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債券先物の過去最高値が145円28銭の理由

 今回は債券先物の高値の謎に迫ってみたい。12月6日に債券先物は2003年6月10日につけた過去最高値の145円09銭を抜いて過去最高値を更新と報じられたが、これはある意味正しく、ある意味正しくはない。

 これについては2003年6月に何があったのかを振り返る必要がある。まずは、拙著「超低金利時代の終わり [Kindle版]」の「1-4 日本の長期金利が世界最低記録を記録した日」から当時の状況を見てみたい。

 2003年5月のりそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607円88銭がバブル崩壊後の当時の安値となり底打ちした。

 米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め上昇基調を強めた。つまり、いまで言うところのリスクオフからリスクオンに転じたこととなる。しかし、そんな株式市場の動きを無視して買われていた市場があった。債券市場である。

 2003年6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続けた。これには日銀による金融緩和も背景にあった。日銀総裁が速水氏から福井氏に代わり、福井総裁は就任早々の3月25日に臨時の金融政策決定会合を開催し、銀行保有株買取枠を拡大した。4月30日の決定会合では日銀の当座預金残高の目標値を引き上げ、5月20日の決定会合でも当座預金残高の目標値を引き上げることを決定したのである。

 そして、2003年6月11日に30年債の利回りが0.960%、20年債の利回りが0.745%、そして10年債の利回りが0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録した。10年債の利回り、つまり今年に入りスイスに更新されるまで、過去の地球の歴史上、日本で2003年6月につけた0.430%が世界最低の長期金利となっていたのである。

 この相場上昇過程において、目立ったのがメガバンクの一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた(つまり、値動きが小さいと価格変動リスクのある国債をさらに大量に買えるというもの)。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、日銀の緩和策なども背景にして、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出したのである(以上、「超低金利時代の終わり [Kindle版]」)。

 これで債券先物が過去最高値をつけた際の状況は何となくご理解いただいたかと思う。しかし、ここで債券先物の高値論争で問題となるのは、債券先物が最高値をつけたタイミングなのである。つまり2003年6月11日に実質的な中心限月の移行が発生していた。

 2003年6月10日の後場に当時の債券先物の中心限月であった6月限は145円09銭まで上昇した。そして翌日の6月11日に10年債利回りは0.430%をつけ、先物6月限もこの日の前場に145円28銭まで上昇した。

 ところがこの6月11日に債券先物の日中出来高で9月限が6月限を上回ったのである。当時まだ私は債券ディーラーであったが、出来高が逆転すると債券先物の中心限月が移行との認識となり、トレードも新しい限月中心に行うようになる。市場参加者にとり11日の実質的な先物中心限月は9月限となっていたのである。つまりこの日つけた145円28銭は中心限月ではないとの認識で幻の高値となってしまったのである。このため、債券先物の中心限月の高値は2003年6月10日の145円09銭と認識された。つまり145円28銭はあくまで、債券先物としては最高値かもしれないが参考記録程度との認識であった。

 ところが、東京証券取引所の資料を見ると、長期国債先物(通称、債券先物)の市場開設来の最高値(主限月)は145.28(2003/6/11)と記載されている。つまり正式な債券先物の最高値は11日につけた145円28銭が記録として残っている。

「TSE Derivatives Market Highlights」
http://www.tse.or.jp/rules/derivhighlights/b7gje60000005p5l-att/b7gje6000002bbhm.pdf

 ここには市場参加者との中心限月移行の捉え方の違いも影響している可能性がある。つまり、市場参加者にとって売買高が逆転すればその日から商いの中心が新たな限月に移る。ところが、先物の中心限月の交代については、正式にはイブニング・前場・後場のオークション取引(つまり立会外取引除く)の出来高が逆転した「翌営業日」から中心限月の定義が変わることになっている。従ってこの定義から言えば、2003年6月11日につけた145円28銭は中心限月としての高値との記録とも言える。

