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国債の流動性がさらに低下

 債券市場関係者が現在最も危惧しているのが債券市場の流動性の低下であろう。20年国債も一時マイナス金利となるなどしており、国債市場における国内投資家の出番はほとんどなくなっている。

 現在の日本の債券市場のメインプレーヤーは海外投資家である。日本の投資家が外債を購入する際に、高いプレミアムを払って円をドルに交換し、その相手方となっている外銀など海外投資家がそのプレミアムの範囲内でマイナス金利でも円債を購入している。

 そしてその外銀などの海外投資家と、日銀トレードと称される売買を行っている業者と日銀が国債の主な取引先となっている。日中の売買も主に業者と海外投資家を中心とした売買が主な物となっている。

 これに対して債券先物は反対売買を前提とした取引であれば、マイナス金利などを意識せずともトレードが可能となる。しかし、その債券先物の板にやや変調の兆しも出てきた。

 1985年にスタートした長期国債先物(債券先物)は日本初の金融先物取引であった。この年に銀行による国債のフルディーリングも開始されたことで、いわゆる債券ディーリングが活発化する。債券先物は海外の金融先物とやや趣が異なり、異常に中心限月に商いが集中する商品となった。その分、流動性が高くたとえばドル円や日経平均先物などと同様にほぼ取引時間中は値が付いて動いている。

 このため、たとえば板が1銭以上空いた状態が1秒以上続くといった場面はあまりこれまで見たことがなかった。しかし、ここにきてそのような場面が債券先物の中心限月の板に出るようになってきたのである。

 現物債は相対取引ということもあり、カレント物と呼ばれる直近に入札されたものでも常に出合いがあるわけではない。しかし、債券先物は取引時間中であれば常に価格が動いていたことで、相場の方向性などをみる羅針盤の役割ともなっていた。しかし、日銀による国債の大量買い入れとマイナス金利導入に伴う国債利回りのマイナス化は、この債券先物の流動性をも低下させつつある。

 債券の流動性の低下はその参加者の厚みがなくなったためであり、このままの状態が続くと市場がいずれ凍り付いてしまう懸念がある。そんなときに債券市場に大きな売り要因が出た際に価格が予想以上に動いてしまう懸念も強まる。

 このように市場の流動性は非常に重要なものである以上、それを枯渇させるような事態に追い込むべきではない。日銀はなるべく早いうちに国債の流動性を維持させるためにも、テーパリングに着手する必要があるのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2016-07-19 09:43 | 債券市場 | Comments(0)

ヘリマネ政策のここがおかしい

 バーナンキ前FRB議長が安倍首相や黒田日銀総裁と会談したことで、市場ではヘリコプターマネーへの思惑が出ていた。ベン・バーナンキ氏の来日は首相や日銀総裁と会うことが目的ではなく、バーナンキ氏が顧問を勤める企業のセミナーに出席するためであったようである。そのタイミングに目をつけたのが、4月にもバーナンキ氏と会ったとされる前内閣官房参与で現在はスイス大使の本田悦朗氏とみられる。

 ブルームバーグによると本田氏は4月1日にワシントンでバーナンキ氏と1時間ほど会談。その中でバーナンキ氏は、日本経済が再びデフレに戻るリスクを指摘。デフレ克服の最も強力な手段として比喩的に「ヘリコプターマネー」に言及し、政府が市場性のない永久国債を発行、これを日銀が直接全額引き受ける手法を挙げたそうである。

 12日の安倍首相とバーナンキ氏との会談において、バーナンキ氏は金融と財政でアベノミクスを続けるよう発言したがヘリコプターマネーは話題にならなかったようである。ところが市場では日本がヘリコプターマネー政策を導入するのではないかとの妙な期待感が強まり、円安が進行することになる。このあたりは本田氏あたりが画策した可能性もある。

 このヘリコプターマネーの議論には、いくつかおかしい点がある。そもそも極めて財政ファイナンスに近いような政策を打ち出したのがアベノミクスであり、その結果がまるで出ていない(物価目標からほど遠い)にもかかわらず、さらに財政ファイナンスに拍車を掛けるような政策をとっても物価上がる保証は極めてないに等しい。ただし、アベノミクス登場時のように特に海外投資家に期待感を持たせて円安にしたいとの思惑も働いたのかもしれない。注意すべきはここにきての円安は、米株高をみてわかるようにリスクオンの動きの一環でもあり、ヘリマネ期待だけが材料ではない。

