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カテゴリ:国債( 825 )

中国が日本国債の保有高を増加させている背景とは

 中国による日本国債への投資が大きく増加している。23日付けの日経新聞によると、中国から日本国内への証券投資は今年1月から最新データの8月までで8兆9000億円の買い越しとなった(財務省の対内証券投資より)。増加しているのは満期までの期間が1年以下と短い国庫短期証券などの国債が中心となっているようである。

 これに対して「MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES」によると、中国の米国債保有高は年初に比べ8月の保有高は530万ドル減少しており、中国は米国債の保有高を減少させて日本国債の保有高を大きく増加させた格好となっている。

 金利の動きからみて、特段に日本国債が有利になっていたわけではなく、短期ゾーンではマイナス金利が続いていた。米債も利回りが7月まで低下傾向にあり、むしろ米国債を保有していたほうが有利であったはずである。

 日経新聞では中国には人民元の国際化に向け、ドルの一極集中を弱めたいとの考えがあるとの指摘があり、今回の米国債から日本国債へのシフトはそのような思惑が働いていた可能性がある。

 FRBはいずれ利上げするであろうとの読みや日銀は緩和政策を続けざるを得ないとの読みもあったかもしれない。しかし、日本国債は短期債主体に購入していることから、金利の先行きを睨んだものというよりも、ポートフォリオのリバランス、さらには単純に利益を追求していた可能性もある。

 日本国債の10年以下の国債の金利はマイナスとなっているが、海外投資家は中短期債主体に積極的に購入している。これはドルを円に替えるだけで一定のプレミアムが得られるためであり、多少のマイナス金利であっても利益が出る。これを短期債で行えば、期間によるリスクも低いことで一定の利益も確定できる。これを使って、中国の外貨準備を運用する中国人民銀行が結果としてポートフォリオのリバランスを狙っていた可能性もある。

 米国債から日本国債へのシフトについて、何かしら政治的な意図があるのかまではわからないが、結果として中国はドル集中、米国債集中型から一部を円、日本国債の保有増となっている。ちなみに8月の米国債保有高は中国が依然としてトップながらも1兆1851億ドルと日本の1兆1440億ドルに近づいている。いずれ逆転する可能性もあるのかもしれない。

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by nihonkokusai | 2016-10-25 09:39 | 国債 | Comments(0)

9月の国債売買高は一時的に回復

 10月20日に日本証券業協会は9月の公社債投資家別売買高を発表した。公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

9月の公社債投資家別差し引き売買高 注意、マイナスが買い越し、単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行 -1139(536、-1823、231)
地方銀行 4960(279、3693、1330)
信託銀行 -2730(-5501、1528、2917)
農林系金融機関 -3488(-2067、355、50)
第二地銀協加盟行 1354(745、361、210)
信用金庫 284(47、973、-174)
その他金融機関 1200(-140、770、937)
生保・損保 -3297(-2915、900、72)
投資信託 -1741(-566、959、-1474)
官公庁共済組合 -20(-97、0、62)
事業法人 -626(-71、1、0)
その他法人 -423(-188、202、-6)
外国人 -27674(-3320、-4283、-19310)
個人 767(4、37、6)
その他 11292(12552、-4253、7667)
債券ディーラー -862(81、117、-965)

 9月の国債を中心とした債券売買を見るにあたって注意すべきことは、9月20、21日の日銀の金融政策決定会合において総括的な検証を行い、何かしらのフレームワークの変更があるとの見方が強まっているなかでの売買であったことである。

 海外投資家の売買高が今年3月以来の高い水準となっていたのは、マイナス金利の深掘りを含めた何らかの追加緩和の可能性も意識してのものと思われる。その海外投資家は中期債を中心に2兆7674億円の買い越しとなった。海外投資家の買い越しは27か月連続となる。

 日銀は21日に総括的な検証の結果を発表するとともに、フレームワークの変更を行った。これは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれ、その柱のひとつがイールドカーブコントロールとなった。今回の場合は、イールドカーブをフラット化させるのではなくスティープ化させようとのものとなった。

 イールドカーブのスティープ化に寄与したとみられる投資家を探してみると、超長期債を大きく売り越していたのは「その他」となっていた。「その他」にはゆうちょ銀行やかんぽ生命、年金積立金管理運用(GPIF)などが含まれている。

 都銀は1139億円の買い越し。長期債主体に買い越しとなったが、9月21日に10年債利回りが一時プラスに転じる場面があったが、長期債が売られた場面で押し目買いを入れてきたとみられる。

