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カテゴリ:日銀( 1086 )

10年債利回りのマイナス化で日銀は動くのか

 29日の引けあとに10年債利回りはゼロ%ちょうどをつけた。日銀は長短金利操作付き量的・質的緩和で、長期金利操作については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行うとしており、まさにその目標値をつけたことになる。

 29日の米国市場ではいったんリスク回避の動きを強めたが、すぐに軍事衝突に至る状況でもないことで、リスク回避の反動が起きていた。このため、30日の東京市場はドル円は上昇したこともあり、株式市場はしっかり。円債は戻り売りに押され、ひとまず10年債利回りがマイナスとなることはなかった。ただし、これはカレント(直近に発行された銘柄)だけの話であり、直近発行の347回債はマイナス金利ではないものの、その前に発行された346回までの銘柄の利回りはマイナスとなっている。

 30日の10時10分に日銀は、残存期間5年超10年以下4100億円、残存期間10年超25年以下2000億円、残存期間25年超1000億円、物価連動債250億円の国債買入をオファーした。買入額はいずれも前回から変わらずとなっていた。

 日銀は8月16日の国債買入のオファーの際、5年超10年以下の買入予定額を前回の4700億円から300億円減額し4400億円とした。さらに25日にも300億円減額し4100億円としていた。

 この国債買入の動きは一時長期金利の0.110%近くまでの上昇を受けて、指し値オペとともに国債買入を増額したことに対し、長期金利が今度は低下基調となっていたことで、買入金額を元に戻すような調整をしたと思われる。目的が長期金利の低下を抑えるものではないことで、減額でオファーされても債券先物などはむしろ買われるような展開となっていた。

 日銀はすでに金融政策の調整目標はマネタリーベースという量ではなく金利に置き変えている。このため保有残高の増加額年間約80兆円をめどとするとの文言は置いてあるものの、実際には国債の需給バランスも意識して買入額を減少させている。これで緩和効果が後退しているのかどうかはさておき、市場参加者も実質的なテーパリングであるものの、正常化に向けた動きとは捉えていない。

 2016年1月の日銀のマイナス金利政策の採用により、10年債利回りどころか20年債利回りまで一時マイナスとなってしまった。これによる民間での資金運用にもマイナスの影響が出始め、大手銀行や生保などのトップから批判が相次ぎ、その結果、イールドカーブを立たせて民間に運用益を確保させようと決定したのが2016年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和であった。

 日銀が金融政策の調整目標はマネタリーベースという量から金利に置き換え、さらに長期金利も操作目標に置いた理由はイールドカーブコントロールにある。正確にはイールドカーブをスティープ化させることが目的となっている。ただし、それも短期金利はマイナス0.1%、長期金利がゼロ%であり、そこから多少オンされた超長期の利回りが意識されていることになる。

 少なくとも長期金利を操作対象に加えた経緯から考えると、日銀としては再び20年債あたりまでがマイナス金利になることは避けたいであろう。つまり10年債が多少のマイナス(マイナス0.1%あたりまで)は許容範囲となろうが、そこからさらなる低下はその要因次第の面はあるものの、長短金利コントロールを打ち出した以上は何かしらの手段を講じる可能性はある。


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by nihonkokusai | 2017-08-31 09:59 | 日銀 | Comments(0)

日銀が長期国債の買入額を減らしても市場は動揺せず

 日銀は8月16日の国債買入のオファーの際、5年超10年以下の買入予定額を前回の4700億円から300億円減額し4400億円とした。

 日銀は7月24日の国債買入で5000億円から300億円減額し4700億円としていたことで、同じ金額の300億円減額となっていたが、市場は今回の減額をサプライズと受け取った。なぜなら減額はいずれあるとしても、200億円として4500億円に戻すとみていたためである。

 2016年当初は5年超10年以下の毎回の買入額が4500億円程度であった。しかし、世界的な長期金利の低下を受けてこの年の7月に4300億円に減額した。そして2016年9月30日にも残存5年超10年以下の買入予定額を4100億円に減額した。

 今年1月27日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円と400億円増額させてきた。これは25日の国債買入での中期ゾーンスキップの代わりに、5年超10年以下を増額した格好となった。しかし、1月末に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」で残存5年超10年以下の買入予定額の2月初回買入は4100億円と元に戻された。

