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日銀の政策立て直しへの注意点

 9月の日銀金融政策決定会合での総括的な検証を元にして、日銀は金融政策そのものの立て直しを図る可能性がある。しかし、その際に注意すべきポイントがいくつか存在する。


 そのひとつが2013年1月に内閣府と財務省、日本銀行の連名で公表された「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同文書である。いわやるアコードである。このなかに下記の文章が存在する。

 「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。」


 日銀はここで「消費者物価の前年比上昇率で2%」という物価目標を設定している。これは政府との約束事でもあり、日銀が独自でこの旗を降ろすことはできない。もしこの日銀の目標を名目GDPに変えるとか目標の数字を変えるとなれば、あらためて政府と共同文書を結び直す必要がある。これは日銀単独の作業とはならない(日銀が自ら縛りをつけてしまった感もあるが)。


 この共同文書には下記の文章も存在していた。


 「日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく。」


 9月の日銀の総活はこの共同文書の趣旨に則ったものとの見方もできるかもしれない。そうであれば、「金融面での不均衡の蓄積」などが総活のひとつのポイントになる可能性がある。特にマイナス金利政策でこの面のリスクが指摘されており、マイナス金利政策については深掘りどころか、その修正が求められることになると予想される。


 そして量という側面からみると日銀の政策を縛りかねない別の目標が存在する。それがこの共同文書が出されてから数か月後に決まった「量的・質的緩和政策」にある。2013年4月4日の金融政策決定会合議事要旨には下記のような記述がある。


 「量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、金融市場調節方針を以下のとおりとする。」


 現在の日銀の金融政策の操作目標は何かと出題されたら、公定歩合や無担保コール翌日物金利という解答は不正解である。答えはマネタリーベースとなる。つまり、日銀にとっては本来、金融政策の変更を行うのであればこのマネタリーベースの数字を変える必要があったはずである。たとえば政策目標が公定歩合であったときはその金利の上げ下げが政策変更であった。


 日銀は2014年10月に量的・質的緩和政策の拡大を決定した際にマネタリーベースの目標値を変更したが、今年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入の際には、この政策目標の変更はせずにマイナス金利に該当するものが政策金利であることも明確にしないなかでの政策変更を行っている。


 このあたりから操作目標がかなり曖昧となってしまった。今年7月にはやはりマネタリーベースの目標は据え置いて、ETFの買入れ額の増額だけを決定している。これを日銀は追加緩和としているが、このときの声明文のタイトルが「金融緩和の強化について」としたのは白川総裁時代の政策金利を維持した上での資産買入等の基金の増額時と同様の認識があったものとみられる。


 このように現在の日銀の金融政策は短期決戦を狙っていたが効果が出なかったこともあり、金融政策が今年に入って継ぎ接ぎのような格好となってしまっている。今回の総活ではこのあたりの整理も必要ではなかろうかと思われる。つまりもし量と質と金利の三本柱で今後も走るのであれば、もう少し明確な操作目標の設定も必要ではなかろうか。そうすればあらためて追加緩和の可能性を広げることも可能かもしれない。ただし、べき論からすれば、そんなことよりも出口を見据えた戦略を練ってほしい気がするのだが。



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by nihonkokusai | 2016-08-20 11:56 | 日銀 | Comments(0)

日銀が本来すべき総活とは

9月20、21日の金融政策決定会合では議長(恒例により通常は日銀総裁)から指示のあった「総括的な検証」が発表される予定となっている。企画を中心とした執行部はその取りまとめを現在行っていると思われる。

フレームワークの調整としては外部要因による影響も考慮して、もう少し期間や量の幅などを柔軟にするといったことが予想される。マイナス金利政策については金融庁からも指摘があった以上、深掘りは選択肢に入れることはできないとみられる。むしろ1月に決めた多段階方式をさらに複雑化させて金融機関に配慮するようなことも予想される。日銀が現在の前向きの姿勢を維持している限り、このような予想にならざるを得ない。

しかし、いつまでもこのような異常ともいえる政策は続けるべきではない。短期決戦を狙ったものの、当初の勢いはなくなり戦線は拡大したが、いたずらに量を増やすだけとなり、金融市場を混乱させてしまっている。開戦を画策した当事者たちからは玉砕戦法とすらいえるヘリコプターマネーまで持ち出される始末である。

ここで日銀が本来すべき総活とは、これまでの政策の前提に間違いはなかったのかとの点に絞るべきであろう。単純にマネタリーベースといった量を増やし、長い期間の国債を含めて大量に購入した結果、引き返しが困難な状況に自らを追い込むことで何か変わったのか。これでレジームチェンジは起きたのかとの検証である。

アベノミクス開始後の一時的な円安株高はあくまでタイミングが良かっただけである(欧州リスクの後退によるリスク回避の巻き戻し)。目標とする物価はたしかに一時前年比プラス1.5%まで上昇した。この点についての検証もほしいところであるが、円安や消費増税前の駆け込み需要等てせの説明も可能であろう。その後再びマイナスに落ちている以上は、レジームチェンジが起きたことでの物価の前年比の上昇とは結論づけることも難しい。

