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ECBと日銀の国債買入は財政ファイナンスか

 6月16日に日銀の黒田総裁と岩田副総裁は参院の財政金融委員会に「通貨及び金融の調節に関する報告書」に出席し、その後質疑が行われた。民主党の風間議員から岩田副総裁に対し、日銀保有の国債に関する質問があった。

 このなかでECBの国債買入と比較し、日銀には国債の買い入れに歯止めがないが、これは財政ファイナンスとみなされないのかとの質問があった。もし歯止めがあれば、国債価格の下落も限定的となり、損失が抑えられ日銀の損失準備金の取り崩しは大きなものにならないのではないかと。

 2015年1月22日に決定したECBによる国債の買い入れは、月600億ユーロ相当の資産を購入するプログラムを少なくとも1年7か月実施する。ただし、中期的なECBのインフレ目標である2%近辺に達するまで買入は行われるとしている。債券保有の上限については、国別の発行残高の33%、分類別の発行残高の25%に設定。購入する際の利回りは中銀預金金利であるマイナス0.2%までが対象となっている。

 ECBは国債などの買い入れに制限を設けているが、日銀は2013年4月の量的・質的緩和の導入に対して、それまで日銀内で定めていた制限をなくしている。民主党の風間議員はこのあたりを意識して、ECBと日銀の国債買入の節度の違いを明らかにしたかったようである。

 しかし、質問者と岩田副総裁の答弁が噛み合わず、何度も中断が入る事態となっていた。たしかに岩田副総裁の答弁がやや的を射ていなかったかもしれないが、実際のところECBも日銀も国債買入に関しては、両者ともに2%という物価目標を掲げた上で、達成できなければオープンエンドで買入を行うことも表明しており、両者ともにとにかく大胆に国債を買えばすべてうまく行くとのリフレ的な発想が根底にあり、歯止めの有無を元にその違いを説明しろと言われても難しいのではなかろうか。

 日銀が量的・質的緩和の決定の際に外した国債買入の歯止めはいくつかある。日銀保有の国債残高が日銀券の発行額を上回らないという銀行券ルールがそのひとつであった。さらに資金供給のための日銀による国債買入は発行年限別の直近発行2銘柄を除いていたが、そのルールも撤廃した。基金による国債買入(残存3年以下)はこれが適用されていなかったが、2年債だけでなく、5年債、10年債などもこの制限なしに買入が可能になった。4月4日の決定会合後の公表文では、わざわざ「長期国債の買入れは、金融政策目的で行うものであり、財政ファイナンスではない」と明記している。明記することで財政ファイナンスではないことを示したとの見方ができる一方、明記せねばならなかった事情もあったとも言える。

 ECBの場合は国を跨いだ中央銀行であるため、買い入れる国ごとの国債の量はある程度制限しなければならない事情がある。日銀が買い入れる自国の国債は当然ながら日本国債だけとなる。銘柄毎の制限は流動性の低下を避けるものとみられ、ECBの買入の制限はマーストリヒト条約により禁止されている財政ファイナンスを意識したものというよりは、技術的なものによるのではなかろうか。

 ここでECBと日銀の買入について歯止めの有無で財政ファイナンスかどうかを区別することの説明は難しい。念のため、日銀も財政法では国債の直接引き受けを禁じられている。しかし、すでに発行後、その9割近くをすぐに吸い上げている状況はきわけて財政ファイナンスに近い事も確かである。これはECBも同様であろう。しかし、そこまでしないと物価目標は達成できないとしたのが日銀の主張である。そこまでしても2年経って物価目標は達成していない。むしろその事実の方を追求すべきではなかろうか。物価目標達成に財政ファイナンスに近いリスクを冒す必要があったのかどうかを追求すべきであったと思う。

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by nihonkokusai | 2015-06-18 09:46 | 国債 | Comments(0)

ギリシャのユーロ離脱があった際の影響

 どうやらギリシャはデフォルトやユーロ離脱も辞さない構えのようである。バルファキス財務相が18日のユーロ圏財務相会合で新たな改革リストを提出しない方針を示した。18日から20日にギリシャのチプラス首相はロシアに外遊の予定である。ユーロ圏財務相会合が開かれる18日までにギリシャが新提案を提出しなければ、ギリシャに対し要求を受け入れるかユーロ圏を離脱するか最後通告を行う可能性もある。しかし、25~26日のEU首脳会議まで交渉は持ち越される可能性も残るが、ギリシャは新提案を出す心づもりはなさそうな雰囲気であり、ユーロ離脱に備えてロシアのプーチン大統領とあからさまなひそひそ話をするつもりであるのか。

 仮にギリシャのデフォルトやユーロ離脱が現実化した場合、その被害が及ぶのはギリシャ国民だけではない。もちろん金融市場にもそれなりの影響を与えるであろうが、ユーロというシステムそのものに対する懸念が生じる。ユーロ圏の結束をむしろ強めるとの見方もあるが、ユーロ圏という壮大な経済圏をドイツ中心に作り上げたシステムにヒビが入り、単一通貨のユーロというシステムに対する懸念が生じることも予想される。これの影響を最も受けるのはドイツではなかろうか。

