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高橋財政を引き継ぐ異次元緩和のリスク

 高橋財政に対する岩田日銀副総裁と私の見方には大きな違いがあるが、その最たるところは、日銀の国債引受に関する見方である。日銀の下関支店における「高橋是清翁顕彰シンポジウム」の講演で、岩田日銀副総裁は次のようにコメントしていた。

 「高橋は、1935年には経済は安定軌道に乗ったと考え、歳出を削減するとともに、これ以上、日銀による国債引き受けを続けると、ハイパー・インフレになると考え、日銀の国債引き受けも止めようとしました。そのことが、軍事支出の増加を要求する軍部の反感を買い、高橋は 36年2 月26日に、青年将校によって暗殺されました。いわゆる、2・26 事件です」(岩田副総裁の下関での講演より)

 1932年以降の政府支出の拡大要因は軍事費の拡大が主要因となったことで、財政政策の転換は簡単には行かず、1935年に高橋蔵相は軍備拡張を強引に要求する軍部と対立する。それが1936年の2・26事件により、高橋財政は悲劇的な結末を迎えることになった。

 「高橋が暗殺された以後は、日銀の国債引き受けが悪用され、戦後にハイパー・インフレを引き起こす原因になりました。しかし、ハイパー・インフレを引き起こしたのは高橋財政ではなく、高橋が暗殺された以後の国債の日銀引き受けだったことに注意する必要があります」(岩田副総裁の下関での講演より)

 高橋財政のリスクには、財政拡大の主因が軍事費であったことに加え、日銀による国債引受があった。これについて高橋是清は「一時の便法」と称していたが、それはある意味、パンドラの箱を開けてしまったとも言える。蔵相を何度も務め、首相や日銀総裁を経験していた自分ならば制御できると考えていたと思われる。しかし、その是清ですら軍部の暴走を止めることはできなかった。拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」から一部を引用しながらこのあたりについて見て見たい。

 デフレからの脱却期であれば、日銀の国債引受の弊害は見えてこないが、経済が回復するとそのリスクが拡大する。つまり、日銀による国債の売りオペを行って過剰流動性を吸収しても、国債発行による財政拡大が続けば信用膨張が進む。これを抑制しようにも金融引き締め政策の実行が著しく困難となる。

 高橋是清の考案した日銀引受による国債発行は、市中公募と異なり発行額や発行条件が市場動向に左右されなくなる。同時に財政負担の軽減を目的に発行する国債の利率の引き下げを計ることも重要な目的となっていた。金融緩和策ととも、国債の発行条件の引き下げにより、金利の先安予想が強まり、国債価格の上昇予想を背景にして、国債の売りオペを通じての市中消化を円滑に行うことが可能となる。つまり、これは金利の引き上げを行うことはかなり困難になることを意味しており、またその好循環が途切れるとすべての歯車がうまく回らなくなることも意味する。1935年に入るとそれまで順調となっていた売りオペによる円滑な市中消化が変調をきたしはじめた。

 景気の回復により、銀行の貸し出しも伸びることになり、1935年下期から銀行貸し出しが増加に転じた。銀行による国債の買い余力が減少してきたことで、日銀が引き受けた国債の民間への売却比率は1935年上期が9割程度あったのに対し、下期には5割前後に低下した。

 1935年6月の閣議で高橋蔵相は、「毎年巨額の国債が発行せられて行く時は、現在すでに相当多額の公債を保有している金融業者等は内心不安を覚え、少しでも公債価格の下落が予想せらるるようなことがあれば、進んで公債保有額を増加せぬことは勿論、すでに保有している公債もこれを売却しようとする気になり、一度このような事態が起きれば加速度的に拡大してたちまち公債政策に破綻を来し、市場に公債の消化を求めることができなくなる」と説明している。つまり国債発行額を漸減すべき時期が来たことを示唆した。

 この高橋是清の説明はアベノミクスのひとつのリスクも示しているといえる。つまり日銀の異次元緩和によって本当に物価が上昇し、金利の先高感も強まれば、国債を保有している金融機関は国債に振り向けている資金を貸し出し等に向けようとする。そうなれば保有国債を売却し、長期金利が上昇してくる可能性が出てくる。国債発行については日銀による大量購入が続く間は問題が表面化しないとしても、日銀の物価目標に物価が接近してくれば、日銀の国債買い入れも減少せざるを得ない。それをもし維持してくるとなれば、高橋是清時代のような財政ファイナンスが意識されることも考えられる。

 高橋蔵相は「公債が一般金融機関等に消化されず日本銀行背負い込みとなるようなことがあれば、明らかに公債政策の行き詰まりであって悪性インフレーションの弊害が現れ」と警告を発していた。高橋蔵相は「ただ国防のみに専念して悪性インフレを引き起こし、財政上の信用を破壊するごときがあっては、国防も決して安固とはなりえない」と主張した。自ら日銀による国債引受という手段を講じることでパンドラの箱を開いてしまった。これは自ら制御できるという意識もあったと思うが、打ち出の小槌を使ってしまったことは確かであり、そのリスクをわかっていたはずの高橋是清でもそれを取り上げることはできなかった。