 国債の投資家別売買高(一覧)での全体合計の国債売買高でみてみると、9月は216兆335億円となっており、8月の189兆9590億円から大きく増加した。日銀のフレームワーク変更の思惑によるイールドカーブのスティープ化を受けて、売買高が一時的に回復したとみられる。

 都銀の国債売買高は8月は1兆7326億円と、データがある2004年4月からでは過去最低水準となっていた。しかし、9月は3兆6046億円と回復した。ただし、10兆円を超える月が普通にあった状態から比べれば決して多い数字ではない。

 問題は9月21日の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の決定以降の国債の売買高となろう。日銀のイールドカーブコントロールが奏功しているというより、投資家は国債売買そのものを手控え、売買高は大きく減少している。それを象徴するのが10月19日の債券市場であった。債券先物は2014年8月18日以来となる日中値幅4銭、そして10年債カレントのこの日、2015年9月24日以来の出合いなしとなっていた。10月の公社債の売買高は大きく減少するであろうと予想される。

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by nihonkokusai | 2016-10-22 11:34 | 国債 | Comments(0)

サウジアラビアの海外での巨額の国債発行の理由

 サウジアラビアは国際金融資本市場で初の国債発行を行い、175億ドルを調達した。ドル建てで5年債が55億ドル、10年債も55億ドル、30年債が65億ドルの3本建て。5年債が米国債に対してプラス135ベーシスポイント(約2.6%)、10年債がプラス165bp(約3.4%)、30年債が210bp(約4.6%)となる。

 今回の起債は新興国で最大だったアルゼンチンの165億ドルを上回った。格付け会社のフィッチ・レーティングスの格付けは最高から4番目の「AA-」となっていたが、発行額の3倍以上の600億ドルを超える投資家の引き合いがあったとされる。大型起債ではあったがサウジアラビアというネームも好感された上に、比較的利回りも高いことで日本の投資家を含めて需要があったのではないかと推測される。

 サウジアラビアがこれほど巨額の国債を発行しなければならないのは、当然ながら原油安が影響した。歳入の大半を原油に頼るサウジは原油安の影響から、2016年予算で3262億リヤル(約9兆円)の財政赤字に陥る見込みとされている。

 今回の国債発行で調達した資金は財政赤字を穴埋めするだけでなく、ムハンマド副皇太子が主導する「脱石油」改革の柱として成長分野にも投じるとされる(日経新聞)。

 サウジはすでに国内では国債を発行しており、財政赤字には銀行からの借り入れ、外貨準備の取り崩しでしのいでいたものの、国内金融機関の資金では限界があり、今回の海外での巨額の国債発行となったものとみられる。日欧米の長期金利が低位で推移していたことも手伝っての需要も意識されていたのではないかと思われる。

 原油先物市場では19日に一時WTIが52ドル台をつけるなど、ここにきて上昇基調となっている。この背景には予想外のOPECの減産合意があったが、サウジアラビアが減産に同意したのは、少しでも原油価格を上昇させて今回の起債を成功させようとの意図もあったとされる(日経新聞)。

 WTIの日足などをみると原油価格は底打ちし、下方トレンドが終了し反発局面となっている。このまま上昇トレンドを形成するのか。それともレンジ相場となるのか。OPECは決して一枚岩ではなく、イランとサウジの対立も解消されたわけではないことを考えれば、レンジ相場となる可能性が高いのではなかろうか。

 国際政治のなかでオイルマネーをもとに大きな影響力を持っていた中東ではあるが、原油価格の下落がこの状況を大きく変えつつある。原油価格の下落は、世界的な物価の押し下げ要因ともなっている。今回のサウジによる国際市場での大型起債は、あらためて世界的な資金の流れの変化も意識されるものとなろう。

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by nihonkokusai | 2016-10-21 09:43 | 国債 | Comments(0)

個人向け国債の販売が好調、その理由とは

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 7日の日経新聞によると、財務省が6日発表した2016年4~9月期(年度上期)の個人向け国債の応募額は1兆6293億円と前年同期に比べて52%増えたそうである。年度上期での増加は3年ぶりで、比較可能な2011年度以降で最高の応募額となった。

 日銀は今年1月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を導入した結果、長期金利でもある10年国債の利回りばかりか、一時20年国債の利回りまでマイナスとなるなど、国債の利回りは軒並み低下した。

 日銀のマイナス金利政策によって銀行預金の金利も下がり、さすがに預金金利のマイナス化はなかったものの、定期預金金利が軒並み0.01%となった。

 それにも関わらず、なぜ個人向け国債の販売が好調なのかといえば、個人向け国債には最低保証金利の0.05%が存在しているからである。個人向け国債の金利はゼロ%になることはないことを示すために、ほぼ最低の金利として置いたはずの最低保証金利が、ほかの金利が軒並み引き下がってしまったことで、相対的に優位に立ってしまったということになる。