 そのバーナンキ氏が主張していたヘリマネは、見方を変えると物価浮揚効果はある。ただし、それは円や国債の信認を叩き壊した上で、国債とともに円が急落して発生する、劇薬というか国民犠牲の上に成り立つ物価の急騰となる。

 そもそも政府が市場性のない永久国債を発行し、これを日銀が直接全額引き受けること自体、究極の財政ファイナンスとなる。しかし、その目的が物価2%を達成するためだけだとしたらその意味がわからない。

 さらに市場性のない永久国債を発行しなければならないような環境でもない。今回の経済対策も兼ねた補正予算の編成で、たとえば10兆円規模の国債を増発しなければならないとしても、借換債の前倒し発行分があり、市中消化、つまり入札で発行される国債を増やす必要はあまりない。仮に想定以上の国債増発があり、市中消化が多少増えたとしても日銀は年間発行額の国債を買っているという状況下にあって、国債需給がタイトの現状では国債の消化はそれほど懸念はされないのではなかろうか。むろん財政規律の緩みといったものが意識されると国債が売られる懸念はあるが、これで少しでもマイナス金利が解消されれば、いったんは国内投資家の購入余地が出てくる。

つまり今の国債需給がタイトな環境で市場性のない永久国債を発行する必要性はない。しかもそれを日銀が直接引き受ける必要性もない。それにも関わらずこのような非常識な政策を訴えるのは、自ら提唱したリフレ政策が結果として物価上昇に結びつかなかったことを棚に上げて、副作用が出てくる前にそれを「ふかす」政策を取らせようとしているようにしか見えない。

市場性のない永久国債だろうが政府の債務に変わりはない。日銀がそれを引き受ければ政府債務ではなくなるなどというのは当たり前だがありえない話であり、ヘリマネに対しては期待などするのではなく、そのような議論まで出てきているような状況をむしろ危惧すべきかと思われる。

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by nihonkokusai | 2016-07-16 09:56 | アベノミクス | Comments(0)

ヘリマネの高橋財政時と現在の国債市場が酷似

 高橋財政のリスクとしては、財政拡大の主因が軍事費であったことに加え、日銀による国債引受があった。これについて高橋是清は「一時の便法」と称していたが、それはある意味、パンドラの箱を開けてしまったとも言える。デフレからの脱却期であれば、その弊害は見えていなかったが、経済が回復するとそのリスクが拡大することになる。つまり、日銀による国債の売りオペを行って過剰流動性を吸収しても、国債発行による財政拡大が続けば信用膨張が進んでしまう。これを抑制しようにも金融引き締め政策の実行が著しく困難となるのである。

 高橋是清蔵相は当初、「日本国民の通貨に対する信用は非常に強固なものがある」ため「通貨の信用ということについてはあまり気にする必要はない」という理由で公債漸減主義は考えていなかった。しかし、その後日銀の深井副総裁の度重なる進言と、第一次世界大戦後におけるドイツ・インレーションに関する調査物を読んで、その心境に変化が生じたとされると、当時の大蔵省理財局国債課長であった西村淳一郎が回顧録で述べていたそうです。

 ここはアベノミクスと比較する意味においても非常に重要なポイントとなる。日本の通貨や国債に対する信用は非常に強固との認識は当時の高橋是清だけでなく、現在の日本の為政者も持っていると思われる。これが現在も財政健全化といいながらも巨額の国債発行を続けているひとつの理由になっていよう。

 ここで気になったのが、高橋是清が「ドイツ・インレーションに関する調査物」を読んでいたことであった。第一次世界大戦の敗戦により、ドイツは天文学的な賠償金を背負わされ、財政支出の切り札になったのが、国債を大量発行し、ライヒスバンクに引き取らせるという手法となっていた。中央銀行として1875年に設立されたライヒスバンクは、全額民間出資ながら、ドイツ帝国の行政府としての位置づけで、国からの強い影響力があった。その結果、ドイツはハイパーインフレに見舞われることになる。