 国債の日銀引受方式の実施は、やがて金利政策の弾力的運営の自由を奪い、中央銀行にとって最大の使命である、通貨量の適切な調整を通じて通貨価値の安定確保を、事実上不可能にさせる結果をもたらす。財政インフレーションの進展を多少なりとも抑制しようとするためには、金利機能の活用を排除した統制措置に依存せざるを得なくなり、結局は財政インフレーションの大規模な進展を阻止することはできなくなった。(日銀百年史より一部引用)

 日銀の百年史には日銀の国債引受について、こう記されている。

 「本行からセントラル・バンキングの機能を奪い去るプロセスの第一歩となったという意味において、まことに遺憾なことであった。これは本行百年の歴史における最大の失敗であり、後年のわれわれが学ぶべき深刻な教訓を残してものといえよう」

 高橋が暗殺された以後、日銀の国債引き受けが悪用されたわけではない。そもそも高橋財政で国債の日銀引受という手段を使ってしまったことが問題の根幹にある。アベノミクスの主軸である日銀の異次元緩和は国債引受ではないが、その発想の根幹に高橋財政があるとするのであれば、同様のリスクは当然ながら存在しよう。岩田副総裁は講演で、高橋財政の成功が、今回、日銀が採用した「量的・質的金融緩和」の考え方にも引き継がれていますとはっきり述べている。

高橋財政について関心のある方は、是非、拙著も読んで見てください。


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by nihonkokusai | 2013-10-31 09:45 | 日銀 | Comments(0)

高橋財政に対する岩田日銀副総裁との見方の違い

 日銀の下関支店における「高橋是清翁顕彰シンポジウム」の講演で、岩田日銀副総裁は「高橋是清という人は、大河ドラマの主人公にしても良いのではないかと思えるほど、実に波乱万丈な生涯を送った方です」と語ったが、まさにその通りだと思う。幸田真音さんの「天佑なり」を原作に是非、大河ドラマ化してほしい。ただし、高橋財政の評価については、私は岩田副総裁とは意見を大きく異にする。

 1931年の末に成立した犬養毅内閣で再び大蔵大臣に就任した高橋是清が行った、財政政策と金融政策を組み合わせた景気刺激策のパッケージがいわゆる「高橋財政」であることは確かである。

 「為替相場は実態にあわせた変動が可能となりました。財政面では、積極的な政府支出を行うことで、需要面の下支えを図りました。金融政策面では、公定歩合引き下げと国債の日銀引き受けによる金融緩和政策を推進しました。」(岩田副総裁の講演より)

 金輸出再禁止により縛りが解かれたことから円安を放置するとともに、緊縮財政から積極財政に移行できた。政策金利も高くしておく必要がなくなり、公定歩合の引き下げも実施されて金融緩和策が可能となった。ただし、国債の日銀引受による金融緩和策ということについては補足説明が必要である。高橋是清が日銀の国債引受方式による国債を発行せざるを得なかったのには理由がある。別にレジーム・チェンジとかを意識したものではなく、そもそも金融機関の引受、いわゆるシ団引き受けが銀行側の事情、政府と銀行との険悪ムードなどで難しくなり、大蔵の預金部引受を除いてほかに国債発行手段がなかったことで日銀引受方式の国債発行をさぜるを得なかった。しかも、日銀の国債引受が実施されたのは、高橋財政がスタートして約1年後であり、この際には銀行に向けての売りオペを同時に行ったことで、実際の緩和効果は限定的と言えた。

 「こうした財政・金融・為替政策の適切な組み合わせによる「高橋財政」によって、それまでの過度な円高が是正されるとともに、物価水準の方向が下落から上昇に転じ、わが国は、欧米主要国との比較においてもいち早く、景気の回復とデフレからの脱却に成功しました。」(岩田副総裁の講演より)

 いち早く景気の回復とデフレからの脱却に成功したことは確かではあるが、「高橋財政の成功は、経済政策のレジームを井上財政のデフレ・レジームから高橋財政のリフレ・レジームへ転換させることによって、人々のデフレ予想を覆して、インフレ予想に変えたことにあります。」(岩田副総裁の講演より)というが、この場合のインフレ予想とは何か。このときの背景をみて、インフレへの予想を高めたとの表現は適切なのであろうか。

 高橋是清による金輸出禁止はレジーム・チェンジとされたが、高橋財政が実施されてすぐに状況が好転したわけではない。高橋是清による金輸出再禁止により、株価は急騰し、円安放置策もあり、円安も進む。しかし、これは思惑的な動きであった。世界経済は大恐慌の影響から不況の最中にあり、満州事変の勃発、英国の金本位制停止などにより、先行きの不透明感も強い状態であった。外為市場では急ピッチの円安に対する警戒も強まり、株式市場も1932年3月あたりから調整局面を迎えた。

 日銀が1932年3月と6月に公定歩合の引き下げた際にはあまりその効果は出ず、市中金利の低下は限定的となった。ところが、8月の第三次公定歩合の引き下げで、公定歩合の水準は日銀創設以来の最低となる。本格的な低金利時代を迎えたことが意識されたことに加え、政府による積極的な財政政策が打ち出された(満州事件費や時局匡救費)。財政面からの大規模な需要拡大・景気刺激策と呼応し、金融面から金融緩和・金利低下を本格的に推進しようとする政府の意向も浸透してきたことで、景気回復への期待を強めることになる(拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」より引用)。