 このような細かいことはさておき、145円28銭を抜いてくれればこのあたりの問題も解決する。それもこの相場からは時間の問題のように思うのだが。



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by nihonkokusai | 2012-12-08 11:08 | 債券市場 | Comments(0)

長期金利のトリック

 このコラムは債券市場関係者以外の方にも読んでいただいているようなので、今回は債券関係者にとっては当たり前のように思っていることでも、市場関係者以外の方には何でだろうということについて説明してみたい。できれば債券市場関係者にも読んでいただき、そこはおかしいだろうという点があれば、むしろ御指摘いただきたい。

 今回は日本の長期金利の「これは何故」を取り上げたい。12月4日の日本の長期金利は「0.695%」をつけた。この日の債券先物は144円87銭で引けている。そして翌12月5日の債券先物は145円01銭まで買われ144円99銭で引けるなど上昇、つまり債券は買われていた。長期金利も5日には「0.710%」に低下していたのである。これを見てどこかおかしいと思わないであろうか。

 債券の価格と利回りは反対に動く。つまり債券が買われ、価格が上昇すると利回りは低下する。4日から5日にかけて債券先物の価格は上昇し、長期金利も低下したはずなのに、その長期金利は4日の引け(日本相互証券ベース)の0.695%から、5日の引け0.710%に「上昇」していたのである。

 もちろんここにはトリックならぬひとつのカラクリが存在している。種明かしをすれば、4日の長期金利のベースとなる国債と、5日の長期国債のベースとなる国債の銘柄が異なっていたのである。

 日本の長期金利と呼ばれるものは、10年国債の利回り(単利)を示す。それもカレント物と呼ばれる直近入札された10年国債の利回りである。昔はそうではなく指標銘柄と呼ばれた発行額の多い銘柄に売買が集中したが、現在はどの銘柄も大量に発行されていることで、指標銘柄と言う言葉はすでに死語となった。ただ店頭ではあちらこちらの業者でそれぞれ売買されていて、そこで付いた利回りは外部からはわからない。このため参考にされるのが日本相互証券での10年国債カレント物の値動きというか、利回りの動きになるのである。

 12月4日に10年国債の入札があった。このため4日までは11月に入札された325回債の利回りが長期金利となっていた。4日に入札された国債は326回債となり、325回と利率も異なるが、償還期間も3か月延びることになった。現在のイールドカーブの形状、つまり短い金利と長い期間の金利を比べると、長い期間の金利が高いという状態(スティーブ)となっている。つまり償還が3か月延びることで、利回りが0.03%程度上昇するのである。

 ここでもうひとつ国債の入札の仕組みについて確認しておきたい。たとえば10年国債などについては、四半期に一度に償還日が集中するような仕組みになっている。つまり3月から5月に入札される10年債の償還は10年後の3月、6月から8月が同6月、9月から11月が同9月、そして12月から2月が同12月となっている。よく銘柄統合とかリオープンと呼ばれる発行方法があるが、これは同一の償還日でなおかつ同じ利率となったものが、同じ銘柄として発行されるものである。

 つまり12月4日の長期金利は2022年9月20日に償還される325回の10年国債の利回りであったのが、12月5日は2022年12月20日に償還される326回の10年国債の利回りであったため、そこに償還期間の関係で0.03%程度の上乗せ金利が発生したのである。

 このため4日から5日にかけて債券相場は上昇していたが、表面上の長期金利は上昇してしまったかのようになっていたのである。ただし、これについては長期金利は低下したとの報道もあった。これは4日の326回の利回りである0.725%からは低下していたため、そのような指摘がされたものと思われる。

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by nihonkokusai | 2012-12-07 09:27 | 債券市場 | Comments(0)

将来の危機が市場価格からは予測できない理由

 日銀のサイトに12月3日のパリ・ユーロプラス・国際金融フォーラムにおける白川日銀総裁の講演の邦訳がアップされた。「市場価格の背景を探る」と興味深いタイトルである。