 高橋是清の考案した日銀引受による国債発行は、市中公募と異なり発行額や発行条件が市場動向に左右されなくなる。日銀の国債引受方式による大量の資金供給で、金利そのものの引き下げも目的としていた。同時に財政負担の軽減を目的に発行する国債の利率の引き下げを計ることも重要な目的となっていた。金融緩和策とともに、国債の発行条件の引き下げにより、金利の先安予想が強まり、国債価格の上昇予想を背景にして、国債の売りオペを通じての市中消化を円滑に行うことが可能となった。つまり、これは金利の引き上げを行うことはかなり困難になることを意味しており、その好循環が途切れるとすべての歯車がうまく回らなくなることも意味する。1935年に入るとそれまで順調となっていた売りオペによる円滑な市中消化が変調をきたしはじめた(拙著「聞け! 是清の警告」から一部引用)。

 このあたりの状況はいまの日本国債を取り巻く環境に酷似してはいまいか。むしろ日銀のマイナス金利により当時よりもさらにエスカレートしている。政府は国債のマイナス金利化により国債を発行すればするほど利益が生み出されている。そして、日銀の意地元緩和、ではなく異次元緩和は緩和方向の一方通行と化しており、ブレーキが掛けられないような状況に陥っている。いずれ近いうちに日銀の国債買入が変調を来す懸念がある。ここでもし、ヘリコプターマネなど導入しようものなら、その行き着く先は過去の歴史を見れば明らかであろう。

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by nihonkokusai | 2016-07-15 09:59 | 国債 | Comments(0)

歴史に見るヘリコプターマネーのリスク

 12日にバーナンキ前FRB議長が安倍首相と会談したことで、「ヘリコプターマネー」政策の導入が検討課題に浮上してきたとの報道があった(産経新聞)。この記事によると本田悦朗駐スイス大使が最近、首相に「今がヘリマネーに踏み切るチャンスだ」と進言したそうである。

 ヘリマネとは何か、簡単に言ってしまうと日本の財政法で禁じられている日銀による国債の直接引き受けである。なぜ中央銀行による国債の直接引き受けが禁じられているのか。それは歴史に裏付けられたものである。日本では高橋財政による日銀の国債引き受けが財政法に繋がることになるのだが、ここではあらためてドイツにおける中央銀行の国債引き受けにより何か起きたのかを振り返ってみたい。

 第一次世界大戦の敗戦により、ドイツは天文学的な賠償金を背負わされ、財政支出の切り札になったのが国債を大量発行しドイツの中央銀行であるライヒスバンクに買い取らせるという手法であった。その結果、ドイツは1923年にかけてハイパーインフレに見舞われた。

 そのハイパーインフレはヒャルマル・シャハトが設立したドイツ・レンテン銀行によるレンテンマルクの発行などにより終息することになる。レンテンマルクとそれまでの通貨であるパピエルマルクの交換レートは「1対1兆」と決定された。大規模なデノミとともに政府が財政健全化を発表したことにより、いったんインフレは終息する。このインフレの収束はレンテンマルクの奇跡と呼ばれた。さらにシャハトの指導によるアウトバーンを初めとする大規模な公共事業などによって失業率は改善し、ドイツは1937年にほぼ完全雇用を達成したのである。

 レンテンマルクは法定通貨ではなく不換紙幣であり金との交換はできなかった。しかし1924年8月30日には、レンテンマルクに、新法定通貨であるライヒスマルクが追加された。レンテンマルクとライヒスマルクの交換比率は1:1となった。

 シャハトなどの支援もあり、1933年1月30日にはヒトラー内閣が成立。しかし、ヒトラーがシャハトを解任したあたりから再び状況が変わる。シャハトが帝国銀行の総裁を兼務していた際は国債の発行にも歯止めがかけられていたが、その歯止めがなくなった。ヒトラーは帝国銀行を国有化して大量の国債を引き受けさせ、戦争に向けて軍需産業への莫大な投資を行った。ただし、日本と同様に価格統制により戦時中にハイパーインフレそのものは発生しなかったが、戦後にハイパーインフレが発生することになる。敗戦によりヒトラー政権の発行したライヒスマルクは紙切れ同然となったのである。

