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日銀短観は改善続く

 12月15日に発表された12月の日銀短観は、大企業製造業の業況判断指数(DI)がプラス25となり、前回9月調査のプラス22から3ポイント改善した。2006年12月のプラス25以来11年ぶりの高水準となった。5四半期(1年3か月)連続の改善となる。

 先行きについてはプラス19と伸び悩む予想となっているが、9月調査での3か月先の見通しも足元のプラス22からブラス19に落ち込む見通しとなっていた。企業の先行き見通しは外部要因などに不透明材料もあり、慎重となっているが、景気の拡大基調は維持される可能性は十分ありうる。

 2017年度の事業計画の前提となる想定為替レート(ドル円)は大企業・製造業で110円18銭と、実勢レートより円高ドル安となっている。ちなみに9月時点での想定為替レートは109円29銭となっていた。

 製造業の中堅企業は足元DIがプラス19、先行きプラス14。中小企業が足元プラス15、先行きプラス11となっていた。

 非製造業については大企業が足元DIがプラス23、先行きプラス20。中堅企業は足元DIがプラス20、先行きプラス14。中小企業が足元プラス9、先行きプラス5。

 人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いた雇用人員判断DIは大企業・全産業がマイナス19となり、前回のマイナス18から低下した。これは1992年3月のマイナス24以来のマイナス幅となり、先行きもマイナス20となっている。人手不足が継続していることを示している。

 2017年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含む設備投資額、除く土地投資額)は大企業・全産業が前年度比7.4%増となっていた。

 大企業・製造業の販売価格判断DIはプラス1と、前回のゼロから1ポイント上昇となった。プラスとなるのは2008年9月のプラス11以来9年ぶりだそうである(日経QUICKニュースより)。

 日銀短観は総じてしっかり。海外経済の回復を背景に、輸出が引き続き堅調に推移し、設備投資も好調となっている。先行きについては、北朝鮮問題、英国のEU離脱問題、米政権の先行き不透明感等々の懸念材料はあるものの、いまのところ景気に悪影響を及ぼすようなものとはなっていない。雇用の改善も継続しており、欧米の景気動向も物価上昇は伴わないものの、回復基調が継続している。

 この日銀短観を見る限り、日本の経済実態は非常に好調としか見えないのであるが、日銀の金融政策をみると、何故か非常時の異次元緩和が続いている。こちらの方が異常に見えてしまうのだが。


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# by nihonkokusai | 2017-12-16 12:06 | 景気物価動向 | Comments(0)

紙幣はどのようにして誕生したのか

 中国の唐の時代の後期には、茶・塩・絹などの遠距離取引が盛んになるなど商業の発達に伴い銭貨の搬送を回避する手段として「飛銭」と呼ばれた送金手形制度が発生した。高額商品の売買には銭貨の「開元通宝」などでは量がかさんでしまう上、途中での盗賊などによる盗難の危険もあった。このため、長安や洛陽などの大都市と地方都市や特産品の産地などを結んで、当初は民間の富商と地方の商人との間によって「飛銭」という送金手形制度が開始された。

 これはたいへん便利なものであるとともに、手数料収入に目を付けた節度使(地方の軍司令官)や三司(財政のトップ)などもこれを模倣した。飛銭を利用する際に使われた証明書(預り証)が、宋代になると交子・会子・交鈔・交引などと呼ばれ、証明書それ自体が現金の代わりとして取引の支払に用いられるようになった。特に四川地方で発行された交子は世界史上初の紙幣とされている。

 紙幣はたいへん便利なものであったことで、その需要が増え、それに目をつけた政府は軍事費に当てるための財源として交子を乱発し、その価値を失ってしまった。政府に発行をまかせると紙片を乱発しかねないのは歴史が証明している。その後、新たな紙幣を発行するものの、やはり信用を落としてしまい、最終的には銅銭が復活することになった。

 しかし、なぜ中国で世界最初の紙幣が誕生したのであろうか。貨幣の材料となる貴金属などの産出が限られていたこともあるが、宋や元の時代の国家権力が強かったことも要因であろう。それとともに遠隔地との交易など商業の発達がそれを促したものといえよう。忘れてならないのは、紙そのものが中国で発明されたものであり、さらに印刷術も発達していたことが、紙幣の発行を可能にしたといえる。マルコ・ポーロの「東方見聞録」には、元で通貨ではなく紙幣で買い物をする様子を見て驚く場面が登場する。