雇用の回復が仮に異次元緩和などの効果だとするのであれば、物価の上昇を経由せずに可能になった理由の説明も必要になる。雇用の回復といっても失業率等だけでは判断できない面もあるのも事実。

これらから導き出される結論は、大胆で思い切った金融緩和により、物価を含めた経済の回復に直接影響を及ぼすことはできなかったという事実ではなかろうか。

金融緩和は本当の意味での治療薬ではなく、金融市場を沈静化させる麻酔薬に過ぎない。ただし、国債の利回り低下に働きかけたことは確かである。しかし、長期金利がマイナスに低下したからといってファンダメンタルズが劇的に改善するわけでないことも実証した格好となっている。

これらからみた結論は大胆な緩和策を見直すことにあるのではなかろうか。すでに量と金利の面からは限界も見えている。質かどうかはわからないがETFの買入増額はむしろ市場の秩序を乱すとの指摘も出てきている。国債の買い入れに額については早期にテーパリングを進めるべきであり、マイナス金利政策も止めるべきものと言えよう。

ここまで膨らんでしまった日銀のバランスシートはついては、この水準を当面維持させることで緩和効果は継続するとの主張をすることで、緩和政策からの後退ではなく、この緩和状態を維持させて効果を見守るといった姿勢に変更できないだろうか。これは正常化を進めているFRBに近い策となる。

そうはいっても為替市場や株式市場の反応が恐い面もみあろうし、ここまで金利が下がっている長期金利の反発も市場を混乱させる懸念がある。しかし、どこかで決断しないことには、むしろ市場によっていずれ出口政策追い込まれてしまうというリスクも存在しよう。


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by nihonkokusai | 2016-08-19 09:56 | 日銀 | Comments(0)

FRBの9月利上げに意外性はない

 ニューヨーク連銀のダドリー総裁は16日のインタビューで、追加利上げが適切となる時期にじわじわと近づいていると述べ、9月20、21日の会合で利上げを決定する可能性はありうると指摘した(ブルームバーグ)。

 アトランタ連銀のロックハート総裁も16日の講演で、「現段階でいかなる政策の立場にもとらわれていないが、経済に対する私の自信が正当化されるのであれば、年内に少なくとも1回の政策金利引き上げが適切になるかもしれないと考える」と述べた(ブルームバーグ)。

 ここで注目すべきは執行部の一人でもあるダドリー総裁の発言であろう。ハト派とされているはずのダドリー総裁の今回の利上げに向けた発言の背景には当然ながら、正常化路線を進めようとしているイエレン議長がいると思われる。

 米国市場では5日に発表された7月の米雇用統計の内容が良かったことで、年内利上げ観測が強まった。しかし、それも9月ではなく12月との見方の方が多いし、年内利上げは難しいとの見方も依然として存在している。こにきて米国の株価指数は過去最高値を更新しており、米長期金利は低位で安定している。そこに市場参加者にとってサプライズ的に9月に利上げを決定すると、その反動は大きくなる懸念がある。そこで9月の利上げに向けて、あらためて地均しを始めたと私は見ている。

 しかもそのタイミングが7月のFOMC議事要旨の発表前というのもなかなか興味深い。昨年12月のFRBの利上げ以降、次の利上げのターゲットは6月と見ていた向きは多かったのではなかろうか。イエレン議長のシナリオも仮にそうであったとしたら、6月は予定通りに利上げを見送ったのではなく、想定外の事情により見送らざるをえなかったとの見方ができる。その想定外の出来事とは英国のEU離脱であった。

 6月のFOMCは国民投票前ではあったが、世論調査で離脱観測が強まり市場は動揺していた。ここでの利上げ決定は見送らざるを得なかった。7月のFOMCでは実際に英国のEU離脱が決まり、それによる影響を見極める必要があり、ここでも利上げは見送られた。

 16日に公表される7月のFOMCの議事要旨の内容は、市場からはある程度利上げに慎重と捉えられる可能性があった。実際に公表された議事要旨では、完全雇用に近い状態だとして利上げを進めても問題ないとの指摘がある一方、追加引き上げを遅らせるのが望ましいとの意見があるなど意見が割れていた。利上げを見送った以上はこういう結果にならざるを得ない。それをみて市場は9月の利上げも困難と解釈してくることも予想される。そこでダドリー総裁は先手を打ってきたという見立てもできなくはない(インタビュー等をこういう目的で使ったであろう事例は過去ある)。

 利上げというが、米国のファンタメンタルズはそれほど良くはない、英国のEU離脱ばかりでなく、中国の経済減速などリスクが山積しているなか、日銀、ECBに加えイングランド銀行も大胆な緩和をせざるをえない状況下、FRBだけが利上げするのはおかしい、との見方もある。

 しかし、おかしいのはむしろ日銀、ECB、イングランド銀行の方ではなかろうか。市場の動揺を抑えるため、もしくは通貨安を招くためとして、非常時の緩和策をさらに深掘りすることにどれだけの効果があるのか。むしろ日銀のマイナス金利政策のように、弊害が目に見えて大きくなっているものも出てきている。