 戦後設立されたブンデスバンクは、インフレに対して極度に神経質となり、その要因となった中央銀行による国債引受に対して警戒感というか嫌悪感を強めたのは、この歴史が背景にある。ブンデスバンクは政府からの独立も保障され、ECB発足以前は世界でも最も高い独立性を有する中央銀行の一つであると評価されていた。

 1993年に発効した「マーストリヒト条約」およびこれに基づく「欧州中央銀行法」により、当該国が中央銀行による対政府与信を禁止する規定を置くことが、単一通貨制度と欧州中央銀行への加盟条件の一つとなった。つまり、ドイツやフランスなどユーロ加盟国もマーストリヒト条約により、中央銀行による国債の直接引受を行うことは禁止されている。当然ながら欧州中央銀行(ECB)も国債の直接引受は禁じられている。

 高橋財政による日銀の国債直接引き受けもドイツの事例も戦争が絡んでいる。いまはそんな時代ではない。だからヘリマネを1回ぐらい導入しても問題ないなどと言うことはできない。むしろ戦争という異常時でもないにも関わらず、異常時の対応をすべきと主張している人たちの方が何を考えているのかわからない。

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by nihonkokusai | 2016-07-14 09:53 | アベノミクス | Comments(0)

袋小路に追い込まれた日銀が打てる手段とは

 12日の安倍首相とバーナンキ前FRB議長の会談では、バーナンキ氏が「金融緩和の手段はいろいろ存在する」と指摘したそうである。しかし、ヘリコプターマネーといった筋悪な手段は別にして、まともな追加緩和手段はほとんど残ってはいないと思われる。

 日銀前理事の門間一夫氏はブルームバーグのインタビューで、マイナス金利拡大も量の拡大も慎重な判断が必要で、もはやバズーカ砲第3弾の「余地はない」との見方を示した。量は次第に限界に近づいており、そう遠くない時期に長期国債の買い入れペースを落としていくことが「常識的な将来の見通し」だと語っていた。

 門間前理事は調査統計局長をはじめ、金融政策担当理事、国際担当理事を歴任し、5月末に退任したばかりである。2013年4月の時点で「多少野心的な目標であっても、気合で一気呵成(かせい)に2%に持っていこうという戦略は正しかった」と現在の日銀が行っている異次元緩和について肯定している面はあるものの、「気合」との表現を使うあたり、やや懐疑的な見方もしていたと思われる。

 いずれにしても保有残高が年80兆円増えるペースで行っている長期国債の買い入れについて「永遠には続けられないのは当たり前だ」と前理事が指摘していることは重要である。(国債買入の)限界に「だんだん近づいているという認識は日銀も持っている」と語った点については、黒田総裁のこれまでの発言とは相反する。しかし、日銀としての本音の部分でもあると思われる。ここにきての債券先物の板を見ても流動性という面からは、やや危険な兆候も出てきている。

 門間氏は、国債買入のペースを多少落としてもバランスシートは拡大し続けるので、引き続き緩和方向に行くという大きなフレームワーク自体は変わらないことを「しっかり説明していけば、引き締めになるとか為替相場の円高に作用するとか、そういう誤解を招く可能性は排除できる」と語ったそうである(ブルームバーグ)。日銀もこのあたりの落としどころをすでに探っているのではなかろうか。

 さらに門間氏は、明確な効果が出ていないのにどんどんマイナス金利を深掘りしていくことは「慎重に考えた方がよい」とも語っている。「明確な効果が出ていない」とはっきり言い切ってしまっているが、これについて日銀執行部は認めたくはなかろうが、これが現実であろう。

 7月28、29日の金融政策決定会合における追加緩和の可能性について門間氏は明言は控えているが、英のEU離脱など世界経済のリスクを重視するなら、追加緩和をするという判断はあり得るともしている。しかし、その場合の手段について門間氏は明確にしていない。

 市場参加者も7月の決定会合では政府の経済対策とも歩調を合わせての追加緩和を予想する向きは多い。しかし、実際に何をするのか、何ができるのかと問われるとトーンダウンせざるを得ない。黒田総裁ならばあらたなバズーカを用意できる、バーナンキ前FRB議長のアドバイスをもらってのヘリコプター・クロダが生まれるのではとの憶測もあるかもしれない。しかし、日銀はすでに「常識的な判断」からは袋小路に追い込まれつつあることも確かであり、追加緩和を決定するとすれば、かなり無理をしてのものとなることも意識しておく必要があろう。