 ギリシャがユーロを離脱となれば、英国のEU離脱懸念もあり、欧州のパワーバランスに変化が生じることも予想される。これがどのような事態を引き起こすのか。今回は前回のギリシャ・ショックのような金融経済への影響よりも政治上の影響の方が大きいように思われる。

 仮にギリシャがユーロを離脱するとして、その混乱による金融市場への影響に対してECBは一時的な対策を取る可能性はあるものの、すでに量的緩和を実施していることで、それがショックを和らげる格好となり、あらたな金融緩和等はすぐに実施してくる可能性は薄いのではなかろうか。

 世界的な金融経済のリスクが高まることがなければ、米国や日本への影響も一時的なものに止まろう。しかし、少し様子を見る必要もあり、FRBの正常化、利上げはバーナンキ前議長に習って9月ではなく12月の可能性が高まるのではなかろうか。

 日本への直接的な影響は限定的とみられる。欧州でのドイツ、ロシア、英国、そして米国のパワーバランスへ影響については、日本よりも中国の方が影響度は大きいかもしれない。しかし、新たな金融危機の発生でもない限りは、たとえば日銀がギリシャ問題により追加緩和に追い込まれるようなことは考えづらい。

 金融市場への影響としては、米国の利上げを控えて、欧州の変調は外為市場では大きな変動要因となりうる。リスク回避の円買い、金融政策の方向性の違いによる円売りなどにより売買が交錯し、ボラティリティの高い状況となる可能性がある。円債も逃避先としてのニーズも出てこようが、米国債の動向次第ではこちらも変動が大きくなる可能性がある。

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by nihonkokusai | 2015-06-17 09:17 | 国際情勢 | Comments(0)

ギリシャのデフォルトやユーロ離脱懸念強まる

 ギリシャの6月のIMF向け返済は月末に一括返済することになった。ギリシャとの金融支援を巡る交渉はいまだ難航しており、ギリシャのデフォルトの可能性についてEU当局者が初めて正式に協議したとか、ドイツの経済相がギリシャのユーロ離脱の可能性が濃厚になりつつあると発言したと伝えられた。また、ギリシャのユーロ離脱は影響がどの程度か不明とドイツ連銀副総裁のコメントもあったようである。

 いずれにしても6月18日のユーロ圏財務省会合あたりまでに、ギリシャは欧州連合(EU)からの金融支援や財務省証券発行額上限の引上げなどを確保する必要がある。すでに金庫が空に近い状態になっているギリシャにとり、最後の頼みの綱といえるのが、欧州連合(EU)などによる支援となる。EUやIMFなどは現在、ギリシャの改革が不十分として、約72億ユーロのギリシャ向け融資を凍結している。この融資の凍結解除がなければ6月のIMFへの返済はかなり難しい状況となり、デフォルトが発生する懸念が出てくる。

 ギリシャのバルファキス財務相は、18日のユーロ圏財務相会合で新たな改革リストを提出しない方針を示したと独ビルト紙が報じた(ロイター)。ユーロ圏財務相会合が開かれる18日までにギリシャが新提案を提出しなければ、ギリシャに対し要求を受け入れるかユーロ圏を離脱するか最後通告を行う可能性もあると伝えられている。ギリシャのチプラス首相はその18日から20日にロシアを訪問しプーチン大統領にも会う予定だとか。リミットは18日ではなく、25~26日のEU首脳会議まで交渉は持ち越される可能性も残る。ところで、この重要な時期のチプラス首相のロシア訪問も何が目的なのであろうか。

 ギリシャのチプラス政権は反緊縮を掲げて誕生した。EUなどによる支援にはギリシャの財政改革や構造改革が必要とされるが、安易に妥協すると政権内部からの批判が高まり政権基盤が揺るぐ恐れがある。支援を受けられないとデフォルトが待っている。チプラス政権は政権内部や国民の目もあり、ぎりぎりまで交渉を続け多少でも妥協点を得て支援を受けようとしているとみられる。

 ギリシャのデフォルトが発生した場合には、金融市場に大きなインパクトを与えかねない。ただし、ギリシャは2011年に債務のヘアカット(債務元本の減免)というかたちで管理型デフォルトを発生させた経緯がある。

 ドイツ連銀のクラウディア・ブーフ副総裁は独紙とのインタビューで「銀行のギリシャへの直接融資は比較的小さいため、各国への直接的な影響も小さい」と述べた上で「間接的な影響がどの程度になるかは誰にも分からない」と語ったそうである(ロイター)。

 今回、デフォルトが起きたとしてもいずれ支援が受けられるのであれば、たまたま発生してしまったデフォルトとして、その影響は危機的状況を招くようなことにはならないかもしれない。それより懸念すべきなのは、ギリシャが頑なに改革を避けることにより、EUやIMF、欧州中央銀行(ECB)のいわゆるトロイカからの支援が受けられなくなる事態である。これによりデフォルトが発生するだけでなく、トロイカから見放された結果、ギリシャがユーロ離脱を迫られることが予想される。

