「ほっ」と。キャンペーン

牛さん熊さんブログ

bullbear.exblog.jp ブログトップ

<   2013年 07月 ( 25 )   > この月の画像一覧

債券市場参加者の消費増税への見方

 7月29日に公表された7月のQUICKの月次調査(債券)には、消費増税に関するアンケート結果があった。これによると参議院選挙の結果を踏まえての消費税率の引き上げの可能性について、調査対象全体の96%もの人が、1回目は予定通り実施されると答えていた。このうち予定通り2回引き上げられるとみている人は67%、2回目は見送りとする回答は29%あった。

 このように少なくとも来年4月の消費税引き上げはすでに既定路線として債券市場参加者には受け止められている。2回目についてはまだ半信半疑という感じである。2回目は延期とみているエコノミストもおり、私もどちらかといえば2回目は先送りの可能性もありうるかと考えている。

 アンケートの質問には、仮に2014年4月の消費税率の引き上げが見送られた場合、相場への影響に関するのもあった。

 日本の長期金利については上昇するが78%、影響なしが15%、低下するが7%となっていた。債券関係者にとっての本職の部分での10年国債の動向予想となるわけではあるが、財政健全化の遅れとともに、日銀の異次元緩和による大量の国債買いが財政ファイナンスと見なされる懸念を意識した回答結果かと思う。ただし、国債の信認はそう簡単に揺るがず、消費増税が見送られようが長期金利は低下すると答えた市場関係者が7%いた。

 株式市場への影響については上昇が30%、影響なしが16%、下落が54%となっている。株は下落するであろうとみているが、長期金利の上昇ほどの自信はないといった感じの結果であろうか。

 円相場(対ドル)については、上昇(円高)が23%、影響なしが16%、下落(円安)が60%となっていた。つまり来年4月の消費税引き上げが見送られると、長期金利の上昇(国債価格の下落)、株安、円安を招くとの予想となっている。

 ここにきてその消費税の先行きがやや不透明になってきた。政府が来週にもまとめる「中期財政計画」の概要が明らかになり、来年4月からの消費税率の引き上げを今の時点では明確には盛り込まないことが明らかとなった。また、消費税率引き上げをめぐり、安倍晋三首相が増税による経済への影響について、複数案に分けて検証するよう関係部局に指示したとも伝えられた。

 これが意味するところは、少なくとも首相官邸は来年4月の消費増税については、できれば避けたいとの意向のように思われる。ただし、すでにそれは法案が通っているものであり、民間企業などではそれに向けた対応も進められており、上記アンケート結果からもわかるように、市場の波乱要因ともなりかねず、いまさらの見送りはリスクも大きい。足下景気は回復基調となっていることもあり、なぜここで官邸はためらいを見せているのかが腑に落ちない。

 QUICKのアンケートでは消費税率の引き上げが予定通り実施された場合、景気や期待インフレ率などへの影響に関するものもあった。日本の景気については、影響なし20%、減速48%、踊り場26%、後退局面入り6%となっていた。安倍政権が気にしているのも、消費増税による景気減速への懸念であり、せっかくのデフレ脱却を消費増税で妨げてしまい、それが支持率の低下に繋がることを警戒している可能性もある。

 消費増税の景気への影響に関しては、過去の消費増税時の状況はあまり参考にならない。過去2回の消費税の引き上げ時は、増税による影響以上に外部要因による景気への影響が非常に大きかったためである。

 来年4月の消費増税が先送りされるようなことになれば、市場がどのように反応するのかも、実際にはかなり不透明である。素直に国債も株も円も売られるような事態にはならない可能性も高い。ただし、本当にそれで日本売りが生じてしまうと、日本発の世界的な金融不安が引き起こされてしまう懸念もある。そのリスクはテールリスクではあったとしても、ゼロではない以上、そのようなリスクを回避するためにも、来年4月の消費増税は予定通り実施したほうが良いのではなかろうか。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp


[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-31 09:01 | 財政 | Comments(0)

トップが変われば政策も変わる中央銀行

 2011年11月にトリシェ氏の後任として第3代欧州中央銀行総裁に就任したのが、マリオ・ドラギ氏。欧州の信用不安が強まるなか、ドラギ総裁は就任後、12月8日にECB定例理事会で政策金利を引き下げた上に、流動性を供給するため期間3年の長期リファイナンス・オペ(LTRO)を新設するなど手を打ってきた。2012年7月にはユーロを守るために「必要なことは何でもする」と宣言し、これをきっかに市場は落ち着きを取り戻した。9月のECB理事会では市場から国債を買い取る新たな対策を正式に決定。あくまでその準備を整えただけで、実際に使用することはなかったが、これも欧州の信用不安を後退させる要因となった。トリシェ氏からドラギ氏に変わったことで、市場はその不安感を後退させてきたとも言えた。

