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日銀の異次元緩和に対する欧米中銀の反応

 アベノミクスに対しての海外からの反応は、概ね好意的なものが多いようである。あくまで表面上のものなので、そのあたり気を付けなければならないが、非難するような発言はあまり見られない。アベノミクスの中核となっている日銀の異次元緩和についても、たとえばFRBのバーナンキ議長は5月22日の議会証言で次のように発言している。

 「日本の政策を支持しており、2つのことに注目したい。1つは、現行の計画では、対国内総生産(GDP)比で日銀のバランスシートの規模が、FRBの3倍になるということだ。2つ目として、日本の行動が金融市場のみならず実体経済の一定部分にこれまでのところかなり劇的な効果を及ぼしているようにみえるということだ。このことから、こうした政策が経済に効果を与えていることがやや一段と裏付けられたと理解している。」(ロイター)

 次期イングランド銀行総裁となるカナダ銀行のカーニー総裁は、5月21日のカナダ中銀総裁としての最後の講演で、「中途半端な対応策の危険性という面では、欧州は日本から教訓を引き出すことができる」と述べ、自身が「大胆な政策上の実験」と呼ぶ日本の大規模金融緩和が成功するかどうかは今後数年の世界経済見通しに影響するだろうと述べたそうである(ロイター)。

 ECBのドラギ総裁は、4月5日の会見では日銀が新たに打ち出した金融緩和策について論評を避けていた。これに対して、ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁は5月23日に、「日本の実験に幸運を祈りたい。金融政策が非常に大変な窮地に追い込まれる危険があるとわれわれは考えている」と発言。「日銀は発行される国債の70%を購入している。私は事実を話しているだけで、コメントしているわけではない」と語った(ブルームバーグ)。

 IMFのラガルド専務理事は、4月18日に「日本でこのほど発表された野心的な金融緩和の枠組みは、われわれの視点から見て前向きな一歩だった」と述べた。

 日本ではむしろ少数派に属すると思われるリフレ派の政策に対し、これほど好意的に受け止めているというのは驚きである。ただし、カーニー総裁が「大胆な政策上の実験」と指摘したように、高見の見物を決め込んでいるように見えなくもない。いわゆるリフレ派代表であったはずのバーナンキ議長も、昔の学者時代に戻ったかのようなコメントながら、肝心のFRB自身の政策については、持論であったはずのインフレ・ターゲットの導入とはいまだ正式に認めていない。ドラギ総裁は明確なコメントを出していないあたり、かなり慎重に見ていると思われる。ドイツ連銀のバイトマン総裁は、タカ派的なドイツ連銀総裁らしい発言と言える。

 日米欧の中央銀行が果たして、本音では日銀の異次元緩和をどのように見ているのか。その本心を知りたいところではあるが、一度誰かが試すのを見たかった壮大な実験であったことは確かなのではなかろうか。失敗すれば世界経済にも影響を与えかねないが、一番被害が及ぶのは日本である。もしも成功すれば、金融政策の在り方そのものに変化が生じる可能性もある。日米欧の中銀はその成否とともに、異次元緩和後の日本の金融市場で起きていることをつぶさに観察し、今後のために観察日記をこまめにつけていると思われる。

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by nihonkokusai | 2013-05-31 09:45 | 日銀 | Comments(0)

高橋是清がデフレ脱却に成功した要因

 アベノミクスの今後を予測する上でも、その手本ともされた昭和初期の高橋財政を確認する必要がある。今回は高橋財政が何をきっかけにして、デフレから脱することができたのか。そのキーワードに「金解禁」がある。

 1914年に第一次世界大戦が勃発すると、ドイツ、フランスをはじめとするヨーロッパ大陸諸国は相次いで金兌換停止ならびに金輸出禁止を実施した。各国政府とも戦争によって増大した対外支払のために金貨の政府への集中が必要となり、金の輸出を禁止し通貨の金兌換を停止せざるをえなくなった。その結果、金本位制を中断し一時的に管理通貨制度に移行した。米国も1917年9月に金輸出を禁止し、日本も同年9月に金輸出を事実上禁止したことで、事実上、金本位制を停止した。

第一次世界大戦終結後、1919年に米国が金輸出を解禁。さらに1922年のイタリアのジェノアでの国際経済会議において、経済の再建には通貨価値の安定が不可欠であるとし、金を唯一の各国通貨の共通本位と位置づけ、各国の金平価を設定すること等を定めた。これを受けて1924年以降、欧米各国はほとんどが金本位制に復帰した。

 ところが、1928年にフランスが金解禁を行うと主要国でこれを行っていないのは日本だけとなった。日本国内でも1920年頃から金輸出解禁の是非が議論されるようになったものの、第一次大戦後の不況や1923年には関東大震災とその後の1927年の金融恐慌などがあり、金本位制への復帰が遅れた。

 金解禁を行って為替相場を安定させることを望む声が上がり、1929年7月に金輸出解禁の方針を掲げた民政党の浜口雄幸内閣が成立し、蔵相に元日本銀行総裁の井上準之助を起用した。緊縮財政への転換と国民への倹約の呼びかけを行い、1930年1月に旧平価により金輸出を解禁したのである。

 旧平価ということは、明治30年に制定された貨幣法による100円は49ドル82セントとするものだが、金解禁前の日本経済は関東大震災などの影響が残り、円の価値は下落していた。その円相場を意識して金解禁をする新平価の解禁を求める声もあった。ところが、第1次世界大戦を通じて日本は米英に次ぐ第3の強国となっていたこともあり、国際信用を落としたくないとの配慮や、新平価を採用するとなれば、貨幣法を改正する必要があった。また、当時の議会でそれを通すことが難しい状況にあり、旧平価のままで金解禁に踏み切ることになったとされている。

