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物価は期待ではなく原油で動く

 12月26日に発表された11月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は前年比プラス2.7%、消費増税の影響分を除くと前年比プラス0.7%となった。食料や電気代、宿泊料などが値上がりしたものの、原油価格の下落を背景にガソリンや灯油が値下がりし、上昇率は前年比は10月のプラス0.9%から0.2ポイント縮小した。

 消費者物価指数を構成する要素は多品目に渡る。全体の物価を上げるには日銀の気合いならぬ、人々の期待を動かす必要があるとするのが、日銀の異次元緩和の背景にある。本当にそうであったろうか。
 原油価格の代表的な指標のひとつにWTI先物がある。WTIとはウェスト・テキサス・インターミディエイト(West Texas Intermediate)の略称で、米国のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称である。この原油の先物取引がWTI先物である。
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 この米国のWTI先物価格と日本の消費者物価指数(コアCPI)のグラフを重ね合わせて見ると、なかなか興味深いことが浮かび上がる。非常に似た動きをしているのである。米国の原油価格の変動が日本の消費者物価指数に与える影響は、それほど大きくないように思えるが、ほかの変動要素にさほど大きな動きがないとなれば、輸入に依存し、その消費量も大きく、さらに値動きが大きい原油価格の変動に日本のCPIが影響を受けてもおかしくはない。もちろんそれは為替の変動も同様であろう。しかし、WTIと日本のCPIのグラフからは為替変動を加味せずとも、その影響力は大きいことがわかる。

 特にWTIとCPIの連動性が顕著に現れたのが2007年から2008年にかけての動きである。2007年7月から2008年7月にかけて、1バレル50ドル台から140ドル台への原油価格の急騰があり、その後の2008年末から2009年初めにかけて、今度は40ドル近辺にまで急低下した。

 日本のCPIは、WTIの急騰以前はゼロ近傍で推移していたが、WTIの急騰を受けて2008年7月には前年比プラス2.4%にまで上昇した。その後、原油価格の急落と1か月程度のラグがあって日本のCPIの前年比は急低下しはじめ、2009年1月にはゼロ近辺、同年8月にはマイナス2.4%となっていた。

 実は2006年の日銀による量的緩和とゼロ金利解除も、それまでにじわりじわりと上昇したWTIとともに、CPIも前年比のマイナス幅を減少させてきたことが、その背景にあったと考えられる。この間の原油価格の上昇は中国などの世界経済の景気拡大により、それが原油価格の上昇に働きかけるとともに、日本の実態経済の回復にも影響を与えていたことは確かであろう。

 さらに日本のCPIは2009年8月の前年比マイナス2.4%を底に、徐々に回復基調となっていた。これはWTIが2009年2月あたりをボトムに再び上昇基調となっていたことが要因ではなかろうか。

 WTIは2011年3月あたりに一時100ドル台まで回復し、2011年7月には日本のCPIはゼロ近傍まで回復した。その後CPIは2013年3月にマイナス0.5%まで低下するが、WTIが2011年6月に80ドル台から2013年7月に向けて100ドル台に再び上昇したこと、さらにドル円が2013年5月に向けて大きく上昇したこともあり、CPIは2014年4月に前年比プラス1.5%まで上昇したとの見方もできる。
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 CPIはほかの要因、たとえば消費増税による便乗値上げ分や、損害保険料の変更などの影響も受けるであろうが、CPIを株価のような価格推移としてのチャート分析を行えば、かなりの部分はWTI先物と為替の動きで説明が可能ではなかろうか。

 ただし、たとえばマネタリーベース前年比とCPIの前年比のグラフをみてみると、日銀の2014年4月の異次元緩和以前にはほとんど連動性はなかったのが、異次元緩和後は同じような動きを見せている。これだけみると、ここでレジームチェンジが起き、即座にマネタリーベースとCPIがタイムラグを置かずに一致した動きとなったようにも見える。しかし、2014年10月や11月あたりからは、マネタリーベースの前年比が下げ止まっても、CPIの前年比は低下している。今後の動向次第ではあるが、ここにきてのCPIの前年比の減少は原油価格の下落による影響が大きいと見ざるを得ないのではなかろうか。
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 原油先物も為替も相場であり、その先行きを予測することは難しい。しかし、このままWTIが下落していけば、CPIの前年比がさらに縮小する可能性が高いと言えよう。それは為替の動き、つまりは円安ではなかなかカバーできない。

 結論からいえば、日本のCPIは原油価格の動きに影響され、よほどの原油価格の急騰でもなければ、前年比プラス2.0%の物価目標の達成は難しいとも言える。人々の期待を変化させることが金融政策で可能なのかはさておき(本当はさておいてはいけない問題だが)、期待や予想とかではなく原油という実物資産の動きに影響を与えない限り、物価を上昇させることは難しいと言えるのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2014-12-30 07:58 | 日銀 | Comments(0)

金融政策が実態経済に影響するまでに要する時間

 12月25日の日経新聞の経済教室は「『レジーム転換』が効果発揮」と題されたもので、岩田規久男日銀副総裁が執筆していたが、なかなか興味深い記述がいくつかあった。そのひとつが、「金融政策が実態経済に影響するまでの時間がかかる」と言っておきながら、消費者物価指数(除く生鮮)の前年同月比は、量的・質的緩和の導入直前から2014年2月までの間に2.0ポイントも上昇したとも書いてあった。