 ところが、2月3日には残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に戻していた。2日の10年債利回りは0.115%まで上昇していたため、それ以上の上昇を抑えるのが目的とみられた。

 これに対し3日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に増額したものの、市場は元に戻しただけとの読みとなった。ある程度の10年債利回りの上昇を日銀は容認していると解釈され、債券が大きく売られた。この急激な利回り上昇を受けて、日銀は指し値オペを実施。5年超10年以下の額を4500億円から5000億円に増額した。

 その後欧米の長期金利の上昇は落ち着いたことから、5年超10年以下の買入予定額を7月24日ら4700億円に減額し再調整し、8月16日にも再調整したが4500億円に戻すのではなく4400億円とした。

 このパターンで行くと来月にも300億円減額し4100億円とすることも予想される。

 8月16日の5年超10年以下の買入予定額の減額による影響は一時的なものとなった。むしろその後、10年債は買い進まれ、債券先物も上昇しており、減額規模はさておき、市場はこの減額はかなり想定していたとみられる。そもそもいまの日本の債券市場は管理相場に近く、売り材料には反応しにくい相場となっていることもあるのだが。


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by nihonkokusai | 2017-08-18 09:45 | 日銀 | Comments(0)

日銀の金融政策の効果だけ強調するのはいかがなものか

 7月23日に審議委員の任期を終え、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストに就任した木内登英氏は4日にブルームバーグとのインタビューで、「いろいろな副作用があることを人々が心配している時に、効果だけ強調する情報発信は問題が大きい」と指摘した。

 果たしていろいろな副作用があることを市場関係者以外でどれだけ認識されているのかは不透明ながら、市場関係者を中心にその副作用を心配していることはたしかである。

 その副作用としては、日銀がマイナス金利政策や大量に国債を買い入れてしまうことで、国債の利回りを押しつぶし、その結果金融機関による資金運用が難しく、収益性の悪化を招いていることがまずあげられる。

 さらに国債市場が機能不全をおこしており、経済や物価の体温計としての役割を果たさなくなったこと。金利がついたり、国債価格が大きく動くということを経験できず、市場参加者の経験値が不足してしまうこともある。それ以上に債券市場の機能低下で参加者そのものが減少してしまうリスクもある。

 大量の国債発行が続いても日銀が大量に国債を買い入れることで、財政規律が緩む懸念が生じるとともに、このまま大量に中央銀行が国債を購入しつつけることで、マネタイゼーションへの懸念が何かのきっかけで生じるリスクもある。

 国債利回りが異常なほど低下しているということは、国債の利回りと価格が反対に動くことで、それだけ異常な国債価格が形成されているということで、ある意味、国債はバブル相場となっているともいえる。いずれこの反動が出る懸念もある。

 それに関係して、日銀の異次元緩和の出口問題も生じることになる。FRBの出口政策はいまのところ、うまくいっているように見えるが、物価目標が達成できないためとして長短金利操作付き量的・質的緩和という長いネーミングの政策を行ってしまっている日銀にとって、出口政策はかなり困難にみえる。市場を動揺させずにうまく出口を模索できるという保証はない。

 以上のような副作用が懸念されるなか、日銀は物価目標達成はさておき、金融緩和による効果が出ていることを強調するのはいかがなものかと木内氏はコメントしている。まさにこれは同意である。日銀が強力にマーケットに働きかけているのの、物価には影響を与えず、それでも一定の効果があると主張していることは、人々に誤った認識を与えかねない。金融政策にまったくの効果がないとはいわないまでも、もう少し現状に向き合った発言も必要ではなかろうか。

 ちなみに、木内委員は、こうした姿勢を軌道修正するきっかけは「人が変わること」であると述べている。これも同意であるが、その人というのは日銀にいる人ではない、とも思うのであるが。


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by nihonkokusai | 2017-08-09 09:43 | 日銀 | Comments(0)