 日本における現存する最古の紙幣は、1610年に伊勢の山田において、支払いを約束する預り証の形式をとって発行された山田羽書(はがき)とされる。

 伊勢神宮に仕える有力商人が、高い信用力と宗教的権威を背景に、釣銭などの煩わしさを少なくするために発行された紙幣であり、額面金額も銀1匁以下の小額となっていた。形や文様が統一されたことで、不特定多数の人々に交換手段として利用が可能なように作られており「紙幣」として利用されたのである。

 世界で最古の紙幣は10世紀に四川地方で発行された交子とされるが、日本はこれに次いで世界で二番目に古く紙幣を発行していたことになる。

 その後、私札は伊勢国、大和国、摂津国など近畿地方を中心に、有力商人がその「信用力」を元に発行し、室町時代末期から江戸時代初期にかけて約60年の間、流通した。

 こうした私札に目をつけた各藩が発行したのが「藩札」と呼ばれる紙幣である。藩札の最初は1630年に始まった備後の福山版のものと言われているが現物は残っておらず、現存するものとしては1661年の福井藩の札が最古のものとなっている。

 私札も藩札も江戸時代後期まで、ほとんど銀立の額面で発行されていたが、これは西日本では銀が経済の主流であったことが要因である。

 紙幣については乱脈な発行によるインフレへの懸念とともに、偽札の問題が生じる。世界で最初に紙幣を発行した中国では、偽札防止のため細かな文字や文様などを組み合わせ簡単には真似のできない工夫がされていたが、日本の藩札も同様に色刷りや透かしなどが実用化されていた。1856年に浜松藩が出した銀札にはオランダ語を入れるなどの工夫も行っていたのである。


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# by nihonkokusai | 2017-12-14 09:36 | Comments(0)

ビットコインと比較された大陸紙幣とは何か

 グリーンスパン元FRB議長は6日の米テレビ番組で仮想通貨ビットコインについて、独立戦争時の「大陸紙幣」を例に、元々無価値なものでも、人々が転売可能だと信じれば新たに価値を持ち交換が始まると解説した(日経新聞電子版)。

 仮想通貨ビットコインは日本時間の12月11日午前8時より、米国のシカゴ・オプション取引所(CBOE)でビットコイン先物取引がスタートした。18日にはシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)もビットコイン先物を上場する予定となっている。

 ビットコインについては、12日の日経新聞一面でも取りあげられており、10~11月は世界全体の取引の4割を日本円が占めているという記事が出ていた。個人の大手投機家なども動いているようではあるが、比較的若い世代が投機目的で利用しているようである。

 このように特に日本での注目度が高いが、欧米の中央銀行関係者などからもビットコインに対するコメントも出ており、グリーンスパン元FRB議長もたぶん質問に答える格好で、「大陸紙幣」を例に解説したものと思われる。ここで注目したかったのは、この「大陸紙幣」である。

 大陸紙幣について「お札と切手の博物館」のサイトに解説があった。それによると、「西洋では、当初、民間銀行がお札を発行していましたが、アメリカ大陸では、1690年から植民地政府がお札を発行するようになり、アメリカ独立戦争(1775年~1783年)が始まると、13植民地が結集した大陸会議が「大陸紙幣」を発行します」とあった。

 アメリカがイギリスの植民地だったころは当然ながら、独自の貨幣はなく、イギリスやスペインの貨幣を使用していた。アメリカがイギリスに対して独立戦争を始めたときには、膨大な軍費をまかなうため紙幣を発行せざるをえなくなり、その結果、発行されたのが「Continental (大陸紙幣)」と呼ばれた紙幣であった。

 「お札と切手の博物館」のサイトによると。「大陸紙幣は、名刺ほどの大きさで、ぼろ布を原料に雲母などをすき込んだ紙に、凸版印刷が施されています。・・・裏面の葉の模様は、ベンジャミン・フランクリンが発明した偽造防止法で、自然の葉脈の複雑さを利用したものです。」

 一応、紙幣の様相は整えてあったようではあり、独立戦争時の事実上唯一の通貨になったものの多発され、戦争が終わるころにはその価値は紙切れ同然となった。全く値打ちがないことを「1コンチネンタル(大陸紙幣)ほどの値打ちもない(not worth a continental)」と表現されたとも言われているほどである。