 国際金融危機が発生する以前、さまざまな市場の中で金融市場は、一般的には経済における理想的な市場にもっとも近い市場とみられていました、と総裁は指摘する。私も1986年からの債券ディーラー時代、確かにそのような感覚があったことは事実であった。

 「こうした基盤の上に、金融機関は複雑なリスク管理システムを構築していました。金融市場において形成される価格は、金融資産の公正価値を反映するものとみなされていました。」「銀行、証券会社、保険会社、ヘッジ・ファンドといった市場参加者には、リスクを管理するきわめて強いインセンティブがあると考えられていました。」

 このあたりについては、個人的には「?」として捉えていた。のちの金融ショックを予言していたというわけでなく、ある意味、過去の動きにとらわれたリスク管理が市場に通用するのかと毎日価格の動きに神経をとがらせていたディーラーとして意識していた。

「こうしたかたちで個々の市場参加者が慎重に行動するのであれば、金融システム全体の安定性を疑う理由はないと考えられていました。」

 これはいまでもそのような認識があるように思われる。しかし、市場は決して盤石ではない。過去大丈夫だから、これからも大丈夫という保証はない。

 「大いなる安定の担い手の視点からみれば、国際金融危機は起きるはずのないものでした。中央銀行が物価の安定を維持し、公的当局が市場機能の発揮を妨げるような障害を取り除く努力を続ける、そして、金融市場の参加者がそれぞれのリスク管理の枠組みを洗練していけば、そもそも信用バブルが世界規模であれほど拡大し、さらにはそれが破裂し、深刻な事態をもたらすということは考えられないことでした。」

 ある程度の期間、安定が続くとそれが永久に続くとの錯覚に陥ることがある。日本における原発事故にせよ、今回のトンネルの天井崩落事故についても、同様の錯覚がひとつの原因ではなかったろうか。

 白川総裁は、世界的な金融危機の背景に、市場価格について、共通する見方があったのではと指摘している。ひとつは、金融市場が時として行き過ぎるということ、もうひとつは、価格から取り出せる情報には限界があるということである。

 「仮に市場参加者が継続的に判断を誤り、安く売って高く買う行動をとり続けると、累積する損失によってそうした市場参加者は市場から退出させられます。その結果、市場は情報を十分に有し、正しい判断を下すことができる市場参加者で構成されることになり、そうした市場であれば継続的に価格が本質的な価値から乖離することは発生しにくくなります。」

 こういう理論が本当にあるのであろうか。これについては私は懐疑的である。私の経験から言えば、常に新たな「安く売って高く買う行動をとり続ける参加者」は供給され続けているように思われる。いやむしろ反対に、高く売って安く買う行動をとる参加者のほうが一部に存在し続けるだけであるような印象であるのだが。

 「それではなぜバブルは発生するのでしょうか。言い換えれば、どのようにして価格は長期にわたり本質的な価値から乖離し続けることができるのでしょうか。この問いに対する答え方のひとつとしては、行き過ぎた楽観論の拡がりを指摘することができます。市場参加者が強気になりすぎると、市場価格が歪められ、行き過ぎが生じるという考え方です。こうした問題は、金融商品の本質的な価値が観察できないことから、完全に合理的に行動する市場参加者の間でも発生し得るものです。」

 果たして市場参加者は合理的に動いているのかも疑問である。常に人より先んじて利益を得ようとするあまり、市場価格のゆがみが存在していたほうが、その機会が多くなるので、ある意味歓迎していた面もある。動かない市場のほうが市場参加者はむしろ敬遠するのではなかろうか(安定したほうが良いという参加者も当然多いことも確かではあろうが)。

 「市場価格は、本質的な価値のもっとも良い推計値であるという意味で公正価値ということができます。しかし、それは、市場価格が本質的な価値と等しいことを保証するものではありません。」