 ギリシャがユーロから離脱となれば、ギリシャは統一通貨のユーロが使えなくなる。新ドラクマといった自国通貨を使わざるを得なくなる。新たな自国通貨を得てもその通貨の信用力はユーロに比べれば大きく低下するであろう。これはギリシャの金融経済には大打撃を与える。ただし、ギリシャ政府にとっては、新たな通貨を導入する際に債務を削減することも可能となる。

 日本での戦後の新円切り替えと預金封鎖は、国民の財産を把握するだけでなく、それを差し押さえすることが目的であった。財産税により、差し押さえたものから強制的に徴収することで、それを原資に内国債の償還に当て、債務を減少させた。ギリシャにとっても債務削減は必要であり、同様の事態が発生する懸念がある。

 これはギリシャ国民に大きな負担を強いる。通貨の変更も時間を要するであろうが、時間をかけるとギリシャから資金が流出する。すでにギリシャでは銀行預金がかなり引き出されているといった動きも出ており、ギリシャの家計と企業による4月の預金残高は2004年9月以来で最低となっていた。

 しかし、金融支援を受けるには財政改革等の条件が伴う。これは日本の消費税に当たる付加価値税引き上げや、低額年金受給者への補助金廃止、医療費の国民負担の引き上げなどであり、ギリシャのバルファキス財務相は金融支援を受ける条件である財政改革案をめぐる欧州連合(EU)側との協議で「ギリシャに譲歩する余地はない」と主張している。

 IMFのラガルド専務理事は、債務危機に直面しているギリシャについて、ユーロ圏からの離脱もあり得ると語った。トロイカと呼ばれたギリシャ支援団の一部から、やや突き放したような発言も出ている。これはチプラス政権というよりもギリシャ国民に対して、ユーロ離脱という選択肢はとれるのか、それで良いのかと問いかけているかと思われる。ギリシャ国民には6月末に向けて、大きな選択が迫られる。

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by nihonkokusai | 2015-06-16 09:45 | 国際情勢 | Comments(0)

日銀の次の一手がますます不明瞭に

 6月10日の衆院財務金融委員会で日銀の黒田総裁は、「米連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げプロセスに入るから、今後、さらに円安・ドル高が進むと決めつけるのは難しい」と発言していた。FRBと日銀の金融政策の方向性の違いを意識した自国通貨安により、輸出企業に好影響を与えるとともに、輸入物価の上昇による物価の浮揚効果を狙う政策はこの発言で可能性が薄れたともとれる。

 日銀の佐藤審議委員は円安に対して、「円安は輸出の増加やグローバルに展開している企業の収益改善のほか、株価の上昇といったプラス効果を持つと思います。その一方で、輸入コストの上昇や、その価格転嫁を通じて、中小企業や非製造業の収益や家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するといった面もある」と会見で発言していた。たしかにここにきて政府からも円安のマイナス効果を指摘する声も出ている。また、米議会で環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の合意に欠かせない米大統領貿易促進権限(TPA)法案の審議が重要な局面を迎えていることに対して、政府側に配慮しているとの見方もある。

 さらに穿った見方となるが、昨年10月の量的・質的緩和の拡大にあたり、FRBのテーパリング終了のタイミングでぶつけてきたことでの円安ドル高の動きに対して、米国当局あたりから懸念の声が出ていたとしてもおかしくはない。さらにECBも量的緩和を実施することで自国通貨安を狙うなどしており、これ以上のドル高を米国も望んではいないのではなかろうか。

 通貨安狙いでの追加緩和が難しくなり、日銀はますます動きが取りづらくなる。佐藤審議委員は10日の講演で、国債買い入れの限界についてコメントしていたが、このまま日銀が現在の規模の買入を続けるだけでも、いずれオペの未達が発生する懸念がある。欧米の長期金利が上昇してきている状況のなかで、国債のボラティリティも大きくなりつつあり、このような環境では未達のリスクはさらに膨らむことも予想される。少なくともこれ以上の国債買入は無理である。

 もちろん質的緩和と称してETFやREIT、社債などの買入増額の可能性は否定できないが、量を増やさなければ意味がない上、市場規模からもかなり無理を生じさせる懸念もある。こちらも現実性は薄い。

 それでは政策目標をマネタリーベースから金利に戻し、超過準備の付利の引き下げや撤廃、さらにはマイナス金利等による追加緩和の可能性については、黒田総裁も佐藤審議委員もきっぱりと否定している。もちろんここで否定して次回の金融政策決定会合で決定したとしても何らおかしくはない。異次元緩和第二弾も事前に否定的な発言をしていたぐらいである。それでもいまのところマネタリーベースから金利に戻すような大きな修正はどうやら取るつもりはないようである。