 これをインフレ期待と評するべきなのか。物価上昇への期待ではなく、景気回復への期待の強まりとの表現が適切であるように思われる。ちなみにこれには時期的な背景も忘れるべきではない。財政面では満州事変費など軍事費が大きな割合を占め、景気拡大の背景には軍需産業の拡大も寄与していた。重化学工業が主力となる時期と重なるように、成長の余地が存在していた。

 岩田副総裁の高橋財政に関する見方で最も疑問とされるのは、日銀の国債引受が当時の国債市場における事情が影響していたことや、銀行への売りオペに関する点についてあまり触れていない点にある。日銀が国債を引き受ければ、インフレ期待が高まる、との見方がリフレ派に多いが、高橋財政はそれを意図したわけではない。手段として使わざるを得なかった。その結果については高橋財政後を見る必要があるが、岩田副総裁と私の見方もここで大きく異なるのである。

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by nihonkokusai | 2013-10-30 09:38 | 日銀 | Comments(2)

岩田日銀副総裁の高橋是清に関する講演より

 10月27日に日銀の下関支店において、「高橋是清翁顕彰シンポジウム」が開催された。

 高橋是清は森有礼の友人で農商務省次官の前田正名が持ち込んだペルーの銀山開発の話に乗って無一文になってしまったあと、さすがに責任を感じていた前田は高橋に第三代日本銀行総裁の川田小一郎を紹介した。こうして是清は日銀に入行したが、本人による丁稚奉公から仕上げていただきたいとの希望で、日銀本店新設工事の建設事務主任となったのである。

 このときの監督は安田財閥の祖である安田善治郎、技術部監督はのちに東京駅も手掛けた建築家の辰野金吾。辰野金吾は唐津の洋学校での高橋是清の教え子でもあった。日銀本店工事では高橋是清の力が存分に生かされ、大幅に遅れていた工事はほぼ予定通りに進捗し、この実績が高く評価された。このため日銀入行の翌年には全国二番目の支店となった日銀西部支店の初代支店長となったのである。それが現在の下関支店である。

 この高橋是清翁顕彰シンポジウムの主賓が岩田日銀副総裁で挨拶を行った。その挨拶要旨が日銀のサイトにアップされた。岩田副総裁は「昭和恐慌の研究」という本の著者・編集者でもあり、高橋財政にも詳しい。拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」を書く際にも購入し参考文献とさせていただいたが、高橋財政の見方については見方の違いもあった。

 高橋財政とよばれる政策が行われた背景には、その前の昭和恐慌について見ておく必要があるが、それについて岩田副総裁は下記のようにコメントしている。

「当時の経済状況を振り返りますと、1920年代は、第一次大戦による好況期の反動や関東大震災(1923年)、昭和金融恐慌(1927年)などが相次いで起こる、慢性的な不況の時代でした。1930年には、浜口雄幸内閣の下で緊縮的な政策を進めていた井上準之助蔵相が、大戦中に停止されていた国際金本位制への復帰(金輸出の解禁)を断行します。 しかし、金本位制は、当時の日本のような経常収支赤字国にとっては、緊縮的な財政金融政策によって物価の下落を強いられるデフレ・レジームです。それに加え、井上蔵相は、金と円の交換比率、すなわち為替レートを実態よりも円高な旧平価に設定して金本位制に復帰しました。そのため、日本はたちまちデフレ不況に陥りました。 このような状況に加えて、1929年に始まった世界的な大恐慌が国内に波及したことが、昭和恐慌の発生の背景にあったと考えられます。」(岩田副総裁の高橋是清翁顕彰シンポジウムにおける挨拶より)

 これについては時間の関係上、詳しい説明ができなかった面もあるかもしれない。ただ、井上蔵相はデフレを目指していたわけではない。金と円の交換比率を実態よりも円高な旧平価に設定して金本位制に復帰した背景についても、拙著「聞け! 是清の警告」では次のように解説した。

 「1928年にフランスが金解禁を行うと主要国でこれを行っていないのは日本だけとなりました。日本国内でも1920年頃から金輸出解禁の是非が議論されるようになったものの、第一次大戦後の不況や1923年には関東大震災とその後の1927年の金融恐慌などがあり、金本位制への復帰が遅れたのです。金解禁を行って為替相場を安定させることを望む声が上がり、1929年7月に金輸出解禁の方針を掲げた民政党の浜口雄幸内閣が成立し、蔵相に元日本銀行総裁の井上準之助を起用しました。緊縮財政への転換と国民への倹約の呼びかけを行い、1930年1月に旧平価により金輸出を解禁しました。これには高橋是清は反対しましたが、無理な旧平価による金解禁を行えば、正貨流出を招くことが予想されたためです。旧平価ということは、明治30年に制定された貨幣法による100円は49ドル82セントとするものですが、金解禁前の日本経済は関東大震災などの影響が残り、円の価値は下落していました。その円相場を意識して金解禁をする新平価の解禁を求める声もあったのです。ところが、第1次世界大戦を通じて日本は米英に次ぐ第3の強国となっていたこともあり、国際信用を落としたくないとの配慮がありました。また、新平価を採用するとなれば、貨幣法を改正する必要があります。ところが、当時の議会でそれを通すことが難しい状況にあったことで、旧平価のままで金解禁に踏み切ることになったのです。」(拙著「聞け! 是清の警告」すばる舎)