 グリーンスパン元FRB議長は、ビットコインも大陸紙幣と同様の結末を迎えるのではないかと予想しての今回の発言であったかと思われる。しかし、大陸紙幣は植民地政府が発行したものであり、ビットコインは民間が発行したものという大きな違いもある。ただし、いずれにしても紙幣はそれに対する信任が失われると無価値となりうる。それには乱発も大きな要因になりうることも示している。


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# by nihonkokusai | 2017-12-13 09:55 | 金融の歴史 | Comments(0)

米追加利上げは確定的か

 米労働省が8日に発表した11月の米雇用統計(速報値、季節調整済み)は、景気動向を敏感に映す非農業雇用者数が前月比22万8千人増となった。これは事前の市場予想を上回った。

 失業率は4.1%と前月比横ばいと予想通り。ただしこの失業率の水準はFRBが完全雇用とみる水準よりも低い。

 インフレ率の動向を占ううえで注目される平均時給は前年同月比2.5%増と、前月の2.4%増から小幅に伸びが加速したものの、賃金上昇が強まらない状況が続いている。

 8日の米国市場では、平均時給の伸び鈍化で米債が買われる場面もあったが、非農業雇用者数の予想以上の増加を素直に景気の拡大基調と捉えて、株が買われ、米債は小幅ながら下落した。8日のダウ平均は117ドル高となり最高値を更新した。ドル円も113円台半ばまで上昇しており、11日の東京時間では113円台後半に上昇し、114円を伺うような動きとなっている。

 米議会上下両院は7日に、8日が期限となっていた連邦予算について22日までのつなぎ予算を可決した。トランプ大統領が署名し成立した。ひとまず政府機関の閉鎖を巡る懸念が後退したことも、米国市場でのリスクオンのような動きの背景にあった。ただし、今回はそれほど政府機関の閉鎖を巡る懸念が強まっていたわけではない。

 さらに英国の欧州連合(EU)離脱交渉を巡り、英国のメイ首相とユンケル欧州委員長が8日に離脱条件について大筋合意したことも、目先の懸念を払拭させた。メイ首相は、EU離脱後にアイルランドとの国境に「ハードボーダー」(厳格な国境管理)は導入されず、ベルファスト合意(1998年)と呼ばれる英国とアイルランドの和平合意の内容は維持されると述べた。これを受けて8日の欧州株式市場はロンドン株式市場を含めて上昇した(ただし、デービス英離脱担当相が8日の合意を英国が必ずしも順守しない可能性を示唆している)。

 このように8日にはいくつかの懸念材料が後退したことで、リスクオンの動きを強めた。外為市場では円が売られ、米国やドイツ、そして英国の国債が売られ、欧米の株式市場は上昇したことからも、それが伺える。そして今後は欧米の中銀の金融政策の行方も注目材料となる。

 11日の週は欧米中銀の金融政策を決める会合が相次いで開かれる。最大の注目は12日から13日にかけて開催されるFOMCか。米雇用統計もしっかりしていたことで、予定通り追加利上げが決定されよう。来年2月の退任が決まっているイエレン議長の会見内容にも注意したい。

 13日、14日にはイングランド銀行のMPCが開催される。11月のMPCで10年ぶりの利上げを決定したが、追加利上げにはかなり慎重のようで今回は現状維持と予想される。しかし、あらためて追加利上げの可能性を示唆する可能性もありうるか。金融政策を決定する際の賛否の行方についても注意したい。

 14日にはECB理事会が開催される。すでに2018年1月以降、月間の資産買入額を月600億ユーロから300億ユーロに縮小することを決定しているが、今後の正常化に向けた道筋を明らかにしてくるのかにも注目したい。


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# by nihonkokusai | 2017-12-12 09:41 | 中央銀行 | Comments(0)

高額紙幣廃止論のここがおかしい

 元イングランド銀行金融政策委員のブイター氏は11月20日付けの日本経済新聞において、現金の撤廃について下記のようにコメントしていた。

 「第1に現金をすべて廃止すれば、金利のゼロ下限(または実効下限)制約がなくなる。」

 中央銀行がマイナス金利政策を行って、預金金利をマイナスとしても、現金には当然ながらマイナス金利は適用できない。だからマイナス金利政策の効果が出にくい。このため、現金を廃止すれば、その効果が高まるとの見方である。しかし、本当にマイナス金利政策が需要を刺激できるのについては、かなり疑問が残る。