 コアCPIは異次元緩和を決定したタイミングでマイナスからプラスに転じ、前年比でプラス1.5%に達した。金融政策が実態経済に影響するまでの時間がかかるとしておきながら、コアCPIは即座に反応したかのようなコメントである。これは矛盾してはいないだろか。

 いや、すでに日銀の踏み込んだ金融緩和は2012年11月の安倍自民党総裁の発言で市場の期待感が強まり、それがおよそ半年後に影響を与えたとの都合の良い解釈もできるかもれない。しかし、金融政策の影響が出るのは2年程度との見方をしていたのではなかろうか。だから2年後に2.0%の物価目標が達成できるとしていたはずである。もし2年程度の期間が必要なのであれば、2013年4月あたりからのコアCPIの上昇は、2011年の日銀の金融緩和が効いたという計算になる。別に異次元緩和などしなくてもコアCPIは上昇していたという結論になるのではなかろうか。

 しかも、2年で2%の物価目標を達成できるとしながら、コアCPIは前年比プラス1.5%をつけてからは、前年比のプラス幅は低下し1%を割り込んでいる。その間、日銀による局額の国債買入は継続しており、日銀のバランスシートも膨らんでいるが、何故、コアCPIのプラス幅は縮小し、そのために追加緩和策を講じなくてはいけなかったのか。

 これについて黒田日銀総裁は「夏場以降、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が物価の下押し要因として働くもとで、消費者物価の前年比はプラス幅を縮小し、10月には+0.9%となりました」と言い訳をしている。消費増税引き上げは予定のことであり、さらに原油価格の下落とは関係なく、物価は日銀の積極的な金融緩和によるだけで可能ではなかったのか。もしそうではないとなれば、国債のリスクを増加させてまで行った異次元緩和の必要性に対して、根本から前提条件に間違いがあるということになるのではなかろうか。

 「日本銀行は、デフレマインドの転換が遅延するリスクを未然に防止し、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、10月末に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した」と黒田総裁は指摘したが、訳がわからない。そもそも異次元か縄でレジームチェンジが起きて、デフレマインドは転換したというのが前提にあったのではないのか。あれだけ無理矢理な緩和策を講じてもデフレマインドが転換しなかったというのであれば、金融政策ではそもそもマインド転換などできないことをむしろ証明したことになるのではないのか。

 好転している期待形成のモメンタム、というのも何を示しているのかわからない。岩田副総裁が良く使うBEIは好転したような兆しは見せておらず、1%台前半で低迷したままである。結果をみるまで2年待ってくれというのであれば、なぜ中途半端な時期に追加緩和を決定したのか。それこそが矛盾である。

 黒田総裁は「名目だけでなく、実質でみても、金融が緩和していると感じて頂ける状況が生まれているはずです」とも説明しているが、短い期間の金利はすでにマイナスとなり、長期金利も過去最低水準をつけている。金融が緩和しているとの実感は、名目だろうと実質だろうとあまり一般人には関係はない。実質金利がマイナスだから物を買おう、設備投資をしようとなるわけではない。それで景気が良くなりそうだから物を買おうとなるかもしれないが、実質や名目の金利低下だけでそのような行動が起きることはむしろ考えづらい。

 金融政策が直接、実態経済や物価にどのような影響を与えるのか。実はこの検証は難しく、量的緩和の効果などについては具体的な検証結果が正式なものとして中央銀行から出ているものは見たことはなく、研究員のペーパーのような格好で発表されたものしかない。2年間という期間もその数字の具体的な背景があるわけではなく、漠然としたものである。

 日銀による壮大な実験を行って1年と8か月が経過した。その間、米国経済の回復なども手伝い、円安ドル高と株高は進んでおり、これが日銀やアベノミクスにとっての最後の命綱となっている。肝心の物価は思ったように上昇していない。株価や為替をみて結果オーライではなく、国債の信用を毀損させかねない政策をとった結果、金融政策で物価は動かせないことがもし明らかになったのであれば、即座に現在の異常といえる国債買入は出口を模索する方向に変えて、日本国債がメルトダウンを起こす前に、デフレ脱却は別の手段に委ねるべきである。

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by nihonkokusai | 2014-12-29 09:34 | 日銀 | Comments(0)

日本の長期金利が過去最低を更新した背景

 2014年12月25日に日本の10年国債の利回り(長期金利)は0.310%に低下し、2013年4月5日につけたこれまでの最低となっていた0.315%を下回り過去最低を記録した。26日には0.300%まで低下した。25日には2年国債の入札があり、そこでの平均落札利回りはマイナス0.003%となり、利付国債の入札としては初めてのマイナス金利が発生した。

 ここまでの日本の金利低下の背景にはいくつかの要因が考えられる。最も影響力があるのが、日銀の異次元緩和による新規発行額に相当する国債の買入である。これにより、需給面ではほとんど不安なく、マイナスであろうが需要があれば買われる状況となっている。