 旧平価に対し円がとくに弱かった時期に金本位制への復帰が発表されたため、物価と輸出が急速に低下し、大量の金が輸出解禁とともに海外に流出し、アメリカから始まった世界恐慌の影響も受けて国際収支は悪化し、日本の景気は急速に悪化し、これによりデフレに陥ったのである。

1931年9月にイギリスが金本位制を離脱し、同年12月には立憲政友会の犬養毅内閣が成立した。蔵相には高橋是清が就任し、直ちに「金輸出が再禁止」された。

 12月13日の金輸出禁止のニュースを受け、これを好感した14日の東京株式取引所は買い物殺到で整理がつかず、15日から17日は休場せざるを得なかった。この株式市場の動向を見る限り、2012年11月のアベノミクス登場時よりも影響力が大きかったように思われる。高橋是清への期待感も大きかったが、金輸出禁止によりムードが一変した。つまり金解禁という楔を取り除くことで、デフレ脱却に向けた円安政策、金融緩和策、財政政策を取る余地が拡がり、景気に直接影響を与える政策が打ち出せたと言える。また、もうひとつ、震災手形に代表される当時の不良債権が井上準之助の政策により整理され、高橋是清による景気刺激策(高橋財政)が経済回復に直接効果を発揮しやすい状況にあった点なども忘れてはならない。

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by nihonkokusai | 2013-05-30 09:29 | アベノミクス | Comments(0)

円と株と債券の連動性、ヘッジファンドが市場を動かす?

 ここにきて外為市場と日本の株式市場と債券市場はどうやら三すくみの状態にあるようである。外為市場では日本国債の動向に注視し、株式市場はこの外為市場を見ながら動いている。債券市場は株式市場を見ながらの動きとなっている。

 これはお互いが材料視されているというよりも、5月に入り特にドル円が100円を付けたあたりから、海外ヘッジファンドなどによる円と株先と債先に仕掛け的な動きが入っていたためとみられる。債券市場を中心にその間の状況を追ってみたい。

 5月10日にドル円が100円台に乗せたことをきっかけに、10日の債券先物は144円45銭の寄り付き後サーキット・ブレーカーが発動し、143円43銭まで下落した。この日の現物債で大きく利回りが上昇したが10年債であり、2月25日以来の0.7%台乗せとなった。完全に地合が変化しており、かなりまとまった売りが10年債主体に持ち込まれた可能性がある。

 5月13日に債券先物はさらに下落し、4月5日の直近安値で下値の節目とも言えた143円10銭を割り込んだ。4月5日のレンジ内に収まっていた債券先物が、そこから脱してきたことで、これで相場の地合が完全に変化した。日銀は国債買い入れをオファーしたが、予想通りのオペが入ったことで、むしろあらためて売りも入りやすくなり、実際に後場に入ると再び下げ足を速め、債券先物は142円70銭まで下落し、サーキット・ブレーカーが発動した。10年債は0.800%まで利回りが上昇した。

 14日の債券先物は買い戻しが先行した。30年国債入札そのものは無難な結果となったものの、その結果を確認しての売りが入った。10年債利回りは0.850%、そして5年債利回りは0.400%に上昇した。0.400%は5年債としては2011年7月以来の水準となる。債券先物は一時前日比1円安となったが、当該値段以外で5分間取引が成立しない場合という基準に満たなかったことでサーキット・ブレーカーは発動しなかった。

 15日の債券先物は前日比93銭安の141円18銭と大きく下落して寄り付いた。14日の米10年債利回りは1.97%に上昇していた。5年債利回りは0.455%、10年債利回りは0.920%に上昇し、2012年4月以来の0.9%台乗せとなった。日経平均は2008年1月4日以来15000円台を回復した。

 16日と17日には債券先物に押し目買いも入り値を戻している。17日に10年債利回りは0.8%割れとなった。

 再び動きが出たのが20日である。朝から外為市場は大荒れとなった。17日の欧米市場でドル円は103円台をつけていたが、朝方の参加者が薄い時間帯に、一時102円を割り込んだ。その後、102円台後半に戻すなど荒っぽい展開に。東京株式市場は米株の上昇などから買いが先行し、日経平均は15300円台に上昇。債券は先物主導で売り圧力を強めた。日銀の黒田東彦総裁が20日の月例経済報告等に関する関係閣僚会議で、経済・物価の先行き見通しの改善で「金利が徐々に上昇していくのは当然」などと述べたことが伝わると、さらに下げ足を速めることになり、先物は先日比91銭安の141円78銭まで下落。現物10年債利回り一時0.875%に、また5年債利回りは0.405%と再び0.4%台に乗せた。

 21日の40年国債入札は最高落札利回りが1.955%となり、事前の予想をやや上回ったことから、債券先物は売られ141円59銭まで下落した。ただし、10年債利回りが0.895%と0.9%に接近したことから、押し目買いも入り下げ渋りに。

 22日の日銀の金融政策決定会合では長期金利についての言及等はなく、これが嫌気されたのか債券先物は決定会合の結果発表後、141円60銭まで下落した。10年債利回りも0.900%に上昇した。

 22日にバーナンキFRB議長は、議会証言後の質疑応答で、景気指標の改善が続けば債券購入のペースを減速させる可能性があると指摘。4月30日~5月1日に開催されたFOMC議事要旨でも、複数の議員が早ければ6月にも資産購入を減額したいとの意向を示していた。バーナンキ発言等を受けて22日の米国債券市場で米債は下落し10年債利回りは2.02%と2%台に乗せた。