 参考までに、通常の利付き国債の利率も最低が0.1%となっている。それならば個人向け国債より有利ではないかと思われるかもしれない。ところが通常の国債は価格が変化する。10月4日の10年国債の入札では、利率は0.1%であったが、発行価格は101円59銭となっていた。それが10年後に100円で償還されることで、利回りはマイナス0.058%となる。個人向け国債は債券でありながら、この価格が常に償還価格の100円に維持されているものと考えても良い。

 つまり個人向け国債は1年間の売却出来ない期間があるものの、それを過ぎれば財務省が額面で買い取ってくれるのである。このため元本割れのリスクがない。ちなみに個人向け国債は個人しか保有できないため、個人向け国債を販売した証券会社などは自己で保有することはできないので、そのまま財務省が買い取る形となっている。

 個人向け国債の3つの種類、3年固定、5年固定、10年変動のうち10年変動タイプはもうひとつ利点が存在する。3年固定、5年固定は直近では0.05%の利率となり、償還までその利率が維持される。ところが10年変動は0.05%が保証されている上に、もし市場で売買されている通常の10年国債の利回りが上昇すると、10年変動の利子も引き上がる仕組みとなっている(半年のラグはあるが)。

 今後10年間も、いまのような異常な金利が続くはずはない、金利の上昇はありうるとみているのであれば、10年変動はなかなか魅力的な金融商品となる。しかも政府が元本を保証している。10月発行分を含め、特に10年変動分の販売額が大きいのはこのような理由も考えられるのである。

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by nihonkokusai | 2016-10-08 09:40 | 国債 | Comments(0)

イタリアで初の50年国債発行、日本での可能性は

 イタリア政府は10月4日に初めてとなる50年債を50億ユーロ相当発行した。2067年償還の50年債に対する応募は185億ドル余りに上り、応募者利回りは2.85%で決まったそうである(WSJの記事より引用)。

 イタリアの格付けはムーディーズで「Baa2」、S&Pは「BBBマイナス」となっており、投機的水準(いわゆるジャンク債)の一歩手前にある。そういった国が50年もの長い期間の国債を発行するのは極めて異例ともいえる。

 イタリアが50年という長い期間の国債を発行できるのは、いくつかの要因が絡んでいる。ギリシャを発端とした欧州の信用不安により、当事国のギリシャだけでなく、ポルトガルやスペイン、イタリアの国債も下落した。イタリアの10年債利回りは一時危険ラインとされた7%を超える場面もあった。しかし、その欧州の信用不安は関係各国の努力もあり、次第に収まった。

 金融市場の沈静化に効果があったのがECBによる積極的な金融緩和策であった。これによりイタリアの長期金利は、1%台にまで低下した。欧州だけではなく、日本の中央銀行である日銀も、欧州の信用リスク後退など関係なく、アベノミクスというものの登場で、異常ともいえる金融緩和策を講じた。その結果、日本の10年債利回りがマイナスとなった。この日本の投資家だけでなく、金利の低下に運用が厳しくなった世界の投資家は、少しでも高い利回りの国債を求めるようになり、それがイタリアでの50年国債の発行を容易にさせた面もある。

 50年を超える国債発行は2005年2月にフランスが発行し、イギリスも同年5月に発行した。ほかにポーランドやスイスも50年債を発行していた。今年に入りベルギーとスペインも初の50年債を発行し、フランスも新たに50年債を発行した。またアイルランドとベルギーは私募で100年債を発行したそうである。

 日本での最長の国債は40年債である。少し前に日本でも50年国債の発行が検討されていると伝えられたが、検討はされていたかもしれないが、その後特に発表はない。この際にはいわゆるヘリコプターマネー論議のなかでのものとなっており、日銀の引き受けを前提としたようなかたちで日本の財務省が50年国債を発行することは考えづらい。しかも40年国債の流動性が、それでなくても日銀の買入により落ちていることで、少しでも超長期債の流動性を高めることが先決であろう。

 とはいえ低金利のうちに、しかも投資家ニーズが旺盛なうちに、なるべく長めの期間の国債を発行することは利払い負担の軽減ともなる。いずれ日本でも50年国債や、60年償還ルールのもと、借換債の発行を必要としない60年国債の発行が検討されることもあるかもしれない。

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by nihonkokusai | 2016-10-07 09:59 | 国債 | Comments(0)