 為替レートを実態よりも円高な旧平価に設定したことは、デフレを意識して行われたというよりも、与野党の攻防が激しい状況等、当時の事情が許さなかった面もあったのである。

 「このような状況のもと、1931年の末に成立した犬養毅内閣で5度目の大蔵大臣に就任した高橋是清は、財政政策と金融政策を組み合わせた景気刺激的なマクロ経済政策のパッケージを推し進めました。これがいわゆる「高橋財政」です。」 (岩田副総裁の高橋是清翁顕彰シンポジウムにおける挨拶より)

 「高橋財政」に関する岩田副総裁のご指摘と私の高橋財政の見方の相違については、少し長くなりそうなので、明日の牛熊コラムにてあらためてご紹介したい。



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by nihonkokusai | 2013-10-29 09:50 | 日銀 | Comments(0)

異次元緩和後の金融機関の状況(日銀レポートより)

 日銀は10月23日に「金融システムレポート」を発表した。このなかの「金融仲介活動の点検-量的・質的金融緩和導入後の動向を中心に」を見ると、金融機関(銀行・信用金庫)の資金運用残高は全体として伸びを高めているとしており、「量的・質的金融緩和のもと、日本銀行による国債買入れが増加するなかで、大手行を中心に国債保有残高が減少した一方、日銀当座預金は増加。貸出が伸びを高めているほか、海外資産も増加。」とある。

 日銀の異次元緩和によりポートフォリオ・リバランスが起きているかのような表現となってはいるが、貸出の伸びについては大手企業中心であり、企業向け貸出を業種別にみると、東日本大震災以降、電力会社向けの貸出残高が増加しているとしており、異次元緩和効果によるものとは必ずしも言えまい。

 機関投資家など金融機関以外の金融仲介機関では、資金運用動向に大きな変化はみられていないとの指摘もあったが、これを見る限り異次元緩和によるポートフォリオ・リバランス効果はいまのところは出てはいない。

 金融資本市場から観察されるリスク、なかでも国債市場からみたリスクについては、国債価格のボラティリティ 国債価格のボラティリティ(MFIV)は本年4月に上昇した後、緩やかに低下しており海外金利が総じて見れば水準を切り上げるもとで、わが国長期金利の安定が目立っているとしている。

 この理由として、財政悪化懸念の高まりが窺われないなか、日本銀行の大量の国債買入れによる債券需給の引き締まりなどが指摘されていた。しかし、大きな理由がすっぽりと抜け落ちている。債券市場参加者は日銀の異次元緩和による物価目標達成は困難との見方をしており、デフレは簡単には解消できないとの見方も日本の長期金利の低位安定の背景にある。

 「もっとも、債券市場では、金利上昇時ほどボラティリティが大きくなるという非対称性がみられており 金利上昇時ほどボラティリティが大きくなるという非対称性がみられており、何らかの金利上昇ショックが加わると、ボラティリティが高まりやすく、それがさらなる金利上昇を引き起こすリスクには注意が必要である。」

 これは別に非対称性でも何でもない。株も上げるときより、下げる方がピッチが速くなりボラタイルな相場になる。債券も同様で、金利で見るとわかりづらいが、金利上昇とは国債価格の下落を意味する。債券も有価証券であり、保有している投資家も国債価格が急落すると、損失を限定させ、リスク回避のためにさらに売り売却を急ぐことになり、当然ながらボラティリティが大きくなる。それが異次元緩和翌日の4月5日の債券相場にも現れていた。相場が落ち着き、流動性も回復したことが、日本の長期金利の安定のもうひとつの背景となる。つまり異次元緩和で市場参加者の先行き見通しには、ほとんど変化が生じていない。何かしらの「期待」など生じていないということでもある。

 そして、このレポートで最も注目されている金利変化にともなう金融機関の損失予想であるが、金利が1%上昇した場合に銀行全体での保有の債券に発生する時価損失額(イールドカーブはパラレルシフト)は6月末時点で約6兆円と、日本銀行が異次元緩和に踏み切る直前の3月末時点の6.9兆円から縮小した。

 内訳として、大手銀行が3月の3.7兆円から2.9兆円に減少している。地銀は3.2兆円と変化なく、信金は1.8兆円から1.9兆円となっている。都銀は4月以降、国債残高を大きく減少させており、このために金利上昇に伴う債券時価の変動が小さくなっている。その分のリスクは国債を大量に買い付けている日銀に移ったともいえよう。



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by nihonkokusai | 2013-10-28 09:31 | 日銀 | Comments(0)

来年のFOMCメンバーとテーパリングの行方

 10月29、30日に米国ではFOMCが開催される。年内はあと12月17、18日の会合が予定されている。すでにテーパリング(資産購入規模縮小)の開始の決定は、政府機関の一時閉鎖による経済指標発表の遅れ、さらに一時的なデフォルト懸念も加わっての米経済への影響等を見極めるためにも、年内は難しいとの見方が強い。現在、市場参加者のコンセンサスとなりつつあるのは、来年3月以降との見方となっている。