 23日の債券先物はサーキット・ブレーカー発動し140円70銭まで下落した。現物10年債利回りは0.985%の出合い後、1.000%と昨年4月5日以来の1%台乗せとなった。東京株式市場は外為市場でドル円が103円台をつけるなど、円安ドル高が進み、これが好感されて日経平均は一時16000円に接近した。

 日銀がシグナルオペとなる1年物共通担保資金供給(全店、固定金利方式)と国債入札日にも関わらず国債買い入れをオファー。これをきっかけに債券先物は買い戻し圧力を強め、10年債利回りは1.000%から0.825%に。債券先物は140円70銭から142円74銭に大きく切り返した。

 株式市場では中国の5月製造業PMIの低下などもあり(実際の要因は債券先物の可能性も)、今度は売り圧力が強まり、急速に地合が悪化。一気に利益確定売りなどが膨らみ、一時日経平均先物は震災後の2011年3月15日以来のサーキッド・ブレーカーが発動。日経平均は1000円以上も下落した。

 24日の東京株式市場は買いが先行し、日経平均は一時15000円台を回復。この株の反発も意識されて10年債利回りは一時0.905%に上昇、債券先物は一時141円64銭まで下落した。日銀は午前10時10分に国庫短期証券買入1.5兆円と、残存5年超10年以下と残存10年超の国債買い入れをオファー。国債買い入れは、残存5年超10年の案分利回り格差がプラス0.000%と実勢に比べてかなり強かったことから、後場に入ると債券先物は前日比4銭安の142円50銭まで上昇した。これに対して日経平均は次第に上げ幅を縮小させ、円が再び買われドル円が101円近辺をつけたことで、日経平均は一時14000円を割り込むなど、前日に続き波乱含みの展開となった。

 5月10日のドル円の100円台乗せあたりからの様子を確認してみた。4月4日の異次元緩和を受けての国債の下落は、当初は中期ゾーンから長期ゾーンにかけて、途中から流動性が意識された超長期債が大きく下落していた。つまりそれぞれ銀行などの投資家の売りが要因とみられた。ところが5月の「債券相場の変」は債券先物主体であり、株先や為替の動向との連動性もあり仕掛け的な動きと思われる。債券先物は10日以降、出来高も建玉も大きく膨らんでいた。

 どうやらヘッジファンドなど投機家が、当初は円売りとともに債券先物の売り、株先買いを仕掛けていたとみられる。22日のバーナンキ議長の出口を意識した発言などをきっかけとした23日の日本の長期金利1.000%台乗せ、ドル円の103円近辺への動き、日経平均の16000円接近で、それぞれいったんピークアウトし、これまでのポジションを一気にひっくり返してきたとみられる。そのきっかけは日銀によるシグナルオペを意識した債券先物の買い戻しであった可能性もある。

 円売り・株先買い・債先売りから、今度は円買い・株先売り・債先買いに転じた。この株先売りが効いたため、特に11月以降、下げらしい下げがなかった株式市場が動揺をみせてしまった。この一連の動きから、外為市場や株式市場は日本の国債市場の動向にも、より注意を払うようになってきた。

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by nihonkokusai | 2013-05-29 09:26 | 債券市場 | Comments(2)

日銀の国債買い入れの意味とは

 4月26日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事要旨が27日に公表された。黒田日銀総裁の「量的・質的金融緩和と金融システム」という26日の講演内容も日銀のサイトにアップされたため、こちらを含めて特に国債や長期金利に関する部分を見てみたい。

 「量的・質的金融緩和」導入後の債券市場では、直後にやや振れが大きくなる局面があったが、その要因を日銀の政策委員は次のように分析を行っていた。

 「複数の委員は、当初、市場は、金利の押し下げにつながる大規模な国債の買入れと、金利の押し上げにつながる「物価安定の目標」の早期実現への強い姿勢とが相反するものと受け止めて動揺した可能性があると指摘した。」(4月26日に開催された日銀の金融政策決定会合の議事要旨より)  この説明は一見そうかな、と思えるものの需給要因とファンダメンタルズ要因、テクニカルの要因が混在しており、それは分けて見ておく必要があるのではなかろうか。

 日銀の大規模な国債買い入れは、国債の需給面からは当然ながらプラス要因となるが、注意すべきはこれまでも国債は円滑に消化されてきたということである。日銀が購入額を増やさねばならないほど、国債の買い手がなくなっていたわけではない。日銀の購入額は年間発行額の7割とはいえ、700兆円という発行残高からみればそれほど大きくはない。ただし、債券の流通市場では主に新規に発行される国債を中心に売買される。売買市場で本来流通するはずの国債が日銀に吸い上げられてしまい、こちらも円滑に売買されていた債券市場の機能低下が懸念された。

 ファンダメンタルズの側面から見てみると、金利の押し上げにつながる「物価安定の目標」の早期実現については、エコノミストなどの今後のCPI予想等を見ても明らかなように、それが可能とみている金利関係の市場参加者は少ない。ただし、2年後に2%の消費者物価指数の上昇を本気で日銀が考えているのであれば、今後もかなり無理な金融政策を打ってくる懸念がある。その手段がさらなる国債の買い入れであったり、リスク資産であったりすれば、それは財政ファイナンスとの見方が強まり、また日銀への信認そのものへの揺らぎも予想される。むしろ、こちらの不安が大きかったのではないかとも思われる。