6月末時点での日本国債の保有者

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 日銀は9月26日に資金循環統計(4~6月期速報値)を発表した。これによると個人の金融資産は6月末時点で約1746兆円となり、3月末の約1752兆円から減少した。個人の金融資産の内訳は「現金・預金」が前年比1.2%増の約920兆円、「株式等」が16.6%減の約144兆円、「投資信託」は11.7%減の約87兆円となっていた。英国のEU離脱観測によるリスク回避の動きなどにより円高株安の影響を受けたとみられる。

 この資金循環統計を基に国債(短期債除く)の保有者別の内訳を算出してみた。残高トップの日銀の国債保有残高は344兆8685億円となり、34.9%のシェアとなった。前期比(確定値)からは27兆7499億円の増加。残高2位の保険・年金基金は251兆73億円(25.4%)、6兆4714億円増。残高3位は預金取扱機関(都銀や地銀など)で226兆5625億円(22.9%)、6兆3594億円減。前回の5位から4位に上がったのが海外投資家で54兆6763億円(5.5%)、3兆7258億円増。5位が公的年金の52兆3919億円(5.3%)、23億円減。6位が家計の13兆9796億円(1.4%)、2240億円増。その他が43兆9514億円(4.5%)、4427億円減となっていた。

 2016年3月末(確報値)に比べ、国債(短期債除く)の残高は約32兆円増加し、約987兆円となった。このうち日銀が約345兆円と35%を占め、民間の保険・年金が約252兆円で25%、次が銀行など民間預金取扱機関の約227兆円の23%となった。

 3月末(確報値)に比べて大きく増加したのは、大量に国債を買い入れている日銀で約28兆円の増加となった。次いで保険・年金の約6兆円増となっていた。3月末に比べて大きく減少したのが国内銀行の約4.9兆円減と中小企業金融機関等(ゆうちょ銀行含む)の約1.6兆円減となり、他の業態は概ね増加となっているところが多かった。

 日銀は1月29日にマイナス金利政策を導入し、2月9日には10年債利回りもマイナスとなり、7月にはマイナス0.3%まで低下していた。この期間(4月から6月)も国債は買い進まれていたが、日銀が淡々と買入オペで国債を購入し続けるなか、生保などはプラス利回りの国債を中心に購入し続けていたとみられる。それに対して銀行などはマイナス利回りでの運用は難しくなり、国債の残高を減らしていたものとみられる。

 短期債を含めた国債全体の数字でみると残高は約1105兆円となり、日銀が約398兆円で36.0%のシェアとなっていた。そして海外勢の残高は約111兆円と短期債を含めると国債全体の10.0%のシェアとなっていた。

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by nihonkokusai | 2016-09-27 10:00 | 国債 | Comments(0)

日銀の総括的な検証が世界の国債市場を動揺させたきっかけに

 9月20、21日の日銀の金融政策決定会合では総括的な検証の結果が公表される。日銀としては2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することの「ベネフィット」は大変大きいとしており(黒田総裁)、その旗を降ろすことは考えられず、量・質・金利の3つの次元による金融緩和政策に限界はないというのが引き続き建前としてある。

 そのための戦術策も練ってくる可能性があるが、それよりも戦略そのものを練り直すことが大きな主題となるのではなかろうか。9月5日のきさらぎ会での黒田総裁の講演「金融緩和政策の「総括的な検証」」においては「ベネフィット」と「コスト」との表現が使われている。これまでは「ベネフィット」ばかりが強調されていたが、今回は「コスト」との表現が使われていた。

 「マイナス金利が金融機関の収益に与える影響が相対的に大きい」とのコメントに加え、黒田総裁はマイナス金利が「経済活動に悪影響を及ぼす可能性には留意する必要があります。」と指摘している。

 ただし、マイナス金利政策の撤回などは考えられず、その代わりに日銀が取る手段のひとつに結果として国債のイールドカーブのスティープ化を促す可能性が存在すると市場参加者は読んだようである。マイナス金利政策決定後の国債のイールドカーブの急低下は日銀の想定以上であったことで、ここに修正を加えマイナス金利政策などによるコストを軽減させることが検証のひとつの目的となっている可能性があると。

 イールドカーブのスティープ化は利ざやを大きくすることで銀行の収益を改善させる。10年債利回りあたりまで利回りがプラスとなれば国債を使った運用も一息つける。長期、超長期債に投資家の売買が戻り、少しでも国債の流動性を回復させうる。日銀がこのようなことを目的としているのであれば、金融政策だけで物価目標達成は可能との認識から、そこには金融機関を含めて民間の活力をもり立てる必要があることで、債券市場の流動性を含めて認識をあらためつつあるように思われる。