 今後、前年比マイナスも想定される消費者物価の前年比がこのまま低迷を続けても、日銀は現在のスタンスを半永久的に変えないつもりなのか。何かの弾みで消費者物価指数が2.0%に近づくのを待つだけであろうか。

 物価が上がらずとも雇用が改善し、株価も上昇していればそれで良し。これも日銀の異次元緩和の効果とするとしても、果たしてそれで良いものなのか。もし異次元緩和に物価浮揚効果がないと認めるのならば、リフレ政策から自由度の拡がるFRBのような、つまりは白川総裁時代の金融政策のスタンスに戻すことが必要ではないかと思う。

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by nihonkokusai | 2015-06-15 09:27 | 日銀 | Comments(0)

長期金利反転の兆し

 6月10日にドイツの10年債利回りは1.06%まで上昇し、1%の壁をあっさり突破した。米国の10年債利回りも節目のひとつ2.5%に接近した。
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 ドイツの長期金利の上昇の発端は買われ過ぎの反動とされた。いわゆるQEトレードの巻き返しである。ドイツの長期金利は2014年1月初めの1.9%台から右肩下がりとなり、今年の4月17日に0.049%まで低下した。そこがボトムとなり、そこからドイツの長期金利は反発した。5月7日に0.8%近くまで上昇。そこでいったんドイツ国債には押し目買いが入り、5月29日には0.5%割れとなった。ところが再びドイツの長期金利は上昇し、6月10日に1%を突破した。

 ドイツの長期金利の上昇の背景には、5月のユーロ圏消費者物価指数速報値が前年比0.3%の上昇と、昨年11月以来のプラスとなったこともある。ECBの量的緩和というよりも、そのアナウンスメント効果によるユーロ安も影響があったかもしれないが、物価が底打ちしてきた可能性がある。6月3日のECB政策理事会後の会見でドラギ総裁は、市場はボラティリティの高い時期に順応する必要があると述べた。ECBによる今年のインフレ率予想が0.3%と従来予想のゼロからわずかながらも引き上げられたこともドイツ国債の売り要因となった。

 ドラギ総裁は3日の会見で「景気回復はすそ野を広げ、内需は金融政策措置によってさらに支えられるはずだ。回復はわれわれの予想通りに進展している」と述べている。そうであればドイツの長期金利の上昇は容認せざるをえなくなり、それがボラティリティ発言に繋がったとも言える。

 このドイツの長期金利上昇は次第に収まるとの見方が多いようである。2003年の日本でのVARショックも買われすぎの反動によるもので一時的な金利上昇となった。2013年4月の日銀の異次元緩和決定後の長期金利の乱高下も一時的であった。日本では1998年以降、長期金利の上昇はあっても一時的なものに過ぎなかった。では今回のドイツの長期金利上昇も一時的なものに過ぎないのか。

 ここで注意すべきは米国の長期金利である。ドイツの長期金利の上昇に触発される格好で米長期金利も上昇してきたが、その要因には年内とされるFRBの利上げ観測がある。

 よほどの経済データの悪化や突発的な出来事でもない限り、FRBは年内の正常化、つまり利上げを実施するとみられる。そのタイミングは9月のFOMC以降とされている。FRBの利上げに向けた地均しに関し、イエレン議長は前任のバーナンキ議長の手法をかなり意識しているように思える。2013年5月22日のバーナンキ議長(当時)の会見でテーパリングの意向が明らかとなり、その2年後の2015年の同じ5月22日にはイエレン議長が講演で年内の利上げの可能性をあらためて示した。

 通常であればFRB議長は出席するはずのワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムに、2013年はバーナンキ議長が欠席したが、今年はイエレン議長も欠席となる。

 2013年には9月のFOMCでテーパリング開始決定を市場は織り込みにいった。米10年債利回りは3%台をつけにきたが、このときはテーパリング開始は見送られた。見送りの理由としては、5月のテーパリングの示唆からの市場の動きが、テーパー・タントラムと表現されたように、かんしゃくが起きて予想を超える動揺を示していたためとの見方もあった。

 2013年のテーパリング決定に関して、当初は9月決定予定であったのを12月に先延ばししたのか。それともそもそも12月が本命であったのか。このときにバーナンキ議長を補佐していたのはイエレン副議長であり、当時の状況を良く知る立場というかその決定を下した主要メンバーであり、果たして真相はどうであったのか。

 この予行練習によって、12月の実際のテーパリング決定の際に市場はさほど「かんしゃく」は起こさず、その後も着々とテーパリングは進められ、市場は予想以上に落ち着いていた。このあたりの手綱さばきは見事と言えた。いずれにせよ、FRBの利上げはかなり慎重に行ってくることも予想され、9月のFOMCでフェイントをして、実際には12月に決定という2013年のパターンもありうるかもしれない。