 これはまったくその通りであり、実は市場参加者も市場価格が適正であるのかという絶対的な自信があるわけではない。むしろその価格形成に疑いの目で見ることができなければ、あらたな相場の動きで利益を出すことはできない。つまり「市場参加者が金融商品の本質的な価値を見出すべく競争することが前提となっています。」ということになる。

 「公正価値と本質的な価値との混同は、将来の危機が市場価格から抽出された情報によって予防できるという誤った考え方にもつながりました。広く流布していた金融理論や、そうした金融理論に基づいて形成された金融工学が、そうした見方の明白な誤りを覆い隠すかたちとなりました。」

 過去の動きが将来を予測できないことは少しでも市場に参加するなり、市場の値動きを観測するなりすれば明白である。市場参加者のマインドで形成される公正価値は、もし本質的な価値というものが存在するとして、それとは乖離しているであろうことも当事者は認識しているはずである。

 「過去の価格変動のパターンを観察すれば、そうした変動の確率分布や、さまざまな価格の間の相関関係が推計できると広く考えられたのです。都合のよいことに、価格の変動パターンは、正規分布を前提にすればボラティリティと平均という2つの変数で表すことができます。確率分布と相関関係が分かれば、そうしたデータをコンピュータに入力し、バリュー・アット・リスクのようなリスク指標を計測することができます。さらに、確率分布の推計は、相当程度分散の効いたポートフォリオを構築することができれば、収益が確率分布から示される期待値に沿ったものとなるという安心感ももたらしました。その結果、市場参加者はリスクテイクを安易に捉え過ぎるようになりました。」

 私が債券ディーラー時代に漠然とこの理論はおかしいと考えていながらも、むしろこういった考え方が主流となり、いやこのような理論背景から次々とあらたな金融商品が生み出され、それが外資系金融機関などを主体に収益の柱となっていったことを横目でみていた。何かおかしい。しかし、それを言えば時代に乗り遅れた者との認識を持たれる、そんな思いをしていた当時を思い起こさせる。

 「市場参加者は、モデルに従い、リスク指標に気を付けており、その限りにおいて、取っているリスクの量は小さく、かつ慎重にリスクを管理していると都合よく思い込んだのです。」

 日本の債券市場関係者の間では2003年のVARショックを経験しており、このリスク管理の不備については身をもって実感していたが、これがグローバルに認識されるのは2008年の金融危機以降となったのである。

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by nihonkokusai | 2012-12-06 09:32 | 日銀 | Comments(0)

英国に学ぶべき中央銀行総裁人事の在り方

 11月28日にコラム「カナダ人のカーニー氏がイングランド銀行総裁に」 でも書いたが、次期イングランド銀行総裁人事はたいへん興味深い。新政権には、来年4月の日銀総裁選びに参考にしてもらいたいが、その参考にすべき部分がまだあった。12月2日の毎日新聞の社説「視点・英国中銀の人事 政治の対応に学びたい」でそれが指摘されている。

 「衆院選でかつてなく金融政策が話題になっている日本でも、参考になりそうなことがある。外国人の起用そのものではない。中央銀行やその最高責任者である総裁というポストを国の資産として大事にする英政治家の姿勢である。」(毎日新聞社説より)

 日銀はイングランド銀行などが採用しているインフレターゲットを見習うべきとの意見があるが、その英国の政治家は果たして中央銀行総裁人事をどのように捉えているのか。今回のイングランド銀行の総裁人事で、そのあたりが明らかになった。

 「今回、外国人でしかも現職より17歳若いカーニー氏を起用する異例の人事となったが、議会は与野党を通じ好意的だった。英国では財務相が首相に人事案を示し、首相がそれを女王に諮り、女王の承認を経て任命する形をとっている。ジョージ・オズボーン財務相は議会を発表の場に選び、カーニー氏が「実績、資質両面において世界で最も適任だ」と強調した。」(毎日新聞社説より)