 4月5日に10年債利回りが過去最低の0.315%まで低下したことによる利益確定売り、しかも期初でありある程度の益固めの売りを、将来への不安もあって行ってきた投資家がいたとみられる。メガバンクなどの売りも入ったとみられ、その規模も大きく5日に相場が乱高下し、ボラティリティの増加がさらなる売りを誘うようなテクニカルな要因も加わって悪循環も起きた。それはいったん収まったかに見えたが、5月10日以降再び急落し、長期金利は一時1%に上昇した。この国債の下落については、ドル円の100円突破がひとつのきっかけになった。債券先物の出来高や建玉が5月10日以降、大きく膨らんでおり、市場参加者の不安心理が残るなか、海外のヘッジファンドなどによる仕掛け的な売りが、結果としてチャートも意識した相場急落の要因になったと思われる。

 「何人かの委員は、「量的・質的金融緩和」が効果を十分発揮するためには、政策意図の丁寧な説明や適切な金融市場調節などにより、市場の安定を確保する必要があるとの認識を示した。」

 政策意図の丁寧な説明と言っても、イールドカーブ全体の低下を促しての物価上昇シナリオは、この長期金利の上昇により説明が困難になりつつある。それに対して円安・株高を強調しての物価上昇の説明となれば、あれだけの巨額の国債買い入れの必要性が疑問視される。もしマネタリーベースを増加させれば物価が上がるのであれば、長い期間の国債を無理に買わなくても当座預金残高の増加は可能であったはずである。ちなみに28日に日銀の当座預金残高は初の70兆円台になる見込み。

 黒田総裁は講演で、波及経路について「長期国債やETF、J-REITの買入れによって、「イールドカーブ全体の金利の低下を促し、資産価格のプレミアムに働きかける効果」、「ポートフォリオ・リバランス効果」、「物価安定の目標の早期実現を明確に約束し、これを裏打ちする大規模な資産買入れを継続することで市場や経済主体の期待を抜本的に転換する効果」を指摘した。

 最初の経路はすでに絶たれつつあり、2番目もそのような動きはあまり見えていない。つまりは三番目の期待に期待する政策については、円安・株高というひとつの結果を招き、効果ありとの見方もできるかもしれない。円安・株高を促進させた面は認めるが、そもそもそれを仕掛けやすい地合に転じていたことも忘れてはならない。実質的な効果というよりも、アナウンスメント効果を意識して期待に働きかけるとすれば、国債の巨額買い入れの必要性があったのか。アナウンスメント効果であれば、その効果がそれほど長くは持続するとは思えない。ここにきての株価の乱高下により、異次元緩和からの円安・株高、それによる物価・景気の上向きへのパスにも疑問符が付きはじめている。

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by nihonkokusai | 2013-05-28 09:47 | 日銀 | Comments(0)

23日の市場の動きと今後への不安

 5月23日の東京市場の動きは、記録にも記憶にも残るものであったと思われるので、少しまとめておきたい。

 異変がまずあったのが債券市場。債券先物は寄付から前日比1円安と急落した。FRBが早ければ6月にも「出口」というか「正常化」に向けた動きをはじめる可能性が出てきたことで、22日に米国の長期金利が2%台に乗せたことがひとつの要因。22日の日銀金融政策決定会合後の黒田総裁の会見で、長期金利の上昇についてはそれほど懸念してはいないと認識され、これも嫌気されての債券売りであったと思われる。

 債券先物は141円01銭に買い戻され、その後再び140円90銭まで売られて、8時53分にサーキット・ブレーカー発動し取引が10分間停止した。現物債は10年債主体に売られ、10年328回の利回りは1.000%ちょうどまで上昇した。つまり日本の長期金利が昨年4月5日以来の1%台となったのである。

 FRBの出口が意識された外為市場では円安ドル高が進み103円台に。この円安もあって、23日の東京株式市場は買いが先行し、一時前日比300円を超す上昇となり、日経平均は16000円手前まで上昇した。

 この一連の動きから、海外ヘッジファンドなどは103円台の円安と、それによる日経平均先物買い、同時に債券先物の売りを仕掛けていた可能性がある。22日の日米の中銀トップの発言は債券の売り材料ではあったが、先物のストップ安を誘うほどのものではなかったと思う。先物とともに現物はベンチマークの10年債主導の動きであり、メガバンクなどの動きが主導していたようにも思えず、海外投資家の仕掛け的な動きの可能性が高かったのではなかろうか。

 債券は売り一巡後は買い戻され、日経平均は16000円手前で買いは止まり、上値が重くなった。動きがあったのが10時10分で、日銀はシグナルオペと言える1年物共通担保資金供給(全店、固定金利方式)を午後ではなく午前中にオファー、さらに国債入札日(流動性供給入札)にも関わらず国債買い入れ(残存期間1年以下と1年超5年以下)をオファーした。このシグナルオペに債券先物は反応し、債券先物は買い戻しが加速、反対に日経平均先物は戻り売りに押され、中国の5月製造業PMIの低下などもきっかけに下げ幅を拡大させた。

 午前中のタイミングで、朝方の債先売り・株先買いのポジションをひっくり返してきた可能性がある。株式市場では次第に売りが売りを呼ぶような動きとなり、反対に債券は先物や10年債主導で、一気に上昇し142円台に。ただし、超長期債は14時以降はほとんど出合いなく、まさにディーリング相場となっていた。

 日経平均先物は震災後の2011年3月15日以来のサーキッド・ブレーカーが発動し、結局、前日比1143円安と2000年4月以来の大きな下げ幅となった。

 債券先物は142円74銭まで買い戻されて、大引けは61銭高の142円51銭。現物債は10年債が一時の1.000%から0.825%まで戻った。5年債は0.455%から0.355%と0.1%も当日中に利回りが低下した。以上が23日の債券と株の動きであった。