 タイミングはさておき、テーパリング(量的緩和解除)で米長期金利が3%台に乗せたことを考慮すれば、正常化(ゼロ金利解除)では、そのさらに上を行く可能性がある。つまり米長期金利が3%台に向けて上昇するとなれば、ドイツの長期金利も今度は直近の金利低下トレンド以前の水準であるところの2.0%に向けて上昇してくることが予想される。もちろんユーロ圏の経済や物価の回復とともに、さらにギリシャのユーロ圏離脱などがないことが前提となる。

 このようなストーリー通りに動くとなれば、日本の長期金利も多少なり上昇してくることが予想される。ベーシススワップによりドル調達に多少のプレミアムが乗ったとしても短期債はさておき、長めの国債の利回り上昇により、海外投資家などの売りも予想される。あくまでチャート上ではあるが、日本の長期金利は0.6%がひとつの節目となり、そこを抜けると0.8%あたりまでの上昇も予想される。

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by nihonkokusai | 2015-06-14 07:58 | 債券市場 | Comments(0)

円安にブレーキ、黒田発言の意図

 日銀の黒田総裁は10日午後の衆院財務金融委員会で民主党の前原氏への答弁において、「実質実効為替レートがここまで来ているということは、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と語った。

 実質実効為替レートは昨年、すでに1973年以来、42年ぶりの水準となっている。何を今更との発言であったものの、市場は「ここからさらに(実質実効為替レートが)円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と()の部分を無視して反応してしまったのか。

 この黒田総裁の発言をきっかけに10日のドル円相場は124円台半ばから122円台半ばに急落したとなれば、市場の早とちりとなろう。しかし、私自身はこの発言ではなく、違う黒田総裁の発言に「えっ」と驚いた。黒田総裁はこの衆院財務金融委員会で鷲尾英一郎氏(民主)、丸山穂高氏(維新)らの質問に答える格好で「米連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げプロセスに入るから、今後、さらに円安・ドル高が進むと決めつけるのは難しい」と発言していたのである。

 昨年10月末に日銀は量的・質的緩和の拡大、いわゆる黒田バズーカ第二弾を打ち出した。この背景には原油価格下落によるデフレマインドの払拭以外に、政府の消費増税の決定の後押しとの見方もあった。この異次元緩和パート2は市場にとってサプライズとなったが、特に反応が大きかったのが外為市場であった。黒田総裁は元財務官で、為替のことは市場動向含めて熟知しているはずであり、この追加緩和は円安を狙ったものである可能性は極めて高い。その2日前にFRBがFOMCでテーパリングを終了させていた。日米の金融政策の方向の違いを意識させ、その結果ドル円を110円割れから結果として120円台に持ち込んだのはこの日銀の追加緩和がきっかけであったといえる。

 ところが、黒田総裁はさらなる円安の芽を事前に刈り取ろうとしている。これは実質実効為替レートの部分ではなく、FRBの利上げに絡めた円安を否定したことによって伺えるのである。FRBの利上げのタイミングで日銀が追加緩和を決定すればさらなる円安も見込めるはずである。しかし、どうやら日銀は円安による景気というか物価の浮揚効果を狙うつもりはないようである。

 つまりは何らかのかたちで日銀は円安誘導策を採りづらくなっているとの見方ができるかもしれない。為替の介入は財務省が主管であるものの、そもそもアベノミクスの第一の矢とされるリフレ政策に基づく異次元緩和は、円安誘導とそれによる株高が主目的であった。異次元緩和第二弾も結果として円安誘導となっていた。そうであるならば今度のFRBの利上げも円安誘導の絶好のチャンスのはずであった。

 黒田総裁は甘利経済再生担当大臣に対して、「さらに円安が進むことはありそうにない」などと述べたことについて、「趣旨が若干、曲解されて市場に伝わってしまった」と説明したそうである。たしかに実質実効為替レートの部分はそうであろうが、ほかの発言からはここからの円安は望んでいないことを示唆していると見ざるを得ない。米議会で環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の合意に欠かせない米大統領貿易促進権限(TPA)法案の審議が重要な局面を迎えていることに対して、政府側に配慮しているとの見方もある。さらに円安による中小企業や個人消費に向けた悪影響についても意識されつつある。

 本来であれば、物価浮揚の可能な手段は何でも取りたいはずの日銀が、その手段のひとつである通貨安に対してはやや躊躇しはじめた。この程度の円安でも十分ということなのかもしれないが、なにかしらのプレッシャーが海外から掛かっていた可能性もありうる。10日の黒田総裁発言は日銀による円安政策への意識の変化を感じさせた。だから市場は過剰に反応したと言える。

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by nihonkokusai | 2015-06-12 09:13 | 日銀 | Comments(0)

やはりおかしい世界の異次元緩和の効果とされるもの

 2007年8月ごろからの米国でのサブプライム問題に端を発する金融市場の混乱、欧米金融機関の巨額損失による信用システムへの不安、米経済の後退観測などが生じた。サブプライムローン問題を契機に始まった金融混乱は、2008年秋以降、未曾有の世界的な金融経済危機へと発展しもその象徴的な出来事がリーマン・ショックとなった。