 伝統あるイングランド銀行の総裁に外国人を起用するという、ある意味突拍子もない人事について、その発表の場にいた議員達は与野党ともに好意的であったという。これにはカナダの中央銀行総裁としての実績も意識されていたろうが、しかし外国人である。

 「カナダは先進国で一番早くリーマン・ショックから抜け出した。危機前の健全財政や銀行規制が奏功したという。そのカナダで中央銀行の正副総裁を務め、民間金融機関での経験もあり、国際的な金融規制にあたる組織の長も務めるカーニー氏の力を借りよう、と呼びかけた。」

 「それに対し、労働党の影の財務相、エド・ボールズ氏が「カーニー氏を選んだ大臣をたたえたい」といち早く評価。オズボーン財務相も、「イングランド銀の独立性上重要なことは、党派を超えた支持だ。我々は総裁人事を日々の政治対立に巻き込まないよう努めねばならないが、本日、ボールズ氏はそれを実践してくれた」と感謝した。」(毎日新聞社説より)

 エド・ボールズ氏といえば、1997年5月にイングランド銀行に独立性をもたらした影の立役者というかシナリオライターであったことはご承知の通り。真っ先に評価したのが、その野党側の影の財務相であった。それについてオズボーン財務相は感謝の言葉を述べている。「(中央銀行)総裁人事を日々の政治対立に巻き込まないよう努めねばならない」との言葉は、日本の政治家にもしっかりと聞いてほしいところである。英国の与野党との間では、特に中央銀行の在り方については、独立性という観点で認識を共有していた。

 「こうした対応は今に始まったわけではない。労働党が政権交代を狙っていた90年代半ば、イングランド銀への独立性付与を検討していたボールズ氏らは当時のエディ・ジョージ総裁との定期的な対話を望んだ。総裁が保守党政権のケネス・クラーク財務相に相談すると「労働党が政権を取る日も来るだろうから、対話は大いに結構」と、むしろ後押ししてくれたという。」(毎日新聞社説より)

 このあたり政治家の器量もうかがわせる。中央銀行総裁人事は決して政争の具にしてはいけない。そのような当たり前の認識を英国の政治家には共通認識として持っていたようである。ある意味、世界史の中で中央銀行の基盤を作ったのがイングランド銀行であるが、政治と中央銀行の在り方としては歴史ある国に日本も見習うべき点もあるのではなかろうか。

 「そうした風土に支えられた中央銀行総裁と、常に政治圧力にさらされた総裁のいずれが、国益により貢献できるだろう。」

 「日銀や日銀総裁の人事を巡る議論には世界も注目している。中央銀行という国民の資産は、当事者だけでなく、政治家も価値を高める努力が必要だということを忘れてはいけない。」(毎日新聞論説委員・福本容子)

 今回の衆院選挙では、金融政策もひとつの焦点となっている。日銀法改正まで党の公約として出している党もある。日銀法を改正して、いったい何をしたいのか。さらに闇雲にインフレ政策を取るような総裁を選ぶべきであるのか。このあたりについては選挙を控えた我々にも責任がある以上、しっかりと考えておく必要がある。

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by nihonkokusai | 2012-12-05 09:16 | 中央銀行 | Comments(0)

政府と日銀のアコードとは何か

 11月30日に日銀の白井審議委員は熊本市での記者会見の中で、「いわゆる政策協定(アコード)を結ぼうという話が出ていますが、アコードを結ぶ意味はあるのかどうかと」の答えとして、次のような発言をしている。

 「アコードとおっしゃいましたが、アコードの定義がよく分からないのですが」(白井審議委員)

 これは白井委員が何もわかっていないとかではなく、日銀にとり「アコード」という用語については、具体的に定義がされていないというか、意味を取り違えられて使われる懸念があり、極力使いたくはない用語のように思われる。