 そのなかにあってFRBが、雇用等のファンダメンタルズの改善の後押しもあるが、異常な緩和策からの脱却を図るというのは当然のことであろう。そのスケジュールが少し延びたものの、正常化路線を諦めるほど経済実態やマーケットは悪化してはいない。このため、予定通りに正常化路線歩むのであれば、9月の追加利上げは当然視野に入る。むしろ12月まで待つ方が、大統領選挙後ともなり政治リスクが入り、利上げがしにくくなる懸念もある。

 上記のシナリオに異を唱える人も多いかもしれないが、イエレン議長が正常化路線を諦めていないことは、少なくとも今回のダドリー発言で裏付けられたと思う。そして、26日のジャクソンホールの講演でそれをイエレン総裁自ら明らかにするのではなかろうか。9月の米利上げが決定されるとしてもそれは全く意外ではない。

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by nihonkokusai | 2016-08-18 09:31 | 中央銀行 | Comments(0)

日銀のマイナス金利の深掘りはいよいよ困難に

 13日に日経新聞は次のような記事を掲載した。

 「金融庁は日銀のマイナス金利政策が、3メガ銀行グループの2017年3月期決算で少なくとも3000億円程度の減益要因になるとの調査結果をまとめた。同庁は収益悪化が銀行の貸し付け余力の低下につながるとみて、日銀に懸念を伝えた。調査結果は日銀が9月に予定するマイナス金利政策の「総括的な検証」の材料になる見通しだ。」

 この記事を受けて15日の日本の債券市場では中長期債主体に売り込まれた。急落したわけではないものの、戻り売りに押された格好となった。この記事のなかで影響があったのは、金融庁が日銀に懸念を伝えたとの部分であり、これも9月の日銀が発表する総括的な検証に組み込まれ、ますますマイナス金利政策の深掘りが困難になるのではとの見方によるものと思われる。

 日銀は4月の金融政策決定会合で将来のマイナス金利深掘りに備え、銀行への貸し出しにマイナス金利を適用する追加緩和策を模索していたのではないかとの見方があった(6月16日の産経新聞「「銀行は貸し出し努力を」マイナス金利批判に有識者注文」より)。

 「都市銀行関係者によると、日銀は4月の金融政策決定会合で、将来のマイナス金利深掘りに備え、銀行への貸し出しにマイナス金利を適用する追加緩和策を模索。金融機関が日銀からお金を借りれば利息をもらえるため、銀行の収益悪化が和らぐという案」が日銀から内々に打診があったものの、これ受けた大手銀幹部は「銀行も貸出先に利息を払わなければならなくなり、利ざや縮小に拍車が掛かる」と抵抗し、導入は見送られたとしている。

 たしかに4月の金融政策決定会合では日銀の追加緩和期待が妙に盛り上がっていたが、結局、追加緩和は見送られた。その背景にはこのような動きがあった可能性がある。

 三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が4月の講演で「(家計や企業の)懸念を増大させている」と政策効果に苦言を呈していた。その三菱東京UFJ銀行は国債市場特別参加者制度の資格を返上したが、前述の産経新聞の記事によると三菱UFJ幹部は、国債入札の特別資格返上に関し、追加の金融緩和を牽制する狙いもあったことを認めたとも伝えている。

 また16日には次のような記事も日経新聞に掲載された。

 「ゆうちょ銀行は2007年10月の郵政民営化に合わせて無料とした同行利用者どうしの送金手数料を、今年10月から9年ぶりに復活させる。月3回の利用までは無料のままにするが、4回目から1回あたり123円を徴収する。日銀のマイナス金利政策で資金運用の収益が細るなか、無料でサービスを続けるのは難しいと判断した。」

 5月にゆうちょ銀行の池田憲人社長はインタビューで、日銀のマイナス金利政策が同行の収益に与える影響について「決してプラスではない」と述べていた。メガバンクばかりか、ゆうちょ銀行からもやんわりとマイナス金利政策への批判が出ていたが、ゆうちょ銀行はその対策の一環として手数料収入に目を向けたものとみられる。

 しかし、メガバンクはそれなりの収益を維持しており、たとえ3000億円の収益減となっても大きな打撃とはならないのではなかろうか。これはゆうちょ銀行も同様であろう。今回の金融庁の懸念とは、マイナス金利によって貸し出しが伸びるどころか抑制されるという、効果よりも副作用の面があることを伝えることが目的かもしれない。しかし、本質は違うところにある可能性がある。

 言うまでもなくマイナス金利政策とそれによる国債の利回りのマイナス化などにより、大きな被害を受けるのは大手銀行ばかりではない。むしろ地銀や比較的規模の小さい金融機関の方が被害は大きいはずである。運用において悲鳴を上げているのがこれらの金融機関であり、金融庁の懸念はこれを意識したものとの解釈もできまいか。

 いずれにしても金融機関の収益を削ることにより、その波及経路はわからないが、物価目標を達成するという日銀の建前ではあるが、結果は金融機関の経営を悪化させるだけともなりかねない。

