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先週の債券相場と今週の予想

先週の動き

 G20財務相・中央銀行総裁会議の内容も特に材料視されず、21日の債券市場は様子見気分を強めて10年債は1.3%近辺での閑散小動きとなった。22日に格付け会社のムーディーズは22日に、日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表したが、債券相場への影響はほとんどなかった。また、この日実施された20年国債の入札は最低落札価格が予想をやや下回り、応札倍率も前回の4.46倍から2.64倍と低下しやや低調な結果となった。しかし、リビアでの政情不安の強まりなどにより中東の地政学的リスクが意識された結果、債券は買戻し圧力を強め、債券先物は買戻しの動きを強め、前日比60銭高の139円57銭まで上昇した。現物債も10年債主体にしっかりで、10年債利回りは前日比1.260%まで低下した。

 22日の米国市場でも中東情勢を睨んで質への逃避の動きにより米10年債利回りは大きく低下し3.47%近辺に。これを受けて23日の債券先物は一時139円79銭まで上昇した。また、株式市場も大きく下落するなどしていたことで、24日に債券先物は139円82銭まで上昇し、10年債利回りは1.220%まで低下した。しかし、次第に上値が重くなり、週末25日には戻り売りが現物債に入ったことで10年債利回りは1.245%に上昇し、債券先物は139円59銭の当日安値で引けた。

今週の予想

 カダフィ政権に対して抵抗運動が高まっているリビアなど中東情勢が引き続き注目される。主要な原油産油国のひとつであるリビアからの原油供給がストップするなどしていることで、原油価格は上昇した。原油高によるインフレ懸念の強まりよりも、原油高を受けての景気への悪影響が意識され、また安全資産としての買いが米国債や日本国債に入ったが、次第に上値も重くなってきている。株価がさらに一段安となるなどすれば、債券相場は戻りを試すことも考えられるが、反対に株価が回復を示すと、債券は戻り売りに押される可能性がある。

 3月1日には10年国債の入札が予定されている。相場の状況次第ながら利率は前回から0.1%引き上げられ1.3%となる可能性もある。しかし、22日の20年国債入札が低調な結果になるなど投資家は総じて慎重姿勢となるとみられ、この入札動向には注意も必要となりそうである。来年度の予算案は28日に採決されるとみられ、こちらの動向にも注意したい。また、バーナンキFRB議長の議会証言も予定されており、4日には米雇用統計が発表される。FRBによるQE2が停止される可能性があるのかどうかも注目されそうである。3日にはECB理事会も予定されており、こちらの動向にも注意したい。

予想レンジ 1.25~1.35%


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by nihonkokusai | 2011-02-28 08:30 | 債券市場 | Comments(0)

商品価格の高騰の原因とその影響

 先日のG20財務相・中央銀行総裁会議では、一次産品など国際商品市況上昇の背景と、マクロ経済・金融面に与える影響を分析するスタディグループを立ち上げることで合意し、そのスタディグループの議長に日銀の中曽宏理事が就くこととなったと伝えられた。今回の国際商品市況上昇は政治情勢も変化させ、また政治情勢の変化がさらに国際商品市況を上昇させるなど、非常に重大な問題となりつつある。

 今回の国際商品市況上昇の原因としては、新興国や資源国の需要の拡大があげられる。これは2007年8月にニューヨーク原油先物価格が147ドルの高値をつけた際と同様の要因によるものである。投機的な資金が流れ込んだことも要因ではあったものの、その背景には中国など新興国による強い需要があった。この際の商品市況の急騰は、リーマン・ショックなどによる世界的な金融経済危機により、いったんは収束に向かう。

 しかし、新興国の需要は衰えることはなく、2009年あたりから再び食料品価格や原油価格が上昇基調となった。それを加速させた要因として、米国を初めとする先進国の金融緩和に伴う投資資金が国際商品市場に流入していることも指摘された。

 さらにここにきて供給ショックによる原油価格の上昇という側面も出てきた。新興国などでは食料品価格の高騰などにより国民の不満が高まり、また雇用の悪化などから政権そのものへの不満が強まった。それが中東における民主化運動を引き起こし、チュニジアのジャスミン革命の動きがエジプト、リビアにも飛び火した。特に原油産出国であるリビアからの原油供給がストップするなど、中東情勢緊迫化により原油価格をさらに上昇させてきている。