1万円札廃止論に異議あり

 8月1日に日本経済新聞に掲載された「日本は1万円札を廃止せよ」という記事が注目された。これはハーバード大教授のケネス・ロゴフ氏の提言を記事にしたものである。

 この記事によると「現金決済が主流の日本では荒唐無稽と思われがちだが、ユーロ圏だけでなく、カナダやスウェーデン、シンガポールも高額紙幣の廃止を決めた。日本にはまず1万円札と5千円札を廃止することを提案したい」とロゴフ氏は語った。

 何故、高額紙幣を廃止すべきなのか。その理由についてロゴフ氏は以下のように語っている。

 「高額紙幣を廃止して現金取引を電子決済などに置き換えれば、銀行口座などからマネーのやりとりを捕捉できるようになり、脱税の機会は大きく減る」

 2016年8月にインドのモディ首相がテレビ演説で、高額紙幣の1000ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札を演説の約4時間後から無効にすると突然発表した。これはインド国内でテロ行為を行っている過激派グループが、紙幣を大量に偽造し活動資金に充てているためとした。また市民の間でも、脱税目的の現金決済が行われていると説明していた。

 日本では高額紙幣の流通量が多いことは確かである。しかし、その理由として偽造紙幣が大量に出回っているわけではなく(むしろ逆)、脱税目的でアタッシュケースに詰めて現金をどこかに大量に隠している人が多いとも思えない。

 ただし、昔、政治家が大量の割引金融債(無記名)の券面を大量に隠していたことが発覚したように、脱税目的での現金保有の可能性はありうる。しかし、脱税目的の保有が普通にあるというのであれば、日本の国税庁は全く仕事をしていないのか、ということにもなりかねない。

 このあたりについて野村総合研究所の研究員のひとりが「日本での高額紙幣廃止論」というタイトルのレポートを出していた。これによると日本の1万円札を中心とした現金保有の理由を下記としていた。

・現金決済を好む国民性があること

・1990年代末には銀行不安を背景に銀行預金から現金へと資金をシフトさせ、その後もその現金が手元で保有される傾向が続いてきた

・長期化する低金利のもとで銀行預金を保有するインセンティブが低下したこと

・他国と比べて治安が良いため、現金を持ち運ぶことの不安が比較的小さいこと

・どのような地域でも現金が不足する事態が生じにくいこと

・紙幣のクリーン度が高いことなど

 現金決済を好む国民性についてはクレジットカード利用率が米国などに比べて低いことなどからも確かであるが、それ以上に日本では現金が持ちやすく、使いやすいということが大きな理由になっているのではなかろうか。この研究員が指摘するように治安の良さも影響していよう。さらに偽札の流通が他国紙幣に比べて少ないことも挙げられよう。

 この研究員による理由のなかで、あれっと思ったのが、「どのような地域でも現金が不足する事態が生じにくいこと」、「紙幣のクリーン度が高いこと」というものであった。これは当然そうではあるが、理由としては気がつきにくい。これは我々にとっては当たり前に思っているためである。これが当たり前になっているのは、この1万円札を発行している日銀の努力があってのものである。日銀のよる現金取引のインフラが整備されているからこそ、日本では現金が使いやすくなっている側面がある。

 ちなみにこのレポートを書いた野村総合研究所の研究員は木内登英氏であった。先日、日本銀行審議委員を退任したばかりの木内氏である。名前をみて、このレポートの内容もなるほどと思った次第である。


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by nihonkokusai | 2017-08-04 09:48 | 日銀 | Comments(0)

日銀の物価目標はなぜ柔軟性を失ってしまったのか

 7月19、20日の金融政策決定会合が佐藤健裕審議委員と木内登英審議委員にとっては最後の会合となった。「金融政策決定会合における主な意見」から佐藤委員と木内委員の発言とみられるものを確認してみたい。

 「2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するという方針は、政策の自由度を制約しており、先行き の金融政策の正常化を困難にする。2%の「物価安定の目標」の達成は、中長期の目標と明確に位置付けるべきである」

 2012年12月16日の衆院選挙の結果を受けて、安倍自民党総裁が政権を担うことになったが、早速、安倍総裁は政権公約にも掲げていた「大胆な金融緩和」に関して動きを示した。もちろん金融緩和を行うのは政府ではなく日銀であり、「日銀と政策協定を結んで2%の物価上昇目標を果たしていく」と安倍総裁は表明した。さらに日銀が物価上昇率目標(インフレターゲット)の設定を見送れば、日銀法改正に踏み切る考えを明らかにした。