 ここからさらにマイナス金利政策の深掘りをするというのであれば金融機関にさらなる悪影響を与えかねない。銀行の銀行である日銀が銀行を苦しめるという構図は決して日本経済にはプラスにはならない。日銀によるマイナス金利政策の深掘りはこれらの要因により、さらに困難になったと見ざるをえない。

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by nihonkokusai | 2016-08-17 09:35 | 日銀 | Comments(0)

アベノミクスでレジームチェンジは起きず

 世界最速でデフレからの脱却に成功させた高橋財政を模範にしたのが、アベノミクスと言える。これは安倍晋三首相が口にした「レジームチェンジ」という言葉にも現れていた。本田悦郎内閣官房参与(当時)は2013年2月の時事通信社とのインタピューで次のように語っている。

 『「レジームチェンジ」、つまり金融政策の枠組みを変えることによって、緩やかなインフレ予想を国民に持ってもらうことが重要だということです。デフレに順応するのではなくて、デフレと闘う積極的な金融政策、積極的な日銀を演出する。そのためには、それまで日銀がやっていたような小出しの金融緩和ではだめです。2%のインフレ率を達成するまでは「無制限」に国債、特に長期国債を買っていくとアピールすべきだと申し上げました。「レジームチェンジ」「無制限国債購入」でいきましょうと。』

 安倍首相がレジームチェンジという用語を口にしたのは、本田氏の助言による可能性もあった。本田氏の当時の主張は日銀が無制限に国債、特に長期国債を買っていくと2%の物価目標が達成できるというものであった。

 それを日銀は2年で達成するとしたのが2013年4月に決定した量的・質的緩和政策であった。それから3年4か月が経過したが、日銀が目標と置いた消費者物価指数(総合)の直近の数字はマイナス0.4%である(今年6月分)。

 レジーム転換(レジームチェンジ)という用語を調べて見ると、このような説明があった。

 「需要がないから、いくら資金を供給しても無駄という受動的な金融政策のスタンスを、事前に決められたインフレ率に到達するまで積極的に資金を供給し続け、断固としてデフレに立ち向かう、という能動的な金融政策へ転換させることを意味している」(「平成大停滞と昭和恐慌」田中秀臣・安達誠司著)。

 この本のなかで、レジーム転換の事例として、高橋財政における1931年11月の禁輸出禁止と1932年12月の日銀の国債引受開始をあげている。これは日銀副総裁である岩田規久男の「昭和恐慌の研究」で示したリフレ政策であり、アメリカの経済学者であるトーマス・サージェントやピーター・テミンらの「政策レジームの変化」の研究を踏まえ生まれたものとされている。

 アベノミクスは岩田規久男日銀副総裁や、浜田宏一内閣官房参与、本田悦朗内閣官房参与などいわゆるリフレ派と呼ばれる人達の考え方が強く反映されている。そのリフレ派の人達が、デフレ脱却の見本としたのが高橋財政であり、特に1931年11月の禁輸出禁止と1932年12月の日銀の国債引受開始という二段階でのレジームチェンジによりデフレ脱却を可能にしたとしていた。

 果たして高橋財政が今の時代でも通用するのか。そもそもアベノミクスと高橋財政では時代背景がまったく異なるものである。そのような背景を無視しても2%のインフレ率を達成するまでは「無制限」に国債、特に長期国債を買っていくとアピールでレジームチェンジが起きて物価は上がるとした本田氏の主張は結果として正しくはなかった。

 むしろ日銀は2013年4月の大胆な国債買入だけでなく、2014年10月はその規模を拡大したが、少なくとも目標とした物価については成果は出なかった。規模の拡張が困難になると今年1月にはマイナス金利という政策を打ち出したが、これは長期金利をマイナスに引き下げるという結果は出ても、物価や景気に対する目に見えた効果もなく、むしろマイナス金利への弊害が指摘された。

 アベノミクスによる大胆な国債買入でレジームチェンジは起きたのかという問いがあれば、この結果を見る限り起きなかったと判断せざるをえない。消費増税の影響、原油安等は言い訳に過ぎないことも上記の本田氏の発言等で明らかである。さらにここから大胆な金融緩和を行えばインフレ目標達成が可能という理屈にも無理がある。

 「金融政策が提供できるのは経済の不確実性に対する短期的な鎮静剤にすぎない」とイングランド銀行の チーフエコノミスト、アンドルー・ホールデン氏が述べたそうであるが、これが本来の見方であり、黒田総裁前の日銀も同様の主張をしていた。日銀はこの原点に回帰すべきであるが、少し派手に進み過ぎて後戻りもできない状況に自らも追い込んでしまっている。9月に多少なりその軌道修正は可能なのであろうか。

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by nihonkokusai | 2016-08-16 10:05 | アベノミクス | Comments(0)

米利上げ時期を左右しかねないブレイナードFRB理事

 現在のFRBでの要注意人物としては当然ながらイエレン議長がいる。さらにそれを補佐するフィッシャー副議長も注意すべき人物である。さらにここにニューヨーク連銀のダドリー総裁も含めて、いわば執行部とされる人物の発言には今後の金融政策の動向をみる上で注意が必要となる。