 この国際商品市況の上昇が、先進国そして新興国・資源国の経済に対してどういうインパクトを与えるのかを探ることも重要であり、スタディグループの研究発表などにも注目したい。日本にとり新興国・資源国の需要の拡大による輸出増から景気に対してプラスの側面はあるものの、その価格の高騰そのものは景気に対してはマイナスに作用する。これは日本ばかりではなく、欧米諸国でも同様であろう。

 それとともに今回の商品価格の高騰が世界の政治情勢を一変させるほどの影響力を持っていることにも注意する必要がある。

 革命は伝播すると言われる。それは過去の歴史も示している。エジプトやリビアの長期政権がこのような短期間に崩れ去ることを誰が予見できたであろうか。しかも、これはまだ現在進行中であり、この革命の伝播がどこまで拡がるかとの懸念とともに、民主化後の政権の姿そのものもはっきりした形をとっておらず、先進国もその行方を見守るばかりである。

 民主化の流れが、たとえばサウジアラビアや中国に伝播する可能性もないとは言えない。もしそうなれば、原油価格のさらなる急騰を招きかねず、また現在の世界の景気を支えている新興国の景気そのものが落ち込むような危険性もある。リーマン・ショック、ギリシャ・ショック、そして今度はジャスミン・ショックが世界経済を揺るがす可能性がある。


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by nihonkokusai | 2011-02-26 10:23 | 景気物価動向 | Comments(5)

今後の消費者物価を見る上での注意点

 本日発表された1月の生鮮食品を除いた消費者物価(コアCPI)の前年比はマイナス0.2%となった。一時的な要因である高校授業料無償化の影響(マイナス0.5%程度)を除いてみると、前年比プラス0.3%となる。日本の生鮮食品を除いた消費者物価(コアCPI)の前年比は2009年8月にマイナス2.4%と大幅に下落した後、下落幅が着実に縮小してきている。

 日本の消費者物価は2007年10月あたりまで前年比でほぼゼロ近傍で推移していたものの、その後石油価格の上昇などを受けて2008年7月にプラス2.4%に上昇したが、ここがピークとなった。2008年9月のリーマン・ショックによる景気悪化などの影響により、2009年8月まで急激に落ち込んだのである。しかし、その後は世界的な需要刺激策などにより景気が回復してきたことで、日本のコアCPIもゼロ%近くまで戻ってきている。

 先行きについては、景気の回復期待も再び強まっていることに加え、原油などの国際商品市況が上昇基調にあることから、2012年度にかけては徐々にプラス幅を拡大させていく見込みとなっている(2月23日の山口日銀副総裁の講演要旨より)。

 ただし、注意しなければならないのは今年7月(発表は8月)の2005年から2010 年への基準年の変更である。一般に消費者物価指数の前年比は、基準年から先に進むほど実勢よりも強めに算出されやすく、こうした統計上の歪みは、基準改定の際に修正される傾向がある。つまり、来年の基準改定で消費者物価指数の前年比が下方に改定される可能性が高い。(昨年10月20日の西村日銀副総裁の講演より一部引用)。ちなみに前回の基準年の変更に際しては0.5%の下方修正が行われており、同様規模引下げられる可能性がある。

 問題は今年の夏場にかけてどの程度物価が上昇してくるかである。ここにきてはリビアの政情不安により原油価格の上昇ピッチがさらに強まる懸念も出てきている。2008年7月に向けてと同様の動きを示す可能性もないとは言い切れない。ただし、原油価格など国際商品市況の上昇を背景とした物価上昇圧力となれば、景気には足枷となる。

 いずれにしても、現在の水準であれば日本の消費者物価指数が債券相場などに影響を及ぼす可能性は少ない。しかし、基準年が変更される7月に向けてどの程度、コアCPIが上昇してくるのか注意しなければならない。また、その前に4月から高校授業料無償化の影響がなくなることで、現在のCPIの水準のままでも前年比プラスとなることが予想される。国際商品市況の上昇の影響とともに、4月と7月の数値が大きく変化することにも注意しておく必要がある。