 日本銀行は2013年3月20日に総裁と副総裁、いわゆる執行部が入れ替わった。昨年12月の安倍政権の登場で、アベノミクスを全面支援する格好となり、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の主張を取り入れた。異次元緩和と呼ばれた金融緩和策を、黒田総裁を中心に実行に移したのである。これまでの日銀からみれば180度異なる考え方でもあり、日銀の政策が総裁交代によって大きく変わったことになる。壮大な実験との見方もされるような金融政策が実施されている。

 イングランド銀行では、2013年7月1日に総裁がキング氏から、カナダ中銀総裁であったカーニー氏に交代した。初の外国人の総裁登用であった。カーニー総裁はどうやら、キング総裁の政策をそのまま受け継ぐのではなく、こちらも独自色を出してきつつある。キング総裁は量的緩和の拡大を目指していたが、カーニー氏はそれをいったん封印し、フォワード・ガイダンスを導入しようとしている。7月31日、8月1日のMPCではフォワード・ガイダンスの詳細が発表されるとみらる。このあたりからよりカーニー色が強まることが予想される。キング前総裁は英国のインフレターゲットの導入の際の中心人物でもあり、自ら総裁となってからもそれを進めてきた。カーニー総裁の古巣のカナダ中銀もインフレターゲットを導入しているが、どうも今後のイングランド銀行の金融政策の主軸はインフレターゲットというよりも、フォワード・ガイダンスに置かれる気配がある。

 このようにECB、日銀そしてイングランド銀行と、世界を代表する中央銀行はトップの交代とともに、その政策の舵取りを変えてきた。リーマン・ショックから欧州の信用不安という百年に一度とされるような世界的な金融危機のなか、財政政策には限度があり、その分、日米欧の中央銀行の政策に負担が掛かった。そんな状況下での中央銀行のトップの交代ではあったが、ドラギECB総裁はその不安払拭を成功させつつあり、イングランド銀行も市場の落ち着きから総裁交代をきっかけに、それぞれ非常時の対応から変化の兆しが見えてきた。

 そして、FRBもバーナンキ議長は来年1月にも退任するとみられ、こちらの後任も注目されている。報道によるとバーナンキFRB議長の後任にはイエレン副議長とサマーズ元財務長官の名前も挙がっているようである。イエレン副議長であれば問題はなさそうだが、市場はあまりサマーズ元財務長官は歓迎していないようで、このあたりオバマ大統領が誰を指名してくるのか注目される。バーナンキ議長はそのバトンタッチの前に、オープンエンドの債券買入を縮小させて、こちらも軸足をフォワード・ガイダンスに変更しようとしているように見える。

 FRBのトップが変われば、日米欧の中銀のトップがみな入れ替わることになる。それぞれのトップの手腕が試されることになるが、今後、どうやら求められるのは非常時の対応ではなく、非常時からの出口の対応となりそうである。ただし、これには日本銀行を除くが。




*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-30 09:35 | 中央銀行 | Comments(0)

日銀もフレキシブルなインフレ目標なのか

 7月22日の佐藤日銀審議委員の講演での「物価目標」に関わるところをチェックしてみたい。佐藤委員は「物価安定の目標」について次のような説明をしている。

 「インフレ目標政策とは柔軟な金融政策の枠組みであり、インフレ目標導入国でも、目 標の達成・未達により機械的に政策を変更するような運営はなされていない。こうしたインフレ目標政策についての理解は同様の枠組みを採用する中央銀行の間で既に共有されている。」

 これはやや認識が違うのではなかろうか。欧米の中央銀行と黒田日銀以前の日銀の政策は確かにフレキシブルなインフレ目標となっていたが、安倍自民党総裁は日銀法改正までちらつかせて、2%の物価目標を日銀に設置させ、黒田日銀はその期間を2年に定めた。白川総裁時代のフレキシブルな対応は甘すぎるとの批判もあってのアベノミクスのための異次元緩和ではなかったか。

 「2%の「物価安定の目標」を掲げる日本銀行の金融政策の枠組みも柔軟なものであり、2%をピンポイントで達成することを目指すものではなく、2%を「安定的に達成」することに主眼を置いたものと私自身は理解している」

 黒田以前の日銀はそのように理解していたが、黒田総裁や岩田副総裁が果たしてそのような理解をしているのかは甚だ疑問である。特に岩田副総裁は2年で2%の目標が達せられないのであれば、辞任するとコメントしていたはずである。これのどこに柔軟性があるのであろうか。