 リーマン・ショックによる危機がやっと後退したかに思えた2010年に今度はギリシャの債務問題が顕在化し、これが欧州の信用危機をもたらし、再び世界的な金融経済危機が発生した。

 この間、日米欧の中央銀行は積極的な金融政策を実施した。財政出動が難しくなり、危機回避に対して金融政策に頼らざるを得なくなった面も大きい。しかし、伝統的な金融政策、つまり政策金利の上げ下げに関しては、政策金利が実質ゼロ近辺となると限界が生じた。これに対して、イングランド銀行、FRB、ECBそして日銀などは非伝統的な金融手段に打って出た。ちなみにこのときの金融緩和はあくまで危機対応であった。

 イングランド銀行は国債買入規模を目標とする量的緩和を行った。FRBは試行錯誤を繰り返して最終的には国債とMBSの大量買入に落ち着いた。市場はこれをQEと呼んだ。ECBは国債価格が急落していた国の国債買入を行った。日銀は包括緩和政策としてゼロ金利政策と別枠の国債買入を組み合わせた政策を実施した。

 これらはあくまで危機対応であったが、金融政策にはそれぞれ目標があり、その政策解除については理由付けも必要になった。多少物価のターゲットに乖離しても危機が収まればイングランド銀行は追加の買入は行わなかった。FRBは景気の回復やそれによる雇用のたるみ(slack)などを意識していたが、その改善をテーパリングの理由としていた。

 ただし、おかしいのは入り口が危機対応で出口が当初の金融政策の目標であったことである。物価や雇用の数字が意識するあまり、たとえば米国では雇用統計の内容が重視されたりする。しかし、金融政策でダイレクトに雇用に働きかける明確な説明はなされていない。あくまで結果重視でしかない。

 これに対して日銀の異次元緩和は別の次元でやってきた。欧州危機後退のタイミングで出てきたアベノミクスと呼ばれたリフレ政策のアドバルーンによって円安株高がもたらされ、そのリフレ政策を日銀は実現せざるを得なくなったのである。危機対応という側面からみれば、本来であればブレーキを踏むべきタイミングで、思い切ったアクセルを踏み込んだといえる。その理由はこれまでの日銀が積極的なデフレ対策を取ってこなかった、からだそうである。

 ECBも危機の影響による物価下落を理由付けに、FRBや日銀が行った大量の国債買入をこちらも危機は後退しつつあるタイミングで実施している。日銀もECBもすぐに効果が出たかのような結果になるが、これは危機後退のタイミングと通貨安がミックスしての物価の一時的な上昇となっていたことによる影響も大きい。結果として日銀は2年という期間での物価目標はリフレ政策で達成できていない。金融政策で直接物価を動かす経路がこれまた不透明となった。

 このように2007年以降の日米欧の中央銀行の金融政策は日銀だけでなくすべて異次元の金融緩和であった。それがいったいどのような効果を得たのか。結論からいえば世界的危機を市場経由で和らげる役割や、通貨安による効果はあったと思われる。その通貨安もスイスのように介入でも限界があることを示すなど、興味深い事例も出ていた。

 まだ総括には早すぎるかもしれないが、いろいろと矛盾だらけの日米欧の異次元緩和をあらためてその効果なるものを分析することも必要ではなかろうか。もちろん単に数値を比較するとかではなく、金融緩和がどのように働いたのかを具体的に示した上でではあるが。

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by nihonkokusai | 2015-06-11 09:04 | 中央銀行 | Comments(0)

米国の利上げは成功するのか

 米国の中央銀行であるFRBの正常化(利上げ)に向けた地均しに関し、イエレン議長は前任のバーナンキ議長の手法をかなり意識しているように思える。2013年5月22日のバーナンキ議長(当時)の会見でテーパリング(量的緩和による債券購入額の減少)の意向が明らかとなり、その2年後の2015年の同じ5月22日にはイエレン議長が講演で年内の利上げの可能性をあらためて示した。

 そして、通常であればFRB議長は出席するはずのワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムに、2013年はバーナンキ議長が欠席したが、今年はイエレン議長が欠席となる。ジャクソンホールでのシンポジウムは、ある程度マスコミ等から遮断されての意見交換の場もあり、これには著名学者などとともに各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものになっている。

 2013年には9月のFOMCでテーパリング開始決定を市場は織り込みにいった。米10年債利回りは3%台をつけにきたが、このときはテーパリング開始は見送られた。見送りの理由としては、5月のテーパリングの示唆からの市場の動きが、テーパー・タントラム(taper tantrum)と表現されたように、かんしゃくが起きて予想を超える動揺を示していたためとの見方もあった。

 2013年のテーパリング決定に関して、当初は9月決定予定であったのを12月に先延ばししたのか。それともそもそも12月が本命であったのか。このときにバーナンキ議長を補佐していたのはイエレン副議長であり、当時の状況を良く知る立場というかその決定を下した主要メンバーであり、果たして真相はどうであったのか。