 10月のFOMCでは現状維持が決定されると予想されるが、注目されるのは議論の中身となる。特に政府の財政を巡る攻防の結果の影響がどの程度、景気に反映されるのか。

 米大統領経済諮問委員会(CEA)のファーマン委員長は22日に、政府機関の一時閉鎖やデフォルト(債務不履行)危機が国内経済に及ぼした影響について、10~12月期の経済成長率を0.25ポイント押し下げ、これまでに12万人の新規雇用が失われたとする比較的厳しい試算を明らかにした(WSJ)。

 FRBも同様の試算を試みているとみられ、それを基にテーパリングの開始時期についての判断を行ってくることが予想される。何とか自らの任期中(2014年1月末まで)に、出口への布石を打っておきたかったであろうバーナンキ議長の思惑はかなわず、それはイエレン次期議長に託されることになりそうである。

 ちなみに2014年のFOMCで投票権を持つメンバーは、連銀総裁が2013年のセントルイス、シカゴ、カンザスシティ、ボストンから、クリーブランド、フィラデルフィア、ダラス、ミネアポリスの連銀総裁に代わる。

 クリーブランド連銀のピアナルト総裁は9月のFOMCで債券購入の規模縮小を決めるのが望ましかったと述べた。フィラデルフィア地区連銀のプロッサー総裁も資産買い入れを速やかに縮小する時期に来ているとの認識を示している。また、ダラス地区連銀のフィッシャー総裁は米国に再び住宅バブルが発生する兆候が見られるとし、FRBによるMBS買い入れに対し慎重な見方を示した(ロイター)。これらに対して、ミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁は、FRBは自らが示した予測値に基づき、量的緩和の縮小を検討するのではなく一段と拡大すべきだとの見方を示している(WSJ)。

 このように新メンバーとなる連銀総裁はテーパリング開始に前向きな姿勢の人が多いが、その舵取りを行うのが、2月から新議長となるイエレン副議長となる。イエレン氏はハト派とされているが、バーナンキ議長同様に自らの主義主張を全面に押し出すことよりも、FOMCメンバーの意向を踏まえた上で、取りまとめを行ってくると予想される。ただし、ここで問題となるのは、そのイエレン氏を補佐する副議長の名前がまだ挙がっていないことである。副議長の人選次第では、バランスが多少変化してくることも予想される。



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by nihonkokusai | 2013-10-27 12:23 | 中央銀行 | Comments(0)

アベノミクスの最大の欠点

 内閣官房参与の本田悦朗・静岡県立大学教授は23日の都内における講演で、日銀は来年4月以降に追加緩和を辞さない姿勢を明確にして欲しいと述べ、追加緩和手段としては、住宅ローン担保証券(MBS)などリスク性資産を買入れるのが望ましいとの見解を述べたそうである(ロイター)。

 追加緩和は3%の消費増税で期待インフレが腰折れしないようにするためだそうだが、消費増税は当然のことながら、物価の上昇を招くことになる。たとえば、日銀の政策委員によるコアCPI予想(2013年7月の見通し)は+2.6~+3.7%だが、消費税率引き上げの影響を除くケースでは、+0.6~+1.7%となっている。

 消費増税で庶民の物価観としても物価は上昇すると認識するのではなかろうか。むろん、消費増税による景気への悪影響で物価だけが上昇するが、景気は腰折れという事態は好ましくはない。これは私自身がいまだに良くわかっていないが、「期待インフレ」というものを低下させることになるのであろうか。本田氏の言うところの「期待インフレ」とはいったい何のことなのであろうか。インフレ予想ではないのか。

 本田氏は、物価連動債と普通国債の利回り差を示すBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)は、「物価連動債の市場が薄いものの、期待インフレ率の大きな方向性は示している」とし、「現在は消費増税の影響を除いて1.3%~1.4%程度まで上昇している」と指摘した(ロイター)。

 このBEIの1.3%~1.4%程度とは先日発行が再開された3000億円の物価連動国債ではなく、既発債の数値かと思われる。そこには当然ながら消費増税による物価上昇分も加味されている。ちなみに新発債のBEIは1%程度とみられ、異次元緩和による効果をここから測定するのは難しい。しかもこれは市場のなかでも一部の物価連動国債を売買している市場参加者の物価観を現しているにすぎず、需給や債券相場そのものの影響も受ける。市場参加者によるところの期待インフレを示すとしても参考程度にしかならず、その数値そのものも期待されるほどのインフレを示していないのが現状である。

 ところで本田氏が述べた追加緩和におけるMBSの買入だが、たしかにその市場は決して小さくはない。日銀が資金循環統計発表の際に出した資料、「証券化商品残高の集計」によると機構MBSは6月末で10.6兆円となっている。

 ただし、国債と同規模となっている米国でのMBSと比べれば、日本のMBS市場は国債市場に比べると極端に小さい。FRBがMBSを購入することで、金利全般を押し下げ住宅ローン金利に影響を与えた。しかし、日銀がMBSを購入することで、何に作用させようとするのであろうか。住宅ローンの金利を下げたいのであれば、変動であれば現在のゼロ金利政策を末永く行えば良く、固定であれば長期国債の利回りを抑える必要がある。つまりMBSを日銀が購入して、どこかに何かメリットがあるのであろうか。住宅支援機構がMBSを発行しやすくなるかもしれないが、発行に困っているわけではないはず。ちなみに国債も政府が発行に困っていないにもかかわらず、日銀が勝手に大量に購入している。