 日銀はすでに2012年2月に物価安定の目途(コアCPIの1%)を示すことにより、実質的なインフレ目標策を導入していた。これは同年1月にFRBが物価に対して特定の長期的な目標を置きPCEデフレーターの2%に置いたことで、日銀も同様の目標値を設定したとみられる。しかし、これに対し安倍首相は1%ではなく2%とさせ、しかも曖昧さを除去させようとした。FRBの目標値はあくまで長期的な目標であり柔軟であるものの、それでは甘いというのが安倍首相というかそのバックにいたリフレ派の主張である。

 2013年1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった(日銀法改正までちらつかせて)「物価安定の目標」を導入することを決定した。物価安定の目標については物価安定の目途を修正し、目途(Goal)を目標(Target)とした上で、その目標を消費者物価指数の前年比上昇率で2%とした。これは欧米中銀のようなフレキシブルなインフレーション・ターゲティングではなかった。政府と日銀の共同声明まで出して、日銀に対し厳格な物価目標を押しつけた格好となった。

 佐藤委員と木内委員が就任したのはこれらのあとの2013年7月であった。その後の4年間をみて、「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するという方針」そのものを疑問視し、政策の自由度を取り戻すべきとしたのは当然のことである。

 しかし、安倍政権が要求している以上、安倍政権が物価目標に対する認識を変えるか、安倍政権そのものがなくならない限りは、現在のような身動きとれない日銀の金融政策が今後も続くことになる。主な意見では次のような発言もあった、これも佐藤委員か木内委員のものであろう。

 「物価目標の達成時期の先送りを繰り返すことは、日本銀行の物価見通しの信認にかかわる。「できるだけ早期に」実現するスタンスを残しつつ、物価の安定が経済・金融の安定を含む包括的な概念であることを踏まえ、「物価安定の目標」を中長期的かつ柔軟な目標と位置付けることが適当である。」


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by nihonkokusai | 2017-08-02 09:45 | 日銀 | Comments(0)

日銀の物価目標はなぜ柔軟性を失ってしまったのか

 7月19、20日の金融政策決定会合が佐藤健裕審議委員と木内登英審議委員にとっては最後の会合となった。「金融政策決定会合における主な意見」から佐藤委員と木内委員の発言とみられるものを確認してみたい。

 「2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するという方針は、政策の自由度を制約しており、先行き の金融政策の正常化を困難にする。2%の「物価安定の目標」の達成は、中長期の目標と明確に位置付けるべきである」

 2012年12月16日の衆院選挙の結果を受けて、安倍自民党総裁が政権を担うことになったが、早速、安倍総裁は政権公約にも掲げていた「大胆な金融緩和」に関して動きを示した。もちろん金融緩和を行うのは政府ではなく日銀であり、「日銀と政策協定を結んで2%の物価上昇目標を果たしていく」と安倍総裁は表明した。さらに日銀が物価上昇率目標(インフレターゲット)の設定を見送れば、日銀法改正に踏み切る考えを明らかにした。

 日銀はすでに2012年2月に物価安定の目途(コアCPIの1%)を示すことにより、実質的なインフレ目標策を導入していた。これは同年1月にFRBが物価に対して特定の長期的な目標を置きPCEデフレーターの2%に置いたことで、日銀も同様の目標値を設定したとみられる。しかし、これに対し安倍首相は1%ではなく2%とさせ、しかも曖昧さを除去させようとした。FRBの目標値はあくまで長期的な目標であり柔軟であるものの、それでは甘いというのが安倍首相というかそのバックにいたリフレ派の主張である。

 2013年1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった(日銀法改正までちらつかせて)「物価安定の目標」を導入することを決定した。物価安定の目標については物価安定の目途を修正し、目途(Goal)を目標(Target)とした上で、その目標を消費者物価指数の前年比上昇率で2%とした。これは欧米中銀のようなフレキシブルなインフレーション・ターゲティングではなかった。政府と日銀の共同声明まで出して、日銀に対し厳格な物価目標を押しつけた格好となった。