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by nihonkokusai | 2011-02-25 08:48 | 景気物価動向 | Comments(0)

特例公債法案の年度内成立を断念、その影響は

 23日付の読売新聞によると、政府・与党は2011年度予算関連法案の中核である特例公債法案の年度内の成立を断念し、衆院での採決についても4月以降に先送りする方向で調整に入った。

 同法案が早期に否決された場合には菅首相の退陣や衆院解散・総選挙が早まる可能性があるとみて、政府・与党は法案処理の先送りが必要と判断したためとも伝えられた。さらに4月の統一地方選後に改めて公明党などに協力を求め、成立の道筋を探る方向で検討に入ったそうである。特に東京都知事選の行方次第といった面もありそうである。

 しかし、政府・与党はかなり危険な賭けに出たと言わざるを得ない。もちろん反対した野党の責任も大きいが、いくら資金繰りからは6月末あたりまでは大丈夫とはいっても、予算執行に大きな影響を及ぼしかねない。

 2008年には民主党が野党として政府の予算案に反対する立場から、特例公債法案にも反対を続け、その結果、特例公債法案が年度内に可決されなかった。この時は衆院で与党の三分の二以上の多数で再可決され、成立したという経緯がある。しかし、今回は特例公債法案の再可決の目処すら立っておらず、成立そのものの目処も立たない状況になっている。

 債券市場では現状、特例公債法案の行方については特に材料視しておらず、むしろ予算執行に影響が出ることで景気の足枷ともなりうるため、株式市場が下落するようなことになれば、買い要因との見方もある。しかし、国債そのものの信認低下といった問題が出てくる可能性もありうる。

 それでは、もし新年度入りしても特例公債法案の成立の目処がまったく立たないような状況に追い込まれた際には、どのような状況に陥るのか。クリントン政権時の米国がひとつの事例として参考になるかもしれない。

 1995年、クリントン政権と野党共和党の対立は激しくなり、その結果、米国での新年度開始の10月になっても予算案が可決できなかった。このため政府職員を一時帰休させたり政府機関を数週間閉鎖するなど、政府が11月と12月に二度機能停止に追い込まれる事態となったのである。この際に悪役となってしまったのが、共和党のギングリッチ議長であるが、議長は徹底した歳出削減で均衡財政を目指そうとしたことで、クリントン政権も結局、それに歩み寄り歳出削減と一定の減税がはかられ、その後の財政再建に繋がる。

 今回の特例公債法案の可決先送りにより、もし可決の目処が立たないとなれば、政府の支出が抑えられるなどにより国民生活そのものに支障をきたすことが予想される。しかし、これにより問題か提起され、国民がむしろ財政再建を強く意識するようになれば、怪我の功名となることもありうる。ただし、それにはかなり大きなリスクも伴う。


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by nihonkokusai | 2011-02-24 09:58 | 国債 | Comments(0)

ムーディーズ、日本国債のアウトルックをネガティブに変更

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは22日に、日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表した。2009年5月にムーディーズは、日本政府の自国通貨建て債務格付けをAa3からAa2に引き上げていたが、結局、それを元に戻す可能性が高まったことになる。もしくは、2段階程度の引下げの可能性も考慮に入れておく必要があるのかもしれない。

 1月27日には格付け会社のスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)が日本の外貨建て・自国通貨建ての長期ソブリン格付けをAAからAA-へ引き下げている。すでにS&PがムーディーズのAa3に相当する格付けに引き下げていたことで、今回のムーディーズによる日本国債のアウトルックの見直しによる債券市場への影響は、債券先物の値動きを見てもほとんど感じられないものであった。

 今回のアウトルックの変更についてムーディーズは、日本政府は短期から中期的には資金調達危機に陥るとは考えていないものの、日本の経済・財政政策が債務増加を抑制できるような状況にはないことを理由にあげているようである。