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by nihonkokusai | 2016-07-13 09:57 | 日銀 | Comments(0)

参院選後のアベノミクスの行方

 7月10日に投票が行われた参議院選挙は自民党だけでの単独過半数には届かなかったものの、自民・公明両党では目標としていた61議席を上回り、合わせて70議席を獲得した。憲法改正に前向きな他の党などを加えると、その勢力が参院での三分の二を上回った。

 今回の選挙も与党の圧勝という結果となり、安倍氏が党総裁に再登板してから2012年衆院選、2013年参院選、2014年衆院選、そして今回の2016年参院選と自民党は4連勝という結果になった。安倍政権はこれでさらに盤石化するということになる。

 今回の選挙の争点はアベノミクスの是非とされた。もちろん国民はアベノミクスだけを意識して投票したわけではないが、結果とすれば国民はアベノミクスと呼ばれる経済政策を支持し、その結果を好意的に判断したということになる。

 ただし、そのアベノミクスに対しての関心は次第に薄れてくることが予想される。その主軸であったはずの日銀の金融政策に関して、すでに政府が距離を置くようになってきた。とにかく物価目標2%を達成することが日銀と政府の悲願となっていたが、異次元の緩和をしようと金融政策で物価が簡単に動かせるものではないことをむしろ露見させた。しかし物価は上がらずとも雇用の回復は進み、有効求人倍率の高さなどを示してアベノミクスはいかにも成功しているかのように示している。

 実はアベノミクスと呼ばれた無茶な金融政策など打たなくても、世界的なリスク回避により、日本の景気はしっかりし、雇用は同様の回復を示した可能性がある。むしろ以前のようなフレキシブルな金融政策を日銀が継続していたほうが、金融市場をうまくコントロールできていた可能性がある。いまの金融市場は日銀の金融政策に対してかなり懐疑的となったり批判的となってしまっている。日銀が動くとポジティブな反応を示さないどころか、ネガティブな反応を示す可能性も高くなっている。素直に動いているのは国債の利回りだけといった状況ともなりつつある。

 今後のアベノミクスの運営については、形式上は財政政策に軸足を移すとみられる。昨日、安倍首相は記者会見でデフレ脱却に向け、内需を下支えできる総合的かつ大胆な経済対策を実施したいと表明した。しかし、バブルの様相を示している国債市場にあまり刺激を与えることは危険も伴うことも予想され、大量の国債増発を伴うような経済政策は打たずに、景気の安定化を図るのではないかと個人的には予想している。安倍政権もアベノミクスという旗印は下ろさなくても、その軸足は次第に憲法改正に向けられるのではなかろうか。

 11日にバーナンキ前FRB議長が黒田日銀総裁と合い、12日には安倍首相とも話をするようである。ヘリコプター・ベンと異名を持つベン・バーナンキ氏ではあるが、FRB議長としては現実派であった。バーナンキ議長となってのFRBは、よほどの事態とならない限りは量的緩和策を取るようなことはなく、実際にQEと呼ばれた量的緩和策を導入した際も、FRBは量的緩和という表現を嫌っていたぐらいである。つまり今回の会談でもバーナンキ前議長はヘリコプターマネーを薦めるといったことよりも、中央銀行と市場との対話といったものの重要性を説くことも予想される。いま日銀に必要なのもまさにその点であると思われるためである。

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by nihonkokusai | 2016-07-12 09:55 | アベノミクス | Comments(0)

日銀は緩和策の縮小を検討すべきとの意見の意味

 日銀は7月28、29日に開く金融政策決定会合後に公表する展望レポートで、春闘での賃上げが勢いを欠いたことや英国のEU離脱決定後の円高を受けて物価上昇の勢いは弱まっていることから、2016年度の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率の見通しを前年度比0.5%から0%台前半に引き下げる方向で検討するそうである(時事通信)。

 6月30日に発表された5月の全国消費者物価指数は総合で前年比マイナス0.4%、生鮮食料品を除くコア指数で前年比マイナス0.4%、食料及びエネルギーを除くコアコア指数で前年比プラス0.6%となっていた。日銀の物価目標である総合もベンチマークのコア指数も前年比はマイナスの状態であり、物価見通しの引き下げはやむを得ないと思う。これを受けて物価目標の達成時期も4月の展望レポートの「2017年度中」からさらに先送りされる可能性もある。