 この予行練習によって、12月の実際のテーパリング決定の際に市場はさほど「かんしゃく」は起こさず、その後も着々とテーパリングは進められ、市場は予想以上に落ち着いていた。このあたりの手綱さばきは見事と言えた。

 ところで、テーパリング開始(量的緩和解除)と正常化(ゼロ金利解除)は果たしてどちらが市場への影響は大きいのか。それは利上げだろうとの意見が多そうだが、2006年の日銀の量的緩和解除とゼロ金利解除について市場の注目は圧倒的に量的緩和解除にあった。ある意味、このふたつはセットとして認識されており、ゼロ金利解除は量的緩和解除によって既成事実化されていた。

 ところがFRBについてはテーパリングは可能でもゼロ金利解除は困難との見方も強い。このあたり、非伝統的手段への日米の市場関係者の意識の違いも大きいのであろうか。いずれにせよ、FRBの利上げはかなり慎重に行ってくることも予想され、9月のFOMCでフェイントをして、実際には12月に決定という2013年のパターンもありうるかもしれない。

 市場はこのFRBの利上げをどのように織り込みにいくのか。特に米長期金利については再び3%を見に来るであろう事が予想される。さらに正常化が達成されると、次は追加利上げも視野に入る。もちろんこれも慎重に行うであろうが、長期金利はそれを織り込んでくると予想される。

 米株式市場は過去最高値の水準まで上昇していたことの反動もあって、金利上昇に伴い、ある程度の調整は余儀なくされると思われる。過剰流動性相場の終焉も意識されるかもしれないが、まだ日銀やECBは頑張っている。それよりも相場が金融相場から業績相場に移行してくる可能性がある。金融政策が非伝統的なものから伝統的なものに戻せた事実こそ、世界の経済環境が危機以前の姿に回復していることを示すものとなろう。

 ただし注意すべきは2006年の日本の正常化への復帰後の事例である。サブプライムローン問題を発端とした危機が日本も襲って再び緩和政策に戻り、いまや異次元の緩和を日銀は実施している。歴史は繰り返されるのであろうか。

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by nihonkokusai | 2015-06-10 09:41 | 中央銀行 | Comments(0)

日銀は反リフレ派が巻き返しか

 日銀が2013年4月に量的・質的緩和を導入して約束の2年がすでに経過した。日銀はこの緩和を異次元の緩和と称し、2年で2%の物価目標を達成するとした。しかし、それから2年目となる今年4月の消費者物価指数はコア指数が消費増税の影響を除いてゼロ%となり、物価目標の2%は達成どころか、異次元緩和以前の水準に戻ってしまっている。

 その結果、日銀は2年という期間を曖昧にして延長させた格好ではあるが、2年という期間で達成できなかったことは確かである。これはいわゆるリフレ政策が誤りであったことを示すものといえるのではなかろうか。1990年代初めに当時の岩田規久男上智大学教授と翁邦雄日本銀行調査統計局企画調査課長との間でのマネーサプライ論争があった。これはリフレ派と日銀の金融政策の主流派との論争であった。この際に日銀は結局、リフレ政策を退けた格好だが、2012年12月の安倍政権の誕生により、異端ともされたリフレ政策を導入せざるを得なかった。これについては日銀内部でも批判的な意見が多かったはずだが、安倍政権の勢いがそれを遠ざけた格好となったのではなかろうか。この際に、それでは約束の2年間だけは様子を見てやろうとリフレ政策の行く末を見守っていた関係者も多かったのではないかと推測される。

 その2年が経過した。結果は見ての通りとなる。結果が出た以上、リフレ政策はやはり誤りであり、その政策をさらに推し進めると出口政策が困難になるなどの弊害が起きかねない。現実にこれ以上量を増やすことも難しい。日銀執行部にとっても身動きできない状況下、リフレ政策そのものを見直そうとしているのではなかろうか。

 そのひとつの現れが、マネタリーベースとの言葉の封印ではなかろうか。『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』という企画局のレポート(日銀レビュー)で「マネタリーベース」との言葉を封印し、さらには先日の岩田副総裁の講演でも「マネタリーベース」との言葉を使わなかったことからも見受けられる。岩田副総裁への記者会見では「マネタリーベース」についての質問が出たが、岩田副総裁は量ではなく質であることを殊更強調していた。リフレ派筆頭であったはずの岩田副総裁としては、おかしな発言と言えよう。

 そして、岩田副総裁は講演の参考グラフからついに予想物価のグラフを使わなくなった。6月4日の国際会議の開会挨拶で、黒田日銀総裁は予想物価上昇率について、「中央銀行にとっては、予想物価上昇率をどのように計測するのか、予想物価上昇率が実際の企業の価格・賃金設定行動や家計の消費行動にどのように影響するのか、さらに、予想物価上昇率のアンカーの頑健さをどのように評価するのか、といった点は政策運営上の大きな関心事項です。この分野の研究が、今後さらに進展していくことを期待します。」とコメントしている。予想物価があってこその異次元緩和の波及経路であったはずが、まだ研究途中とはどういうことなのか。