 佐藤委員と木内委員が就任したのはこれらのあとの2013年7月であった。その後の4年間をみて、「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するという方針」そのものを疑問視し、政策の自由度を取り戻すべきとしたのは当然のことである。

 しかし、安倍政権が要求している以上、安倍政権が物価目標に対する認識を変えるか、安倍政権そのものがなくならない限りは、現在のような身動きとれない日銀の金融政策が今後も続くことになる。主な意見では次のような発言もあった、これも佐藤委員か木内委員のものであろう。

 「物価目標の達成時期の先送りを繰り返すことは、日本銀行の物価見通しの信認にかかわる。「できるだけ早期に」実現するスタンスを残しつつ、物価の安定が経済・金融の安定を含む包括的な概念であることを踏まえ、「物価安定の目標」を中長期的かつ柔軟な目標と位置付けることが適当である。」


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by nihonkokusai | 2017-08-02 09:45 | 日銀 | Comments(0)

金融緩和で雇用が回復という理屈はおかしい

 7月19、20日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見が28日に公表された。このなかから気になったところをピックアップしてみた。

 「現在の金融政策を続けていけば、失業率がさらに低下し、需給ギャップのプラス幅が拡大するもとで、物価は経験則に沿って上昇していく。需給ギャップと物価の関係には半年ほどのラグがあるので、需給ギャップの値が変わらなくても、物価は上がっていく。現実の物価が上昇すれば、予想物価上昇率が高まり、それがさらに現実の物価を上昇させるメカニズムも存在する。」

 現在の金融政策が失業率を低下させているという前提であるが、緩和環境が雇用の改善に対して影響がないとまでは言わないまでも、金融政策によって雇用が改善しているわけではない。そもそも日銀の金融政策の目的には雇用はうたっておらず(FRBは目標に含む)、物価の安定が目的のはずであり、金融政策により物価目標を達成することで雇用の改善も図られるというものがシナリオではなかったのか。物価が上がらず雇用だけが回復するというのであれば、その要因としては金融政策以外の要因が大きいとみるのが妥当ではなかろうか。

 物価の経験則も意味がわからない。需給ギャップと物価の関係には半年ほどのラグがあるというのも、元々は金融緩和と物価のギャップのはずであり、すでに異常な緩和を続けて4年経つが、どれだけラグがあるというのであろうか。

 「物価が弱めの動きとなっている主因は、2014年の消費税率引き上げ後の消費の回復が弱いために、企業が、人手不足により人件費が増加する中でも、価格を引き上げることができずにいることである。2%の「物価安定の目標」の達成のためには、消費拡大により需給ギャップを改善し、企業の価格設定行動を強気化していく必要がある。」

 消費の低迷を単純に2014年の消費税率引き上げによるものと決めつけるべきではないし、その影響がここまで継続するとみるのもおかしい。消費の伸びの鈍化も消費増税以外の要因によるものとみるのが普通ではなかろうか。そもそも消費増税で金融緩和の効果が削がれ、物価上昇も消費回復も阻害されたものの、雇用については金融緩和によって、まれにみる回復を遂げているとの認識は明らかにおかしい。

 「「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」には、時間はかかるものの、需給ギャップを確実に改善し、消費も拡大させるメカニズムが組み込まれている。2%の「物価安定の目標」が持続的に達成されるまで、この政策を続けるべきである。」

 すでに4年という月日が流れており、時間が掛かりすぎと言うより、異次元緩和にはそのようなメカニズムが組み込まれていないと見た方が素直ではなかろうか。あくまで非伝統的手段を含む異常ともいえる金融緩和は、物価対策などではなく、世界的な金融経済危機に対する市場の不安除去機能が重視されていたものであった。それを危機が後退するような時期にはじめてしまった日銀の異次元緩和は、むしろ金融緩和による直接的な効果に対し疑問を抱かせるものとなってしまっているようにもみえる。



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by nihonkokusai | 2017-08-01 09:33 | 日銀 | Comments(1)

日銀の金融政策では反対意見に耳を傾けることも必要では

 「一人の委員は、2%の「物価安定の目標」は金融政策の自由度を奪っていると指摘したうえで、これを中長期の目標へと柔軟化しつつ、金融政策の正常化に向けた道筋として、将来の政策金利引き上げに関わる経済条件を示していくことが適当であると述べた」