 「ここで「安定的に達成」することの意味だが、金融政策の効果波及までのラグや不確実性を勘案すれば、そもそも2%ピンポイントで物価を安定させることは不可能で、上下に一定程度の変動が許容される幅(アローアンス)があると考えるのが自然であろう。」

 これは何も講演で自らの意見を主張する前に、黒田総裁や岩田副総裁とこのあたりの意見のすり合わせをまず進めるべきではなかろうか。市場参加者の多くも2%でピンポイントで達成できるとは考えていないし、本当にそこまで物価が上がった際の長期金利の見通しについても、不確定な状況にある。ここが市場と対話が成り立っていないところであるはず。佐藤委員は個人的な意見として市場側の意見に近いのであれば、それを決定会合でもっとその意見を反映させるべきではなかろうか。

 「アローアンスをどの程度みるかは政策委員間で多少見解の相違があるかもしれないが、私自身は2%を中央値としてある一定の範囲内で物価上昇率が安定する見通しが立てば、「量的・質的金融緩和」の主要な目的は達成できたと評価できるのではないかと考えている。」

 この見方が黒田日銀以前の大方の日銀関係者の意見であったはずである。当初、1%という目標を設定したら、物足りないとされて2%に引き上げさせられた経緯はいったい何であったのか。ある一定の範囲内の下限を1%とするのであれば、再び政府からプレッシャーが掛かることも予想される。この意見が本当に政策委員の大方の意見であるとすれば、安倍首相がそれを許すとは思えない。

 「「物価安定の目標」があくまでもこうした一定のアローアンスをもった柔軟な枠組みと考えるのであれば、目標はリーズナブルであるし、達成も可能であろう。」

 佐藤委員のご意見は誠にもってその通りであり、そういった金融政策を異次元緩和以前まで行っていた。それであれば出口政策も当然楽になる。しかし、それを否定したところからアベノミクスは始まっている。決定会合は委員会制となっており、それぞれの専門の委員が自らの意思で採決に望んでいるはずである。佐藤委員が日銀も欧米と同様にフレキシブルな政策を行っているとするのであれば、このあたりをもう少し具体的に決定会合でも示すべきではなかろうか。そこで意見を戦わせてもらえれば、市場参加者との対話もスムーズに行くように思うのであるが。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-29 10:52 | 日銀 | Comments(0)

欧米3大中銀のフォワード・ガイダンスへの移行

 6月19日のFOMC後の記者会見において、バーナンキFRB議長は失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせるのが適当と見ていると述べ、一定のペースで規模を縮小し、失業率が7.00%程度に下がっていくことを目安に、来年半ばにかけて緩和策を終了するという意向を示した。

 FRBは昨年12月のFOMCで、少なくとも2015年半ばまで低金利を維持するとの文面を声明文から削除し、米失業率が6.5%を上回り、向こう1~2年のインフレ率が2.5%以下にとどまると予想される限り、政策金利を低水準にとどめる、という数値のガイダンスに変更された。いわゆるフォワード・ガイダンスである。

 縮小緩和時期については、予断を与えないようにしているが、早ければ9月あたりから開始かとの見方が強まりつつある。つまりFRBはその金融政策の軸足を中央銀行のバランスシートの拡大から、インフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において、米失業率が6.5%程度で安定するまで事実上のゼロ金利を継続するというフォワード・ガイダンスに移してくることが予想される。

 ECBのドラギ総裁は7月4日の定例理事会後の記者会見で、「理事会はECBの主要金利が長期間にわたり、現行水準もしくはそれを下回る水準になると予想する」と発言した。これまでECBは、金利に関して予断を持たず、形式上は事前に将来の金融政策についてコミットしないという方針を貫いてきたが、その方針を変更してきた。つまりこちらもフォワード・ガイダンスを取り入れた政策に移行しつつある。

 7月4日のイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)では、全員一致で政策の現状維持を決めた。7月31日・8月1日に開催される次回会合では、インフレ・レポートと同時に、何らかのフォワード・ガイダンスを導入するとしている。

 FRBは債券買入という量的緩和政策に加えて、フォワード・ガイダンス(時間軸政策)を持ってきたが、これは2本柱を設置したというよりも、柱を量的緩和からフォワード・ガイダンスに移行させることを念頭に置いたものともみられ、それにECBやBOEも追随した格好となった。

 WSJによると、FRBは7月30日、31日のFOMCで、金融政策の先行き見通しを示す指針であるフォワード・ガイダンスをより詳細にするか、修正することを検討する可能性があると報じた。これは量的緩和という柱を後退させる上での市場の動揺に配慮したものではないかと推測される。