 注意すべきことは日銀は今回、イールドカーブも自在に探れるかのような認識を示していたことである。日銀の金融政策で債券市場が自在にコントロールされているわけではなく、あくまで市場参加者の相場観と日銀の政策の方向性が合っていたということでしかないとの見方もできよう。ここに乖離が生じると債券市場が波乱含みの様相となるリスクも当然存在する。

 すでに日本のイールドカーブは9月に入りスティープ化が進んでいる。これにより10年債利回りはマイナス0.010%をつけ、ゼロ%まであと少しというところまで利回りが回復した。そんな状況下、ここにきて今度は欧州の国債利回りが上昇し、日本よりも一足先にドイツの10年債利回りが9日にプラスに回復していた。

 8日のECB理事会では金融政策の現状維持を決定。ドラギ総裁は会合後の会見で、資産買入れ策の期限延長について議論しなかったと説明した。市場では来年3月までの資産買入の時期を延長するのではとの期待が一部にあった。ドラギ総裁は資産買入れの円滑な実施を確実にするための選択肢を検討するよう指示したとも発言しており、これの意味するところは、ECBの国債買入についても限界が見えており、何かしら買入対象の変更等を行わなければ期間延長も難しくなっているのではとの見方もできる。

 これを受けてドイツなど欧州の国債が売られていたところに、9日にボストン連銀のローゼングレン総裁が利上げを長く待ち過ぎれば米経済が過熱する恐れがあるとの指摘したことで、9月20、21日のFOMCでの利上げの可能性が意識されて欧米市場に動揺が走った。9日のニューヨーク株式市場でダウ平均は大きく下落し394ドル安となった。リスク回避の動きが強まったのであれば通常、国債は買われるが、今回は欧米の国債が大きく売られたことで市場が動揺した格好となった。

 FRBの利上げについてはイエレン議長やフッシャー副議長などの発言内容からは正常化路線は継続しており、それで年内利上げの可能性が高いと読むなら12月ではなく9月の可能性の方が高いとみるべきではなかろうか。今月発表の経済指標が意識されて9月にもし利上げしをなかったならば、12月はその間の経済指標がすべて予想以上にでもならない限り余計無理なものとなる。11月の大統領選挙結果次第では政治圧力を受ける懸念もある。これはトランプ氏でもクリントン氏でも同様であり、12日にはそのクリントン氏に近いとされるブレイナードFRB理事の講演がある。ブレイナード理事は利上げ慎重派であるが、その発言次第では市場がさらに利上げを織り込みにくる可能性もある。ただし、その市場の動揺が大きすぎる懸念もあり、このあたりどうバランスを取ってくるのかにも注目したい。

 ここにきての日本と欧米の国債市場が動意を見せてきた背景には、日銀の総括的な検証に対する思惑による進み過ぎたイールドカーブの修正があった。それは結局日銀の追加緩和に対する限界も示すことになり、それはECBも同様であることが意識された。FRBの正常化路線に変更はないはずが、市場は早期利上げに懐疑的な見方をしていただけに、日欧の長期金利の上昇もあって、米債利回りも上昇圧力を強める格好となった。

 リーマン・ショック、欧州の信用不安などにより異常なまでに押し下げられていた日米欧の長期金利が、ここにきて流れが変わろうとしている。その大きなきっかけとなった要因として、日銀の総括的な検証への思惑があったことも確かではなかろうか。

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江戸時代のヘリコプターマネー、荻原重秀のデフレ対策

 8月14日付けの日経新聞朝刊の特集記事「敗戦後、失われた預金(日本国債) 」のなかにヘリコプターマネーに類する政策を行ったとして江戸時代の荻原重秀の名前が出ていた。荻原重秀がどのような政策を行ったのかについて振り返ってみたい。

 1639年に幕府はポルトガル船の入港を禁止し、いわゆる鎖国に入ったのだが、これにより日本の貿易高は減るどころかむしろ増加した。ライバルのポルトガルが日本市場から撤退し、これによりオランダは世界最初の株式会社である東インド会社を経由した日本との貿易で大きな収益をあげ、17世紀に欧州での繁栄を築き上げた。

 ポルトガルは日本の銀を介在してのアジアでの三角貿易を行っていたが、オランダも同様に中国で購入した生糸などを日本に持ち込み、それを銀と交換していた。これにより大量の生糸が日本に流入するとともに、大量の銀が海外に流出した。またオランダはインドとの貿易に金を使っていたことで、オランダ経由で大量の金も流出していった。