 さらに本田氏は「第一の矢、強力な金融政策であり、これによるデフレ脱却前に成長戦略を進めると需給ギャップは拡大してしまう」との見解を強調したそうだが、それでは大胆な金融緩和は、何を通じて何の効果を与えるというのか。追加緩和にはリスク性資産を買い入れるべきとの発言を含め、どうも報じられた本田氏のコメントは矛盾に満ちている。アベノミクスの最大の欠点はこんなところに存在しているのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2013-10-25 07:58 | アベノミクス | Comments(1)

日米の長期金利の動きが異なる理由

 日本の長期金利は7月3日に0.9%をつけたあたりから低下傾向となり、10月23日に0.6%をつけてきた。この日本の長期金利低下の背景は何なのか。

 最も説明しやすいものとして、FRBのテーパリング開始を巡る思惑がある。米国の財政問題を巡る与野党の駆け引きにより生じた米政府の一部機関の閉鎖がひとつの決定打となり、年内の開始観測は急速に後退した。米連邦債務の引き上げ問題を巡るデフォルトへの懸念なども混乱を招く結果となった。それらが米国の長期金利の低下要因となっていた。低下要因というよりもテーパリングを織り込む格好で米長期金利が3%まで上昇していたことで、その反動が起きた。

 この米国の長期金利の低下が、日本の長期金利の低下を招いたとの見方が説明しやすいかもしれないが、日米の長期金利の5月あたりからの推移を見ると、その説明にはやや無理がある。

 日本の長期金利は5月2日に0.560%まで低下していた。ところが5月10日にドル円が100円突破したことで、債券先物はサーキット・ブレーカーが発動し、長期金利は0.7%台に乗せた。13日も先物は連日のサーキット・ブレーカー発動となり、長期金利は0.8%台乗せに。15日に長期金利は0.920%に上昇していた。このあたりの動きは米債に連動していたというよりも、国債の流動性そのものが低下し、それが嫌気されて長期金利が一気に跳ね上がっていたと言える。先物のサーキット・ブレーカーの発動がそれを物語っている。

 その後の日本の長期金利は0.8%台主体に方向感に乏しい動きとなっていたが、7月2日に長期金利が0.895%と0.9%近くをつけてから、低下傾向が続き10月23日に0.6%近辺まで低下したのである。

 この間の米国の長期金利の推移を見ると、5月に1.6%あたりにあった米長期金利はFRBのテーパリング開始が意識され、9月5日に3%をつけたところがピークとなった。そこからは低下傾向となったものの、22日現在の米長期金利はまだ2.5%近辺にいる。日本の長期金利は5月の水準近くまで低下していても、米長期金利は5月の1.6%近辺からはまだ遠い位置にいる。米国の長期金利の低下も要因のひとつではあろうが、日米の長期金利の推移を見る限り、別の要因がありそうである。

 それではこの日本の長期金利の低下はどのように説明すべきなのか。都銀による国債の売り越しは続いているが、その売越額はここにきて減少してきており、9月は超長期債を買い越すなどのスタンスの変化もみえる。都銀以外の銀行や、信託銀行を通じた年金、さらに生保などの買いが都銀の売り越し以上にカバーしている。貸出以上に預金が伸び、生保も引き続き国債運用を積極化するなど、この長期金利の低下の要因には投資家の需要が存在する。もちろん国債の需給には日銀の国債買入も大きく影響していることも確かである。

 さらに注意すべきは5月の日本の長期金利の上昇が、国債の流動性が低下していたことが背景にあったことである。6月の都銀の国債の売買高(除く短期)は3兆5165億円と2004年4月以降では最低となっていたが、ここにきて徐々に回復してきており、9月は10兆4974億円と4月以来の10兆円台となった。都銀の売買高の回復は、債券の流動性が徐々に回復しつつあることを物語っている。これも日本の長期金利の低下に少なからず影響を与えていると思われる。日銀の異次元緩和後の市場の混乱もあり、慎重になっていた投資家も徐々に動きを活発化してきたことも予想される。

 さらに物価についても、7月のコアCPIは前年比0.8%と上昇してきているが、今後はこの上昇ピッチは鈍ることが予想されている。円安一服、ここにきての原油価格の低下なども影響し、日銀が掲げた物価目標の達成は実現が難しいとの認識も日本の長期金利の低下の背景にあるのではなかろうか。



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by nihonkokusai | 2013-10-24 09:22 | Comments(0)

9月の投資家の債券売買状況

 日本証券業協会は9月21日に9月の公社債投資家別売買高を発表した。9月の債券相場はFRBのテーパリング開始の見送りもあり、10年債利回りは0.7%割れとなるなどしっかりした展開となっていた。

 米10年債利回りは9月6日の東京時間に3%台に乗せ、6日の日本の10年債利回りは0.790%に上昇した。18日のFOMCでは現状の量的緩和策の維持を決定し、量的緩和縮小は先送りされた。これを受けて米10年債利回りは2.69%近辺と大きく低下し、19日の債券先物は144円台を回復した。現物10年債利回りも5月10日以来の0.7%割れとなり、20年債利回りも6月3日以来の1.6%割れとなった。