 FOMCは7月30、31日の日程であるが、7月31日、8月1日の日程でイングランド銀行のMPCが開催される。また、8月1日にはECB政策理事会が開催される。FRBの動向を確認して、イングランド銀行とECBは、フォワード・ガイダンスに対する詰めを急ぐのではないかと推測させる。欧米の3大中央銀行が、有事の対策としての国債買入を中心とした異次元緩和から、平時の政策に戻ろうとしている。それだけ世界的なリスクが後退したためとみられるが、市場に配慮してあまり目立たないように進めようとしているとも思われる。それでも大きな政策変更であることに違いはなく、来週のFRB、BOE、ECBの動きにはかなり注目する必要がありそうである。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-27 11:45 | 中央銀行 | Comments(0)

2%の物価目標の経路(佐藤審議委員の講演より)

 日銀は2%の「物価安定の目標」実現のための波及経路(チャネル)として、全体的な金利低下圧力と資産価格のリスク・プレミアムを押し下げる効果、ポートフォリオ・リバランス効果、家計・企業や市場のインフレ期待へ働きかけてそれを抜本的に転換する効果、を説明しているが、それについて7月22日の佐藤審議委員は講演で次のような解説を行っている。

 「日本銀行が買入れを進めることによりプレミアムを圧縮し、経済・物価の先行きの見通しと整合的な水準よりも中長期の金利水準を抑えていくことである。これまでのところ、日本銀行による巨額の国債買入れはさまざまな金利上昇要因を抑制してきているし、先行きも買入れが進むにつれてプレミアムの圧縮効果は累積的に強まるとみている」

 これは最初の全体的な金利低下圧力と資産価格のリスク・プレミアムを押し下げる効果についての説明である。日銀は最近、実質金利を持ち出してきての説明もあったが、それよりもこの佐藤委員の説明の方がわかりやすい。FRBの出口政策が意識されて米国やドイツ、英国の長期金利が大きく上昇しても、日本の長期金利の上昇は抑制されていた。これには日銀の国債買入による影響も大きかったことは確かである。ただし、あくまでイールドカーブ全体を押し下げるとかではなく、上昇を抑制する程度の働きであった。

 「日本銀行による資産買入れが直接的に民間金融機関のバランスシートにもたらす変化をみると、バランスシートの規模は変わらないが、国債等が減少し、その分日銀当座預金が増加するという形で資産サイドの構成が変化する。民間金融機関の資金運用の観点からは、運用資産が減少し日銀当座預金が増加することで、ポートフォリオ全体の収益性が低下するため、収益性維持のために期待リターンのより高い資産にポートフォリオをシフトさせる、すなわちリスク性資産への投資や貸出等を積極化することが期待される」

 二番目のポートフォリオ・リバランス効果についての説明である。もしこの動きが出てくるのであれば、最も国債のポジションを落としている都銀の動向が注目される。いまのところリスク資産に資金を大きく移すような動きには出ていない。この場合、リスク資産への移行、つまりそれは株高や、外債投資へのシフトによる円安を期待すべきものではなく、貸出等への資金シフトを意識すべきものであり、これには当然ながら政府の成長戦略が重要となるはずである。

 「現実の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、このところの円安による燃料高や電力料金引き上げといったコストプッシュ要因に加え、薄型テレビやパソコン等のIT関連財の価格下落がある程度まで進展したことから、足許ではゼロ%となった。このようななかで、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はこの夏場にかけて足許のゼロ近傍からプラスに転じていくことを見込んでいる。現実の物価がある程度持続的にプラスとなれば、家計・企業や市場の期待インフレ率もそれに応じて上方に緩やかにシフトする可能性があろう。」

 これは三番目のインフレ期待へ働きかけに関してであるが、この意見にも違和感はない。足下のCPIの上昇は、日銀の異次元緩和が直接影響しているわけではない。物価がマイナスからプラスに転換すれば、将来の見通しも上方に緩やかにシフトすることは十分考えられる。

 「各種アンケート調査結果でみた期待インフレ率も、一部は消費税率引き上げの蓋然性の高まりによるものと識別することが困難ではあるものの、既に上昇を示唆するものがみられる。こうした期待インフレ率の変化が現実の物価にフィードバックし、またそれが期待インフレを高めるというフィードバックループが生じることで、中期的なアンカーであるインフレ期待が上向くというメカニズムを日本銀行は期待している。」

 その期待の生成に、日銀が国債を大量に買い入れて、日銀のバランスシートを拡大させることが、どのような影響を与えるのであろうか。異次元緩和はなくても、今年中にCPIがプラスに転じることは予想されていたことであり、異次元緩和が作用したとは思えない。26日に発表された6月の全国コアCPIはプラス0.4%となったが、これは円安による影響はあるものの、異次元緩和以前から予想されていた。もし期待に作用するようなことがあれば、極端な政策をとったとする以上はもう少し明らかな兆候が出ていてもおかしくはない。佐藤委員は、「そもそも2%ピンポイントで物価を安定させることは不可能」との見解も示している。異次元緩和の意味を問う上でも、今後はこのあたりについての日銀内での議論も必要ではないかと思う。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-26 13:11 | 日銀 | Comments(0)