 しかし、ここにもうひとり利上げ時期を左右しかねない要注意人物が存在している。その人物とは、ラエル・ブレイナード理事である。日本の為替政策にも大きな影響を与えていた人物である。

 たとえば、2013年2月12日のG7による緊急共同声明について、円の過度な動きに懸念を表明することがG7の目的だったとの匿名のG7筋による発言があった。この匿名のG7高官とはブレイナード財務次官である可能性が高いとされた。

 ブレイナード財務次官(当時)はご主人がカート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補で親日家であるが、こと為替政策についてブレイナード氏は安倍政権の動きを牽制していた。そのブレイナード氏はいまFRBの理事となっている。

 ブレイナード元財務次官が何故、FRBに送り込まれたのか。それは現政権とFRBの橋渡し的な役割を与えられているとの見方は当然できる。このブレイナード理事の部屋が近頃、イエレン議長の部屋の近くになったとの観測もある。

 しかも今年は大統領選挙の年であり、民主党のヒラリー・クリントン氏が大統領となった際の財務長官の候補のひとりに、ブレイナード氏の名前がすでに挙がっている。

 ブレイナード氏のFRB理事としてのこれまでの発言をみると、利上げを急ぎ過ぎることに対して警鐘を鳴らすなど、いわばハト派といえる。正常化を急ぐイエレン議長に対してブレーキを掛けている存在でもある。

 このブレイナード氏の勢力が増しているため、FRBの年内利上げが難しくなるとの見方も存在する。しかし、そうはいっても正常化路線はイエレン議長が進めている政策であり、フィッシャー副議長の賛同があり、積極的ではないにしろダドリー総裁も賛同すれば、理事の立場からブレイナード氏は反対しにくくなる。

 ただし、大統領選挙の結果が明らかになりクリントン氏が仮に大統領となれば、ブレイナード氏を通じて新政権の意向が伝えられるような事態も予想される。そうであるのであれば、イエレン議長としては12月まで利上げを待つというのは政治的なリスクが出てくる可能性もある。そういった意味で経済指標等を確認した上ではあるが、FRBの9月の利上げの可能性は意外と高いのではないかとの見方も出来るのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2016-08-15 09:31 | 中央銀行 | Comments(0)

江戸時代のヘリコプターマネー、荻原重秀のデフレ対策

 8月14日付けの日経新聞朝刊の特集記事「敗戦後、失われた預金(日本国債) 」のなかにヘリコプターマネーに類する政策を行ったとして江戸時代の荻原重秀の名前が出ていた。荻原重秀がどのような政策を行ったのかについて振り返ってみたい。

 1639年に幕府はポルトガル船の入港を禁止し、いわゆる鎖国に入ったのだが、これにより日本の貿易高は減るどころかむしろ増加した。ライバルのポルトガルが日本市場から撤退し、これによりオランダは世界最初の株式会社である東インド会社を経由した日本との貿易で大きな収益をあげ、17世紀に欧州での繁栄を築き上げた。

 ポルトガルは日本の銀を介在してのアジアでの三角貿易を行っていたが、オランダも同様に中国で購入した生糸などを日本に持ち込み、それを銀と交換していた。これにより大量の生糸が日本に流入するとともに、大量の銀が海外に流出した。またオランダはインドとの貿易に金を使っていたことで、オランダ経由で大量の金も流出していった。

 幕府は金銀の流出を防ぐために、金や銀の輸出禁止などの政策を打ち出したものの、国内に生糸や砂糖などの輸入品への需要が強く、国産品では対応できず、結局、その対価として金銀を用いらざるをえず、金銀は流出し続けた。

 日本の金銀の流出先としては、貨幣の材料として銀を必要としていた中国だけでなく、インドなどにも流れ、また金貨についてはインドネシアのバタフィア(現在のジャカルタ)で日本の小判がそのまま流通していた。さらにオランダ本国でもホーランド州の刻印の打たれた日本の金貨が使われていた。

 金銀の流出制限のため幕府は1685年に貞享例を施行し、貿易額そのものを規制した。また、元禄の改鋳などにより金銀の質を低下させたことから、貿易の支払いに対しては、金銀に変わり、次第に俵物と呼ばれる加工食品とともに銅が使われるようになったのである。

 金銀の海外流出とともに日本国内の金銀の産出量が低下した。米の生産高の向上や流通機構の整備などにより、国内経済が発展し貨幣需要が強まったものの、通貨供給量が増えなかったこともあり、米価は上昇せずデフレ圧力が強まった。

 五代将軍綱吉は豪奢な生活を送っていたことに加え、寺社や湯島聖堂などを建立するとともに、明暦の大火や各地で発生した風水害などにより、慢性的な赤字を続けていた財政がさらに厳しくなり、幕府は1695年に貨幣の改鋳に踏み切った。