 「第2に現金は決済手段として非効率だ。金融の発達した国では、もっと効率的な様々な決済手段が存在する。」

 金融が極度に発達し、現金が国内であればどこでも安心して利用できるシステムが日本で構築されている。偽札の横行もほとんどなく、その意味では日本は金融の後進国ではありえない。日本では現金決済というシステムが高度に発達し、匿名性もあることで多少のリスクや費用が掛かっても現金を保有するというインセンティブが働き、その結果が100兆円もの現金流通量となっている。

 効率的な決済とは、スマートフォンを使った非接触型決済などであり、中国でのアリペイなどを指そうが、中国は金融システムの発達が遅れ、現金が利用しにくいために、インフラ整備の遅れが、新技術の普及を広めていったとは言えまいか。

 日本でもプリペイドカードを利用した少額貨幣での取引についてはキャッシュレス化は進んでいる。ただし、スウェーデンのスウィッシュや中国のアリペイやウィーチャットペイのように特定のアプリに集中していない。利便性の高くシェアの大きなアプリが出てくれば、一気に普及する可能性がある。

 「第3に現金には匿名性が備わっているため、非合法取引の決済や犯罪者の価値貯蔵の格好の手段となっている。また脱税、資本規制逃れ、資金洗浄(マネーロンダリング)、犯罪やテロの資金調達が容易になるという弊害もある。」

 現金は確かに匿名性を有しており、それが日本人の現金保有の要因のひとつになっている可能性はある。しかし、日本が脱税天国であり、マネーロンダリングやテロの資金調達に日銀券が大量に利用されていることは考えづらい。

 「日本は先進国の中で現金決済の占める比率が極めて高いので、特に問題が大きいと考えられる」とブイター氏は指摘するが、日本の現金比率の高さは犯罪に使われているというより、発達した金融システムにより、現金利用が便利なためとも言えるのではなかろうか。


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# by nihonkokusai | 2017-12-11 10:08 | 金融 | Comments(0)

FinTech(フィンテック)とは何か

 いまさらではあるが、FinTech(フィンテック)と呼ばれる用語について考えてみたい。FinTechとは金融を意味するファイナンス(Finance)と、技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語である。情報技術を金融サービスに利用して新しいサービスを生み出す動きともされている。

 この代表例としてビットコインが挙げられている。その値上がりピッチの早さもあって、ニュースなどでも紹介されているビットコインではあるが、その位置づけがはっきりしているわけではない。法的に金銭と評価することは現時点では難しいと、日銀の「FinTech 勉強会」における議論でもなされている。この日銀での議論のなかでは次のような指摘もあった。

 「しかしながら、ブロックチェーンや分散型台帳技術を利用する分散管理型ネットワークの特性といった新しい要素は、従来のパラダイムを大きく転換し得る観点を孕んでおり近年、様々な議論が行われている。」

 確かにブロックチェーンや分散型台帳技術についてはいろいろな応用が期待できるが、それが金融そのものを根本的に変えるかどうかは不透明である。世間の注目度としては、あらたな通貨が生まれたことで、その行方と言うか価格動向のみに注目が集まっているかのように思われる。

 ビットコインがバブルであるかどうかは、弾けてみないとわからない。しかし、その値動きは17世紀のオランダでのチューリップ価格の動きを連想させるものとなっている。チューリップであれば、それが綺麗で珍しいものであるのかは視覚や聴覚などで確認できても、電子通貨には実態はなく、あくまで価格の動きでしかない。その価値を適切に把握する手段もない。オランダのチューリップもその希少性のみで価格が上昇し、買いが買いを呼ぶことになったことで、適正価格なるものがあったわけでもなさそうである。

 私自身はFinTech(フィンテック)という用語については、懐疑的というかそれが金融の未来を変えうるものといったイメージはない。そもそも金融の世界は情報技術とともに発展していたものであり、何をいまさらといった感もある。

 コンピュータが生まれ、それを真っ先に利用した業態といえるのが金融業界であった。証券取引所のシステム化の歴史、銀行や証券会社によるシステム化の歴史をみればそれが明らかであろう。金融取引と情報技術は極めて相性が良い。だからこそFinTech(フィンテック)という用語は決して新しいものとは言えないと個人的には思っている。その代表格がビットコインとあっては尚更感も強いのである。ただし、モバイル決済などについては金融決済を今まで以上に容易にさせうるものであり、それがさらに普及するであろうとは思う。しかし、これもあくまで新たな決済方式というよりも、情報技術を使っての利便性の向上にすぎないのではなかろうか。