異次元緩和による国債市場への影響(佐藤日銀審議委員の講演より)

 7月22日の日銀の佐藤審議委員による福島での講演内容がなかなか興味深い。4月の異次元緩和による、日本の長期金利がボラティリティを伴って上昇したことについては「政策期待から買われて実際の政策発動とともに材料出尽くしで売られた」とし、「巨額の国債買い入れが国債市場のリスク・プレミアムに働きかけ、名目金利を抑制する一方、政策効果が発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利には上昇圧力が加わる」との二面性に着目したボラティリティ上昇が影響したと分析している。また「日本銀行が短期金利安定へのコミットメントを放棄したのではないかとの誤解が一部にみられた」とも指摘している。

 4月5日の国債市場の動きについては、債券先物や長期金利とされる10年国債の利回りの変動幅などが注目されたが、最も注意すべきは岩盤のように動かなかった中期債の利回りが大きく上昇したことにあった。この背景には日銀が銀短期金利安定へのコミットメントを放棄したためとの見方は確かにあった。ただし、どうやらそれだけではなかったように思われる。

 この際の中期債を主体とした売りは都銀によるものとみられ、その都銀は4月だけでなく、5月と6月も国債を大きく売り越している。この背景には佐藤委員も指摘した、物価目標とそのための巨額の国債買入による長期金利への働きかけが、両方向に働きかねず、それがボラティリティを上昇させたこともあると思うが、それだけであろうか。

 佐藤委員は次のような指摘もしている。

 「日本銀行の買入れの効果が発揮されたこともあり、昨年末以降の株価上昇や為替レートの変動に比べて、長期金利は相応に抑制された状態にある。また、5月末以降、大幅な変動に見舞われた米国債市場との対比でも、日本の国債市場の安定はここもと際立っている。」

 足下の日本の長期金利は0.8%を割り込んで来ている。たしかに株や為替の動きに比較すれば、長期金利の上昇は抑制されており、米国の長期金利が大きく上昇しても、それに日本の長期金利が付いていくような結果とはならず、これは日銀による国債の巨額買入が功を奏しているとの見方も確かにできる。

 そもそも国債市場のボラティリティの上昇の原因は、池の中に飛び込んだクジラの存在が大きい。つまり、年間発行額の7割も超長期債を含めて日銀が購入することによる国債市場の流動性の低下が懸念されたのである。ただし、公社債投資家別売買状況を確認する限り、全体の売買高そのものが大きく減少していたわけではない。ところが、そんななかにあり、極端に売買高を減少させてきている業態があった。都銀である。都銀は残高そのものを減らすばかりでなく、売買高も大きく減少させている。

 都銀というかメガバンクは国債市場の流動性を供給してきた業態であり、元祖池の中のクジラと呼ばれたような存在でもあった。そこが動かなくなると、日々の流動性が落ち込む事は避けられない。国債市場は入札によって発行された国債の一部を投資家に販売し、その多くを日銀に売却するだけのような市場になりつつある。ここにきての債券市場の動きが乏しくなってきているのも、国債の流通市場の低迷が影響している。この点を本来注意すべきと思うのだが、これについての佐藤委員からの指摘がなかったことが、やや気掛かりでもある。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-25 08:57 | 債券市場 | Comments(0)

6月はメガバンクの国債売買高が急減

e0013821_10413874.jpg
 日本証券業協会は7月22日に6月の公社債投資家別売買高を発表した。6月の債券相場は4月、5月の債券相場とは打って変わり、比較的落ち着いた動きとなり、長期金利は一時0.795%と一時0.8%を割り込む場面はあったが、ほぼ0.8%台での推移が続いていた。

 4月と5月に1兆円を超える売り越しとなっていた都市銀行は6月も1兆144億円と1兆円以上の売り越しとなっていた。国債の投資家別売買高でみると中期債を9090億円売り越していた。

 売り越しが3か月連続で1兆円を超えていただけではなく、都銀の売買高そのものが6月は急減していた。6月は利付き国債の償還月であったにも関わらずである。国債の投資家別売買高(一覧)からデータの残る2004年4月以降の都銀の国債売買高を集計してみたところ、2013年6月は3兆5165億円と2004年4月以降では最低となっていた。その間の最高の売買高は2012年4月の70兆1079億円であったことで、そのピークに比べると約20分の1に落ち込む計算となる。