 将軍綱吉は勘定吟味役の荻原重秀に幕府の財政の立直しを命じ、荻原重秀はそれまで流通していた慶長小判(金の含有率84-87%)から、大きさこそ変わらないものの金の含有率を約57%に引き下げた元禄小判を発行した。また銀貨の品位も80%から64%に引き下げられた。

 しかし、金銀貨の品位引き下げが均衡を欠いていたことから、銀貨の対金貨相場が高騰し、一般物価も上昇した。このため1706年以降、銀貨が4回に渡り改鋳され、1711年の改鋳により銀貨の品位は20%と元禄銀貨の3分の1にまで引き下げられた。金貨については1710年以降、品位を84%に引き上げたものの量目を約2分の1にとどめ、純金含有量が元禄小判をさらに下回る宝永小判を発行した。

 これらの改鋳により幕府の財政は潤ったものの、これにより通貨の混乱とともに物価の急騰を招き、庶民の生活にも影響が出たのである。荻原重秀に関してはインフレを引き起こしたといった批判とともに、デフレ経済の脱却を成功させ元禄時代の好景気を迎えたとの見方もあり、評価は分かれている。また、荻原重秀は著作を残していないが、「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以てこれに代えるといえども、まさに行うべし」と述べたとも伝えられている。藩札などの紙幣も発行されていたことで、貨幣の発行には信用の裏づけがあればたとえ瓦でも石でも良いとする、現在の管理通貨制度の本質を当時すでに見抜いていた人物でもあったとされる。

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by nihonkokusai | 2016-08-14 07:08 | 国債 | Comments(0)

日銀の国債買入縮小で何が起きるのか

 日銀は9月20、21日の金融政策決定会合において、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現する観点から、量的・質的金融緩和・マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行う。総括の内容とそれを前提としたフレームワークの変更があるのかどうかもわからないが、国債の買い入れを柔軟なものとするのではとの観測がある。

 9日の産経新聞は、緩和の縮小(テーパリング)とみなされる購入量の大幅減少は避けるが、現在年80兆円の買い入れ額を「70兆~90兆円」などと幅を設ける案などが浮上しているという。

 テーパリングという言葉は、米国の中央銀行にあたるFRBが2013年12月に決定した毎月の「国債買入額の減少」を意味する。日銀は現在、長期国債については保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行っている。これに関して日銀の木内審議委員は講演で下記のような発言をしている。

 「日本銀行が、政府の発行額相当分を市中から購入するだけでは、残高増加目標を達成するのが難しくなってきていることを示唆しており、目標に届かない分は、金融機関から償還前の長期国債を購入する必要性が高まっていると考えられます。まさにこのようなタイミングで、金融機関の国債売却のインセンティブを下げるようなマイナス金利が導入されたことを十分に認識しておく必要があると思います。」

 「私は、国債買入れ(長期国債保有残高の増加ペース)を減額することで、国債市場の安定を確保しつつ、効果と副作用のバランスを改善させることができると考えています。一方、日本銀行が長期国債の保有残高を削減しなければ、政策効果の減少に繋がる実質長期金利の上昇を回避することは可能であり、これまで獲得してきた効果をしっかりと確保することができると考えています。こうした考えのもと、私は、昨年4月から、国債買入れの減額を提案しています。」

 FRBのテーパリングは異常な金融緩和策からの出口政策を意味し、テーパリング終了後、昨年12月に次のステップとなる利上げを決定している。このようにテーパリングは緩和策の反対、引き締め政策と映るため、日銀としてはテーパリングを9月に決定するようなことは避けるであろう。しかし、買入額の数字に幅を設けることで、国債買入そのものも柔軟に対応できるようにするという手段は検討される可能性はある。しかし、これは実質テーパリングとなるのではないかとの批判が出ることも予想される。

 一方、このようなタイミングでテーパリングを日銀が決定すればデフレからの脱却がさらに困難になるとの意見があるようだが、異次元緩和で物価目標の達成どころか消費者物価指数は前年比マイナスに沈む中、金融緩和や引き締めでむしろ物価が簡単に動かせるわけではないことも明らかになっており、あまりこの意見には説得力はない。

 ただし、日銀のテーパリングは金融市場に直接影響を与える可能性がある。2013年6月19日のFOMC後の記者会見において、当時のバーナンキ議長は、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせる(つまりテーパリング)のが適当と見ていると述べた。これをきっかけに米国の株式や債券が大きく下落し、これは「バーナンキ・ショック」と呼ばれた。同様の事態が東京市場で起きる懸念はある。

 最も注意すべきことは、日本の債券市場は日銀の国債買入の減額をタブー視していたという歴史が存在するということである。これにはいろいろな要因が重なってのものと思われるが、そのひとつが1998年末の資金運用部ショックと呼ばれる国債価格の急落である。これは日銀ではないが資金運用部の国債買入減額がひとつのきっかけとなっていた。

 日銀は2006年に量的緩和政策とゼロ金利政策を解除したが、その際には国債の買い入れ額は維持している(テーパリングはしていない)。それ以前に速水総裁時代は量的緩和として国債の買い入れ増額を何度か決めていたものの、福井総裁時代は量を増やしても国債の買い入れ額には手を付けていなかった。これは国債買入の減額が難しいことを認識していたからであろう。