 その国債への需要であるが、日本でのマイナス金利の背景には海外投資家の存在がある。今年の夏以降、為替スワップ市場において、ドルの超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転コストが上昇し、その分がジャパンプレミアムのようなものとなった。ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通じて非常に安いコストでドルを円に転換できるため、外国投資家は、レートがマイナスの国債に対して、マイナスのコストで調達した円を投資したのである。為替スワップによる円の調達コストが大きなマイナスであれば、マイナス金利であっても利鞘は取れる。それが日銀の追加緩和の影響も手伝い、3か月物から1年物におよび、ついに残存4年近くにまでマイナス金利が波及しつつある。

 国債入札に参加するのは証券会社を中心とした業者である。いくら海外投資家のニーズがあろうと限度はある。国債には担保需要などもあるがそれでも限界はある。しかし、マイナス金利が実勢としてついている以上、日銀の国債買入もその実勢利回りに近いもので行われる。業者としては入札で落として保有しても、いずれそれは日銀に実勢利回りで売却できる安心感があり、積極的に応札できることになる。

 長期金利の低下要因としては、欧州各国の長期金利の低下、なかでもドイツの長期金利の低下の影響も受けている。ECBも日銀やFRBに追随して国債買入を中心とした量的緩和を実施しようとしている。それで国債が買い進まれているが、その国債が買われる背景に物価が上がってこないディスインフレという状況もある。

 そのディスインフレへの懸念は日本でも再び強まりつつある。日銀は2013年4月と2014年10月に二度の異次元緩和を決定した。大胆な国債の買入などを行えばレジームチェンジが起き、インフレ期待が強まり物価は2013年4月から2年程度で目標の2%に達成できるというのが、日銀の意気込みであった。

 2014年12月26日に発表された11月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は消費増税の影響分を除くと、前年比プラス0.7%と前年比はさらに縮小した。今年4月にはプラス1.5%にまで回復し、日銀の異次元緩和によって順調に物価が上昇しているかに見えたが、それは錯覚であった。たまたまその時期に急激な円安等で物価が上がりやすい状況が起きただけであったようである。その後は原油価格の下落も手伝っての物価の上げ幅縮小となった。期待はどこに行ったのであろうか。物価の伸びが低迷していることでドイツなど欧州の長期金利が低下しているが、日本もこのCPIを見る限り同様の理由で長期金利が低下している面がある。

 長らく日本の長期金利を見てきたが、長期金利は素直というか、正しく環境を反映していたのだと思う。日銀が国債を大量に買っているから金利が抑えられるというのはあくまで需給面の話であり、結果論ながら、日銀が何をしようが、いまの環境下、物価は簡単に上がるわけではないことを長期金利は示していたと言える。

 すでに残存4年弱の国債利回りがマイナスとなっているが、これがさらに長い期間の国債に波及してくることも予想される。残存7年の国債に連動する債券先物は6%クーポンの標準物の売買となっており、100円の6%の10年分の利子の合計60円を加えた160円が上限となっている。ここを超えるとマイナス金利ということになる。160円という上限を超えるなんてことは私が債券先物を売買していた当時は想像すらできなかったが、それが現実味を帯びてきた。

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by nihonkokusai | 2014-12-27 10:54 | 債券市場 | Comments(0)

岩田日銀副総裁の無理矢理なロジック

 12月25日の日経新聞の経済教室は「『レジーム転換』が効果発揮」と題されたもので、岩田規久男日銀副総裁が執筆していた。ここでは金融緩和が基本的には想定された効果を発揮しているとしている。

 量的・質的緩和の核心は、積極的な金融緩和によってデフレからの脱却(2%の緩やかなインフレへの移行)は実現できるという、従来とは全く異なる政策レジーム(枠組み)を採用することによって、家計、企業、金融機関などのデフレマインドを払拭し、その行動を根本的に変えようとする点にある(12月25日日経新聞経済教室より引用)。

 デフレもインフレも最終的には貨幣的現象であるというはミルトン・フリードマンなどが提唱したマネタリストの理論で、社会に流通している貨幣の総量が物価の水準を決定するという学説である。学説ではあり、これが結果として正しいものであると証明されているわけではない。日銀の2013年4月の量的・質的緩和は壮大な実験とも称されたように、現在、日本でその実証実験が行われている。

 デフレもインフレも貨幣的現象と単純に決めつけて良いものなのか。もしそうであれば、貨幣の量を調整すれば自動的に物価も上げ下げできることになる。しかし、世の中、そんな単純なものではないのはご承知の通り。貨幣を供給しても使ってくれる人がいなければ、お金が大量に日銀の当座預金に積み上がるだけとなる。むろん、これはただで配れるお金ではなく貸し付ける資金である。借り手とすれば安い金利で借りられるという良い条件がついているだけである。借り手が資金を借りたいとなる環境を作ることがまず大前提となる。そのためにはレジームチェンジによるデフレマインドの変換が必要であると言うが、マインドの変化で何とかなるものではないことも当然であろう。