 英国のEU離脱による影響が意識され、イングランド銀行やECBでは追加緩和観測も出ている。日銀も臨時会合を開いて追加緩和を検討するのではないかとの観測も一部に出ていた。ただし、臨時会合の可能性はなくなり、その代わり7月28、29日の通常の金融政策決定会合で追加緩和を検討するのではないかとの期待も強い。

 ところが日銀の金融政策に関しては面白いアンケート結果があった。QUICK月次調査<債券>によると、日銀は金融政策をどのように運営すべきかという問いに対し、「緩和策を縮小すべき」が40%を占め最も多くなっていたのである。「現状維持」が28%、「さらに緩和政策を強化すべき」が23%となっていたのである。

 これは債券市場関係者によるアンケート結果であるが、べき論として追加緩和でも現状維持でもなく、方向性としては引き締めとも取れる緩和策の縮小を検討すべきとの意見が最も多かったのである。

 この場合の緩和策の縮小というのは、国債買入を減少するいわゆるテーパリング、もしくはマイナス金利政策の撤廃を意味しているものと思われる。

 これは国債で運用しようにも日銀が大量に買い入れていることや、マイナスの利回りで運用出来ないことによるものとか、日銀のマイナス金利政策により銀行の収益が悪化するためではないかとの指摘もあるかもしれない。それについて完全に否定はできないが、それ以上に現在の日銀の金融政策に対しての危機感を市場参加者が抱いているのではないかと思われるのである。

 私も個人的には緩和策を縮小すべきとの意見を持っていたが、これは極めて少数派の意見ではないかと思っていた。ところが今回のアンケート結果を見る限り、少なくとも債券市場参加者の間ではこれが多数派を占めていたのである。

 日銀は大胆な金融緩和策により、マネタリーベースはすでに400兆円を越すまでになっている。ところが目標とする物価はマイナス圏にある。つまりマネタリーベースを増加させてもなかなか物価には働かないということになる。しかし、マネタリーベース増加のための大量の国債買入により国債市場の流動性が後退するなどの副作用も生じている。国債の利回りがマイナスということは異常なまでに国債の価格が上昇しているということでもある。その反動がいずれ起きる懸念もある。

 日銀は2年という短期決戦で物価目標達成を目論むが、それは達成できず、とにかく緩和で突き進む他にないといった70年数前の日本を彷彿とさせるような状況に陥りつつある。現実を直視した上で債券市場の機能回復のためにも、異常な緩和策から脱することも視野に入れる必要があるのではなかろうか。

 もちろんいま日銀がテーパリングを行うこととなれば、かなりのショックが日本の債券市場で起きる懸念がある。しかしそれを先送りすればするほどショックは大きくなるのではとの懸念もある。それが今回りアンケート結果に繋がっていることも考えられる。債券市場参加者による緩和策の縮小を検討すべきとの意見は完全に無視することはできないのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2016-07-10 11:23 | 債券市場 | Comments(0)

黒田総裁の支店長会議挨拶の変化が面白い

 7月7日の日銀支店長会議における黒田総裁の挨拶が日銀のサイトにアップされている。この挨拶文は通常の講演などと異なり、非常に端的にまとめられている。一見すると大きな変化はないようにみえるが微妙に手が加えられており、今回は今年の支店長挨拶を見比べて、重箱の隅を少しつついてみたい。

 今年に入り最初の支店長会議は1月、次が4月で今回が3回目となる。まず1月と4月との景気に関する部分の変化点を比べると、

1月「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。」

4月と7月「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている。先行きについては、基調として緩やかに拡大していくと考えられる。」

 この違いはすぐにわかる。「基調として」が付け加えられている。つまりトーンがやや弱まっているとも言える。「基調として」という言葉を加えなければ説明が難しくなりつつあるといえる。

 次に物価面でみると、

1月「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。」

4月「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについては、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。」

7月「物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。先行きについては、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられるが、物価の基調は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。」