 幕府は金銀の流出を防ぐために、金や銀の輸出禁止などの政策を打ち出したものの、国内に生糸や砂糖などの輸入品への需要が強く、国産品では対応できず、結局、その対価として金銀を用いらざるをえず、金銀は流出し続けた。

 日本の金銀の流出先としては、貨幣の材料として銀を必要としていた中国だけでなく、インドなどにも流れ、また金貨についてはインドネシアのバタフィア(現在のジャカルタ)で日本の小判がそのまま流通していた。さらにオランダ本国でもホーランド州の刻印の打たれた日本の金貨が使われていた。

 金銀の流出制限のため幕府は1685年に貞享例を施行し、貿易額そのものを規制した。また、元禄の改鋳などにより金銀の質を低下させたことから、貿易の支払いに対しては、金銀に変わり、次第に俵物と呼ばれる加工食品とともに銅が使われるようになったのである。

 金銀の海外流出とともに日本国内の金銀の産出量が低下した。米の生産高の向上や流通機構の整備などにより、国内経済が発展し貨幣需要が強まったものの、通貨供給量が増えなかったこともあり、米価は上昇せずデフレ圧力が強まった。

 五代将軍綱吉は豪奢な生活を送っていたことに加え、寺社や湯島聖堂などを建立するとともに、明暦の大火や各地で発生した風水害などにより、慢性的な赤字を続けていた財政がさらに厳しくなり、幕府は1695年に貨幣の改鋳に踏み切った。

 将軍綱吉は勘定吟味役の荻原重秀に幕府の財政の立直しを命じ、荻原重秀はそれまで流通していた慶長小判(金の含有率84-87%)から、大きさこそ変わらないものの金の含有率を約57%に引き下げた元禄小判を発行した。また銀貨の品位も80%から64%に引き下げられた。

 しかし、金銀貨の品位引き下げが均衡を欠いていたことから、銀貨の対金貨相場が高騰し、一般物価も上昇した。このため1706年以降、銀貨が4回に渡り改鋳され、1711年の改鋳により銀貨の品位は20%と元禄銀貨の3分の1にまで引き下げられた。金貨については1710年以降、品位を84%に引き上げたものの量目を約2分の1にとどめ、純金含有量が元禄小判をさらに下回る宝永小判を発行した。

 これらの改鋳により幕府の財政は潤ったものの、これにより通貨の混乱とともに物価の急騰を招き、庶民の生活にも影響が出たのである。荻原重秀に関してはインフレを引き起こしたといった批判とともに、デフレ経済の脱却を成功させ元禄時代の好景気を迎えたとの見方もあり、評価は分かれている。また、荻原重秀は著作を残していないが、「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以てこれに代えるといえども、まさに行うべし」と述べたとも伝えられている。藩札などの紙幣も発行されていたことで、貨幣の発行には信用の裏づけがあればたとえ瓦でも石でも良いとする、現在の管理通貨制度の本質を当時すでに見抜いていた人物でもあったとされる。

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by nihonkokusai | 2016-08-14 07:08 | 国債 | Comments(0)

日銀の国債買入縮小で何が起きるのか

 日銀は9月20、21日の金融政策決定会合において、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現する観点から、量的・質的金融緩和・マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行う。総括の内容とそれを前提としたフレームワークの変更があるのかどうかもわからないが、国債の買い入れを柔軟なものとするのではとの観測がある。

 9日の産経新聞は、緩和の縮小(テーパリング)とみなされる購入量の大幅減少は避けるが、現在年80兆円の買い入れ額を「70兆~90兆円」などと幅を設ける案などが浮上しているという。

 テーパリングという言葉は、米国の中央銀行にあたるFRBが2013年12月に決定した毎月の「国債買入額の減少」を意味する。日銀は現在、長期国債については保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行っている。これに関して日銀の木内審議委員は講演で下記のような発言をしている。

 「日本銀行が、政府の発行額相当分を市中から購入するだけでは、残高増加目標を達成するのが難しくなってきていることを示唆しており、目標に届かない分は、金融機関から償還前の長期国債を購入する必要性が高まっていると考えられます。まさにこのようなタイミングで、金融機関の国債売却のインセンティブを下げるようなマイナス金利が導入されたことを十分に認識しておく必要があると思います。」