 この株式相場の下落に対し、甘利明経済再生担当相は閣議後の会見で、「アベノミクスは順調に進展しており、また日銀は市場との対話を総裁自らが実践している」との認識を示した。

 果たしてアベノミクスは順調に進展しているのか。さらに日銀は市場との対話を総裁自らが実践しているのか。このあたり、やや疑問を抱かざるを得ない。

 アベノミクスの大きな柱となる金融政策で行おうとしているのはデフレからの脱却である。デフレからの脱却期待で長期金利が上昇との見方もあるかもしれないが、異次元緩和で物価が上昇している兆候はいまのところ見えていないし、市場参加者も2%の物価上昇には自信が持てないでいる。物価連動国債から算出されるBEIは流動性はほとんどなく、それを参考にするのはやや無理がある。日経新聞によると5月の民間エコノミストの経済予測平均で、2015年1~3月期の消費者物価上昇率は消費税率上げの影響を除いて前年同期比0.6%の上昇となったそうである。6月に消費者物価指数は前年比プラスに転じるのと観測だが、これは異次元緩和の影響というよりも円安による影響が大きい。

 アベノミクスが順調に進展しているように見えているのは、あくまで欧州の信用リスク後退を背景にした円安と米国株の上昇の影響なども受けた株高に負うところが大きく、アベノミクスが順調に進展していると言うよりは、順調に株高が進展してきたとみたほうが良い。

 日銀は市場との対話を総裁自らが実践しているとの見方も疑問を抱かざるを得ない。むしろ総裁と債券市場参加者の間には距離が出来ており、それが長期金利の上昇を招く要因のひとつになっている。日銀はシグナルオペなどを使って、長期金利の急激な上昇に対応しているが、これも小手先の手段でしかなく、総裁と市場との距離が縮まらない限り、そしてアベノミクスとそのための異次元緩和に対する市場参加者の不安が取り除かれない限り、長期金利を押さえ込むことは難しくなると思われる。

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by nihonkokusai | 2013-05-25 09:19 | 債券市場 | Comments(2)

長期金利が1%に上昇した背景

 5月23日の債券先物は1円安の140円90銭で寄り付きとなった。1円安ではあったものの、寄り付き時点ではサーキット・ブレーカーは発動せず(当該値段以外で5分間取引が成立しない場合ではなかったためか)、その後141円01銭に買い戻された。その後再び140円90銭まで売られ、8時53分にサーキット・ブレーカー発動し取引が10分間停止した。解除後に140円70銭まで下落、その後買い戻しが入り141円台を回復。さらに東京株式市場の急落もあり、債券先物は142円74銭まで急上昇し、大引けは142円51銭となった。

 現物債は10年債主体に動きがあり、23日の朝方に10年328回の利回りは1.000%ちょうどまで上昇した。つまり日本の長期金利が昨年4月5日以来の1%台となったのである。その後、株価の急落による債券先物の買い戻しにも影響され、10年債利回りは0.825%まで低下した。

 今回は23日に日本の長期金利がなぜ1%まで上昇したのかについて見てみたい。もちろんヘッジファンドなどによる仕掛け的な動き(債券売り)があったためとも言えるが、ここにはいくつかの要因も重なっていたと思われる。そのひとつはFRBの動向とそれによる米債への影響であった。

 5月22日にバーナンキFRB議長は、上下両院合同経済委員会で証言を行い、「経済の勢いを示す徴候がさらに増えなければ緩和ペースを縮小させることはできない」と述べ、時期尚早の金融引き締めは、景気回復をリスクにさらす恐れがあるとの認識を示した。

 ところが、証言後の質疑応答で、景気指標の改善が続けば債券購入のペースを減速させる可能性があると指摘。この日は4月30日~5月1日に開催されたFOMC議事要旨も発表されたが、複数の議員が、早ければ6月にも資産購入を減額したいとの意向を示していたことが明らかになった。

 FRBが早ければ6月にも「出口」というか「正常化」に向けた動きをはじめる可能性が出てきた。もちろんこのためにはあらためて雇用の改善等を確認する必要がある。ただし、世界的なリスク後退とそれを背景とした動きは、米国株式市場にも現れており、ダウ平均やS&P500種株価指数は過去最高値を更新してきた。22日、23日のダウ平均は続落となったが、それほど大きく下落したわけではなかった。

 バーナンキ発言等を受けて22日の米国債券市場で米債は下落し10年債利回りは2.02%と2%台に乗せた。23日の米10年債利回りも2%台を維持していた。これを見てもあらためて世界的なリスク後退による「超低金利時代の終焉」が意識されてきたものと思われる。これも今回の日本の長期金利が1%をつけたひとつの要因と思われる。

 22日の日銀の金融政策決定会合で金融政策は現状維持となった。現状維持との見方が多かったにもかかわらず、これを受けて債券は下落した。債券市場の動揺に対して何らかの政策を期待するむきも一部にあったようである。

 黒田日銀総裁の会見では、「債券市場、ボラティリティ高く十分注意が必要と警戒を示し、国債買い入れ頻度やペースの調整など弾力的にオペ行う、年間50兆円の買い入れペース変えず、その中で弾力的に対応」との説明があった(ロイター)。特にあらたな対策等が講じられるわけではなさそうである。