 この違いは見てわかる通り分量にある。つまり言い訳が多くなっているとも言える。消費者物価指数が総合、コアともに前年比マイナスに沈んでしまい、その説明に苦慮していることが伺える。4月に「物価の基調は着実に高まり」とここでも基調という表現が使われている。7月には「当面小幅のマイナスないし」との表現が加わった。さすがに前年比マイナス0.4%となるとゼロ%程度、つまりゼロ近傍という表現は使えなかったと思われる。

 金融システムと金融環境面には1月、4月、7月ともに変化はない。しかし、最後のまとめの部分は下記のような変化があった。

1月「「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。」

4月と7月「日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続する。今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。」

 残念ながら「量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しており」との表現が4月(コアCPI-0.3%)から削られた。調べてみたところ「所期の効果を着実に発揮しており」との表現が加えられたのが、2013年10月(同+0.9%)の支店長会議の挨拶であった。たしかにコアCPIは2014年4月のプラス前年比1.5%となるまで着実にプラス幅は拡大させていた。

 その「着実に」との表現がなくなったのは2014年7月(同+1.3%)の支店長会議となっていた。このあたりさすが日銀である。2014年7月以降の消費者物価の前年比は着実にプラス幅を縮小させていた。先行きの物価動向を予測しての表現取り下げとみられる。

 そして最後の表現が「量・質・金利の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。」となっており、金融政策の方向性が何故か双方向から片道切符(緩和のみ)に修正されていた。「物価安定の目標」の実現のためには緩和で進むほかないとの意志表示にみえなくもない。これが今月末での日銀の追加緩和観測のひとつの背景ともなっているのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2016-07-09 10:35 | 日銀 | Comments(0)

個人向け国債と個人向け劣後債の違い

 日経新聞によると、損害保険ジャパン日本興亜は8月にも「劣後債」を個人投資家向けに1千億円発行するそうである。保険会社による個人向け社債は国内で初めてとなる。また、機関投資家向けも含め計2千億円規模を調達し、大型買収など将来の成長投資に振り向けるとか。

 これは日銀のマイナス金利付き量的質的緩和策の効果とも言えるものとなり、企業の投資を促進させていると言えなくもない。個人にしても預貯金金利はさすがにマイナスとはなっていないが、ほとんどゼロに近い。しかし、劣後債となれば金利も比較的高めに設定されると予想され、日経新聞によると利率は年1%程度が予想されているそうである。これは売れ行きは好調となると予想され、瞬間蒸発となるのではなかろうか。

 利率は個人向け国債の最低保証金利の0.05%を大きく上回るものの、注意すべきは同じ個人向けとはいっても個人向け国債と個人向け劣後債とは性格が異なる点となる。

 個人向け国債は1万円単位、今回の劣後債は100万円単位となる。特に気をつけなければいけないのが途中売却の際で、個人向け国債については1年間売却できないが1年経過すると財務省が額面で買い取る仕組みとなっている。これに対して劣後債だけでなく通常の債券を途中売却する際は、発行する証券会社が時価から手数料相当分を差し引いた価格で買い取る仕組みとなっている。個人向け社債などは極めて流動性が低いため、その買い取り価格が安くなり、債券市場の動向次第では思わぬ損失を被る懸念が存在する。また、劣後債は繰り上げ償還があるため、満期まで持てない可能性も意識しておく必要がある。

 少なくとも途中売却の可能性は低く、お金が100万円単位あり、証券会社の担当者を通じて購入が出来そう、という方は今回の劣後債は投資対象としては面白いと思われる。

 しかし、現在の金利水準が極めて異常とみている方とかにはむしろ個人向け国債をお薦めしたい。もちろん銀行預金に置いておくという選択肢もあるが、将来の金利上昇に備えるというのであれば、個人向け国債の10年変動タイプがお薦めである。長期金利がもし上昇に転じるとそれに応じて利率が動くのが個人向け国債の10年変動タイプとなるためである。

 この個人向け国債の販売額が伸びているそうである。NHKはニュースで今月発行分の個人向け国債の応募額が去年の同じ月の1.5倍になったと報じている。6月募集分は3105億円と前月の2104億円から増加した。ボーナス月でもあったことで増えた面もあったかもしれないが、個人向け国債特有ともいえる最低保証利率の0.05%が効いており、また流動性リスクと価格変動リスクもない面が多少でも認識されつつあるのではなかろうかと思われる。