 都銀というかメガバンクは日本の債券市場でもメインプレーヤーのひとつであり、メガが動くと債券相場が変化するなどの影響力を保持していた。その債券のメインプレーヤーはこれを見る限り、いったん一線から退いた格好となっている。メガが動かないとなれば、6月の債券の変動幅が限られていたのも頷ける。ちなみに全体の国債売買高で見る限り、6月は5月より減少していたが、都銀ほどの落ち込みとはなってはいなかった。それでも債券の流動性に大きく寄与していたとみられる都銀の売買高の減少は、債券の流通市場にも少なからぬ影響を与えているものと思われる。

 ほかの投資家の売買状況を確認すると、買い越しの最大手は信託銀行となり、1兆7024億円の買い越し。主に中期債主体の買い越しとなっていた。続いて生保の8122億円の買い越し。こちらは超長期債主体の買い越しに。続いて信用金庫の4724億円の買い越し、農林系金融機関の4226億円の買い越しとなっていた。外国人は1578億円の買い越し。こちらは長期債を9386億円の売り越し、中期債は9593億円の買い越しとなっていた。

 今後の債券相場を占う上では、急激に残高を落とすと共に売買も控えてきている都銀の動きがキーとなりそうである。アベノミクスによる異次元緩和、さらにはFRBの量的緩和縮小の動き等を見越しての都銀の動きと思われるが、果たしてこのままじっとしているのであろうか。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-24 09:16 | 国債 | Comments(0)

これからアベノミクスの真価が問われる

 7月21日の参院選挙では、自民党が大勝し自民・公明両党は76議席を獲得し(自民65、公明11)、非改選を含め参議院の「安定多数」を確保して衆参のねじれが3年ぶりに解消された。

 参院での安定多数とは、与党で参議院にある17の常任委員会すべてで委員長を出したうえで、野党側と同じ数の委員を確保できる129議席を上回ることであり、今回、自民・公明両党は非改選を含めた135議席を確保しそれを上回った。

 昨年の衆院選挙、今年6月の東京都議会選挙の勢いが継続しての、予想通りの自民党の圧勝となった。昨年11月以来のアベノミクスの登場と、それによる円安・株高、さらに足下景気の回復なども追い風になったものと思われる。

 衆院議員の任期満了は2016年末であり、その前に衆院解散がなければ、3年後の参院選(2016年の夏)までは国政選挙はない。安倍政権はその間、よほど支持率を急低下させるようなことがなく、また首相の体調が維持されていれば、安定政権を維持することができる。

 アベノミクスに関しては、うまく風に乗った感があり、急激な円安と、その円安にも影響されての株高が国民の期待を引きつけた格好となった。リフレ政策を全面に打ち出した政策であるために、安倍首相が選んだ日銀の黒田総裁はそのリフレ策を具体化し、異次元緩和を行った。

 アベノミクスの三本の矢のうちの財政政策は公共投資等を増加させたが、従来型の対策であり、その効果も限られよう。しかし、今後は補正予算を編成しての追加対策も実施される可能性がある。これについても従来型の政策の延長となるのではなかろうか。

 今後期待されるのが、選挙前はなかなか身動きが取りづらかったと思われる成長戦略となるが、自民党の政権基盤を考慮すると既得権者を意識して、思い切った規制緩和等は行いづらいのではなかろうか。むしろそれを保護すべきバラマキ型の政策がとられる可能性がある。

 アベノミクスは結局、異次元緩和による期待がその中心にあるわけだが、今後はそのベールが次第に剥がされることが予想される。少なくとも日銀のバランスシートを拡大させることで、物価上昇に働きかける経路が存在していない。現在は世界的なリスクの後退、米国経済の回復期待、それらによりリスクオンの動きに乗っかっている状況で、一見してアベノミクスが効果を発揮しているかにみえる。実際のところはリフレ政策に飛びついた海外投資家による円安・株高の動きが背景にあった。円安による景気・物価への影響はもちろん考慮しなくてはならないが、異次元緩和が直接、物価や景気に働きかけているわけではない。

 しかも中央銀行による大胆な国債買入というリフレ政策をとってしまった以上は、財政ファイナンスではないことを強くアピールする必要もある。それでなくても巨額債務を抱えているため、19日、20日のG20でも表明されたように、日本に対しては世界経済安定化のためにも、財政の健全化が求められている。

 今後の安倍政権にとってはいくつかの課題が挙げられている。そのなかでも注目されるのが消費増税の行方となる。安倍首相は消費税率の引き上げについては「経済指標を見ながら、どう判断していくか決めていく」と語り、引き上げるかどうかを判断する時期については「秋に判断していきたい」と指摘していた。それに対して、G20に出席していた麻生財務相は消費増税については、上げる方向で予定どおりやりたいと述べていた。ただし、浜田宏一内閣官房参与からは「極めて慎重に判断すべきだ」との発言もあった。