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# by nihonkokusai | 2017-12-09 14:27 | 金融 | Comments(0)

仮想通貨とモバイル決済と高額紙幣廃止議論

 ビットコインを代表とする仮想通貨、中国やスウェーデンなどで利用が拡大しているモバイル決済、インドなどでの高額紙幣廃止等々動きなどから、日本での1万円札廃止論なども出ている。これはハーバード大学のケネス・ロゴフ氏による日本での高額紙幣廃止論がひとつのきっかけとみられるが、仮想通貨とモバイル決済、高額紙幣問題は、キャッシュレス化社会としての動きとしてトータルで捉えるよりも、それぞれ切り離して考えるべきものではなかろうか。

 ビットコインを代表とする仮想通貨であるが、自国の通貨に信用のおけなくなった国であれば代替通貨としての利用も考えられるが、法定通貨である円に対する信認が強い日本では、通貨としての利用は考えづらい。仮想通貨は通貨と称しているもののネットを通じた仮想の金融取引手法であり、投機的に利用されているだけである。その値動きからも17世紀のオランダのチューリップバブルと類似しているものである。仮にビットコインバブルが弾けようと、実態経済への影響はほとんどないのではなかろうか。

 キャッシュレス社会が到来かと騒がれている中国などでのモバイル決済普及の動きについては、たとえば通常の電話網が整備されていないところで急速に携帯電話が普及したようなもので、現金利用に障害があることで、モバイル決済の普及が進んだといえる。さらに日本はモバイル決済の後進国などではなく、少額貨幣の利用ではキャッシュレス化は進んでいる。ただし、アプリなどの寡占化が行われず、各種のカードやアプリが乱立してしまっていることで、中国などに比べて普及が進んでいないかのような印象となっている。

 問題なのは高額紙幣問題であるが、ケネス・ロゴフ氏は日本での現金流通水準の高さ、1万円札など高額紙幣の利用度の高さの要因はマネーロンダリングや脱税などの犯罪行為に高額紙幣が利用されているためとしている。日本での1万円札など現金が異常に利用されているのは何故なのか。マネーロンダリングやテロの資金調達などに日銀券が使われている可能性は全くないとまでは言い切れないものの極めて低いと思われる。

 問題となるのは現金の匿名性を利用した脱税への利用であるが、これについては存在する可能性はある。昔の証券会社などにとっての金融商品販売の主力商品が割引金融債であったが、これは金融商品としてだけでなく、匿名性を利用した相続などでの脱税などにも利用されていた可能性があった。

 現在は中期ゾーンの国債の利回りもマイナスとなっているため、利息ゼロの現金のほうが中期債に比べれば利回りが高い状況となっている。保管費用はかかっても、多額の現金をしまい込んでいる富裕層がいる可能性は否定できない。ときおり所有者不明の多額の現金が発見されるが、それも税金対策などであった可能性はありうる。

 だからといって現金を廃止すべきというのはやや極論ではなかろうか。日本国内での現金利用率の高さは、決済等含めたその使い勝手の良さが大きく影響している。治安の良さ、現金をATMで引き出せる利便性、偽札が少ないこと、紙幣がクリーンであることなど、それなりの費用をかけて現金が利用されやすいインフラが整備されている。

 キャッシュレス化はその費用を軽減させることになるが、それには特定の使いやすいアプリなども必要となろう。ただ、高齢者にとってはモバイル決済は馴染みにくい面もある。脱税を防ぎ、キャッシュレス化を進展させるために高額紙幣を廃止するという議論は極端すぎるし、日本社会に混乱を招きかねない。いずれ否応なくモバイル決済などを通じたキャッシュレス化は進むであろうし、日銀がマイナス金利政策をやめれば、保管費用のかかる現金保有は減ることも予想される。


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# by nihonkokusai | 2017-12-08 10:08 | 金融 | Comments(0)

日銀総裁が指摘したリバーサル・レートの議論

 日銀の黒田総裁は、11月13日のスイス・チューリッヒ大学における講演で、「金融仲介機能への影響という点では、最近、「リバーサル・レート」の議論が注目を集めています」と発言し、市場関係者の注目を集めた。黒田総裁はリバーサル・レートについて以下のように説明していた。