 これは 6月15、16日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨に記述されていたものである。その内容からみて、金融政策決定会合において長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)、資産買入れ方針と両方で反対票を投じていた佐藤健裕委員、もしくは木内登英委員による発言とみられる。

 木内委員は今年2月の山梨での公演で以下のように述べていたことで、上記の発言は木内委員のものではなかろうか。

 「2%の「物価安定の目標」は中長期的に目指す目標とし、2%の「物価安定の目標」と整合的な強い経済の実現を政府や企業とともに目指すための一種の象徴として位置付けることが良いと私は考えています。」

 7月1日にカナダ銀行が7年ぶりの利上げを決定し、正常化に向けて舵を切ったFRBに追随した最初の中央銀行となった。さらにイングランド銀行やECB、スウェーデン中銀(リクスバンク)などが緩和バイアスを解除し、利上げもしくはテーパリングを模索しようとしている。

 しかし、英国など除いて総じて物価指数は2%に届いていない。これは正常化を進めている米国も含まれる、それにも関わらず何故、正常化に踏み出すのか。

 ECBのメルシュECB専務理事は「状況が正常化する中で、非伝統的政策が引き続き必要になる可能性は低い」と発言していた。百年に一度とされる世界の危機的状況は後退してきており、過剰とも言える金融緩和策を修正する必要があり、金利もファンダメンタルに即した水準に戻る必要性がある。このために正常化を進めようとしている。そのためには物価目標に固執せず柔軟な対応が必要との認識ではなかろうか。

 しかし、日銀は2%の物価目標に固執するあまり、欧米の中央銀行のような柔軟な対応が取りづらくなっているようにも思われる。木内委員の意見はあくまで少数派の意見ではあるものの、その意見にも耳を傾けることも必要ではなかろうか。

 その木内委員と佐藤委員は7月23日に審議委員の任期を終えた。あらたに片岡剛士氏と鈴木人司氏が審議委員に就任した。

 日銀の金融政策決定会合では必ずしも全員一致で決定する必要はなく、むしろ反対意見も重要なものとなり、その反対意見が今後の金融政策の道筋を作ることもありうる。このあたりも是非、政策委員の方々には考慮願いたいと思う。


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by nihonkokusai | 2017-07-31 10:05 | 日銀 | Comments(0)

日銀はそろそろ軌道修正を決断すべきでは

 7月28日に発表された6月の全国消費者物価指数は総合で前年比プラス0.4%、生鮮食料品を除く総合(コア)で前年比プラス0.4%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)で前年比ゼロ%となった。これは3つとも5月の数字と同じとなった。

 電気代の上昇幅が拡大したほか、都市ガス代がプラスに転じたものの、ガソリンなどの上昇幅が縮小し、エネルギーにより総合の上昇幅は0.01ポイント縮小。生鮮食品を除く食料により総合の上昇幅が0.01ポイント拡大し、家庭用耐久財により総合の上昇幅が0.01ポイント拡大していた。

 先行指標となる東京都区部の7月のCPIは総合が前年比プラス0.1%、コアが前年比プラス0.2%、コアコアは前年比マイナス0.1%となっていた。

 日銀の物価目標であるところの全国コアCPIの前年比は今年1月にプラスに転じたあと、プラス圏を維持しているが、目標値の2%にはまだかなり距離があり、日銀も前回の展望レポートで物価目標の達成時期を2019年度頃に先送りしている。

 その日銀はコアCPIや日銀版コアコアCPIなど値動きの大きな品目を除去した指数の方が、日本経済の潜在的な供給力に対する需要の過不足を示し、景気の良し悪しを反映するとされる需給ギャップの動きと連動する度合いが大きいとしていた(日銀のレポートより)。

 しかし、コアコアをみると6月の全国の指数でゼロ%、7月の東京都区部はマイナスとなっており、日銀の物価目標からはさらに遠ざかることになる。

 しかもこの数字は2013年4月に量的・質的緩和政策を決定し、その後、マネタリーベースは増加し続けているだけでなく、マイナス金利政策や長期金利操作まで加えた結果である。日銀の金融政策が物価の押し上げには寄与していないことは、これをみても明らかであろう。