 22日の日経新聞の大機小機には、「見過ごせない国債格下げ」と題して、先月のS&Pによる日本国債格下げに絡め、日本の債務状態について注意を促している。特に注意すべきは日本国債が国内資金に賄われており、また消費税の引き上げ余地もあるため、他国並に国債依存度を引下げられる、もしくは国債の暴落は起き得ないとする考え方は危険であるという点である。

 貯蓄率の低下などもあり個人の金融資産の伸びは止まっており、国債の受け皿は縮小に向かっていることは確かである。しかし、新規国債発行額が税収を上回るような異常な状況は続いており、現在の政府の政策は債務増加を抑制できる状態にはなく、危機はじわりじわりと迫りつつある。

 民間会社の格下げやアウトルックの変更に一喜一憂する必要はないものの、それを疎ましく思わずに、ひとつの警告としてみることも必要であろう。ただし、2009年にムーディーズが日本国債の格付けを引き上げた理由も良くわかなかったが、そのアウトルックを見直さなければならない理由もよくわからない。日本の財務体質はムーディーズが最初に日本国債の格付けを引き下げた1998年あたりから、ほぼ悪化の一途を辿るばかりであり、改善するような兆しはほとんど見えていなかったのであるが。



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by nihonkokusai | 2011-02-23 08:29 | 国債 | Comments(0)

国債格下げリスクよりも地政学的リスク

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは22日に日本政府のAa2の債務格付けの見通しを安定的からネガティブに変更すると発表した。今後、ムーディーズによる日本国債の格下げ、それも複数段階の引下げの可能性も考慮に入れておく必要がある。

 1月27日にS&Pがすでに日本国債の格付けをムーディーズのAa3に相当する段階に引き下げていたこともあり、債券市場への影響限定的であった。むしろ、22日の債券相場は買いの動きを強めた結果、債券先物は2月3日から4日にかけて139円19銭から139円40銭にかけて空いていた窓を埋めてきた。

 22日に行われた20年国債の入札の結果は決して良くはなかったものの、それもあまり悪材料視されることはなかった。これは日本国債の格下げや入札結果よりも、中東における地政学的リスクが意識されたためと思われる。つまり「質への逃避」が意識されたと思われる。

 チュニジアのジャスミン革命の動きはエジプト、さらにリビアにも拡大した。41年間もトップに君臨したリビアの最高指導者カダフィ大佐がエジプトのムバラク大佐と同様に辞任に追い込まれる可能性も出てきている。

 さらに22日にはイラン海軍の艦艇2隻がスエズ運河に入ることが確認された。イラン軍艦のスエズ運河通過は1979年のイラン革命以来初めてとなり、特にイスラエルでは緊張を強めている。

 中東はかつて世界の火薬庫とも呼ばれ、紛争の絶えない地域であった。それがオイルショックのようなかたちで世界経済に影響し、イラク戦争を招いたりしたが、ここにきては比較的落ち着いていた。しかし、今回の民主化の動きはむしろ政権が数十年にも渡り安定していた国で起きている。しかも、エジプトも今後の政権の行方がはっきりしないなど、不安定な状況が続くとみられる中、またイランとイスラエルなどが衝突するようなことになると、原油価格などに大きな影響を及ぼしかねない。

 もし原油価格の上昇によりインフレリスクが意識され、それにより長い期間の米国債が売られるようなことになれば、今度は中東リスクが日本の債券市場にとり売り材料となる可能性もありうる。

 日本国内では特例公債法案が年度内に成立しない可能性も高まりつつあり、予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらある。しかし、そのようなリスクよりも海外でのリスクのほうが意識されやすく、それはムーディーズによる日本国債の格付け見通しの変更にも無反応であったことからもわかる。

 しかし、外ばかり気にしていると中のリスクが見えなくなってしまう危険性もある。日本の政局の不安定さは予算そのものにも影響するとともに、消費税増税なども先送りされ財政再建への道のりがさらに険しくなる可能性がある。相場はある程度市場のマインドで動いてしまうため、そのマインドに影響を与えやすいイベントに注目が集まってしまう。日本の債券市場では、もう少し日本の財政リスクを意識すべきであると思うが、どうやら債券市場参加者の視線は中東の地政学的リスクに傾きつつあるように思われる。