 白川総裁時代でも国債買入には慎重となり、2010年10月に決めた包括緩和政策では別枠で国債買入を増額するとしたが、少し待てば償還されて減額も容易な中期債に限っていた。しかし、黒田総裁はそんなタブーは完全に無視して巨額の国債買入と買い入れる国債の年限も思い切って長期化していた。これによりむしろテーパリングをさらに困難にさせたともいえる。

 日銀が自発的にテーパリングを行うとすれば物価目標が達成した結果ということになろうが、果たして物価目標は達成できるのか。このままずるずると巨額の国債買入を続けていると、いずれ国内投資家からの保有国債の引きはがしにも限界がくる。そのときに、しかたなく日銀がテーパリングを行うことになれば、市場は大きく動揺することも予想される。何度も繰り返すが日銀は今まで国債買入の額を減らした経験はない。米国でテーパリングが成功したからといって日本でも問題ないとは言い切れない。かなりうまく市場との対話を進めない限り、日銀のテーパリングにより長期金利が飛び跳ねる危険性もあるのである。

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by nihonkokusai | 2016-08-13 09:56 | 国債 | Comments(0)

日本国債は危なくないのか

 すでに廃刊となってしまっているが、私が文春新書から「日本国債は危なくない」という本を出させていただいたのが2002年9月20日のことであった。この2002年9月20日は日本の国債の歴史において大きな出来事があった日であった。この日の10年国債入札において、10年国債入札として初めての「札割れ」が発生したのである。なんと「日本国債は危なくない」という本の発売日当日に日本国債は危機を迎えたのである。

 当時の10年国債の発行額は一回当たり1兆8000億円であった。その75%の1兆3500億円が競争入札となっていたが、入札予定額1兆3500億円に対して、このときの業者の応札額は1兆1852億円しかなく「未達」が発生した。ただし、当時の10年国債には国債引受シンジケート団が存在し、入札予定額に満たない分はシ団のシェアによって割り振りされるため、当初予定された発行額の1兆8000億円の発行は可能となり、実質発行額が予定発行額に満たない「未達」ではなく「札割れ」との表現になった。

 この入札日の前の9月18日に日銀の速水総裁は、金融システム安定化策としても日銀が直接に金融機関から株を買い取ることを発表した。これを受けて、債券先物が急落し1999年6月11日以来のストップ安をつけたのである。なぜ、日銀が株を買い取ることで債券が売られるのか。その最も大きな理由は、国債に対しての信用に影響が及ぶと思われたためである。日銀がリスクのあるものを買い込んで、日銀券の信用力の裏づけとなる日銀の資産を劣化させれば通貨、つまり円が大きく売られる可能性がある。日本の通貨に対する信用がなくなれば、国債に対する信用にも当然ながら影響を及ぼすためなのである。

 実際に日銀の株買い取りが発表された直後には、円安が進んだ。ところが、日経平均などが上昇したことで、円は反転買い進まれたのである。つまり通貨に対しての信用が失われるとの思惑は一時的であった。それにもかかわらず、債券は売り込まれてしまった。このときの債券の下落の大きな要因は相場の急ピッチの上昇にあったと言える。債券相場は乱高下を繰り返し、かなりのポジションを抱えていた金融機関は身動きがとれなくなってきた。また9月決算も影響してか、積極的に10年国債を買えるところが限られてきた。そんななかでの10年国債入札であったために、札割れが発生したものと思われる。

 またこのときの10年国債の入札は休日前に実施するという異例の事態であったことも影響していた。10年国債の入札は、慣行上、三連続営業日の真ん中に実施される。しかし、今回は三連休が続いたことなどからスケジュールから三連続営業日の真ん中の日の入札が行えなかった。以前もスケジュールにより休日前に実施されたケースもあったが三連休の前日というものはなかった。しかも、この日は政府のデフレ対策が発表されることになったなど、業者・投資家ともポジションを取りにくかったことも確かであった。

 10年国債の入札で札割れが発生したことで、債券先物は再び前日比1円以上も下落したが、それほどパニック的な売りとはならなかった。このときの札割れは特殊要因が重なったためとの認識であったと思われる。

 その後、国債引受シンジケート団は廃止されており、もし仮に今後同様の事態が発生した場合には「札割れ」ではなく「未達」となる。しかし、いまのところ国債の入札における未達の可能性は小さい。これは元々国債への投資家ニーズがあったにも関わらず、強引に日銀が国債を買い入れており、国債の需給が非常にタイトになっているためである。

 その日銀が市場から国債を買い上げる手段が国債買入オペレーションとなる。債券市場関係者が注目しているのは国債の入札時の未達というよりも、日銀の国債買入における未達の方となっている。

この未達が9日に英国で発生した。イングランド銀行は残存15年超の国債を11億7000万ポンド買い入れる予定であったが、金融機関などからの応札額は11億1800万ポンドにとどまり、予定額に達しなかったのである。