 総裁からは「長期金利は短期金利のように中銀が完全にコントロールすることはできないが働きかけはできる」との発言もあった。「量的質的緩和による金利低下圧力の下、長期金利が跳ね上がることは予想していない、長期金利の上昇は物価上昇や景気回復期待の要素ある」とも述べた。どうやら自らの政策が債券相場の流動性に影響を与えた面などは置いといて、あまり危機感は意識していないようにも受け取れた。

 黒田総裁は「長期金利上昇、今の時点で実体経済に大きな影響及ぼすとは見ていない」ともしており、1%程度は許容範囲なのかもしれない。しかし、その速度や価格変動幅はもう少し意識すべきではなかろうか。

 「景気や物価の回復期待、日銀のプレミアム圧縮効果を相殺して長期金利上げることもあり得る、実質金利はたぶん下がっている」との発言もあった。今回の長期金利の上昇は、インフレ予想もいくぶんかあるかもしれないが、市場参加者による日銀への信認への揺らぎなどが影響していた可能性もある。

 債券市場参加者は国債から他の資産に振り向けるというアロケーションなどよりも、日本国債そのものに内在するリスクが異次元緩和で炙り出されてくる懸念とかを意識している可能性もある。日銀がパンドラの箱を開けてしまい、国債市場を安定化させていた基盤が緩み始めたとの見方もできるかもしれない。長期金利は1%をつけたあと急低下した。しかし、一度1%をつけた以上、長期金利はあらたな水準に移行してくる可能性もありうるとみている。

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by nihonkokusai | 2013-05-24 09:56 | 債券市場 | Comments(0)

奇襲に成功したアベノミクスと高橋財政の違い

 アベノミクスがスタートしたのは、衆院解散が正式に表明された2012年11月14日とされる。この日を境に円安の動きが加速され、日経平均が上昇トレンド入りする。安倍首相誕生への期待から円安・株高が急速に進むことになる。

 市場に対する奇襲攻撃が開始されたのは、11月16日の衆院解散の翌11月17日における熊本での安倍自民党総裁の街頭演説であった。安倍総裁は、衆院選後に政権を獲得した場合、金融緩和を強化するための日銀法改正を検討する考えを重ねて表明した上に、建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていくと述べた。さらに同日の山口市での講演では、安倍総裁は、輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう、と発言したのである。

 これ以前に、安倍自民党総裁は政権奪還後、政府と日銀はアコードを結び、インフレターゲットを設定する。目標達成までは無制限な対応を行い、もし政策目標達成できなければ、日銀には説明責任を求める。さらに日銀法改正も視野に入れている旨を示唆していた。政府と日本銀行が政策協調してデフレ脱却をして円高を是正し、経済を成長させていく新しい成長戦略を前に推し進めて行かなければいけません、との発言もあった。

 11月17日の発言の前までは、「インフレターゲットの設定」、「日銀法改正も視野」、などリフレ派の影響がみられる発言をしていたが、あくまで野党党首であり、当時の民主党政権との政策の違いを強調するための発言と私自身は受け取っていた。

 ところが、衆院が解散されたとなれば、次期首相の可能性が極めて高くなることで、そのタイミングで、財政ファイナンスを意識させるような発言が飛びだしたのである。まさにこれは結果からみて見事な奇襲作戦と言えた。

 その作戦を具体化したのは2013年3月20日に日銀総裁に就任した黒田東彦氏であった。日銀での経験のない黒田氏が、早期に安倍政権の意向に沿った金融緩和を決定するのは、難しいのではとの見方がある一方、臨時会合を開いて早期に実施するのではとの一部の期待もあった。実際には4月3日、4日の通常会合を視野に安倍政権の意向に答えるかたちで密かにあらたな金融緩和策が練られていたようである。

 4月4日の金融政策決定会合で決められた異次元緩和と呼ばれる政策は、市場の予想を大きく上回るものとなった。リフレ派の意向をそのまま具体化したようなものとなり、市場に対しては「真珠湾攻撃」の如く、さらなる円安・株高という結果をもたらせた。

 このアベノミクスで起きたようなことが、1931年12月にも起きている。犬養内閣の成立にともなって高橋是清が蔵相に就任、直ちに「金輸出が再禁止」された。12月13日の金輸出禁止のニュースを受け、これを好感した14日の東京株式取引所は買い物殺到で整理がつかず、15日から17日は休場せざるを得なくなった。

 金輸出禁止に加えて、円安政策をとったことから、外為市場では円が急落。金本位制を離脱したことにより、金の保有量に制約されずに積極的な財政政策を行いやすくなった。当時の国債市場は未整備であり、大量の国債発行を円滑に進めるために高橋是清が取った手段が「日銀による国債引受」であった。これは積極的な財政政策にともなう巨額の国債発行を行いやすくさせるための手段との位置づけであった。

 いわゆる高橋財政と呼ばれたこの政策により、円安・株高が進み、景気も一気に上向くことになる。

 ここで注意しなければいけないのは、高橋財政には経済に直接働きかける手段があったという点である。つまり金本位制に縛られ、円安政策も財政政策も取れず、緊縮財政で景気が極めて低迷していたところに、金本位体制という障害を取り外すことで、効果的な政策を取ることが出来た。高橋蔵相への期待もあったことで、期待に働きかけた側面も否定はしないが、期待のみで高橋財政によるデフレ脱却が可能となったわけではない。

 これに対してアベノミクスで行った手段は、財政ファイナンスを意識させるような金融政策により、円安・株高を進めることにあったと思われる。ただし、いまのところはデフレ脱却による円高修正というよりは、円高修正によるデフレ脱却を進めるという格好になっている。