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by nihonkokusai | 2011-02-22 14:53 | 債券市場 | Comments(0)

中央銀行の金融政策は時代とともに大きく変化



 「金融政策の世界では、1970年代、多くの先進諸国において、マネーストックの一定の伸びをターゲットにした政策運営がなされた。しかしながら、急速な金融イノベーションを受けて、マネーサプライとインフレの関係は不安定になり、最終的には活用されなくなってしまった。1990年代には、インフレーション・ターゲティングが金融政策の新しい枠組みとして登場したが、今回の金融危機に至る過程でバブルが生成されたように、同政策を有効に実施していくことの難しさが浮き彫りになってきた。」

 これは日銀の白川総裁が、フランス銀行の「Financial Stability Review」に寄稿した論文の邦訳の一部である。ここにあるように、マネーサプライとインフレの関係は不安定となった結果、現在、マネーサプライを金融政策を実施する際の指標として利用している中央銀行は少なくなっている。米FRBも2006年3月からマネーサプライ指標でM3の発表を取り止めたことについて、バーナンキ議長は政策立案者にとって有効性が無くなったことが理由だと説明している。

 日銀の金融政策決定会合の議事要旨などを見ても、マネーサプライに関する議論はほとんど見かけなくなっている。また、債券市場でも、昔はマネーサプライ統計(現在はマネー・ストック統計)の発表は、重要な経済指標のひとつとして注目されていた。しかし、現在それをチェックしている市場関係者はほとんどおらず、市場への影響も少ない。

 日銀の政策を批判する際に、デフレの要因としてマネーサプライの伸びが抑制されていたためとの意見も耳にするが、マネーサプライとインフレの関係が不透明になっている状況では、あまり説得力を持たない。

 インフレーション・ターゲティングについても、それを有効に実施していくことは難しく、学者としてインフレ・ターゲティングを推奨していたバーナンキFRB議長もいまだそれを取り入れていない。また、インフレ・ターゲティングを採用している英国のイングランド銀行は、現在の物価高により利上げを余儀なくされるとの見方も強いが、財政緊縮などにより景気の先行きにも不透明であり、ジレンマを抱えている。

 ただし、現在の日銀が行なっている包括緩和策には時間軸政策が取り入れられているなど、日銀でもインフレーション・ターゲティングに近い政策が取られていることも確かである。しかし、これをはっきりとインフレーション・ターゲティング政策としてしまうと自らの政策の自由度を失いかねない。金融政策にはある程度フレキシブルな対応も求められる。その点、現在の金融政策のかたちのほうが対応しやすい面もある。

 さらに日欧米の中央銀行の政策には、国債に関する政策が大きな比重を占めるなど、国の財政面との関わりも強まっている。つまり物価や景気動向、さらに雇用などに加えて、財政問題も金融政策に大きく影響するようになっている。

 今後、日銀を含めて主要な中央銀行の政策がどのように変化してくるのか予想をすることは難しい。中央銀行の金融政策は時代とともに大きく変化している。過去に使われた指標を元にして現在の政策について検証しても、あまり意味はない。日銀批判についてもこのあたりを注意してみておく必要がある。

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by nihonkokusai | 2011-02-22 08:33 | 日銀 | Comments(0)

特例公債法案が年度内に成立しなかったならば

 社民党は2011年度予算関連法案である特例公債法案について、反対する方向で調整に入ったと伝えられた。また、民主党の小沢氏に近い若手議員16人が、国会内の会派を離脱するとも伝えられた。これにより、特例公債法案などの予算関連法案の衆院再可決に必要な三分の二の議席に届かないという事態となる可能性が強まってきている。与党民主党内でも予算関連法案の成立と引き換えに菅直人首相の退陣やむなしとの声も出ている。

 特例公債法案を含めた予算関連法案が成立しなかった際の影響は十分に知った上で、それを人質にとって危険な賭けに出ているようにも見える。その結果がどうなるのかは政治の世界だけに読みづらいが、今回はもし特例公債法案が年度内に成立しなかった場合の政府の資金繰りについて考察したい。もちろん特例公債法案の成立そのものが成立しないという事態は想定できない。その場合には予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらあるためである。このため、あくまで年度内の成立がなかった場合の対応を想定する。