 「これは、金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。」

 リバーサル・レートについては、講演議事要旨の注釈に「Markus K. Brunnermeier and Yann Koby (2017), "The Reversal Interest Rate: An Effective Lower Bound on Monetary Policy," mimeoを参照」とあり、米国のプリンストン大学のブルネルマイアー教授の論文を引用した。リバーサル・レートとはブルネルマイアー教授が考案した概念で、金利がある一定水準を下回ると、かえって貸し出しなど金融仲介機能に悪影響を与えるとの議論である。

 リバーサル・レートの議論は、大胆な金融緩和策の副作用ともいえるものであり、何故、黒田総裁はこのタイミングで、この議論を海外の講演で紹介したのか。

 日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和と称する大規模な金融緩和策を行っている。いろいろな緩和策をくっつけたような名称となっているが、現実には量的・質的緩和とその後のマイナス金利政策にいろいろな意味で限界や副作用が生じ、それを修正するための手段との見方もできる。

 2016年1月のマイナス金利付き量的・質的緩和の導入については金融界からの批判が相次いだ。現実にここにきてメガバンクが大量のリストラ策を発表しているのも、マイナス金利による影響が大きい。マイナス金利政策はECBなどがすでに実施していたが、その効果は見えないにも関わらず、金融機関への収益を大きく悪化させかねないものである。そのため、マイナス金利政策の修正を行ったのが、同年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和策である。

 長短金利操作付き量的・質的金融緩和策は一見、短期金利に加えて長期金利も操作目標に加え、追加緩和のようにみえる。しかし、その実態は長めの期間の金利を引き上げ、イールドカーブを少しでもスティープ化させて、金融機関の運用に対する悪影響を軽減させるものである。また操作目標を量から金利に変えたことで、量への呪縛を解くこととなった。

 これにより、日銀は国債の保有残高の増加額年間約80兆円という数字は残しているものの、実質は40兆円台となるなどステルステーパリングを行うことが可能となった。これに対して市場は緩和策ではなくなっているのではとの印象よりも、日銀の国債買入への限界を気にしていたことでその不安が多少なり解消されたことをむしろ好感した。長期金利に目標が課せられたことで、国債の利回りが大きく跳ね上がることも抑えられることになった。

 日銀の黒田総裁がこのタイミングでリバーサル・レートの議論を紹介したのは、さらなる利下げ観測を牽制したとか、今後の異次元緩和からの微調整の可能性を示唆したとの見方もできなくはない。しかし、それよりも日銀の現在の政策である「長短金利操作付き量的・質的緩和」がリバーサル・レートも意識した上での政策であることを示す目的もあったのではなかろうか。


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# by nihonkokusai | 2017-12-06 10:00 | 日銀 | Comments(0)

チューリップバブルと類似するビットコイン

 欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁(ポルトガル出身)は、17世紀に発生したチューリップバブルを引き合いに出し、「ビットコインはチューリップのようなものだと言える。数日間で40%、50%上げ下げするものに賭けたい人のための投機手段だが、通貨でないことは確実だ。中央銀行や金融政策への脅威になるとは見ていないことは確かだ」と述べた(ブルームバーグ)。

 現在のビットコインの状況をみるとコインという名称は付いているものの、通貨としての利用というよりは、一部の人達による投機的な利用が主体のように思われ、チューリップバブルをイメージするというのは適切ではなかろうか。それでは17世紀にオランダで起きたチューリップバブルとはどのようなものであったのか、振り返ってみたい。

 17世紀はじめのオランダは、商人が世界各地に進出し、ヨーロッパで最も経済が発達した国となった。所得水準がヨーロッパで最高となり、消費や投資が活発化した。株式会社に加え、銀行、複式簿記、為替手形、そして証券市場などが発達し商業資本主義の基礎を築き上げた。

 世界最初の中央銀行はスウェーデンのリクスバンクと言われているが、1609年に市の条例で設立されたアムステルダム振替銀行ではないかとの見方もある。預金には金利はつかず、保有する金の範囲でしか紙幣を発行せず、融資はほとんど行わなかった。こうしたアムステルダム振替銀行の高い信用などを背景に外国為替の割引が活発に行われ、これによりアムステルダムが国際的な取引で支配的な地位を確立したのである。

 1530年に設立されたアムステルダム取引所では商品、為替、株式、債券そして海上保険などあらゆる種類の金融商品や金融サービスが売買されていた。取引の主流は先物取引となり、穀物や香料、砂糖や銅、硝石などの先物取引が行われていた。