 岩田副総裁は高橋財政の研究でも知られているが、高橋財政でのレジームチェンジが成功したように見えたのは、日銀による国債の直接引き受けがあったためではない。むしろ、それまでの金輸出禁止などで押さえ込まれていた経済が、金輸出解禁とそれに伴う円安や財政出動、政策金利の引き下げなどにより解き放たれた側面が大きい。しかも、その時代は重化学工業の発展や軍備拡張の時期と重なり、企業にとっては成長する余地が非常に広がっていた。軍備拡張には財政拡大が必要であり、債券市場が整っていない時代背景もあり、日銀による国債引き受けはリスクはあれど、当時の金融市場に精通していた高橋是清であればそのリスクは押さえられるとして取った手段であった。

 岩田副総裁はレジームチェンジが起きて予想インフレが変化した事例として、ここでも物価連動国債を持ってきている。自民党の安倍総裁の「無制限の金融緩和」に言及したことを機会に物価連動国債の市場金利に基づく投資家の予想インフレ率が上昇傾向に転じているとして、予想に変化が生じたとしている。

 物価連動国債を元にしての将来の物価予想はブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)と呼ばれるものである。これについては過去に何度も指摘したが、2012年11月のアベノミクス登場時の物価連動国債は流動性はほとんどない国債であった。リーマンショックによる影響で日本の物価連動国債や15年利付き国債は壊滅的な打撃を受けた。その保有が海外投資家が多く、投げ売り状態となり発行も停止された。毎日、気配はつけられるが、金融機関の債券関係者のさらにそのほんの一部の参加者がつけた、ほとんど流動性のない国債の利回りから算出された、予想インフレ率にどれだけの意味があるというのであろうか。

 さらに岩田副総裁は「投資家の予想インフレ率が上昇傾向に転じている」としていたが、レジームチェンジに匹敵するような変化があったわけではない。たしかにBEIは2013年はじめあたりから上昇基調となり、その年の5月あたりまでその基調は続いた。その後、下落しており、このあたりのBEIのチャートは日経平均に連動している格好となっていた。円安と株価の上昇を背景に、BEIの気配値をつけた担当者が影響されていたに過ぎない。物価連動国債の発行が再開されたことで、日本相互証券などではBEIの2013年10月8日から新発債を元に算出されているが、その後は1%前半で低迷している。その間、大胆な国債買入は続き、日銀のバランスシートは膨らみ続けているが、物価そのものも、予想物価も低迷しているのはなぜなのか。ここで最初の基本部分に戻ることになる。本当にデフレもインフレも貨幣的現象なのであろうかと。

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by nihonkokusai | 2014-12-26 09:49 | 日銀 | Comments(0)

日本国債のメルトダウンの可能性

 12月21日のNHKスペシャルは、「メルトダウン FILE.5 知られざる大量放出」とのタイトルで、これまで検証されてこなかった放射性物質の大量放出の事実が明らかにされた。そのとき現場では何が起きていたのか、史上最悪ともされる原発事故はなぜ起きたのか。この事故の検証はこれからも続けられ、あらたな事実が出てくることも予想される。

 欧米はスリーマイルやチェルノブイリの事故を教訓に、事故が起きることを前提に原子力発電を運営していたのに対し、これらの教訓があったにも関わらず、日本では事故は絶対に起きないことを前提にしていたと番組で指摘していた。もちろん何かしらの事故は想定していても、ここまで大きな事故は前提にしていなかった。このあたり、もしものための準備を怠らず、奇跡の帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」と対照的と思える。

 日本の原発で起きないとされたメルトダウンが起きてしまった。それでは絶対に起きない、というか起こしてはいけない日本国債のメルトダウンはいつか起きるのであろうか。

 これについては何度も聞かれたこともあるし、こちらから関係者に問いかけたことも何度もある。債券というか国債に関する市場関係者の話からすると、いずれ起きる可能性は高いと思うが、すぐには起きないとの答えが多い。自分でも聞かれるとそのように答え方をすることが多い。

 すぐにはこないかもしれないがいずれくる、といえば、関東地方を中心とした大地震や富士山噴火なども同じように言われていた。しかし、地震も火山の噴火も予想は難しい。東海沖、南海トラフの大地震が騒がれ、そのための予測に巨額の費用も掛けていたようだが、現実には阪神、北海道、長野、さらに東日本で大きな地震が起きた。専門家の予測もことごとく裏切られるほど予測は難しいとも言える。

 日本国債のメルトダウンについても予測は難しい。そもそも起きるのかという問題がまず存在する。しかし、1000兆円を超える政府債務が存在し、それが増え続けている状況下、いずれ何らかの調整が生じるであろうことは過去の世界の歴史を見ても明らかである。よほどうまく債務管理政策を進めて行かない限り、ソフトランディングは難しくなり、国債暴落を含めたハードランディングの可能性を強めることになる。

 このままアベノミクスを進めていけば、景気回復とともにいずれ税収が大きく伸びて、財政再建も容易になり、ソフトランディングも可能になるとの見方もある。果たしてそんなにうまく行くものであろうか。