 国債には発行根拠法別に種類が分かれている。一般には新規国債と一括りで言われている国債は、建設国債と特例国債(赤字国債)に分けられる。財政法第四条に基づいて発行される建設国債は予算が通れば発行できる。しかし、特例国債(赤字国債)は、特例なので発行されるたびに特例公債法を制定しなければならない。

 特例国債は、建設国債の発行をしても歳入が不足すると見込まれる場合に、一般会計の財源不足を補うために発行される国債であり、主に社会保障、防衛費や人件費などの経常的経費を調達するために充てられている。しかし、人件費などの経常的経費は、将来世代に資産を残すことはなく、国債の元利償還のための租税負担というかたちでの費用負担だけを残すことになるため、財政法ではこのための国債発行は認めていない。そのために、特例法を制定して特例として発行している国債である。

 予算そのものは衆議院で議決されてしまえば、参議院の審議が終了しなくとも30日後には自動的に成立する。つまり、建設国債は予算が通れば発行できる。これは日本国憲法第60条2項に次のように定められているためである。「予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」

 しかし、特例国債(赤字国債)は特例の国債であるため特例公債法が成立しなければ発行できない。特例公債法案などの予算関連法案は日本国憲法第59条にあるように、参議院で否決されれば、衆議院に差し戻され、そこで三分の二の賛成で可決されないと成立できない仕組みになっている。

 「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」(http://www.mof.go.jp/houan/177/zk230124g.htm)についてが財務省のサイトにアップされているが、これによると特例公債法は、特例公債の発行と特別会計からの繰入れ等のその他特例的な歳入措置の根拠となるものとなり、平成23年度予算では一般会計予算92.4兆円のうち40.7兆円(このうち特例国債は38.2兆円)がカバーされる。つまり、特例公債法が成立しないと40.7兆円分は財源のあてが無くなってしまうことになる。その分の予算が執行できないという事態となる。

 仮に特例公債法案が3月末日までに成立しなかった際には、政府は資金繰りに苦慮することとなる。予算総額の92兆円のうちの50兆円分は賄えるため、相当期間は大丈夫ではないかとの見方もあろうが、年度始めにはあまり税収が入ってこないという問題がある。昨年度と今年度の4~6月期の税収(ネット)は11~12兆円程度に対しての対民間支出は20兆円程度になっている。ちなみにこの期間は前年度分の出納整理期間にあたるため、そのほとんどは前年度分であり、新年度分税収は6月末で2兆円程度に過ぎない。

参考
「平成21年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211b.htm
「平成22年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221b.htm
「平成22年度 6月末租税及び印紙収入、収入額調」http://www.mof.go.jp/zeisyu/h2206.htm

 昨年度と今年度の4~6月期には10~11兆円規模で国庫内での振替(一般会計から特別会計への繰入れ)が行われている。これはつまり出納整理期間での前年度の税収部分にあたる金額を特別会計に繰り入れている金額となる。

参考
財政資金収支分析表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211g.htm
財政資金収支分析表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221g.htm

 つまりこの期間に不足する金額は、対民間での支出超過分と国庫内の繰入れを加えた20兆円規模となり、この不足分を国債や財務省証券の発行などにより調達することとなる。このうち新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は上記の財政資金収支分析表にある「資金調達・返済」に記載されている新発債発行の部分で金額は11兆円前後となっている。

 それでも足りない部分は財務省証券発行で補われ、それは上記の財政資金収支分析表にある「特別会計等」の「その他」の「資金調達・返済」にある財務省証券発行で21年度は20兆円以上の発行(11兆円は期間内に償還)、22年度は7.7兆円の発行(4.1兆円は期間内に償還)となっている。

ちなみにこの財務省証券(FBと呼ばれる政府短期証券の種類のひとつ)は限度額が設けられている。来年度予算ではその予算総則に、「財政法第7条3項の規定による財務省証券及び一時借入金の最高額は20兆円とする」とあるが財務省証券の残高は下記のように昨年度は6月末の9.5兆円となり限度額の約半分近になっている。また、今年度は3.6兆円となっている。