 高橋財政も景気が底打ちしていたタイミングであったことで、景気回復を加速させた面があった。アベノミクスによる円高修正も根底には、欧州のリスク後退による円高修正がすでに入っているなかで、円安の動きを加速させた。米国の株式市場も世界的なリスク後退もあり、過去最高値を更新するなどしたことも東京株式市場の上昇の背景となっている。

 問題となるのは、高橋財政にはその後の景気回復やデフレ脱却に向けてのトランスミッション・メカニズム(波及経路)がはっきりしていたが、アベノミクスはそこが極めて曖昧となっている点である。もちろん日銀の異次元緩和だけで、2年間で2%の物価上昇が確実だというのであれば問題はないのかもしれないが、本当にその理論は正しく、副作用はないのか。過去日銀が、ここまで大胆な政策を講じなかったのは、その効果への疑問とともに副作用にも目配りしていたからではないのか。奇襲には成功したアベノミクスだが、成果が問われるのはこれからであり、高橋財政のような具体的なデフレ脱却への波及経路が示されないと、円安・株高を加速させただけの政策ともなりかねない。

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by nihonkokusai | 2013-05-23 10:10 | 国債 | Comments(0)

異次元緩和による波及経路の見直し

 5月20日の政府による月例経済報告によると基調判断は「景気は、緩やかに持ち直している。」とし、4月の「景気は、一部に弱さが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。」から上方修正された。

 この月例経済報告関係閣僚会議に出席した黒田東彦日銀総裁は、「日本の5年債、10年債の金利は一度低下したが、株高や米金利上昇で上昇している」、「いずれの国の長期金利も上昇しているが、引き続き低位の動きだ」、「経済・物価の先行き見通しの改善で徐々に金利が上昇していくのは当然だが、日銀の巨額の国債買い入れによる強力な金利低下圧力の下で、長期金利が大きく跳ね上がるとは考えていない」と述べたそうである(ロイター)。

 この発言内容を見る限り、4月4日の異次元緩和以降の日本の債券市場の動きは、「経済・物価の先行き見通しの改善」による自然な流れとの認識のようである。また、株高や米金利上昇で日本の国債の利回りが上昇(価格は低下)したとしている。

 4月12日の講演で黒田日銀総裁は次のように述べていた。

 「買入れの平均残存期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しました。これまでのような短めの金利だけでなく、イールドカーブ全体の金利低下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくためです。」

 異次元緩和のトランスミッション・メカニズム(波及経路)には、日銀が大胆な国債買い入れを行って国債のイールドカーブ全体の金利低下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくというのがあったはずだが、これはどこに行ってしまったのであろうか。

 この点については、静岡県立大学教授・内閣官房参与である本田悦郎氏が書かれた本「アベノミクスの真実」では違う説明があった。ここでは日銀の金融政策の働きかけが、いきなり投資家にきている。「緩やかなインフレ期待形成」により、実質金利が低下し、円安・株価上昇・不動産価格の上昇を促すとしている。そこから企業部門に働きかけていくとしている。

 つまりは1980年台後半のバブル発生時と同様に、1985年のプラザ合意後の円高に対しての積極的な金融緩和が、不動産や株のバブルを生んだ。この際に物価はさほど上昇しなかったが、今回と同様に景気回復への期待が強まっていたことは確かである。

 4月12日の講演で黒田日銀総裁は、また次のように発言している。

 「これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸出を増やしていくことが期待されます。これは、教科書的にはポートフォリオ・リバランス効果と言われるものです。長期国債の買入れの平均残存期間を思い切って延長したのは、この効果を意識したものです。」

 これについては4月の債券市場における投資家の動向が参考になりそうである。異次元緩和を受けて、国債を売却していたのは都銀であったが、これはポートフォリオ・リバランスを意識したものとではなく、期初ということも手伝っての利益確定売り、さらにはその後の価格変動が大きくなってのリスク回避を意識しての売りとみられた。

 生保・損保の超長期への買い越しは574億円に止まっていた。発表された生保の運用の見直しによると、そのほとんどは確かに国内債を抑制し、外債を積み増すとしていた。4月に生保は確かに外債を購入していたが、ネットでは日本の投資家は外債を買っていたのではなく、売却していた。

 4月の動きを見る限り、ポートフォリオ・リバランスが起きていたとは考えづらい。国債から株式への資金シフトについては、個人の金融資産の預貯金の一部から、投資信託を経由、もしくは直接に株式投資に振り向けることはあったかもしれないが、国内機関投資家はそう簡単にリバランスを行うことなどできず、ここにきての株高・債券安はむしろそれぞれの理由があって生じたものとみるべきではなかろうか。つまりは自然な流れということであろうか。

 いずれにしても、異次元緩和による物価上昇に働きかけるというトランスミッション・メカニズム(波及経路)は、ますます見えなくなってきている。円安・株高が進行している間は、それで良しとなるのかもしれないが、期待に働きかけるためにしてしまったことが、いずれ違うかたちで波及するリスクもある。異次元緩和は何にどのように働きかけをするのか。あらためて考えておく必要がありそうである。

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by nihonkokusai | 2013-05-22 08:57 | 日銀 | Comments(0)

異次元緩和受けて誰が国債を売買していたのか

 日本証券業協会は5月20日に4月の公社債投資家別売買高を発表した。日銀は4月4日の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和の導入」を決めたことをきっかけに、債券相場は乱高下していた。この際に投資家がどのような動きを見せていたのか、これによりある程度把握できるかと思われる。

