券先物は、国債を中心とした債券取引の大きなヘッジツールであるとともに、債券相場のベンチマークのような存在である。また、現物債などに比べてヘッジファンドなどの海外投資家の売買が盛んであるという特色を持っている。

 ヘッジツールという意味では、8日には40年国債の入札があったが、7年国債の価格に連動する長期国債先物を40年債入札でのヘッジに使うことはあまり考えられず、入札への影響は軽微であったと考えられる。しかし、これが5年国債や10年国債の入札であれば、債券先物をヘッジツールとして使うことが考えられるため、状況次第では国債入札そのものが延期されるような事態になった可能性もあった。

 債券相場のベンチマークという意味では、相場の居所が掴みづらくなることが考えられる。このため前回、大規模なシステム障害が起きた2008年7月22日には、現物取引も閑散となり、日本相互証券での現物取引もほとんど出合いがない状況に陥った。しかし、今回は長期債主体に現物売りが入り、7日の午前中の日本相互証券では、10年債利回りは前日比+0.030%の0.765%、30年債も+0.0030%の1.810%が売られていた。

 これは債券先物を買い建てていた投資家が、ヘッジとして長期債を売却した可能性とともに、政局の行方が影響していた可能性がある。自民党が衆院への内閣不信任決議案や、参院への首相問責決議案を提出する構えを見せたためで、もし消費増税が先送りされるようなことになると財政への懸念が強まり、国債への売り圧力が強まるとの連想である。

 たしかにこれが相場に大きく影響していたことは確かであり、その後さらに債券相場は売り圧力を強め、8日に10年債利回りは0.8%台に乗せてきた。債券先物も144円を大きく割り込んだ。これには海外での米債安や欧米の株高、さらには円高の動きが落ち着いてきたことなども背景としてはあろう。ただし、今回の債券の売りにはシステム障害がひとつのきっかけとなっただけでなく、海外投資家などからの売りを誘う大きな要因となった可能性がある。

 それは、今回と同様のシステム障害が債券先物で発生した2008年7月22日にも起きていたのである。当日の様子を私の当時のコラム「若き知」から見てみたい。

 「債券先物は後場に入り次第に上値が重くなり、あっさりと136円も割り込んだ。14時半近くには、ややまとまった売りが債券先物に入り、この時間に先週末比88銭安の135円68銭に下落した。同じ時間帯に、日経平均先物もやはり出来高を伴っての買いが入り、13180円に上昇。その後引けにかけて、再び日経平均が先物主導で上昇してきたこともあり、債券先物は一時先週末比91銭安の135円65銭をつけ、大引けは86銭安の135円70 銭となった。」

 このとき何が起きていたのか。これについては下記のようなコメントをしていた。

 「どうやら、債券先物買い、日経平均先物売りのポジションを組んでいた投資家がそのポジションを外してきた可能性がありそうである。これは債券先物のシステム障害が嫌気されて、債券先物に絡んだポジションを外してきた可能性も否定できない。」

 今回、8月7日と8日の日経平均先物は確かに上昇しており、債券先物は7日の後場に入り売り圧力を強めている。消費増税の先行きが不透明となり、これによる投資家からの売りが入った可能性はある。ただし、これまで消費増税の先送りの懸念など何度もあったはずで、今更このように反応することもやや違和感がある。もちろん2010年8月の小沢ショックと呼ばれた債券相場の下落が意識された可能性はないとは言えないが。

 しかし、今回も東証のシステム障害を嫌気した海外投資家などが、債券先物買い・日経平均先物売りのポジションを解く、もしくは日本の債券先物ポジションを縮小させたような動きが出ていた可能性がありうる。

 さすがに2008年7月というリーマン・ショック前の頃に比べれば、値動きの大きさに違いはあるものの、今回もこれまであまり日中の動きがなかっただけに、久しぶりに大きく売られたとの印象がある。これにより相場そのものの方向性が変わったり、あらためて日本の財政が材料視されることになるのかもしれない。しかし、8月7日から8日にかけての今回の債券相場の下落は、このシステム障害そのものが2008年7月22日と同様に大きく影響した可能性が高いのではないかと思われる。


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# by nihonkokusai | 2012-08-09 09:26 | 債券市場

8月8日、9日の金融政策決定会合の予想

 8月8日、9日に日銀は金融政策決定会合を開催する。前回7月11日、12日の決定会合以降、日本の景況感に大きな変化はない。金融政策については現状維持となると予想される。