 さらにピーターパンの物語の「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」という言葉を紹介している。大切なことは、前向きな姿勢と確信とはしているが、すでにリフレという魔法が解けてしまったことを暗に示しているのではないかと勘ぐりたくなる。

 この黒田総裁の講演では、非伝統的な金融政策との言葉が何度か出てくる。また日銀のレポート、「均衡イールドカーブの概念と計測」のなかで「イールドカーブ全体に働きかける非伝統的な金融政策」とあった。ややこちらも勘ぐり過ぎかもしれないが、量を中心とした異次元緩和、いわゆるリフレ政策から、本来の金融政策に舵を戻そうとしているのではなかろうか。2年経って結果が出なかったリフレ政策に対し日銀のなかでも、反リフレ派の勢力の巻き戻しが起きているのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2015-06-09 09:36 | 日銀 | Comments(0)

米利上げ時期は前議長を見習って12月?

 6月5日に発表された5月の米雇用統計で、非農業雇用者数は前月比28万人増となり、市場予想の22万人台を大きく上回った。失業率は労働人口の増加を受けて5.5%と4月の5.4%に小幅上昇し、平均時給は前月比0.3%上昇となり、時給の前年同月比上昇率は2.3%と2013年8月以来の高い水準となった。

 単月の数値だけで金融政策が決められるわけではない。しかし、ここにきての経済指標がやや悪化しているものが多く、市場ではFRBの利上げ予想時期が後退し、この雇用統計の数字によりそれが再び引き寄せた格好となった。

 FRBのブレイナード理事は、このところ続く弱いデータが経済の力強さに疑問を生じさせていると指摘し、年内利上げの予定を遅らせることにオープンな姿勢を示唆したとされる。さらにIMFは4日の報告書で、FOMCは初回利上げを2016年前半まで先送りするべきだと指摘していた。

 しかし、ニューヨーク連銀のダドリー総裁からは「労働市場の改善が続き、インフレ期待が今後もしっかり抑えられた場合は、成長見通しをめぐり暗雲が垂れ込めない限り、金融政策正常化の年内開始決定を支持するだろう」との発言があり、あらためて年内利上げの可能性を指摘した。イエレン議長のできれば年内に利上げを行いたいとの意向には変化はないと思われる。

 5日の米国債券市場では、米10年債利回りは2.43%まで上昇した。4日にも一時2.42%まで上昇しており、節目のひとつ2.5%に接近しつつある。ここを抜けるといよいよ3.0%が見えてくる。3%は2013年12月にFRBがテーパリングを開始した際の水準であり、その前は2013年9月に3%台をつけていた。

 2013年9月に3%台をつけていたのは9月のFOMCでのテーパリング開始の決定が予想されていたためである。実際には9月のテーパリング開始は見送られ、12月となったが、いったん予行練習をした効果があったのか、米10年債利回りの12月の上昇は3%近辺で止まった。

 2013年9月に米10年債利回りが3%台に乗せるきっかけとなったのが、5月22日のバーナンキ議長(当時)の発言である。バーナンキ議長は上下両院合同経済委員会の証言を行ったあとの会見で、「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを縮小することは可能だ」と発言した。このテーパリングの発言を受けて市場が揺れた。これをかんしゃく(tantrum)を起こしたと表見され、テーパー・タントラム(taper tantrum)との言葉が生まれた。

 面白いことに、FRBの年内利上げがあらためて意識されたのは今年5月22日のイエレン議長の講演で、FRBの利上げについて、年内のある時点でと発言したこともきっかけとされる。この発言はこれまでも何度か繰り返されていたものではあるものの、まさかとは思うが2年前の同じ日にバーナンキ前議長がテーパリングを示唆していたことも意識していたのであろうか。

 今回もその前任者が引き起こしたとされる市場のかんしゃくが起き始めているとの観測もある。ただし、今回の米長期金利の上昇の背景には、FRBの利上げ観測とともにドイツの長期金利の反発も要因となっていることにも注意したい。いずれにしても米長期金利が上がりやすい環境にあることは確かであろう。

 2013年9月頃の様子をあらためて確認したところ、この年のワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムには、バーナンキ議長は出席していなかった。イエレン議長も今年8月27日~29日にジャクソンホールで開催される年次経済シンポジウムへの参加を見送る方針だと伝えられている。どうやらこれもまた先代議長を見習っているのかもしれない。

 そうだとすると意外に2013年と同様に、9月のFOMCで利上げは見送って12月ということも考えられるかもしれない。イエレン議長の「年後半」とはいったいどのタイミングを示すのか。それを巡っての市場のかんしゃくはどの程度まで起きるのか。いずれにしても米長期金利の3.0%が大きな目安になることは確かである。

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by nihonkokusai | 2015-06-09 09:25 | 中央銀行 | Comments(0)
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