参考
平成23年度度一般会計予算(予算総則の7ページ) http://www.bb.mof.go.jp/server/2011/dlpdf/DL201111001.pdf
政府短期証券増減及び現在高表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211h.htm
政府短期証券増減及び現在高表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221h.htm

 さらに特例国債が発行できないとなれば、新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は建設国債の分、つまり来年度では6兆円程度しかできないため、11兆円前後のうち残りの5兆円程度は財務省証券の発行で補う必要がある。

 昨年度(平成21年度)のように、6月末までに不足する金額10兆円程度を財務省証券発行で補い、さらに特例国債が発行できない分も5兆円規模の財務省証券発行が補うとすれば、15兆円規模となり、残りの限度額は5兆円程度しかない可能性も出てくる。ちなみに予算総則にある20兆円という上限は、財務省証券と一時借入金を合わせた一般会計の資金繰りの上限であり、他にやりくりする手段はない。

 ロイターによると「6月までの必要経費は賄えるが、それ以降は厳しい」との財務省からの声も出ていたようだが、それはこの試算からも明らかである。つまり、6月あたりまでに特例公債法が成立しなければ、その後、必要経費が賄えなくなる事態が発生する可能性が高まることになる。これは他の予算関連法案の成立ができなくなることを含めて、国民生活に支障をきたす可能性がある。さらに、もし予算の半分程度が執行できなくなるという可能性があるとなれば、年度契約を結んでいるような支払いに対して、一括ではなく分割契約に変更しなければならなくなるなどの契約の見直しの必要性なども出てくるため、予算執行のコントロールなども難しい対応を迫られることになる。

 このように特例公債法案が年度内に成立しなかった場合は、6月末あたりまでは資金のやり繰りは可能と思われるが、その先はかなり厳しい状況になる上、契約などの問題を含めて各所に影響が出てくる可能性がある。


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by nihonkokusai | 2011-02-19 12:33 | 国債 | Comments(0)

財政健全化に関する白川日銀総裁のコメント

 15日の金融政策決定会合後に行われた日銀の白川総裁の会見内容が、日銀のサイトにアップされた。この中の日本の財政健全化についてのコメント部分を中心に見てみたい。

 白川総裁はまず、日本の一般政府の債務残高が対名目GDP比率約200%と高いところにいることを指摘したが、「このグロスの数値は多少ミスリーディングな面もあり」として、金融資産を差し引いた純債務残高でのGDP対比約120%という数字を出している。

 OECDなどの国際機関が発表している各国の債務残高の対名目GDP比率については、総債務残高に対するものに加えて、政府が保有する金融資産を差し引いた純債務残高での数値も出している。

 ただし、純債務残高に関して財務省は「純債務残高で債務残高を比較する場合、政府の金融資産の過半は将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り崩して債務の償還や利払費の財源とすることができないこと等に留意する必要があります。」としている(財務省資料「財政事情の国際比較」の中の注釈)。

 どちらの数値が適切なのかというよりも、そもそもその国の債務状態を他の国と比較する際に、債務残高の対名目GDP比率で良いのかどうかという問題もある。あくまでこれは参考値としての認識の方が良い数値である。

 いずれにせよ非常に高いことには変わりがない。そして総裁は「将来の財政の持続可能性に対する信認が低下」すると、「金融市場の動揺を通じて実体経済も下押しされ、財政、金融システム、それから実体経済の間でマイナスの相乗作用が生じる」可能性を指摘した。かなり柔らかな表現ながら、大きなショックが起きることは確かである。

 それを防ぐためには、総裁はまず日本経済の成長力の引き上げが必要であるとしている。ただし、「財政バランスの改善は、インフレによる名目成長率の上昇によって達成される課題ではありません」とも釘をさしている。「重要なことは、実質成長率の引き上げを実現していくこと」としているが、そのための具体的な方法については述べていない。