 最大の売り手は都市銀行となっていた。中長期債主体に売り越しており、売越額は2兆7971億円。これを国債の投資家別売買高でみると、超長期は1513億円の売り越し、長期は1兆5005億円の売り越し、中期は1兆517億円の売り越しとなっていた。3月の都銀による長期債の買越額が2兆7924億円となっており、期が変わり、異次元緩和による一時的な利回り低下もあり、利益確定売りを入れたものと思われる。

 ほかに売り越していたのは農林系金融機関で、7865億円の売り越しに。こちらは超長期を2981億円売り越し、長期を3175億円売り越し、中期は328億円買い越しとなっていた。

 買越額が大きかったのは、地方銀行(+1兆8852億円)や信託銀行(+1兆6261億円)、その他金融機関(+1兆4601億円)となっていた。地銀は超長期を1346億円、長期を9065億円、中期を4832億円、それぞれ買い越していた。信託は超長期を4189億円、中期を1兆2047億円買い越していたが、長期は2625億円の売り越しに。その他金融機関は中期債を1兆812億円買い越していた。

 生保・損保は2413億円の買い越しに止まっていた。超長期は574億円の買い越し、長期は2629億円の売り越し、中期は2572億円の買い越しに。生保による超長期債の買越額が1000億円を割り込んだのは、2009年5月以来となる。生保による超長期債の売買高は4月以前と比較して落ち込んだわけではないが、4月5日に20年債、30年債の利回りは1%割れとなり、いったんは戻り売りも入れたものと思われる。

 外国人は7157億円の買い越し。超長期を6428億円買い越し、長期は1兆2809億円のこちらは売り越し、中期債は1兆3621億円の買い越しとなっていた。超長期債の最大の買い越しはこの外国人であった。

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by nihonkokusai | 2013-05-21 09:18 | 債券市場 | Comments(0)

わかりやすい金融政策とわかりにくい結果

 黒田日銀総裁は4月12日の講演で、「量的・質的金融緩和」の実施に当たっては、先ほど申し上げたように、市場や企業、家計に対する「わかりやすさ」という点も意識しましたと語った。

 「日本銀行や先進国の中央銀行は、短期金利の低下余地が乏しい中で、非伝統的な政策として、バランスシートを拡大する政策を行っています。こうしたバランスシート政策の効果についての評価は概ね固まってきました。それは、中央銀行が市場から国債やその他の資産を買い上げることで、市場から金利変動などに伴うリスクを吸い上げ、長期金利の低下を促したり、資産価格のプレミアムに働きかける効果だということです。」

 4月4日の異次元緩和以降の国債市場での動き、それによる長期金利の動向を確認すると、日銀は市場から価格変動リスクや流動性リスクを押さえ込むどころか、そのリスクを拡大させている。長期金利の低下は確かに当初は促し、4月5日に0.315%まで低下した。ところが当日に0.620%まで上昇した上、5月15日には昨年4月以来の0.9%台に上昇している。

 ただし、資産価格のプレミアムに働きかける効果との面では、円安による株高があり、確かに働きかけは成功しているかに思える。

 「同じ金額であっても、短期の国債を買うのと、満期の長い国債やETFなどのリスク資産を買うのでは、効果は全く違います。」

 短期の国債を買うのと、違い満期の長い国債を日銀が買うことにより、超長期国債の値動きがおかしくなった。それでなくても流動性の比較的薄いところにも日銀の買いの手がさしのべられた結果、流動性低下というあらたな問題が浮上した。

 「買入れの平均残存期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しました。これまでのような短めの金利だけでなく、イールドカーブ全体の金利低下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくためです。」

 結果としては日銀の買い入れにより、むしろ若干とはいえイールドカーブの上昇を促すことになったが、これで経済・物価にどのような働きかけが成されるというのであろうか。

 「日本銀行が長期国債を大量に買入れる結果として、これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸出を増やしていくことが期待されます。これは、教科書的にはポートフォリオ・リバランス効果と言われるものです。長期国債の買入れの平均残存期間を思い切って延長したのは、この効果を意識したものです。」

 これについては最近のマスコミでも、国債から株への資金シフトということで報じられているため、見た目はそのような動きとなっているが、そもそも実際にこのようなポートフォリオ・リバランスが日本の機関投資家で大規模に起こりえるのか。ここにきての円安・株高はポートファリオ・リバランスというよりも、円高調整により株がかわれやすくなっていた地合のなか、米国の株式市場の上昇などにも促された結果と思われ、資金シフトが要因だとは思えない。

 「これまでの常識を超える規模の(国債の)買入れですので、「整斉と」とはいかない可能性があります。もともと金利低下を促すための措置ですから、市場に対するある程度の影響は不可避ですが、それでも、できるだけ円滑に進めたいと思います。そのためには、金融機関による積極的な応札など、市場参加者の協力が欠かせません。日本銀行では、市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関し、これまで以上に密接な意見交換を行う場を設けることにしました。先週以降、様々な市場関係者との間で、こうした取り組みを始めています。」

 たしかに当初は市場との対話を進めることがまずは重要だと思っていたが、どうもその対話方法がちぐはぐである。対話というよりも説明、相場がおかしくなれば力づくで対応しているかに思える。そもそも長期金利の低下を促すという経路がおかしくなっているにもかかわらず、円安株高による資産価格の上昇により、日銀の異次元緩和はいかにもうまく行っているように見えるが、現実には長期金利は低下どころか大きく上昇しているという事実をどのように説明するのか。物価が上がるのを見越しての長期金利の上昇であれば問題ない、と言うのであれば、どのような経路で物価上昇を促すのかについて新たな説明も求められる。21日、22日の金融政策決定会合後の総裁会見ではこのあたりの説明を伺いたい


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