 7月25日の講演で山口副総裁は、「何らかのショックによって見通しが下振れたり、見通しを巡るリスクが大きく高まるような場合には、追加的な金融緩和を実施することを躊躇しません。」と発言していた。

 7月の会合以降、スペインへの財政懸念によるリスク回避の動きが強まり、スペインの10年債利回りは再び7%台に乗せ、外為市場ではユーロ円が95円を割り込むなど円高が進行し、欧米の株安もあり、日経平均も一時8300円を割り込んだ。しかし、その後はやや株も持ち直しており、円高の動きも一服している。一時リスクは大きく高まったものの、その後は落ち着きを取り戻しつつある。

 7月31日、8月1日に開催されたFOMCでは金融政策は現状維持となり、QE3とか超過準備の付利の引き下げもなし、超低金利政策の継続期間についても、2014年の遅くまでとの表現を据え置いた。8月2日のECB政策理事会でも主要政策金利であるリファイナンス金利を0.75%に据え置いた。ただし、記者会見でドラギ総裁は、利下げの可能性について討議したことも明らかにした上、短期債主体にイタリアやスペイン国債の買い入れの準備を進めていることは表明した。

 ECBは追加策を出さなかった上に国債買入も具体的な内容が発表されず、ドイツ連銀のバイトマン総裁が国債買入に反対したことが明らかなり、市場では一時リスク回避の動きを強めることとなった。

 しかし、その後、市場は冷静さを取り戻し、短期債主体のイタリアやスペイン国債の買い入れ実施の可能性を意識した動きも出て、7月25日には7%を越えていたスペインの2年債利回りはここにきて3%台に低下した。

 欧州の動向も日銀の金融政策には大きな影響がある上に、FRBがもし動きを見せていれば、為替動向も意識して日銀が追加緩和に動く可能性はあったが、欧州の動向はやや落ち着き、FRBも動きを見せなかったことで、日銀も追加緩和に動く可能性は少ない。

 ただし、市場では今回から新審議委員が2人参加することで政策委員会の様子が変わるのではないかとの見方があり、また、日銀による国債の買入での未達が起きたことで1年を越える期間の国債でも買い入れの際の下限金利を撤廃するのではないかとの見方もある。

 これについては、まずマスコミ等でハト派と意識されている佐藤審議委員・木内審議委員が今回の決定会合から参加することで、追加緩和に前向きの動きが出るのではとの期待があるかもしれない。しかし、審議委員は日銀役員であるが、2人は日銀プロパー出身ではないことで日銀の業務などについても詳しく知る必要がある。また、少し様子を見たいと、期間をおいて状況を確認したいとするはずで、いきなり追加緩和を議事提案するようなことはしないと思われる。そもそも佐藤氏はさておき、木内氏あたりはそれほどハト派との認識ではない。2人が加わってもいきなり追加緩和に傾斜するようなことはないと思われる。

 7月31日の2年国債の入札で落札利回りが0.1%を下回った。さらに1日の残存期間1年以上2年以下、および2年超3年以下を対象にした基金による国債買入において、未達が発生した。このため残存1年を越える長期国債の買入れについても、下限金利を撤廃するのではないかとの観測がある。

 そもそも、下限金利については決定会合の決定事項ではなく、いつ決めてもおかしくはない。実際に7月12日の金融政策決定会合で、基金を通じた短国買入の入札下限金利の0.1%の撤廃は発表したが、7月17日に基金ではなく通常の長期国債買い入れ(輪番オペ)においても残存期間1年以下を対象に0.1%の下限金利を撤廃している。タイミングはさておき、今回の決定会合で残存1年以上の長期国債の買入の際の下限金利を撤廃するかどうかは、8月2日の森本審議委員の会見での発言が参考になりそうである。

 「長期国債の買入れについては、昨日発生した札割れがこれからも続くのか、そうした中でオペの運用上の工夫で、それが上手くクリアされていくのかを見極めながら、引き続き、資産買入れは着実にしっかり進めていきたいと考えています。」(8月2日の森本審議委員の会見より)

 8月6日の国債買入(輪番オペ)において残存期間1年以下と残存1年超10年以下の2本がオファーされたが、未達は免れており、もう少し状況を見るのではないかと思われる。このため、今回の決定会合での、残存1年以上の国債買入の際の下限金利撤廃のアナウンスもないのではないか予想している。

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# by nihonkokusai | 2012-08-08 09:27 | 日銀
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