 総裁はもうひとつ重要なこととして、「財政バランスの改善は、実質的に歳出を減らし、あるいは歳入を増やす改革」をあげている。二番目ながらも政府が財政再建策をすすめることの重要性をあげている。

 さらに、「財政問題に対する関心が高まる中にあっては、今申し上げた財政規律の確保に向けた努力と並んで、日本銀行が物価安定のもとでの持続的経済成長を目指して金融政策を行っていることに対する市場の信認を確保することが重要であること」を付け加えている。

 広義での国債管理政策は財務省ばかりの仕事ではない。政府や日銀なども一体となって日本国債の信認を維持させ、安定的な国債発行を可能にしなければならない。その意味で日銀の金融政策も大きな関わりを持つ。しかし、国債の需給に直接関与したりすれば、むしろ信認低下に繋がりかねない。このあたりのバランスの取り方も難しい問題である。

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by nihonkokusai | 2011-02-18 10:10 | 日銀 | Comments(0)

財政再建に活かすべき戦後の教訓

 大蔵省財務協会から出版されている「高橋是清暗殺後の日本」という本がある。あの戦争(太平洋戦争)が如何なるものであったのかを財政面から見たものである。たいへん読みやすい内容であり、現代史を違った視点で垣間見せてくれる。この本の107ページに戦後のインフレーションに関しての記述がある。

 「公債残高は敗戦時に1408億円、政府保証等の残高は960億円に上がっていた。その一方で、主要都市を焼け野原と化した無差別攻撃で生産設備が壊滅し我が国の生産力は大幅に低下していた。このようにして生じた大幅な需給関係のアンパランスは、当然のこととして激しいハイパー・インフレーションをもたらすことになったのである」

 日本での太平洋戦争での被害総額は653億円との記述もあり、それに比べて政府負債の大きさは約3倍以上もあった。その政府債務はハイパー・インフレにより帳消しとなったのである。つまり国民への被害は直接戦争によるものよりも、政府債務による帳消しのほうが規模は数倍大きかったことになる。

 卸売物価は昭和9年から11年に比べ、昭和24年には220倍にもなり、まさに国債は紙くずと化してしまったのである。これはつまり「国民からの実質的な金融資産の没収であり大増税に他ならなかった」のである。

 日露戦争では、高橋是清日銀副総裁の努力により外貨建て国債の発行で戦費を調達したが、あの戦争では、海外からの資金調達は困難であり、発行される国債は内国債であり資金のほとんどを国内から調達していた。つまり、その95%が国内資金で賄われているという現在置かれている日本国債を取り巻く状況に非常に似ている。

 金融恐慌後のデフレ脱却のためリフレ政策とも呼ばれる政策をとったのが、高橋是清蔵相であったが、デフレ脱却後のインフレを抑制しようとしたところ、軍部により暗殺されている。そしてその後の軍事費拡大、そしてあの戦争へと繋がっていくのである。

 現在の日本の債務状態も戦争直後の状況に類似している。この財政を立て直すためには、当然のことながら痛みを伴う。もちろんそれは国民の痛みである。もし一気に解決を図るのならば、インフレを引き起こす事もひとつの手段であろう。しかし、戦後の悲劇については、我々戦後世代もいろいろなかたちで聞き及んでいる。同じような悲劇は繰り返したくはないはずである。

 もしも現在に高橋是清翁がいたならば、政府にはどのようなアドバイスをしていたであろうか。自ら資金調達に走ったような外貨建て日本国債を提案してくるのであろうか。また、デフレ脱却に用いた巧みな日銀による国債引き受けを企画してくるのであろうか。しかし、その後のインフレ抑制のブレーキをどのようにかけてくるのであろうか。

 日本の現在の債務状況を改善せるためには、高橋是清が働きかけた政策やその後の悲劇などが良い意味でも悪い意味でも大きな事例となりうる。ただし、国民の痛みを最小限度に抑えた上で、国債の信認を維持できるだけの財政再建への働きかけは、早期に手を打つことが重要であることに間違いはない。すでに先送りすればするほど、結果として国民への痛みは増加していくことを認識する必要がある。

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by nihonkokusai | 2011-02-17 08:59 | 国債 | Comments(0)
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