 「私は、国債買入れ(長期国債保有残高の増加ペース)を減額することで、国債市場の安定を確保しつつ、効果と副作用のバランスを改善させることができると考えています。一方、日本銀行が長期国債の保有残高を削減しなければ、政策効果の減少に繋がる実質長期金利の上昇を回避することは可能であり、これまで獲得してきた効果をしっかりと確保することができると考えています。こうした考えのもと、私は、昨年4月から、国債買入れの減額を提案しています。」

 FRBのテーパリングは異常な金融緩和策からの出口政策を意味し、テーパリング終了後、昨年12月に次のステップとなる利上げを決定している。このようにテーパリングは緩和策の反対、引き締め政策と映るため、日銀としてはテーパリングを9月に決定するようなことは避けるであろう。しかし、買入額の数字に幅を設けることで、国債買入そのものも柔軟に対応できるようにするという手段は検討される可能性はある。しかし、これは実質テーパリングとなるのではないかとの批判が出ることも予想される。

 一方、このようなタイミングでテーパリングを日銀が決定すればデフレからの脱却がさらに困難になるとの意見があるようだが、異次元緩和で物価目標の達成どころか消費者物価指数は前年比マイナスに沈む中、金融緩和や引き締めでむしろ物価が簡単に動かせるわけではないことも明らかになっており、あまりこの意見には説得力はない。

 ただし、日銀のテーパリングは金融市場に直接影響を与える可能性がある。2013年6月19日のFOMC後の記者会見において、当時のバーナンキ議長は、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせる(つまりテーパリング)のが適当と見ていると述べた。これをきっかけに米国の株式や債券が大きく下落し、これは「バーナンキ・ショック」と呼ばれた。同様の事態が東京市場で起きる懸念はある。

 最も注意すべきことは、日本の債券市場は日銀の国債買入の減額をタブー視していたという歴史が存在するということである。これにはいろいろな要因が重なってのものと思われるが、そのひとつが1998年末の資金運用部ショックと呼ばれる国債価格の急落である。これは日銀ではないが資金運用部の国債買入減額がひとつのきっかけとなっていた。

 日銀は2006年に量的緩和政策とゼロ金利政策を解除したが、その際には国債の買い入れ額は維持している(テーパリングはしていない)。それ以前に速水総裁時代は量的緩和として国債の買い入れ増額を何度か決めていたものの、福井総裁時代は量を増やしても国債の買い入れ額には手を付けていなかった。これは国債買入の減額が難しいことを認識していたからであろう。

 白川総裁時代でも国債買入には慎重となり、2010年10月に決めた包括緩和政策では別枠で国債買入を増額するとしたが、少し待てば償還されて減額も容易な中期債に限っていた。しかし、黒田総裁はそんなタブーは完全に無視して巨額の国債買入と買い入れる国債の年限も思い切って長期化していた。これによりむしろテーパリングをさらに困難にさせたともいえる。

 日銀が自発的にテーパリングを行うとすれば物価目標が達成した結果ということになろうが、果たして物価目標は達成できるのか。このままずるずると巨額の国債買入を続けていると、いずれ国内投資家からの保有国債の引きはがしにも限界がくる。そのときに、しかたなく日銀がテーパリングを行うことになれば、市場は大きく動揺することも予想される。何度も繰り返すが日銀は今まで国債買入の額を減らした経験はない。米国でテーパリングが成功したからといって日本でも問題ないとは言い切れない。かなりうまく市場との対話を進めない限り、日銀のテーパリングにより長期金利が飛び跳ねる危険性もあるのである。

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by nihonkokusai | 2016-08-13 09:56 | 国債 | Comments(0)

日本国債は危なくないのか

 すでに廃刊となってしまっているが、私が文春新書から「日本国債は危なくない」という本を出させていただいたのが2002年9月20日のことであった。この2002年9月20日は日本の国債の歴史において大きな出来事があった日であった。この日の10年国債入札において、10年国債入札として初めての「札割れ」が発生したのである。なんと「日本国債は危なくない」という本の発売日当日に日本国債は危機を迎えたのである。

 当時の10年国債の発行額は一回当たり1兆8000億円であった。その75%の1兆3500億円が競争入札となっていたが、入札予定額1兆3500億円に対して、このときの業者の応札額は1兆1852億円しかなく「未達」が発生した。ただし、当時の10年国債には国債引受シンジケート団が存在し、入札予定額に満たない分はシ団のシェアによって割り振りされるため、当初予定された発行額の1兆8000億円の発行は可能となり、実質発行額が予定発行額に満たない「未達」ではなく「札割れ」との表現になった。