 9月の公社債投資家別売買高によると、短期債を除いたベースで4月から8月まで売り越しとなっていた都市銀行は、9月も5506億円の売り越しとなっていた。ただし、国債の投資家別売買高を確認すると、中期債は1兆9381億円売り越していたものの、長期債は1兆2447億円の買い越し、超長期債も1104億円買い越していた。都銀の超長期債の買い越しは2月以来。中期債から長期、超長期債に乗り換えて、保有する国債の残存期間を長期化していた。

 ここにきての都市銀行の動きをみると、長期債は買い越しの月が多いが、中期債は2月から売り越しが続いている。8月の中期債の売り越しは2兆円を超えていたが、9月も2兆円近い売り越しとなっていた。

 ちなみに、6月の都銀の国債の売買高(除く短期)は3兆5165億円と2004年4月以降では最低となっていたが、ここにきて徐々に回復してきており、9月は10兆4974億円と4月以来の10兆円台となった。都銀の売買高の回復は、債券の流動性も徐々に回復しつつあることを示しているように思われる。

 他の投資家の9月の売買状況を確認すると、買い越しの最大手は8月に続き信託銀行となり、1兆4986億円の買い越し。信託銀行は超長期債を4200億円、長期債を4716億円、中期債を5611億円それぞれ満遍なく買い越しとなっていた。

 続いて生損保が8933億円の買い越しに。こちらは超長期債を6280億円の買い越し、長期債は109億円の売り越し、中期債は1139億円の買い越し。

 投資信託が3137億円、農林系金融機関は3029億円の買い越し。投資信託は中期債主体、農林系金融機関は長期・超長期主体に買い越しとなっていた。

 外国人は1282億円の売り越し。ただしその内訳をみると、超長期債を5859億円買い越し、長期債を1兆3059億円売り越し、中期債を5947億円買い越しとかなり大きな入れ替えを行っていた格好に。参考までに外国人の国債売買高(除く短期)を確認してみたところ、9月は15兆円台となっており、最近では4月の16兆円台に次ぐ大きさとなっている。

 9月も都銀は売り越していたものの、売越額は減少しており、超長期債を買い越すなど少しスタンスに変化も見える。これにはFRBのテーパリング開始が先送りされた影響もあるとみられるが、10年債利回りの0.7%割れのひとつの原動力になったものと思われる。

 参考までに国債の投資家別売買高(一覧)を基に、投資家全体の売買高の状況を確認してみたところ、7月は国債合計(短期債と割引債除く)で126兆9632億円となっていたが、8月は140兆円1549億円、9月は156兆1005億円と徐々に回復してきている。



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by nihonkokusai | 2013-10-23 09:36 | 債券市場 | Comments(0)

市場参加者のインフレ予想とは何か

 日銀の岩田副総裁は、10月18日に『「量的・質的金融緩和」の目的と その達成のメカニズム』と題する講演を行った。岩田副総裁は、いわゆるリフレ派の理論を形成される中心人物の一人であるとともに、日銀の異次元緩和を主導した一人。今回の講演でも、その日銀の異次元緩和がどのように物価の2%上昇に働きかけるのかの説明があった。

 「市場参加者が、マネタリーベースや超過準備の動向から中央銀行の金融政策レジームを判断し、将来の貨幣ストックや将来の金利およびインフレ率を予想するからです。」

 この「市場参加者」がどの程度の範囲を指すのでは定かではないが、たぶん債券市場のディーラーもその端っこにでも含まれるのであれば、自分での14年程度の市場参加者の経験から、これについての感想を述べてみたい。

 将来の金利、なかでも長期金利の先行きを予想するのに、日銀の金融政策に関する情報はかなり大きなものを占めているのは事実である。日銀の異次元緩和で国債の需給面での関心も高まった。しかし、その比重は状況によって変化する。次年度予算に伴う国債発行計画や財務省の国債管理政策に比重が置かれることもある。そして何より都銀、生保、年金などのいわゆる機関投資家の動向に注目が置かれることも多い。もちろん機関投資家が先行きをどのように見ているのかについて中央銀行の金融政策を重視している面もあるかもしれないが、それだけを見ているわけでもない。足下の物価動向、景気動向のいわゆるファンタメンタルズを注視し、そこに比重が掛かることもある。海外要因に比重が掛かることも当然ある。

 つまりは市場参加者、なかでも物価連動国債なども含めた国債を売買している当事者は、マネタリーベースや超過準備だけを見ているわけではない。むしろ、マネーサプライなどについては、大昔に比べほとんど関心を示すようなことはなくなっている。同様にマネタリーベースが増加しようと、日銀の当座預金残高が100兆円を超えたのかといった程度の関心しかない。刻々と増加する超過準備に目を光らせているのは、日銀の担当者と短期市場関係者の一部ではなかろうか。

 つまり市場参加者が足下や将来のマネタリーベースや超過準備の動向を見据えて、債券を売買しているという事実はまったくないとは言えないが、他の要因に比べればかなり低い。現在で言えば、FRBのテーパリングの開始時期などのほうが余程関心が高いはずである。