 1966年1月に、戦後初めての日本国債が発行されてからは年々発行額が増加していった。しかし、一時期、赤字国債が発行されなかった時期が存在した。それはバブルの時代である。バブルの波に乗り、民間消費や民間設備投資に主導された経済成長が持続した。このため申告所得税、源泉所得税、法人税、そして有価証券取引税などを中心に税収は伸び、この時期、一般歳出は抑制され続け財政再建策が取られていたことで、財政状況は大きく改善した。また、1989年4月からは、所得税や法人税などの大規模な減税と引き換えに消費税が導入された。この結果、1990年度には特例国債依存から脱却するまでになった。1990年度から1993年度まで特例国債(赤字国債)の発行停止が続いたのである。しかし、発行停止の期間はわずかであり、まさにこれは特例であった

 今回はバブルとは言いがたいが、円安株高の影響で資産価格が上昇していたことは確かである。税収についても今年度はだいぶ回復している。しかし、それでも来年度の新規国債は40兆円程度も発行される。赤字額を多少なり減少させるのが精一杯の状況にある。

 日本国債については、もともと国内で9割以上消化され、安定消化されていたにも関わらず、そこに日銀が大胆に割り込んできたこともあり、需給はタイトになっている。欧米の長期金利も低下していることもあり、日本の長期金利も過去最低水準に近いところにいる。日銀が長期金利の押さえ込みには成功しているようにみえるが、これは結果としてデフレ解消も難しいとの見方を反映しているとも言える。景気も良くなり物価も上がるとみれば、長期金利がこのような水準に落ち着いているとは考えづらい。デフレ解消、つまり物価高を引き起こせる環境にないとなれば、税収の伸びもそれほど期待はできないことになる。

 いまのところ、現在の日本国債を取り巻く環境下で、日本国債がメルトダウンを引き起こすことは考えづらい。しかし、政府による大量の国債発行は続き、日銀がそれをほとんど買いあげるという財政ファイナンス状態が続いていることも確かである。何かしらのきっかけで、日本国債のメルトダウンが起きる可能性は潜在的には大きくなっている。しかも、それが起きたときの対策も日本の原発運営同様に整備されているとは思えない。想定外のことが連鎖的に出てくることも予想される。

 安全策は講じている。金利の急騰には日銀などがいかようにも対処できるというのは、福島の原発事故と同様に机上の空論にすぎない。講じるべきは日本国債の暴落となりうるきっかけを少しでも減らすべきであり、今後さらにリスクを高める施策は控えるべきと思われる。起きてから、しまったでは遅すぎる。

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by nihonkokusai | 2014-12-25 09:43 | 国債 | Comments(0)

金融政策で物価は動かせるのか

 マネーの量やインフレ期待によって物価を動かせるのか。黒田日銀の金融政策は物価はマネーサプライ(貨幣数量)で決まるとの考え方、いわゆるマネタリズムの考え方が土台になっている。

 これまでの日銀の金融政策も政策金利がゼロとなってしまってからは、非伝統的手段を用いて、金利ではなく量を操作することを目標としてきた。これもマネタリズムの考え方が背景にあったとみられるが、これまでの日銀の量的緩和は手ぬるいとしてきたのが、リフレ派であり、それを大胆に行えばインフレ期待により自由に物価を動かすことができるとの考え方である。

 これは見方によれば、寒いので気温を人為的に上げれば太陽の位置を変えることができるとの発想に近い。もちろん気温は太陽以外の要因によって影響されるが、太陽の影響力が大きいことは明らかである。その太陽の活動とそれによる自然界への影響等で気温が決定される。しかし、その気温が下がり続けているため、無理矢理気温を上げるようにすれば太陽の活動に変化をもたらすことができるのか。

 物価も経済に影響を与える要因というよりも、結果である。むろん物価が低迷したり、大きく上昇してしまうと経済に影響を与えるが、その物価を決定するのはマネーの量というよりも、金融経済という実態による影響が大きい。その結果として物価や金利が決定されることで、いわば経済の体温計とも言えるものである。

 日銀はここにきての物価の上昇が抑制された原因について、インフレ期待の後退やマネーの量が少ないためとはしておらず、19日の黒田日銀総裁の会見にもあったように原油価格の下落をその要因としている。しかも、原油価格の下落はいずれ日本経済にはプラスの影響を与え、賃金も上昇しその「結果」として物価もいずれ目標に向けて上昇するとしている。

 ここには日銀の異次元緩和はどこにどう影響を与えて物価を上げる作用をしているのかとの説明は完全に抜け落ちている。マネタリズムの考え方からすれば原油価格や消費増税などに関係なく、マネーの量で物価は操作できるものではなかったのか。

 壮大な実験といわれた日銀の異次元緩和だが、「壮大な」という言葉の裏には、本当にそんなことができるのかという疑問があった。さらにそのために行ったものが、国債の大量の買入という、財政ファイナンスに近い政策であり、当然そのリスクも大きい。

 異次元緩和を柱としたアベノミクスは、金融市場に働きかけて円安株高をもたらせたが、結局、それだけであった。しかも、円安の要因は日銀の緩和策だけにあるものではなく、第一弾の異次元緩和は超円高の反動、第二弾は米国の金融政策との方向性の違いが市場で意識された。いわば円安をターゲットとした金融政策に他ならず、円安による物価への影響はあれど、その影響も原油安により相殺され、来年は消費増税による便乗値上げ分とともに今年の円安によるかさ上げ分もなくなると、その分が下押し要因となる。