 いまのところ、足下景気の回復基調もあり、2014年4月の8%への引き上げは実施されるであろうとみられている。財政再建をアピールする上でも、消費増税の先送りは避けるべきである。ここで財政健全化への姿勢が揺らぐと、日銀による大量国債購入がいずれ財政ファイナンスと意識される懸念も存在する。

 とにかく最も問題なのは異次元緩和の経路であり、金融緩和はあくまで時間稼ぎの手段であることを認識すべきである。それに頼り切ることになってしまうと、期待が膨らむことを意識した政策であっただけに、その期待があっさり消えて不安に繋がりかねない。そのために必要なのは成長戦略であると思うのだが、とにかくこれからアベノミクスの真価が問われることは間違いない。


*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-23 08:25 | アベノミクス | Comments(0)

異次元緩和からの出口と長期金利

 欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)は、金融政策の軸足を国債の買い入れによる保有資産の拡大から、フォワード・ガイダンス(時間軸政策)に移す。イングランド銀行は7月31日、8月1日のMPCにおいて、フォワード・ガイダンスについて何で縛りをかけてくるのかを検討してくるとみられ、8月1日のECB理事会どの同様の検討が行われるものとみられる。

 FRBもバーナンキ議長の発言などから量的緩和の縮小を検討してきているのが明らかで、経済指標等を確認しながら、早ければ9月にも買入資産の縮小を開始するものとみられる。こちらも債券買入による量的緩和策から、フォワード・ガイダンスに転じようとしている。

 FRB、ECBそしてBOEの動きは、ユーロ圏の信用不安等による世界的なリスクの後退が顕著となり、非常時の対応策であった量的緩和・信用緩和政策からギアを入れ替え、平時の対応にシフトしつつある。それぞれ目的は異なり、FRBは景気や株価の下支え、ECBはまさらユーロ圏の国債価格の安定化のために、国債を主体とした資産の買入を行ってきたが、その副作用が生じる前にギアをシフトダウンさせようとしている。

 サブプライム問題からリーマン・ショック、さらには欧州の信用不安による世界的な金融経済危機の影響を受けたのは日本も同様であり、日銀も軸足を国債買入を主体とするものに移し、さらにはフレキシブルなインフレ・ターゲットも導入した。このあたりまでであれば、今回の欧米の中銀のようにギア・シフトは比較的楽であったはずであるが、アベノミクスの登場で、ギアを動かすことがかなり難しくなってしまった。

 リフレ政策を取り入れたことにより、フレキシブル・インフレ・ターゲットからフレキシブルの文字は消えた。さらに2年間で2%の物価目標を達成するという期間を定めた目標は、達成することが無理との見方が多い。それでもその目標に向かって猪突猛進してくるのであれば、もしかすると可能かもしれない。いやすでに物価は上昇しつつあり、可能性がないわけではない、との見方もある。つまり日銀のこの目標については、時間軸がはっきりしないことになる。むしろ物価が2%となり、金利もそれに応じて上昇するとなれば先行きのガイダンスは金利の上昇を促すことも予想される。このあたりも異次元緩和後の長期金利が暴れたひとつの要因であった。

 欧米の中央銀行はリスク後退から、次元の異なる金融政策から次元に応じた金融政策にシフトするなか、政府の意向も加わった日銀はすでにブレーキは使用できない状態にある。物価目標の達成が困難との見方が強まれば、さらに速度を速めることも予想される。

 肝心の日銀の金融政策が物価に働きかける経路については、かなり不透明となっている。フィリップスカーブの上方シフトを期待というか気合で促すとの手段以外に明確な説明はない。すべて期待で何とかなるのであれば、金融政策も経済政策も必要なくなるのだが。3つの経路の説明もあったが、長期金利は下がってないし、ポートフォリオのリバランス効果が働いている兆しも見えない。

 いずれにしても日銀は欧米の中銀が重い鎧を脱ぎ捨てようとしてるときに、さらに重装備となり、いずれ身動きが取れなくなることも想定される。物価が上がれば、それですべてうまくゆく、日銀が国債を買えば誰にも負担をかけることなく万事事が運ぶなどということが起きるとは考えられない。期待という目に見えず、さらに移ろいやすいものに頼ってしまうと、その期待が低下したときにさらに期待を高めるには、もっと思い切った行動を取らねばならず、それは中銀のリスクを拡大させかねない。