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by nihonkokusai | 2016-07-08 09:56 | 投資 | Comments(0)

世界的な金利消失の背景

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 7月6日に日本の20年国債の利回りは初めてのマイナスとなった。10年国債の利回りもマイナス0.285%と過去最低を更新した。この金利の低下は日本だけの現象ではない。6日の米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%台をつけ過去最低を更新し、30年国債の利回りも過去最低を更新している。ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけ、スイスの50年債利回りが初のマイナスとなった。

 今回の世界的な金利低下の原因を、たとえば単純に英国のEU離脱による影響とするわけにはいかない。イングランド銀行のカーニー総裁が、英国の経済が大幅に減速する見通しと指摘したことや、英国の不動産ファンドの解約停止が相次いだことも不安感を強めたことは確かである。英国がEUを離脱するとなれば、英国で銀行業免許を取得すればEU全域で営業できる「シングルパスポート」が失われる可能性も指摘されている。大手金融機関が欧州の拠点をロンドンのシティからEU加盟国に移転する可能性が高まり、ロンドン周辺の不動産価格が大きく下落している。不動産だけでなく金融機関の拠点移転により、経済そのものへの影響も危惧される。しかし、これはあくまで富の移転であり、英国の問題であり、何かしらの世界的な危機が訪れるというわけではない。

 それではこれほどまでに世界の金利が低下しているのはどうしてなのだろうか。日本のデフレが世界に蔓延したとの見方もあるかもしれないが、日本のデフレというよりも物価が上がりにくい、裏を返せばインフレが生じにくい状況が日米欧の先進国で生じていることは確かであるが、それ以上に歴史の流れが金利の消失を招いたとも言えるのである。

 米国の10年債利回り、つまり長期金利の推移をみると2000年初めに8%台にあったが、2003年にかけて4%近くまで低下した。これはいわゆるITバブルの崩壊による影響が大きかった。しかし、中国をはじめとした新興国の経済成長を受けて世界経済も回復し、米長期金利は2006年あたりにかけて再び上昇し7%台を回復した。ところが2006年半ばに、それまで高騰を続けていたアメリカの住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなるなど、アメリカ住宅バブルが崩壊し、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。いわゆるサブプライム・ローン問題による危機が発生し、これが2008年9月のリーマン・ショックへと繋がり、世界的な金融経済危機が発生したまである。これを受けて米国の長期金利は再び低下基調となったのである。

 そのショックが落ち着きかけたときに起きたのが、欧州の信用危機であり発端はギリシャであった。2010年1月に欧州委員会がギリシャの統計上の不備を指摘したことが報道され、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。相次ぐギリシャの格下げなどもありギリシャ国債は急落し、ユーロの屋台骨を揺るがすことになる。この危機はそもそも財政問題であるとともに、すでに財政政策は討ち尽くした面もあったため、対応の主軸が金融政策に移された。イングランド銀行、FRB、ECBそして日銀は非伝統的に金融政策に追い込まれた。これはすでに政策金利がゼロ近くとなったことによる政策であった。これらを受けて米長期金利の低下基調は続いた。

 欧州の信用不安が後退しつつあるときに出てきたのがアベノミクスであり、それにより日銀は大胆な国債買入を主軸とした異次元緩和を踏み込む。デフレ懸念もあったことでECBも追随し、その結果マイナス金利政策に踏み込む。通貨高を避けるためECBの金融緩和に対抗すべくスイスの中央銀行なども積極的に対応した。そして日銀もまた今年1月にマイナス金利政策を導入し、日欧の長期金利がマイナス圏へと沈むことになる。

 FRBは2015年12月に利上げを決定したものの、2016年に入っての原油安とその要因でもあった中国経済の減速に巻き込まれ、今回の英国のEU離脱もあり、追加緩和は見送らざるを得なくなった。日欧の長期金利がマイナス圏へと落ちるなか、信用度が高い上、金利がついている米国債の魅力が高まり、それが結果として米国の長期金利までもが1.3%台をつけて過去最低を更新するという結果となってしまったのである。

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by nihonkokusai | 2016-07-07 09:44 | 国債 | Comments(0)
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