 だから追加緩和をすべきというのも、あまりに矛盾に満ちたものとなる。さらなる円安を求めてその分の物価上昇を狙う以外に意味はなく、ここから異次元緩和第三弾で円安になるという保証もない。国債を買い増せば国債需給をさらに逼迫させ、市場機能を失わせかねない。国債の市場規模は膨らんでも、市場参加者は次第に減少していくことも予想され、実際の市場は縮小していく。それは将来の価格変動のリスクを大きくさせかねない。

 日銀はそろそろ異次元緩和からの出口を探ることが必要となる。少なくともこれ以上の国債買入は行わず、景気回復を促すための具体的な政策を考慮する必要がある。実態経済はそれほど悪くはない。これはアベノミクスによるものではなく、海外経済などの恩恵が大きい。その恩恵があるうちに、日本の成長率を上げる工夫を政府ととも行う必要がある。国債と紙幣を刷っての政策は誤りであったことをそろそろ認めるべきである。

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by nihonkokusai | 2014-12-24 11:00 | 日銀 | Comments(2)

9月末の日本国債の保有者

 12月18日に日銀は2014年7~9月期の資金循環統計を発表した。この資金循環統計を基に、2014年9月末時点の国債保有者別の残高と全体に占める割合を算出してみた。ただし、これは国庫短期証券を含んだものではなく、国債・財融債のみの数値を個別に自分で集計し直したものである。一般的に国債の保有者の割合としては、こちらの数値が使われることが多い。

 9月末の国債(国債・財融債のみ、国庫短期証券を除く)の残高は、860兆6779億円(6月末852兆4316億円)と前回の6月末から8兆2463億円増加した(速報ベース)。国庫短期証券を加えると国債の残高は約1015兆円となる。

 参考までに日銀の資金循環統計の数値は額面ベースではなく「時価ベース」となっている点に注意いただきたい(財務省の国債残高などは額面ベースが多い)。以下、投資家別に残高の多いものから並べてみた

銀行など民間預金取扱機関 282兆1407億円(6月末285兆8224億円)、32.8%(同33.5%)
民間の保険・年金 230兆4700億円(同228兆2342億円)、26.8%(同26.8%)
日本銀行 183兆4282億円(同169兆8223億円)、21.3%(同19.9%)
公的年金 62兆0554億円(同65兆1899億円)、7.2%(同7.6%)
海外 41兆0746億円(同35兆1977億円)、4.8%(同4.1%)
投信など金融仲介機関 28兆0745億円(同31兆6164億円)、3.3%(同3.7%)
家計 19兆3203億円(同20兆3879億円)、2.2%(同2.4%)
財政融資資金 2882億円(同3978億円)、0.0%(同0.0%)
その他 13兆8260億円(同15兆7630億円)、1.6%(同1.8%)

 6月末に比べて、残高が最も増加していたのが例によって日銀である。6月末比で13兆6059億円の増加となっている。つまり6月末から9月末にかけての全体の増加分8兆2463億円以上を日銀がカバーしていた計算となる。次に増加額が大きかったのは海外で5兆8769億円増、次いで民間の保険・年金の2兆2358億円増。

 反対に6月末から9月末にかけて残高を大きく落としていたのは銀行など民間預金取扱機関で3兆6817億円減、次いで投信など金融仲介機関の3兆5419億円、公的年金の3兆1345億円減と続く。銀行の残高減少は内訳をみると中小企業金融機関等が4兆9674億円も減少させており、引き続きゆうちょ銀行が国債残高を大きく減少させていた可能性がある。公的年金はGPIFの運用見直しによる影響が続いている。

 海外投資家の長期国債のシェアは4.8%。国庫短期証券を含んだ数字で見ると全体の8.9%のシェアとなり6月末の8.5%から増加した。個人の長期国債のシェアは2.2%に低下した。その家計の金融資産は、1653兆6447億円と過去最高を更新した。

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by nihonkokusai | 2014-12-22 08:10 | 国債 | Comments(0)

日銀はカラクリで何とかしようとしたオズの魔法使い

 12月のロイター企業調査によると、アベノミクスがデフレ脱却に効果があったとの回答が7割以上を占めたそうである。これに対して共同通信社の第3回トレンド調査によると、政策「アベノミクス」について「評価しない」が過半数を占めたそうである。

 何を持ってアベノミクスとするのか。どのような結果を持ってそれを評価するのか。選挙前ながら、この点については冷静に見る必要がある。

 アベノミクスが登場したのが2012年11月であり、ここで金融市場の景色が変わる。それまでの円高局面が反転し急速な円安が進み、この円安もあり株高も進行した。この円安株高をもってアベノミクスは成功したとするのであれば、結果論としては納得はできる。

 ただし、この円安株高のきっかけとなったのは、安倍自民党総裁の日銀が国債を大量に買い入れて輪転機を回せば良いという、財政ファイナンスを容認したかのような発言にあったことは忘れないでいただきたい。しかも、ユーロの信用危機が後退しつつあり、何かしらのきっかけに円高調整と株高が起きておかしくない環境にあった。そこに政権交代によるレジームチェンジへの期待も発生した。