 オランダでは、その地形や気候により花の栽培に適しており、特に好まれたのがチューリップ栽培であった。オスマン・トルコからチューリップが持ち込まれた当初は、貴族や商人など一部の収集家だけで取引されていたが、1634年あたりから一般個人も値上がり益を狙って、チューリップ市場に参入するようになった。

 珍しい品種が高値で取引されるようになり、1636年から1637年にかけて投機熱は最高潮に達した。居酒屋などで行われた先物取引などが主体となり、次第に実態のない取引が行われるようになる。珍しい球根は家一件分といったように、すでに価格は現実からかけ離れたものとなり、貴重品種以外の品種も高値で取引されるようになった。

 1637年2月にチューリップ市場は突然暴落した。暴落の理由らしい理由はなかったものの、春になると受け渡しの期日が来ることで、その前に売ろうとしたところ、買いが入らず、売りが売りを呼ぶ展開となったのではないかといわれる。先物の決済が行われず、債務不履行が次々に起こる。混乱が収まったのはやっと政府が乗り出した1638年5月である。

 数千人規模で支払いきれない債務者がいたといわれたオランダのチューリップバブルであるが(バブルという言葉そのものはのちの南海バブルから)、そのバブル崩壊による実態経済への影響はほとんどなかったといわれている。このためチューリップの熱狂が本当にあったのかどうか疑問視する見方もあるが、これをきっかにオランダのチューリップが世界的に広く認識され、オランダでの花き産業が発達していったことも事実である。


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# by nihonkokusai | 2017-12-05 09:37 | 金融の歴史 | Comments(0)

中国のスマホ決済の急速な普及と日本の実情

 11月28日付けの日経新聞によると中国で「生活インフラ」として定着したスマートフォン(スマホ)決済が2年で6倍に増え、年間660兆円にも達したそうである。上海の一角に密集する八百屋や雑貨店など20店に聞くと、電子決済を使えないのは婦人靴店1店のみだとか。中国のスマホ決済は「支付宝(アリペイ)」と「ウィーチャットペイ」の2強に延べ12億人が登録しているそうである。

 北京や上海で財布から現金を出して払っている人といえば、老人か外国人旅行者ばかりだとの指摘もあり、中国は大都市だけでなく内陸部でも交通や食事など、どんな支払いでも決済アプリで簡単にできてしまうようである。

 なぜ中国ではこのように急速にキャッシュレス化が進んでいたのか。それに対して日本ではキャッシュレス化が遅れているようにみえるのか。

 それは日本では現金が全国で流通できる社会基盤が充実していたことで、現金での決済の利用が便利であったためといえる。これに対して中国では日本よりも偽札が多く、また治安も日本に比べて良くない面も指摘され、現金の利用が日本に比べてリスクが高いことがあった。そこに急速なスマートフォンの普及があり、アプリでの簡易決済が可能となったことで現金を持ち歩くリスクもなく、気軽に使える決済方式が急速に普及したものと思われる。

 インフラ整備の遅れが、むしろ新技術の普及を広めていった事例のひとつとも言えるのではなかろうか。それでは今後、日本でもスマートフォン決済、モバイル決済が普及する可能性はあるのであろうか。

 キャッシュレス化が進んでいる国としてはスウェーデンもある。スウェーデンでは複数の有力銀行が共同で開発したスウィッシュ(Swish)と呼ばれるモバイル決済が広く使われている。

 日本では現金の決済が便利なため、中国やスウェーデンのように一気にモバイル決済が普及することは現状考えづらい。しかしSuicaなどJRのカードやnanacoなどのコンビニのカードを使うことで小銭を持ち歩くことも少なくなった人も多い。少額貨幣についてはキャッシュレス化は進んでいる。

 スマートフォンの普及も中国ほどではないが、日本でも進みつつあり、今後、国内で使いやすいアプリが出てくれば一気に普及する可能性はある。国内大手銀行なども三菱UFJがMUFGコインを発表するなど、銀行口座のお金をスマートフォンで簡単に支払えるような仕組みが検討されている。銀行別のアプリとかではむしろ使いづらい面もあるが、スウェーデンのように複数の有力銀行が共同開発とかなれば使い勝手も良くなる可能性もあるのではなかろうか。


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# by nihonkokusai | 2017-12-04 09:54 | 金融 | Comments(0)
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「債券ディーリングルーム」ブログ版


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