 これについては10月30日の金融政策決定会合後の白川総裁の会見においても、この日に発表された政府と日銀の共同文書「デフレ脱却に向けた取組について」の質問の中で、次のようなコメントをしている。

 「アコード」の定義は定かではありませんが、いわゆる「アコード」としてよく知られているのは、中央銀行の独立性に対する意識が高まる中、円滑な戦費調達のためにFRBが行ってきた国債金利上限維持政策の終了を宣言するため、1951年に米国財務省とFRBが公表した共同声明文です。要するに、FRBの独立性を回復した共同声明文がいわゆる「アコード」です(白川総裁)。

 このように日銀にとり、アコード(政策協定)という定義は存在していない。あくまで「アコード」と呼ばれるものは、1951年に米国で財務省とFRBが公表した共同声明文のことであり、10月30日の政府と日銀の共同文書についてはアコードとの表現は使われていない。

 これに対して自民党などの政治家の一部からは、以前より「政府が目標を決めて日銀に指示する、あるいはアコード(協定)を結んで目標を共有する。それをやるために日銀法の改正をやるべきだ」(2010年2月の自民党の西村康稔衆院議員)と主張があった。

 日銀としては、日銀法第四条にある政府との意思疎通手段として、10月30日の共同文書を捉えており、日銀法の改正が前提にあるとされるアコードとは異なるとの認識であると考えられる。

 第四条  日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。

 このあたり当然といえば当然であるが、さすがにアコードに対しては日銀関係者はかなり慎重に言葉を選んでいることもうかがえる。ただし、一般論としては10月30日に発表された政府と日銀の共同文書は、政策協定に近いものともみられ、米国のアコードと目的は裏返しではあるが、アコードと認識されても致し方のないものではなかろうか。

 10月30日の決定会合では、このアコードにも関係する物価の目途に対し、1%を安定的に達成するまで、というのと、1%を目指してそれが見通せるようになるまで、というところで政策委員内で意見が分かれていたことが明らかになっている。

 つまり時間軸の置き方の違いであり、これについては自民党などから物価の「目途」というより「目標」として2%に置くとの公約も出ている。この時間軸の置き方も今後の大きな課題となりうるし、これも政府との関係にも影響してこよう。

 そもそも、これについては白井審議委員が会見で述べたように、「今の日本の状況では、2014年に、私どもが目途としている 1%が見通せるかといえば、見通せていません」という状況にある。

 時間軸の置き方については議論もあろうが、それには少なくとも1%が見えてこなければお話にならない。数字等はさておき、まずは1%の目途が達成するためには、何をすべきなのかを政府と日銀が政策をねることが重要であるとともに、単純に物価だけを上げれば良いはずのものでなく、経済環境が好転しそれで物価の上昇を招くという環境作りが優先される。そのために必要な政策協定は、果たして日銀法を改正してまでして必要なものであるのかは甚だ疑問である。

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by nihonkokusai | 2012-12-04 09:40 | 日銀 | Comments(0)

日銀法改正を主張する政治家の勘違い

 衆院選を迎えるにあたり各党の公約も出てきたが、そのなかには「日銀法改正」を盛り込んでいるものがある。もしこれが欧米であれば、さらなる独立性強化と受け止められようが、事もあろうにこちらは日銀の独立性が強すぎるので、それをあらためさせようとの動きのようである。

 日本維新の会の橋下徹代表代行は11月29日の記者会見で「金融政策をやる時に、なぜ政府と日銀がうまいこと一緒になってできないのかという仕組みの問題だ」とし「(現行の)日銀法は日銀側の独立性があまりにも強すぎる」と指摘したそうである(ロイター)。

 この発言には、たとえばインフレターゲットを導入している英国の中央銀行であるイングランド銀行などが念頭にあると思われる。しかし、歴史を紐解くと一時国有化されていたイングランド銀行にとり、これまでの歴史はいかに政府からの独立性を高められるかが課題になっていたのである。