 その後、アベノミクスは二の矢、三の矢を出してきたが、リフレ政策による一の矢による影響が最も大きかった。それはあくまで円安株高を発生させたという意味である。米国を主体に世界的な景気回復も手伝い日本の景気も回復しつつあり、株高がその幻想を強めさせることになる。

 しかし、消費増税の影響が予想以上に出たことで景気は大きく落ち込む。これをリフレ派はせっかく異次元緩和でデフレから脱却しつつあるところに消費増税など実施したからこうなってしまった、すべては消費増税がいけないと決め込んだ。

 そもそも日銀の異次元緩和などでデフレ脱却はできない。物価が上がっていたのはたまたま原油価格の高止まりと円安による効果が、何もしなくてもブラスに浮上していた物価を想定以上に押し上げていただけである。だから原油価格の下落だけで、前年比上昇幅はあっさりと縮小してしまった。リフレ政策でインフレ期待などは発生していなかったことはこれからも明らかであり、アベノミクスの元にあるリフレによるデフレ脱却そのものは立証されていない。

 アベノミクスによりデフレ脱却、つまり前年比2%にむけて物価上昇を引き起こすとのもくろみは期待うんぬん以外の原油価格の下落によって困難になりつつある。だからこそ、日銀は10月31日に追加の異次元緩和を決めざるを得なかった。しかも、その手段は期待に働きかけるというより、タイミングを狙った円安政策に他ならない。

 日銀の黒田総裁は魔法を使って物価を上げてデフレ脱却を招く救世主のように見ていた人がいたかもしれないが、なんのことはない魔法など使えずカラクリで何とかしようとしたオズの魔法使いであった。リフレ政策がそもそも財政ファイナンスというリスクと引き替えに、大胆な金融政策を仕掛けているように見せざるを得なかったためであろう。

 いやそれでもアベノミクスや、その中心となる日銀の異次元緩和は絶大な効果があったと思うのは勝手であるが、それでは異次元緩和がどのような経路を通じて何をもたらせたのか。過去の日銀の金融政策と何が違ったのか、よく考えてほしい。国債のリスクだけ増加させた壮大な実験に過ぎないと私は考える。その意味では、ロイターの結果にはやや疑問を感じるが、共同通信社の結果は納得できるものである。

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by nihonkokusai | 2014-12-20 11:41 | 日銀 | Comments(0)

FOMC声明で「相当な期間」を残した理由

 12月17日のFOMC後に公表された声明文では、「金融政策の運営姿勢の正常化開始において辛抱強くいられる(can be patient)と判断する」との表現が加わった。さらにこのガイダンスはゼロ金利政策を「相当な期間(considerable time)維持することが適切になるだろうとした前回の声明と合致する」とし、市場が注目していた「相当な期間」との表現を残す格好となった。

 日銀文学という表現があるが、政府を含めて景気判断などでは独特の表現が用いられ、たとえば景気判断を上方修正したのかどうかは、その表現方法をみて探ることになる。中央銀行にとっては今後の金融政策の行方を市場に示唆する際に、やはり文章表現にて行うことがあり、今回のFOMCの表現変更が注目されたのはそのためである。

 FRBのフィッシャー副議長は12月2日のWSJ紙主催の会議において「それに関する協議があったことが前回のFOMC議事要旨で分かっており、当局がその削除に数か月前よりも近づいているのは明白だ」と述べた。「それ」というのはFOMC公表文にある、低金利を「相当な期間」維持するとの文言に関するものであった。

 この大御所のフィッシャー副議長の発言もあり、今回のFOMCの声明文では「considerable time」を削除し、違う表現、たとえば2004年の利上げ前のFOMCの声明文にあった「patient」を持ってくるのではとの見方があった。2004年1月の声明文で「patient」を使った際には、5か月後に利上げを行っていた。

 今回、たしかに「patient」の表現を持ってはきたが、市場に配慮するためか「considerable time」との表現も残した。ただし、ガイダンスの中心は「patient」にあり、「considerable time」はサブ的な扱いであった。ここから読みとれるのは2015年6月のFOMCあたりを利上げ時期、つまりゼロ金利解除、正常化へのスタート日に置いているであろうということである。もちろん経済指標というか経済動向次第であることも確かである。

 それではなぜ「considerable time」との表現は削除しなかったのか。ここにきて原油安や追加安によるロシアからの波及リスクも考慮した可能性はあるが、イエレン議長は会見で「ロシア情勢が米国に及ぼし得る影響は小さい」と述べている。当然ながら米国経済に多大な影響が出ると考慮しないとなれば、ロシアのリスクでFRBが利上げを先送りする公算はむしろ小さい。

 おもしろい指摘もあった。ツイッターでのあるツイートで「considerable timeが残った理由は、テキストマイニング系のトレードを撹乱する意図があったのではないか」というものである。FOMCの声明文の文章を即座に読み取り、それにより瞬時にトレードするようなシステムが存在する可能性はある。もちろん瞬時ではなくても、声明文をさっと読んでトレードするディーラーもいるはずである。「considerable time」が残っているという事実だけで、利上げには慎重と判断されたとしてもおかしくはない。