イングランド銀行は4日の金融政策委員会で、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。このあらたな国債買入プログラムのもとに行われた国債買入で、早くもつまづいた格好となった。

ただし、英国債はこれにより国債需給のタイトさが意識されてむしろ買い進まれた。英国の10年債利回りは一時0.56%台と過去最低を更新したのである。しかしもし日本で日銀の国債買入での未達が発生すると違った反応を起こす可能性が高い。

日銀の国債買入の未達が頻繁に発生するようなことになると、その対策として日銀が国債買入の額を縮小するなどの対応が取られる可能性がある。これを市場は国債買入額の減少、いわばテーパリングと意識して国債が売られる懸念があるためである。

いずれ日銀の国債買入には限界が来、いうのが市場参加者の共通認識である。日銀は国債残高の三分の一しか買っておらず、あと三分の二も残っているといった乱暴な意見もあるようだが、金融市場でこれだけ巨額な資産は存在しておらず、しかも安全資産と認識されているものでもある。ほかの代替金融商品に変えろといわれても、安全性を兼ね備え日銀担保にも使える巨額な金融商品は存在しない。国債の年間発行額をほぼ日銀に吸い上げられる今の状況は、かなり限度に近いものともいえる。

7月29日の金融政策決定会合後の日本の国債市場でのプチバブルの崩壊もあり、日本国債はここにきて調整局面を迎えたが、これはあくまで買われ過ぎた反動であった。しかし、それでも国債利回りの上昇は急激で他市場にも影響を与えうることも示され、あらためて国債の価格変動リスクも意識された。いまのところは国債の信用リスクに至る懸念はヘリマネが実施されるようなことにならない限りは小さいが、今後の日銀の国債買入の状況次第ではこの価格変動リスクが意識される可能性はある。すぐに来る危機ではないかも知れないが、これも注意すべきものとなる。

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by nihonkokusai | 2016-08-11 10:38 | 国債 | Comments(0)

イングランド銀行の包括緩和は必要だったのか

 8日の英国の10年債利回りは0.6%近くまで低下し過去最低を更新した。これは8月4日にイングランド銀行が利下げや量的緩和を含む包括緩和を決定したためである。

 4日のイングランド銀行の金融政策委員会(Monetary Policy Committee; MPC)では、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。利下げの効果を強固なものとするための金融機関向け低利融資制度を含めてパッケージされた、いわゆる包括緩和政策を決定したのである。

 6月23日の英国の国民投票によりEUからの離脱が決まったことにより、英国経済見通しの悪化が予想された。7月14日のMPCでは追加緩和は見送られたが、EU離脱後の影響をもう少し見極める必要があったためかとみられる。金融緩和は見送られたものの、9人の政策委員のうち、多くが8月の金融緩和の実施を見込んでおり、緩和策の選択肢を協議していた。その結果が8月4日の包括緩和策となった。

 カーニー総裁は4日の政策発表後の記者会見で「このパッケージの構成内容はいずれも拡大の余地がある」と発言した。ただし「マイナス金利には感心しない」と語ったように、ECBや日銀などのようにマイナス金利の導入に動く可能性は否定した。

 またヘリコプターマネーについてカーニー総裁は、こうした提案に利点があると思えないとし、「英国でそのような思い切った想像が必要になる状況は考えられない」と一蹴した。これが本来の中銀の考え方であろうし、ヘリマネについては日銀の黒田総裁も明確に否定している。

 ちなみに日本や米国では中央銀行による国債の直接引き受けは禁じられており、ECBも同様であるが、イングランド銀行はそのような規定はない。

 さらにカーニー総裁は、英国のEU離脱を巡り、イングランド銀は衝撃を和らげることはできるが経済への影響を完全に相殺することはできず、「長期繁栄の真の決定的要因となる判断」を下す責任は政府にあるとの見方を示した(WSJ)。

 このあたりの念押しは非常に重要である。どこかの中央銀行では金融政策だけであたかもデフレ脱却が可能であるかのように主張していた気がするが、本来の金融政策とは衝撃を和らげるといった役割であり、金融政策で何かを変えられるといったものではない。せいぜい金融市場のマインドを変化させる程度である。

 それはさておき、このタイミングでここまで大胆な包括緩和が英国に必要であったのであろうか。たしかにポンドが大きく下落するなど市場は動揺していた。しかし、ポンド安はむしろ景気にとってはマイナスではないはず。それでも中央銀行としては景気の落ち込みや金融市場の動揺を抑えるためには必要であったとの判断か。

 しかし、イングランド銀行も利下げはあと出きても一回(マイナス金利政策は否定している)、量的緩和についても英国債の市場規模は約1兆5000億ポンドとされることで日銀同様にまだ3割とはいっても限界もあろう。追い込まれつつある日銀の金融政策を見ても、今後もし何か起きたときのための「のりしろ」を残しておいた方が良かったようにも思える。現実に9日にイングランド銀行の国債買入で応札額が予定額に届かなかった未達も発生している。

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by nihonkokusai | 2016-08-10 09:57 | 中央銀行 | Comments(0)
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