 原油価格の下落や消費増税による影響で上昇が抑制されているとの見方もおかしい。ここにきての物価上昇はその原油価格の下落が止まり反発してきたことが影響している。前回の消費増税は2014年4月であり、それによる直接的な影響は1年後になくなる。間接的な影響が仮に残っていたとしても、それは具体的に立証できるものではない。むしろここにきての景気の底堅さなどからは、すでに消費増税による物価への影響はほとんど無視できるものとなっているのではなかろうか。

 日本の物価が上がらないのは何故か。それは日銀の金融緩和が物足りなかったわけではないことをこの4年で日銀は明らかにした格好となった。それであれば、非常時の対応とすべき異次元緩和の修正をそろそろ加えてもおかしくはないのではなかろうか。市場による過剰反応が恐いこととは理解できなくもないが、異常な政策が潜在的な副作用を高めていることも確かで、それが債券市場の機能不全等に現れている。日銀はそろそろ軌道修正を決断すべきではないかと思う。


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by nihonkokusai | 2017-07-30 12:41 | 日銀 | Comments(0)

日銀の5年超10年以下の国債買入減額に市場は動揺せず

 日銀は7月24日の国債買入で、5年超10年以下の買入予定額を前回の5000億円から300億円減額し4700億円とした。今回はこの5年超10年以下の国債買入額の変遷を確認してみたい。

 2016年当初は5年超10年以下の毎回の買入額が4500億円程度であったものが、7月に4300億円に減額した。この時期に世界の長期金利が過去最低を更新するなどしており、7月6日には日本の20年債利回りも一時マイナスとなった。この金利低下のペースをダウンさせる意味もあっての減額であり、超長期ゾーンも同時に減額していた。

 そして2016年9月30日にも残存5年超10年以下の買入予定額を4100億円とし前回の4300億円から200億円減額した。この日の10年国債の利回りはマイナス0.090%に低下していた。そして数日前にはマイナス0.095%にまとまった売りが入るなどしていた。日銀の長期金利の操作目標についてはある程度の幅があると予想されており、市場はそのレンジを見定めようとしていた。その下限がマイナス0.1%であろうとの認識であったが、それが日銀が国債の買い入れを減額することで裏付けられた格好となった。

 今年1月27日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円と400億円増額させてきた。これは25日の国債買入での中期ゾーンスキップの代わりに、5年超10年以下を増額したとも見えた。中期ゾーンの国債買入の減額による影響を抑えるために長期ゾーンの買入を増やしたとも捉えられた。

 しかし、1月末に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」で残存5年超10年以下の買入予定額の2月初回買入は4100億円と元に戻されていた。

 ところが、2月3日には残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に戻していた。この際に市場は日銀のイールドカーブコントロールによる長期金利の居所を改めて探りに来ていた。2月2日の14時前に市場は日銀が想定するとみていた長期金利の上限の0.100%を試しにいった。2日の10年債利回りは0.115%まで上昇していた。

 これに対し3日に日銀は残存5年超10年以下の買入予定額を4500億円に増額したものの、市場は元に戻しただけとの読みとなった。ある程度の10年債利回りの上昇を日銀は容認していると解釈され、債券先物が大きく売られることになった。この急激な利回り上昇を受けて、日銀はこの日の12時半というイレギュラーな時間帯に指し値オペをオファーした。残存期間5年超10年以下の固定利回格差は0.006%。この結果10年利付国債345回の買入利回りは、0.110%となった。

 日銀は今月7日、欧米の国債が売られ10年債利回りが0.105%まで上昇したのに対し、5年超10年以下の額を4500億円から5000億円に増額、指し値オペもオファーした。

 その後欧米の長期金利の上昇は落ち着いたことから、5年超10年以下の買入予定額を4700億円に減額し再調整した。ただし減額は300億円に止め、来月の国債買入予定発表日である28日での減額も避けるなど、市場にも配した格好となった。実際に債券市場は以前のように細かい修正に大きく反応するようなことはなくなり、今回の減額による影響はほとんどなかった。


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by nihonkokusai | 2017-07-26 10:00 | 日銀 | Comments(0)
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