 現実にこの表現が残ったことを好感してか、17日のダウ平均は288ドル高、18日には421ドル高となった。市場にはやさしいイエレン議長の作戦勝ちとも言えるのかもしれない。

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by nihonkokusai | 2014-12-19 09:46 | 中央銀行 | Comments(0)

ロシア危機のあった1998年に日本であった出来事

 昨日のコラムでは「ロシア危機再来の可能性はあるのか」と題して、1998年のロシア危機について触れたが、その1998年には何が起きていたのか。この年は日本の債券市場にとっても大きな区切りの年となっていた。この年に何が起きていたのか。すでにネットで「債券ディーリングルーム」が存在しており、当時自分で書いていたものからピックアップしてみたい。

 1998年1月5日のコラムでは「日本景気の先行き不安から円安も進行している。金融システム危機もまだまだ続きそうである。日本版ビックバンもいよいよスタートする」と書いていた。 ホケットモンスターにも触れており、流行の兆しを見せていた。2月7日からは長野冬期オリンピックが始まった。

 3月には日銀の証券課長が収賄容疑で逮捕された。漏らした情報のなかには日銀のオペに関することや短観の情報も含まれているのではにいかとの容疑がかけられていた。ウィンドウズ98のベータ版が届いたとあり、今回の日銀総裁人事は速水優氏に決定したとも。ジェームズ・キャメロン 監督のタイタニックが、アカデミー賞を11部門で獲得した。

 4月にビックバンがスタートした。5月には最近、音声入力装置付きのパソコンが売り出されているとの記述も。「なんでこんなに金利は低いのか」という企画もやっていたようだが、1998年5月頃の長期金利は1.5%近辺であった。それでも低く感じたのは長期金利は1990年の8%あたりから下落傾向を辿って過去最低を記録していたためである。

 6月からフランスにおいてワールドカップが開催された。円債が一時急落したが火を付けたのは、久しぶりに大きな手口を見せたヘッジファンドといわれた。日米の金融当局は、ドル高円安の動きを止めるべく円買い介入を実施した。

 7月に金融再生トータルプランが正式に決定した。ムーディーズは日本国の外貨建て債務および銀行預金に対するカントリー・シーリング、および日本政府が発行もしくは保証する円建て債券の格付けを現行のAaaから引き下げの方向で見直すと発表。小渕内閣が誕生。これほど期待されていない総理大臣もめずらしいとコメントしていた。

 8月に金融市場が最も注目しているのが、大手銀行の破綻問題とあった。9月10日に日銀は無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%前後に引き下げた。3年ぶりの金融緩和である。11日には長期金利が1%を初めて割り込んだ。

 そして、こんな記述もあった。アジアの金融危機が飛び火したのがロシアと中南米である。米露首脳会談がモスクワで開かれているが、ルーブルを切り下げてもさらに混乱を加速させたロシアは、首相の承認すらままならない。エリツィン大統領もかなり追い込まれている。そして、先進国で唯一景気がしっかりしていた米国が揺れている。スイス金融機関も損失の原因がロシアであったようにロシアの金融危機がユーロに影響を与え、またメキシコ、大幅な金融引き締めをせざるを得なくなったように中南米へと影響が広がった。

 10月に入ると世界のマーケットが動揺していたとある。日銀短観が予想以上に悪化し、日本の景気悪化により円安が進行し、それはエマージング市場と呼ばれるアジア市場を直撃した。それはアジアでもっとも成長が期待されていた中国にも影響し人民元の引下げ観測を呼んだ。こういったアジア諸国の動揺は、南米諸国にも影響、またロシア市場にも大きな打撃を与えた。10月3日には当局のチーペスト絡みのヒアリングの噂で、債券急落との記述もあった。

 11月2日に東京証券取引所の先物端末が変更された。これまでと違い成り行き注文が入ると原則として止めなくなり、あっという間に値段が動いてしまうとの記述も。11月17日にムーディーズは、日本政府が発行もしくは保証する円建て債券の格付け、及び日本国の外貨建て債務及び預貯金に対するカントリーシーリングをAaaからAa1に引き下げた。これによる債券市場への直接的な影響はほとんどなかった。11月24日に東証でシステムトラブルがあった。

 そして1998年12月に国債は急落し、運用部ショックが発生する。第三次補正予算が決定しそれによる大量の国債増発額が決まり、加えてこの時点で運用部の国債引き受けのシェアーは大幅にダウンした。これは一時的なものでないことが1999年度の国債発行計画で明らかとなった。資金運用部の余資は限られていた。過去最大規模の国債発行額だけに市中消化は60兆円を超えるものとなっていた。

 これらをきっかけに債券先物は1988年8月以来、10年ぶりにストップ安をつけるなど急落したのである。この背景には日銀の緩和策、1%を割り込んだ長期金利の反動、日本国債の格下げ、東証のシステム変更なども影響した可能性があるが、国債需給による影響が大きかったといえる。

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by nihonkokusai | 2014-12-18 09:46 | 債券市場 | Comments(0)
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