 そもそも市場参加者がインフレ率を予想して、それがどのように一般庶民のインフレ予想を高めるというのであろうか。BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)などといっても債券市場関係者以外、はっきり言えばその債券市場関係者でもその推移を刻々見守っている者は物国の直接担当者以外は個人的に関心があるほんの一部であろう。

 市場参加者が、マネタリーベースや超過準備の動向から中央銀行の金融政策レジームを判断し、将来の貨幣ストックや将来の金利およびインフレ率を予想した結果が、長期金利に現れるのであれば、長期金利の形成要因が、中央銀行の金融政策レジームだけしか見ていないような前提にあるのか。しかし、日本国債への信認が低下するだけでも、その前提はあっさりと崩れる。

 「将来の貨幣ストックの経路に関する予想と予想インフレ率の間には密接な関係があり、そうして形成される予想インフレ率が現在のインフレ率を決定するのです。 」岩田副総裁。

 その将来のインフレ率が市場参加者を通じて形成されるとするのであれば、市場参加者が適切なインフレ予想を抱くという前提がある。過去の経験から言えば、市場こそよく間違える。間違った予想が将来のインフレ率を形成するというのであれば、それこそリスクを伴うことになりはしまいか。



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by nihonkokusai | 2013-10-22 08:00 | 日銀 | Comments(0)

個人向け国債10年変動金利型が人気の理由

 9月に募集され10月に発行された個人向け国債に異変が起きていた。変動金利タイプが、前回6月募集分に比べて発行額を大きく伸ばしていたのである。

 9月に募集された個人向け国債の発行額は、3年固定金利タイプが890億円、5年固定金利タイプが1379億円、10年変動金利タイプが6661億円となっていた。前回6月募集分は3年固定金利タイプが415億円、5年固定金利タイプが1286億円、10年変動金利タイプが2966億円となっており、10年変動が大きく増加したことがわかる。2006年の10月発行分以来の高水準を記録したのである。10年変動の初期利子は6月募集分が0.57%で、9月募集分が0.51%と利率面では魅力が低下していたにも関わらずである。さらに9月はボーナスシーズンでもなかった。

 過去の個人向け国債の売れ行きをみると、固定金利タイプは利率、変動金利タイプは初期利子の水準が販売額に大きく影響していた。たとえば5年固定タイプは利率が1%以上だと売れ行きが伸びるが、1%以下なら伸び悩んでいた。10年変動の初期利子が前回募集分から低下しても、募集額が増えたことは皆無ではないものの、ここまで金額が大きく膨らむことはなかった。

 この背景にはもしかすると、私が学研の「安心マネーライフ」という雑誌で、資産運用する上では、個人向け国債、なかでも10年変動タイプを推していたことや、9月の牛熊のコラムで「物価上昇の備えに個人向け国債10年変動金利型はいかが」と題して、お勧めしていたことが効果を挙げた、と言いたいところだが、多少は貢献したのではないかとも考える次第。それよりも私が勧めた理由そのものを個人も感じ取っていたということであろうか。

 日銀の生活意識に関するアンケート調査によると、個人の物価観としては上昇すると予測しており、日銀の異次元緩和によって2%の物価上昇もありうると思うのであれば、最適な金融商品となるのが、個人向け国債の10年変動金利型となる。

 物価が上昇すればそれに応じて長期金利も上昇する(はずである)。現在、長期金利が低下しているのは、そうは思っていない債券市場参加者が多いということであるが、異次元緩和による日銀の国債大量買入で、その上昇が抑制されたとの指摘もある。ただし、今後、もし日銀の思惑通りにコアCPIが2%に上昇するとなるとなれば、現在の長期金利の水準を維持させることはいずれ難しくなる。

 円安によるアベノミクス効果だけでなく、外部環境も好転しつつあり、それにより物価も上昇しやすい状況にある。また消費増税による影響等も意識する必要もある。

 今後、物価の上昇とともに長期金利は上昇すると予想するのであれば、固定利付きの債券であればなるべく期間の短いものを購入し、金利がある程度上昇してからあらためて利率の高く期間の長い債券を購入するというのがひとつの方法である。ところが、個人向け国債の10年変動金利型であれば、長期金利の上昇に応じて利率も上昇する(半年のラグはあるが)。

 さらに個人向け国債であれば、1年間という売却できない期間はあるものの、1年経過すれば財務省が額面で買い取ってくれる。つまり債券の大きなリスクとなっている価格変動リスクと流動性リスクが「ない」。その分利子は低いが、もし2年以内に2%の物価上昇が起きる可能性にも賭けたいのであれば、元本は維持される上、金利上昇も享受できる10年変動金利タイプの個人向け国債はたいへん魅力的な商品となりうる。

 消費者物価指数は7月でコア指数が前年比プラス0.8%となった。その上昇は円安や、エネルギー価格の上昇で、ある程度説明でき、異次元緩和の影響はあまり見えていない。それでも物価は今後上昇し、いずれ長期金利もそれに応じて上昇可能性もあると思うのであれば、預貯金に資金を置いておくよりも、個人向け国債を購入しておいたほうが面白いかもしれない。次回の募集は12月となるが、12月以降は10年変動タイプ、5年固定タイプともに毎月募集・発行される予定である。

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by nihonkokusai | 2013-10-20 08:48 | 国債 | Comments(1)
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