 世界で二番目に古い中央銀行であるイングランド銀行が設立されたのが、1694年である。第二次大戦後にイングランド銀行は、「1946年イングランド銀行法」によって国有化され政策運営の独立性を失った。政策金利である公定歩合と外国為替政策の決定権隈は事実上大蔵大臣に属し、イングランド銀行はその執行機関としての役割を担っているにすぎなかった。

 1992年6月に英国ポンドがジョージ・ソロスらの投機筋により売り叩かれ、この結果、イギリスは1992年9月16日にEMRから離脱させられることになった。いわゆるブラック・ウェンズデー(暗黒の水曜日)とも呼ばれたポンド危機である。ジョージ・ソロスはこれにより「イングランド銀行を破産させた男」とも呼ばれた。

 ERM離脱により英国ポンドは変動相場制に移行し、ドイツマルクという大きなアンカーを失うことになる。さらに金融政策面ではインフレファイターとも呼ばれたブンデスバンクに追随することで間接的に得ていた物価安定の道標を失うこととなった。これはブンデスバンクからの楔から解き放たれたという見方もできるかもしれない。このため新しいよりどころを探る動きが英国の財務省とイングランド銀行に出てきた。

 当時、イングランド銀行のチーフエコノミストとなっていたのが、マービン・キング氏(現イングランド銀行総裁)であり、キング氏はもともとインフレ・ターゲッティングに意欲的で、ニュージーランドの事例を研究していた。

 ブラック・ウェンズデーから一週間もたたないうちに、導入の基本路線が固まり、時間を置かずに新政策が生まれた。1992年10月29日に当時のラモント財務相がインフレ・ターゲッティング導入に伴う新政策の内容を発表したのである。

 このラモント氏に直接インタビューした記事があった(2012年11月23日の毎日新聞のコラム、発信箱:二つの「インフレ目標」より)。これによると「ただ、目標だけではうまくいかない。当時イギリスでは、蔵相に金利決定権があった。都合よく金利を操りたがるのが政治家。だから目標を決めたら、あとは中央銀行のプロたちに任せよう。インフレ目標と中央銀行の独立性はセットだったのだ。」とある。

 つまり当時まったくと言ってよいほど独立性がなかったイングランド銀行にとり、インフレターゲットを導入することで、少なくとも金融政策そのものはイングランド銀行に任せるという仕組みを取り入れたのである。しかもそれを主導したのが政治家であった。

 そのイングランド銀行に独立性をもたらしたのが1997年5月に誕生したブレア政権である。当時のブラウン財務相は就任わずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、独立性を高めるという大胆な改革に踏み切った。この際に、あらためてインフレ・ターゲッティングの土台も築かれた。インフレーション目標は政府が設定し、イングランド銀行はこれを達成するために必要な政策手段を決定するという役割となったのである。

 つまりイングランド銀行は、このようにして独立性を強化させて、インフレターゲット政策もその手段であったのである。

 この世紀の大改革のシナリオはすでに5年前に書かれていたそうで、その著者は当時25歳の若さでブラウン氏から顧問に起用された「フィナンシャル・タイムズ」の記者、エド・ボールズであった。「万年野党に甘んじていた労働党が政権党として信頼を得るには、経済界、特に金融市場の信用が不可欠だとボールズ氏は考えていた・・・金融政策を政治から切り離し、イングランド銀行に任せることで、労働党は独自の経済政策に専念できると訴えていた。訴えは、そのままブラウン氏の政策方針となった。」(2005年5/3・10週刊エコノミスト「ロンドンで見たイングランド銀行 華麗なる改革史」より)

 このようにもしイングランド銀行を見習って、政府と中央銀行の在り方を探るのであれば、それは中央銀行の独立性強化に他ならない。このあたりの歴史を見ずに、日銀法改正を行うというのはまさに歴史に逆行する行為と言わざるを得ない。

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by nihonkokusai | 2012-12-01 10:38 | 日銀 | Comments(0)
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