 この入札日の前の9月18日に日銀の速水総裁は、金融システム安定化策としても日銀が直接に金融機関から株を買い取ることを発表した。これを受けて、債券先物が急落し1999年6月11日以来のストップ安をつけたのである。なぜ、日銀が株を買い取ることで債券が売られるのか。その最も大きな理由は、国債に対しての信用に影響が及ぶと思われたためである。日銀がリスクのあるものを買い込んで、日銀券の信用力の裏づけとなる日銀の資産を劣化させれば通貨、つまり円が大きく売られる可能性がある。日本の通貨に対する信用がなくなれば、国債に対する信用にも当然ながら影響を及ぼすためなのである。

 実際に日銀の株買い取りが発表された直後には、円安が進んだ。ところが、日経平均などが上昇したことで、円は反転買い進まれたのである。つまり通貨に対しての信用が失われるとの思惑は一時的であった。それにもかかわらず、債券は売り込まれてしまった。このときの債券の下落の大きな要因は相場の急ピッチの上昇にあったと言える。債券相場は乱高下を繰り返し、かなりのポジションを抱えていた金融機関は身動きがとれなくなってきた。また9月決算も影響してか、積極的に10年国債を買えるところが限られてきた。そんななかでの10年国債入札であったために、札割れが発生したものと思われる。

 またこのときの10年国債の入札は休日前に実施するという異例の事態であったことも影響していた。10年国債の入札は、慣行上、三連続営業日の真ん中に実施される。しかし、今回は三連休が続いたことなどからスケジュールから三連続営業日の真ん中の日の入札が行えなかった。以前もスケジュールにより休日前に実施されたケースもあったが三連休の前日というものはなかった。しかも、この日は政府のデフレ対策が発表されることになったなど、業者・投資家ともポジションを取りにくかったことも確かであった。

 10年国債の入札で札割れが発生したことで、債券先物は再び前日比1円以上も下落したが、それほどパニック的な売りとはならなかった。このときの札割れは特殊要因が重なったためとの認識であったと思われる。

 その後、国債引受シンジケート団は廃止されており、もし仮に今後同様の事態が発生した場合には「札割れ」ではなく「未達」となる。しかし、いまのところ国債の入札における未達の可能性は小さい。これは元々国債への投資家ニーズがあったにも関わらず、強引に日銀が国債を買い入れており、国債の需給が非常にタイトになっているためである。

 その日銀が市場から国債を買い上げる手段が国債買入オペレーションとなる。債券市場関係者が注目しているのは国債の入札時の未達というよりも、日銀の国債買入における未達の方となっている。

この未達が9日に英国で発生した。イングランド銀行は残存15年超の国債を11億7000万ポンド買い入れる予定であったが、金融機関などからの応札額は11億1800万ポンドにとどまり、予定額に達しなかったのである。

イングランド銀行は4日の金融政策委員会で、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。このあらたな国債買入プログラムのもとに行われた国債買入で、早くもつまづいた格好となった。

ただし、英国債はこれにより国債需給のタイトさが意識されてむしろ買い進まれた。英国の10年債利回りは一時0.56%台と過去最低を更新したのである。しかしもし日本で日銀の国債買入での未達が発生すると違った反応を起こす可能性が高い。

日銀の国債買入の未達が頻繁に発生するようなことになると、その対策として日銀が国債買入の額を縮小するなどの対応が取られる可能性がある。これを市場は国債買入額の減少、いわばテーパリングと意識して国債が売られる懸念があるためである。

いずれ日銀の国債買入には限界が来、いうのが市場参加者の共通認識である。日銀は国債残高の三分の一しか買っておらず、あと三分の二も残っているといった乱暴な意見もあるようだが、金融市場でこれだけ巨額な資産は存在しておらず、しかも安全資産と認識されているものでもある。ほかの代替金融商品に変えろといわれても、安全性を兼ね備え日銀担保にも使える巨額な金融商品は存在しない。国債の年間発行額をほぼ日銀に吸い上げられる今の状況は、かなり限度に近いものともいえる。

7月29日の金融政策決定会合後の日本の国債市場でのプチバブルの崩壊もあり、日本国債はここにきて調整局面を迎えたが、これはあくまで買われ過ぎた反動であった。しかし、それでも国債利回りの上昇は急激で他市場にも影響を与えうることも示され、あらためて国債の価格変動リスクも意識された。いまのところは国債の信用リスクに至る懸念はヘリマネが実施されるようなことにならない限りは小さいが、今後の日銀の国債買入の状況次第ではこの価格変動リスクが意識される可能性はある。すぐに来る危機ではないかも知れないが、これも注意すべきものとなる。

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by nihonkokusai | 2016-08-11 10:38 | 国債 | Comments(0)
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