 ブレーキのない金融緩和では出口を模索しようがない。2%の物価目標が見通せなくなると、追加緩和といっても2度目の大胆な緩和策などない。それこそ日銀が国債引き受けを宣言するような事態にもなりかねない。期待で本当に物価が2%に上昇したとすれば、そのときの名目上の長期金利の居所もかなり気掛かりとなる。大量の債務を抱えての長期金利の2%越えすら日本では経験していない。長期金利の変動幅が大きくなり、制御するのが困難になる可能性もある。そのようなときに出口政策を取ろうとすると、長期金利の上昇に拍車がかかる懸念も生じる。現在の日銀はいずれにしても、大量の国債買入という非常手段を講じたまま、物価の上昇、つまりは長期金利の跳ね上がりを待っている状態にある。これはかなりリスクの高い政策であろうことは間違いない。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-22 10:31 | 日銀 | Comments(0)

取り残された日銀

 ECBのドラギ総裁は7月4日、定例理事会後の記者会見で、「理事会はECBの主要金利が長期間にわたり、現行水準もしくはそれを下回る水準になると予想する」と発言した。これまでECBは、金利に関して予断を持たず、形式上は事前に将来の金融政策についてコミットしないという方針を貫いてきたが、その方針を変更してきた。

 7月4日のイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)では、全員一致で政策の現状維持を決めた。7月31日・8月1日に開催される次回会合では、インフレ・レポートと同時に、何らかのフォワード・ガイダンスを導入するとしている。これは量的緩和政策からシフトダウンし、非伝統的な金融政策から伝統的な金融政策への移行を意識させる。ECBについても、8月1日の政策理事会で同様の議論がなされ、具体的に何で縛りをかけるかが検討されると思われる。

 FRBも量的緩和政策の縮小を検討している。6月18・19日分のFOMC議事要旨によると、年内に量的緩和政策を今年の後半に縮小するのが適切との見方をしているFOMCの参加者(投票権を持たない地区連銀総裁含む)が半分近く存在している。縮小緩和時期については、予断を与えないようにしているが、早ければ9月あたりから開始かとの見方が強まりつつある。こちらも軸足を中央銀行のバランスシートの拡大から、インフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において、米失業率が6.5%程度で安定するまで事実上のゼロ金利を継続するというフォワード・ガイダンスに移してくることが予想される。

 これに対して日銀は、イングランド銀行のカーニー総裁が言うところのフレキシブル・インフレ・ターゲットのフレキシブルという表現を除いたインフレ・ターゲットを採用している。そもそも柔軟性を必要としていた白川前総裁の金融政策が手ぬるいとして、安倍自民党総裁は日銀法改正までちらつかせて、インフレ・ターゲットを日銀に採用させ、それを黒田総裁が異次元緩和でリフレ政策を整えた。この過程を踏まえると、フレキシブルな政策が許されるような状況にはないはずである。

 6月10日、11日に開催された日銀の金融政策決定会合議事要旨によると、「複数の委員は、短期金利の見通しについて市場の見方がばらついている可能性を指摘した」

 短期金利の見通しというよりも、物価の上昇予測の見通しがはっきりせず、日銀の2%の物価目標の達成の可能性について、否定的な見方が多いものの、仮にそれが達成されたと仮定して、その際の金利の動向が読めないということではなかろうか。

 「この点について、複数の委員は、こうしたばらつきを抑え、金利の安定化を図るためには、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続する、というコミットメントをしていることを繰り返し情報発信することで、短期金利をしっかりと低位にアンカーすることが重要であるとの見方を示した。」

 短期金利は日銀の金融政策でアンカーできるかもしれないが、長期金利は規制金利ではなく、統制経済下にあるわけでもなく、世界の金融市場と隔離された鎖国状態にないため、日銀が力づくで抑えることはかなり難しい。それを4月5日に日銀も思い知らされたはずである。

 ここにきて長期金利は0.8%台で落ち着いた動きとなっているが、この落ち着きがこのまま続く事は考えづらい。欧米の中銀は正常化に向けて歩を進めているが、日銀は孤高の異次元緩和を行うことになりかねない。しかも物価目標達成への経路は見当たらず、日銀は実質金利の低下を促すとの表現に変えざるを得なくなっている。

 柔軟性を欠いたまま、周りは正常化の流れにあって、日銀は一人残り、異常時の対応をして、2年間でコアCPI2%を力づくで達成しようとしている。外部環境の変化に応じた政策を取らず、頑なに物価上昇を目指し、大量の国債を購入し続ける中央銀行の行く手に何が待っているのか。たしかにこれは外部から見れば、壮大な実験であり、その行く末に関心を抱かれるのは当然なのかもしれない。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2013-07-21 13:13 | 日銀 | Comments(0)
line

「債券ディーリングルーム」ブログ版


by nihonkokusai
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー