「ほっ」と。キャンペーン

牛さん熊さんブログ

bullbear.exblog.jp ブログトップ

カテゴリ:アベノミクス( 82 )

トランプ相場の背景にあるポスト・グローバル危機

 金融市場、金融相場の世界では、ある言葉が流れの変化を象徴することが多い。昨年の米国大統領選挙の結果を受けての「トランプ相場」とか「トランプラリー」と呼ばれるものもそのひとつである。

 日本でも「アベノミクス」と呼ばれた用語が相場に限らず、日本全体に何か大きな変化をもたらせたかのように受け止められている。それより少し前の「欧州の信用不安」や「リーマン・ショック」も同様に百年に一度と呼ばれた世界の金融経済危機を象徴する用語となっていた。

 ただし、注意すべきはこれらの用語が一人歩きしてしまい、あたかもトランプ氏や安倍首相の登場が、金融市場の流れを突然変えてしまったかのような見方をしてしまうことである。

 「リーマン・ショック」という用語は英語にはない。いわゆる和製英語である。英語では「the financial crisis」とか呼んでいるようである。これは2007年のサブプライム住宅ローン問題がきっかけとなり、ある種のバブル崩壊が発生した上に、金融商品のリスクの行方が広範囲に拡大していたことで、金融バブルの崩壊とも言えた。その象徴的な出来事のひとつが、リーマン・ブラザーズの破綻であった。

 「アベノミクス」についても、安倍首相のリフレ政策への発言は、あくまでひとつのきっかけにすぎない。「リーマン・ショック」のあとの「欧州の信用不安」の拡大で、かつてないほどのリスク回避の動きが極まり、それが解消されつつあったタイミングで出てきたのがアベノミクスである。そのため急激な円安株高が起きたが、リフレ政策で物価目標は達成されていない点だけをみても、物価を上げるはずのアベノミクスは成功したわけではなく、タイミングの問題とも言えた。

 アベノミクスと呼ばれた現象の背景にあったのが、世界の金融市場を揺るがした大きな危機からの脱却であり、それを象徴するのが米FRBの正常化に向けた動きとなった。しかし、日銀はアベノミクスに引っ張られ、ますます深みにはまり、ECBも異常な緩和を続けている。これは流れを読み切れていなかったともいえるのではなかろうか。物価の低迷は金融政策が足りなかったからというわけではない。原油価格の持ち直しで、それも次第に解消されつつある。

 そんなタイミングで出てきたのがトランプ相場である。2016年12月のFRBによる二度目の利上げは遅かったぐらいではあるが、2016年に入っての中国など新興国経済への懸念と原油安によるリスク回避の動きなどが、米再利上げを躊躇させた。しかし、このリスク回避の動きの大きな要因はそのFRBの利上げであり、過剰流動性の後退と原油安が新興国に与える影響が危惧されたと言える。しかし、原油価格は底を打ち、新興国経済もそれほど悪化することはなかった。

 さらに予想外ともいえる国民投票による英国のEU離脱決定も、世界の金融市場を揺るがしかねないとされた。しかし、これもギリシャ危機に比べると市場は比較的冷静であった。ドイツ銀行やイタリアの銀行の問題も懸念されたが、すでにこのような危機に対してはブラックスワンとはなっておらず、危機を防ぐための手段も講じられていたことや、過去の経験も生きたことで、これらによるリスク回避の動きも一時的なものとなっていた。

 もちろん今年、2017年にも新たな危機が生じる可能性はある。その火種もある。しかし、2007年から2012年あたりにかけての金融経済危機を乗り越え、ポスト金融経済危機の時代に移りつつあるとの見方もできよう。それがここにきてのトランプ相場と呼ばれる世界的な株高、長期金利上昇の背景にあるとも言えるのではなかろうか。象徴的な言葉に惑わされることなく、背景にある流れについても認識しておくことも重要だと思われる。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2017-01-05 09:43 | アベノミクス | Comments(0)

菅官房長官と黒田日銀総裁による円安政策とは何か

 27日の日経新聞の一面に、気になる記事というかコメントがあった。これは菅官房長官とのインタビューのなかで、為替に関して、円安となっているのは私たちが為替の危機管理をちゃんとやっているからだ、との発言である。具体的な対応については、「そこは色々と。私たちへの意識は強く、中途半端な決断ではない」と官房長官は発言していたのである。

 これはアベノミクスの元締めとも言える人物からの発言だけに、「色々と」とは何をしたのかはたいへん気になる。菅官房長官など官邸関係者が見ているのはドル円と日経平均が主だとみられる。官邸がたとえば為替に絡んで米国政府やFRBに直接働きかけをしたとは思えない。米大統領選挙についても結果が出てから慌てて首相がトランプ氏に会いに行ったぐらいで、事前に何か準備がされていたとは思えない。

 官邸による危機管理、中途半端な決断ではないものとはいったい何であろうか。トランプラリーが起きる前の円高の要因は、中国をはじめとする新興国経済の減速への懸念によるリスク回避の動きによるものであった。その後、英国のEU離脱などによってさらにリスク回避の動きを強めたが、これらは日本政府がどうのこうのできる問題ではない。

 トランプ氏の大統領選の勝利をきっかけとした円安ドル高も、日本が牽引したわけでは当然ない。リスク回避の反動のきっかけにトランプ氏の登場がなったわけでもあり、素直な市場の動きとも取れる。

 それでも「中途半端な決断ではない」ものとしては、ひとつ該当しそうなものがある。日銀が9月に決定した長短金利操作付き量的・質的緩和である。11月の消費者物価指数はコア指数で前年比マイナス0.4%となったが、日銀がいくら異次元緩和をしようとも物価は結果として目標には全く達していない。アベノミクスの主役であった金融政策は目標達成には何ら効果を及ぼさなかったこととなるが、それに危惧したのは日銀だけでなく、官房長官も同様であろうか。

 今年9月の日銀の総括と長短金利操作付き量的・質的緩和の決定に関しては、これまでの経緯からみても菅官房長官がまったく関与していなかったとは思いづらい。特にアベノミクスについては当初から物価そのものよりも、為替というか円安と株高が意識されていたはずである。特に長短金利操作付き量的・質的緩和についても、重点が量から金利に移行するため、リフレ派の意向を汲んでいるとみられる菅官房長官にとっては「中途半端な決断」ではなかったのかもしれない。ところがこれがトランプラリーの結果、功を奏する格好となった。

 黒田日銀総裁は12月26日の講演において、海外経済の好転が明確になっていくにしたがって、日本の長期金利にも上昇圧力がかかってきているものの、10年物金利は「ゼロ%程度」で安定的に推移しており、このことは「イールドカーブ・コントロール」が所期の効果を発揮していることを示しているとしている。これにより、グローバル経済の回復のモメンタムを、わが国経済にとってより大きな「推進力」に増幅していくことが可能になるとしている。

 何ということはない。直接触れていないが、日米の長期金利の較差の広がりにより円安効果を生み出すことを指摘しているとみられる。この見方を菅官房長官は共有しているのではないかと思われるのである。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-12-28 09:59 | アベノミクス | Comments(0)

量の政策の誤りを認めた浜田内閣官房参与

 15日の日経新聞に浜田宏一内閣官房参与とのインタビュー記事が掲載された。このなかで浜田氏は次のような発言をしていた(以下、日経新聞朝刊より引用)。

 「アベノミクスの『第1の矢』では岩田規久男日銀副総裁のインフレ期待に働きかける政策が効いた」

 「国民にとって一番大事なのは物価ではなく雇用や生産、消費だ。最初の1、2年はうまく働いた。しかし、原油価格の下落や消費税率の5%から8%への引き上げに加え、外国為替市場での投機的な円買いも障害になった」

 「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」

 2012年11月にスタートしたアベノミクスと呼ばれた大胆な金融緩和を中心とした政策は、インフレ期待に働きかける政策が効いたものの、原油価格など外的要因の障害により物価上昇が阻まれたかのような分析である。このあたりは日銀の主張と一致する。しかしである。少なくとも一時的には効いたとした量による政策効果をここにきて否定してきたのである。

 学者があらたな事実が発覚したことで、考え方をあらためるということは通常であれば、当然あってもしかるべきということになろう。しかしである。浜田氏はその間違っていた政策を政府に提言した上で実行に移されてしまった。いわば実証もされておらず、むしろ以前の日銀を中心にリフレ政策は誤りであると認識されていたものを、アベノミクスというかたちで実行に移してしまった。それが4年経ってやっと浜田氏がその誤りを認める事態となった。浜田氏は次のような発言もしている。

 「(著名投資家の)ジョージ・ソロス氏の番頭格の人からクリストファー・シムズ米プリンストン大教授が8月のジャクソンホール会議で発表した論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」

 いまさら目からウロコもないであろう。そもそも金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるというのもおかしい。政策金利がゼロ近くになってしまったのでその代替手段として出てきたのが量的緩和ではなかったのか。ただし、量を増やせば物価が上がるという波及経路に関しての認識が誤っていたことも、ある意味立証されたということになる。

 しかし、だから減税も含めた財政の拡大が必要だという理論も本当に正しいのか。リーマン・ショックや欧州の信用不安に対して、日米欧の中央銀行が大胆な金融緩和を実施したのは、財政出動に限界が来ていたためである。金融緩和がダメなら財政出動という考え方はあまりに安易すぎる。

 浜田氏がデフレはマネタリーな現象だとの説の誤りを認めても、日銀が踏み込んでしまった異次元緩和は簡単に止めることはできない。ブレーキすらも掛けることが難しいことで、それとなく買入額の縮小も可能となる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という絡め手を打ち出した。しかし、これにも「オーバーシュート型コミットメント」を付けないとリフレ派の賛同は得られなかった。「オーバーシュート型コミットメント」とは安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するというものであり、これは浜田氏が認めた間違った政策を強く押し進める姿勢を示してしまったものである。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-11-16 09:46 | アベノミクス | Comments(0)

アベノミクス相場とトランプ相場の相違点

 11月14日に発表された日本の2016年7~9月期の国内総生産(GDP)一次速報値は実質で前期比0.5%増、年率換算では2.2%増となった。輸出の伸びがけん引した格好となり事前予想も上回り、プラスは3四半期連続となった。これを見る限りにおいて日本の景気はしっかりしている。

 これに対して足元の物価は、指標となっている消費者物価指数(除く生鮮食料品)は前年比でマイナスが続いている。これでは、日銀の大胆な金融政策が物価上昇に働きかけて、それにより景気が回復しているとの説明には無理があろう。日本だけではなく欧米の景気もしっかりしている。これについて、日米欧の大胆な金融緩和の効果によるものとの説明は無理がある。低金利による効果がまったくなかったとは言えないが、それはあくまで時間を稼ぐ手段であり、そのほかの要因を見る必要があろう。

 2012年11月あたりからの東京市場での急激な円安株高とそれを受けての景気の回復、物価の一時的な上昇は「アベノミクス」と呼ばれた。その大きな要因として日銀の大胆な金融緩和が挙げられている。しかし、その後の特に物価の推移を見てもわかるように、日銀の金融政策が直接寄与したとの見方には無理がある。

 リーマン・ショックと呼ばれた米国の金融市場を揺るがした出来事から、ギリシャの財政不安をきっかけとした欧州の信用不安とユーロというシステムの危機は、その波乱の中心となっていた金融市場を沈静化することによって収まってきた。それに関しては日米欧の中央銀行による非伝統的な金融緩和が鎮静剤として功を奏したことは確かである。そしてアベノミクスについてもリフレ政策宣言がマーケットを震撼させるきっかけとなったことも確かであるが、あくまでそれまでの急激な円高株安の反動によるものとの説明のほうが素直であろう。

 そこに消費増税前の駆け込み需要、便乗値上げなども絡んで、円安効果とともに物価上昇に寄与したが、金融緩和そのものの直接効果があったわけではない。あったとしても市場に対してのアナウンスメント効果に過ぎない。だから日銀の異次元効果に対する分析も外為市場、株式市場、債券市場を通じた分析とならざるを得なかった。個人や企業に直接影響を与えたものとは言いづらい。

 そして今回のトランプ相場であるが、これによる金融市場への影響の結果としては、欧米の長期金利の上昇、株式市場の上昇、そしてドル高といったかたちで現れた。ただこれは、その流れを加速させたきっかけと認識された面がある。

 今年に入っての中国などの新興国経済の悪化懸念とそれによる原油価格の下落が、日米欧の金融市場でリスクオフの動きを加速させた。その後、今度は英国のEU離脱というショックが襲った。しかし、いずれもリーマン・ショックやギリシャ・ショックのような深刻な事態に陥ることはなかった。新興国経済も何とか持ち直す動きを見せている。これについては日経新聞電子版の記事が、CRB工業原材料価格指数の上昇による新興国経済の持ち直しを指摘している。CRB工業原材料価格指数の上昇が米長期金利の背景のひとつとなっている可能性がある。

 原油先物については、WTIが節目とされた50ドル台を一時回復するなど、こちらも持ち直してきていた。ここにきてOPECの減産合意への不透明感から下落しているが、それでも40ドル台にあり、一時の30ドル割れからは回復している。

 つまり百年に一度とされたショックからやっと解放され、それがアベノミクスを生んだ。その後も小規模なショックはあったが、世界の景気は底堅いものとなり、日米欧の異常ともされた金融政策には限界が意識されるとともに、変化も生じてきた。そんななかにあってのトランプ氏の登場は、金利を抑制するという懸念より、今後の金利上昇を見据えた期待感も強まったなかに出てきたものとも言える。アベノミクスは流れの変化時にそれを加速させた。トランプ氏の登場は、その政策の善し悪しはさておいて、異常な低金利時代の終わりを告げるようなきっかけとなることを予感させるのである。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-11-15 09:54 | アベノミクス | Comments(0)

今更ながら、アベノミクスという現象への疑問

 日銀の黒田総裁は8日のブルッキングス研究所における講演で、イールドカーブコントロール(国債の利回り曲線操作)政策を導入した理由について以下のような説明をしている。

 「金利水準と金融緩和効果の関係です。長短金利が有意にプラス領域にあったときは、経済への影響だけを考えれば、金利は低いほど金融緩和効果が高まると考えることができました。しかし、短期金利がマイナスとなり、長期金利もきわめて低い水準まで低下すると、金融仲介機能ひいては金融緩和効果を低下させる副作用あるいはコストが生じうることが認識されました。こうした点を踏まえると、経済・物価に対して最大限の金融緩和効果を引き出すためには、最適と考えられるイールドカーブの水準や形状があるのではないか」

 つまり日銀は今年1月にコスト(悪影響)よりもベネフィット(好影響)が上回るからマイナス金利を導入したはずであるが、やってみたらコストの方が大きくなり、引き返すほうが無難と認識したようである。

 しかし、市場に日銀が方向転換したと認識されると円高株安を招きかねないため、方向は変えずにコスト面を回復するために長期金利の引き上げを狙うことに今回のイールドカーブコントロール政策の狙いがあるように思われる。

 ところがそのコストとベネフィットとは具体的に何を示しているのかがはっきりと示されていない。マイナス金利政策から今回の長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策に至る過程をみてみると、どうやら民間金融機関のコストとベネフィットが意識されているように思われる。しかし、本来であれば財政政策と並ぶ政策である金融政策である以上は金融機関への影響に止まらず、国民全体でのコストとベネフィットという認識が必要であり、それが具体的にどのようなコストとベネフィットであったのかを説明する必要もあるのではなかろうか。

 そもそも「金利は低いほど金融緩和効果が高まる」ことについても、金利がかなりついている際には多少なり影響があっても、ほぼゼロ近くでコンマいくつという小幅引き下げにどのような効果があるのか。

 中央銀行のアナウンスメント効果についても、日銀の異次元緩和の元、金融市場に一時的な影響を与えられても物価のコントロールにはほとんど影響がなかったことが結果として示されている。今回のオーバーシュート型コミットメントの効果も、もし限定的となれば、中央銀行のアナウンスメント効果についてあらためて疑問が投げかけられる可能性がある。

 むろんアベノミクスというアナウンスメント効果については、急激な円安株高を招き、その後の前年比プラス1.5%の物価上昇を招いたかに見える。しかし、これについても果たして日銀の異次元緩和がどのようにして作用したのかといった具体的な検証はなされていない。むしろ欧州の信用不安をきっかけとしたリスクオフの反動による円安株高、不安感の後退による地合の好転、消費増税に向けた駆け込み需要、便乗値上げなどの影響の方が大きかったのではなかろうか。

 株や為替、債券を含めて、いわゆるディーリングで大きな損失をもたらすディーラーのひとつの共通した特徴がある。これらのディーラーは当初、大きな利益を得ていたことが多い。これを自分の実力と勘違いし、俺は売買がうまい、俺の考え方は間違っていないとばかり、その後のディーリングで損失を繰り返してしまう。当初の利益は本人の実力というより、たまたまタイミングが良かっただけであったことが多い。アベノミクスと呼ばれた現象もタイミングが良かっただけなのではなかろうか。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-10-12 09:56 | アベノミクス | Comments(0)

ポケモノミクスからマリオノミクスへ

 9月7日のアップルのスペシャルイベントでの期待は当然ながらiPhone7であった。ところがそのイベントに意外な人物が登場した。任天堂の宮本茂氏である。任天堂のiOS機向けアプリとして「スーパーマリオラン」が発表されたのである。念のためこれは日本国内向けのイベントではない。世界から注目を帯びていた新型iPhoneの発表の場であった。

 8月21日深夜(日本時間22日午前)のリオデジャネイロ・オリンピックの閉会式に現れたのも安倍首相が分したマリオであった。閉会式のなかで2020年の東京五輪への引き継ぎ式が行われた。そこでのプレゼンテーションの映像は非常に洗練されたものであった。日本国歌そのものをアレンジしてしまったところから驚かされたが、その映像技術とともに、コンテンツの内容も日本を代表するキャラクターがこれでもかと詰め込まれ、その最後に登場したのが安倍マリオと称された安倍首相によるマリオであった。

 これも当然ながら世界の人々が見ていた。中国・杭州で9月4、5日に開かれた主要20か国・地域(G20)首脳会議でも安倍マリオが話題となり、各国首脳らから「非常に高いパフォーマンス」と評価する声が寄せられたそうである。さらには世界銀行のキム総裁からは「親子の会話のきっかけになった」と謝意が示される場面もあったそうである。

 そしてその前にもうひとつ世界を揺るがすような大きな出来事があったことを忘れてはいけない。ポケモンGOの登場である。ダウンロード数などすでにギネスに登録されるなど、世界各国で社会現象化した。ポケモンがこれほど世界の人々に愛されていたことに気付かされる現象とも言えた。これは経済的な効果も期待されたことで、アベノミクスならぬポケモノミクスとも呼ばれた。

 アベノミクスと呼ばれた経済政策の柱は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」であった。このうち「大胆な金融政策」が最も効果があったとされているが、9月20、21日の総括的な検証でその修正が加えられようとしている。その効果そのものに対して疑問を持つものも多く、金融機関の収益への影響ばかりでなく、債券市場の機能を低下させるなどの副作用も出ている。機動的な財政政策もこれまでの自民党の財政政策とは何ら変わることはなかった。実は最も期待されていたはずのものが成長戦略であった。しかし、それは飛ばない矢とも比喩されていた。

 日本における成長戦力とは何か。これはリオデジャネイロの閉会式で安倍首相が自ら強く感じ取ったものではなかったろうか。日本の誇る映像技術、ロボット技術なとどともに一番目立っていたのがドラえもんやハローキティ、キャプテン翼、パックマンなどのキャラクター達であった。これらのキャラクター達の人気は国内に止まることなく、ワールドワイドのものであることを日本人に知らしめたのではなかろうか。

 そこにポケモンGOの世界的な社会現象化、さらには現在のハイテク技術のシンボル的な存在である新型iPhoneの発表の場でのマリオの登場も、それだけキャラクターが世界の人々に愛されているからこそのものとなる。

 日本にとってこのキャラクターたち、つまりはハードではなくソフトの部分をもっと効果的に使えないのであろうか。つまりポケモノミクスやマリオノミクスである。成長戦略はむろんバードの面の日本技術の強さを向上させることも重要だが、せっかく世界の人々に愛されているこれだけのキャラクターを生かして、日本そのものをアピールしていくことも重要ではなかろうか。そのキャラクターを生み出す産業もしっかりと育成していくことも大切である。

 これから2020年の東京オリンピックの開会式の演出なども練られることであろうが、それを通して日本の成長戦略として必要なものも再点検することが重要ではないかと思う。日銀が大量に国債を買っても世界は変わらないが、日本で生まれた大量のキャラクター達をうまく使えば、日本の将来に対する展望も開ける可能性がある。こちらのほうが余程、健全な政策であると思う。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-09-08 19:41 | アベノミクス | Comments(0)

アベノミクスでレジームチェンジは起きず

 世界最速でデフレからの脱却に成功させた高橋財政を模範にしたのが、アベノミクスと言える。これは安倍晋三首相が口にした「レジームチェンジ」という言葉にも現れていた。本田悦郎内閣官房参与(当時)は2013年2月の時事通信社とのインタピューで次のように語っている。

 『「レジームチェンジ」、つまり金融政策の枠組みを変えることによって、緩やかなインフレ予想を国民に持ってもらうことが重要だということです。デフレに順応するのではなくて、デフレと闘う積極的な金融政策、積極的な日銀を演出する。そのためには、それまで日銀がやっていたような小出しの金融緩和ではだめです。2%のインフレ率を達成するまでは「無制限」に国債、特に長期国債を買っていくとアピールすべきだと申し上げました。「レジームチェンジ」「無制限国債購入」でいきましょうと。』

 安倍首相がレジームチェンジという用語を口にしたのは、本田氏の助言による可能性もあった。本田氏の当時の主張は日銀が無制限に国債、特に長期国債を買っていくと2%の物価目標が達成できるというものであった。

 それを日銀は2年で達成するとしたのが2013年4月に決定した量的・質的緩和政策であった。それから3年4か月が経過したが、日銀が目標と置いた消費者物価指数(総合)の直近の数字はマイナス0.4%である(今年6月分)。

 レジーム転換(レジームチェンジ)という用語を調べて見ると、このような説明があった。

 「需要がないから、いくら資金を供給しても無駄という受動的な金融政策のスタンスを、事前に決められたインフレ率に到達するまで積極的に資金を供給し続け、断固としてデフレに立ち向かう、という能動的な金融政策へ転換させることを意味している」(「平成大停滞と昭和恐慌」田中秀臣・安達誠司著)。

 この本のなかで、レジーム転換の事例として、高橋財政における1931年11月の禁輸出禁止と1932年12月の日銀の国債引受開始をあげている。これは日銀副総裁である岩田規久男の「昭和恐慌の研究」で示したリフレ政策であり、アメリカの経済学者であるトーマス・サージェントやピーター・テミンらの「政策レジームの変化」の研究を踏まえ生まれたものとされている。

 アベノミクスは岩田規久男日銀副総裁や、浜田宏一内閣官房参与、本田悦朗内閣官房参与などいわゆるリフレ派と呼ばれる人達の考え方が強く反映されている。そのリフレ派の人達が、デフレ脱却の見本としたのが高橋財政であり、特に1931年11月の禁輸出禁止と1932年12月の日銀の国債引受開始という二段階でのレジームチェンジによりデフレ脱却を可能にしたとしていた。

 果たして高橋財政が今の時代でも通用するのか。そもそもアベノミクスと高橋財政では時代背景がまったく異なるものである。そのような背景を無視しても2%のインフレ率を達成するまでは「無制限」に国債、特に長期国債を買っていくとアピールでレジームチェンジが起きて物価は上がるとした本田氏の主張は結果として正しくはなかった。

 むしろ日銀は2013年4月の大胆な国債買入だけでなく、2014年10月はその規模を拡大したが、少なくとも目標とした物価については成果は出なかった。規模の拡張が困難になると今年1月にはマイナス金利という政策を打ち出したが、これは長期金利をマイナスに引き下げるという結果は出ても、物価や景気に対する目に見えた効果もなく、むしろマイナス金利への弊害が指摘された。

 アベノミクスによる大胆な国債買入でレジームチェンジは起きたのかという問いがあれば、この結果を見る限り起きなかったと判断せざるをえない。消費増税の影響、原油安等は言い訳に過ぎないことも上記の本田氏の発言等で明らかである。さらにここから大胆な金融緩和を行えばインフレ目標達成が可能という理屈にも無理がある。

 「金融政策が提供できるのは経済の不確実性に対する短期的な鎮静剤にすぎない」とイングランド銀行の チーフエコノミスト、アンドルー・ホールデン氏が述べたそうであるが、これが本来の見方であり、黒田総裁前の日銀も同様の主張をしていた。日銀はこの原点に回帰すべきであるが、少し派手に進み過ぎて後戻りもできない状況に自らも追い込んでしまっている。9月に多少なりその軌道修正は可能なのであろうか。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-08-16 10:05 | アベノミクス | Comments(0)

内閣府の予測、雇用は当たり、物価は外れ

 7月26日に開かれた経済財政諮問会議の資料が面白い。その前提となる経済環境について「経済再生ケース」においては、日本経済再生に向けた、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を柱とする経済財政政策の効果が着実に発現するとして、中長期的に経済成長率は実質2%以上、名目3%以上となるとした。消費者物価上昇率(消費税率引上げの影響を除く)は、中長期的に2%近傍で安定的に推移するとしていた。

 アベノミクスがスタートしていた2013年8月の経済財政諮問会議の資料を確認してみたところ、経済に立てするシナリオは上記とほぼ同じであった。

 2013年8月の計数表の2016年度の予測と、最新の計数表の2016年度の数値を比較してみたい。2013年に予想していた2016年度の実質GDPはプラス1.9%(最新予測はプラス0.9%)、2016年度の物価上昇率は消費者物価指数でプラス2.8%(同プラス0.4%)、完全失業率は3.4%(同3.2%)、名目長期金利はプラス2.7%(同プラス0.3%)となっていた。

 念のため直近の数字を確認してみると2016年1~3月期の実質GDPは前期比年率プラス1.9%。5月の消費者物価指数は総合、コアともに前年同月比マイナス0.4%、5月の完全失業率は3.2%、そして7月27日の名目長期金利はマイナス0.285%となっていた。

 2013年8月の試算に比べてGDPや失業率については、ほぼ予測に近いものとなっていたが、物価上昇率と名目長期金利は予測から大きく乖離している。

 2013年から本格的に始動したアベノミクスであったが、そろそろその総括もする必要があるのではなかろうか。今回の経済財政諮問会議の資料の比較から見る限り、経済成長はそれなりに、雇用は予想以上の回復をみせた格好となっている。しかし、アベノミクスは本来、大胆な金融緩和を軸としたデフレ脱却がキーであったはずが、肝心の物価はむしろ前年比は下がっており、名目長期金利は足元マイナスとなっている。

 これはアベノミクスの三本の矢が物価は経由せずに、直接、景気や雇用に働きかけたかのように見える。しかしそれはそれで理屈が通らないであろう。アベノミクスは確かに円安株高に働きかけた。それは世界の金融経済リスクが後退したタイミングで、リフレ政策をぶち上げたことで市場が驚き、円高株安ポジションのアンワインドが発生したからに他ならない。その円安も長くは続かなかった。それでも景気が比較的しっかりしているのは、大きな世界的リスクの後退で米国経済などがしっかりしていためであろう。

 物価は上がらずとも景気や雇用がしっかりしている。そうであるのであれば無理な金融緩和で物価を上げようとする政策が果たして必要であったのかとの疑問もわく。それ以前に上記の試算の比較から浮き出るものとしては、異次元緩和は物価上昇にはまったく働かず、物価そのものは低迷し続け、物価の先読みをして動く長期金利も低迷どころかマイナスに沈んでいるという事実である。

 今回の試算によると「経済再生ケース」においては、2024年の名目長期金利の予測はプラス4.4%となっている(2013年の予測によると2023年に5%)。物価が上がれば長期金利も上昇するための予想であろうが、政府債務が1000兆円もあるなかでの長期金利4%と1993年ごろの長期金利4%とはかなり様相は異なる。そのため市場の価格変動リスク等はかなり大きくなるものと予想される。

 その長期金利が抑えられていることで、むしろ安定した経済成長が計れるということも言えまいか。しかし物価の先行きはさておき、その物価を上げようとして日銀がかなり無茶をやっている反動もいずれこよう。長期金利の予測も意外にあたっていたといった状況になった際に日本の金融経済がどのようなものとなるのか、むしろあまり想像はしたくない気もする。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-07-28 10:06 | アベノミクス | Comments(0)

ヘリマネ政策のここがおかしい

 バーナンキ前FRB議長が安倍首相や黒田日銀総裁と会談したことで、市場ではヘリコプターマネーへの思惑が出ていた。ベン・バーナンキ氏の来日は首相や日銀総裁と会うことが目的ではなく、バーナンキ氏が顧問を勤める企業のセミナーに出席するためであったようである。そのタイミングに目をつけたのが、4月にもバーナンキ氏と会ったとされる前内閣官房参与で現在はスイス大使の本田悦朗氏とみられる。

 ブルームバーグによると本田氏は4月1日にワシントンでバーナンキ氏と1時間ほど会談。その中でバーナンキ氏は、日本経済が再びデフレに戻るリスクを指摘。デフレ克服の最も強力な手段として比喩的に「ヘリコプターマネー」に言及し、政府が市場性のない永久国債を発行、これを日銀が直接全額引き受ける手法を挙げたそうである。

 12日の安倍首相とバーナンキ氏との会談において、バーナンキ氏は金融と財政でアベノミクスを続けるよう発言したがヘリコプターマネーは話題にならなかったようである。ところが市場では日本がヘリコプターマネー政策を導入するのではないかとの妙な期待感が強まり、円安が進行することになる。このあたりは本田氏あたりが画策した可能性もある。

 このヘリコプターマネーの議論には、いくつかおかしい点がある。そもそも極めて財政ファイナンスに近いような政策を打ち出したのがアベノミクスであり、その結果がまるで出ていない(物価目標からほど遠い)にもかかわらず、さらに財政ファイナンスに拍車を掛けるような政策をとっても物価上がる保証は極めてないに等しい。ただし、アベノミクス登場時のように特に海外投資家に期待感を持たせて円安にしたいとの思惑も働いたのかもしれない。注意すべきはここにきての円安は、米株高をみてわかるようにリスクオンの動きの一環でもあり、ヘリマネ期待だけが材料ではない。

 そのバーナンキ氏が主張していたヘリマネは、見方を変えると物価浮揚効果はある。ただし、それは円や国債の信認を叩き壊した上で、国債とともに円が急落して発生する、劇薬というか国民犠牲の上に成り立つ物価の急騰となる。

 そもそも政府が市場性のない永久国債を発行し、これを日銀が直接全額引き受けること自体、究極の財政ファイナンスとなる。しかし、その目的が物価2%を達成するためだけだとしたらその意味がわからない。

 さらに市場性のない永久国債を発行しなければならないような環境でもない。今回の経済対策も兼ねた補正予算の編成で、たとえば10兆円規模の国債を増発しなければならないとしても、借換債の前倒し発行分があり、市中消化、つまり入札で発行される国債を増やす必要はあまりない。仮に想定以上の国債増発があり、市中消化が多少増えたとしても日銀は年間発行額の国債を買っているという状況下にあって、国債需給がタイトの現状では国債の消化はそれほど懸念はされないのではなかろうか。むろん財政規律の緩みといったものが意識されると国債が売られる懸念はあるが、これで少しでもマイナス金利が解消されれば、いったんは国内投資家の購入余地が出てくる。

つまり今の国債需給がタイトな環境で市場性のない永久国債を発行する必要性はない。しかもそれを日銀が直接引き受ける必要性もない。それにも関わらずこのような非常識な政策を訴えるのは、自ら提唱したリフレ政策が結果として物価上昇に結びつかなかったことを棚に上げて、副作用が出てくる前にそれを「ふかす」政策を取らせようとしているようにしか見えない。

市場性のない永久国債だろうが政府の債務に変わりはない。日銀がそれを引き受ければ政府債務ではなくなるなどというのは当たり前だがありえない話であり、ヘリマネに対しては期待などするのではなく、そのような議論まで出てきているような状況をむしろ危惧すべきかと思われる。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-07-16 09:56 | アベノミクス | Comments(0)

歴史に見るヘリコプターマネーのリスク

 12日にバーナンキ前FRB議長が安倍首相と会談したことで、「ヘリコプターマネー」政策の導入が検討課題に浮上してきたとの報道があった(産経新聞)。この記事によると本田悦朗駐スイス大使が最近、首相に「今がヘリマネーに踏み切るチャンスだ」と進言したそうである。

 ヘリマネとは何か、簡単に言ってしまうと日本の財政法で禁じられている日銀による国債の直接引き受けである。なぜ中央銀行による国債の直接引き受けが禁じられているのか。それは歴史に裏付けられたものである。日本では高橋財政による日銀の国債引き受けが財政法に繋がることになるのだが、ここではあらためてドイツにおける中央銀行の国債引き受けにより何か起きたのかを振り返ってみたい。

 第一次世界大戦の敗戦により、ドイツは天文学的な賠償金を背負わされ、財政支出の切り札になったのが国債を大量発行しドイツの中央銀行であるライヒスバンクに買い取らせるという手法であった。その結果、ドイツは1923年にかけてハイパーインフレに見舞われた。

 そのハイパーインフレはヒャルマル・シャハトが設立したドイツ・レンテン銀行によるレンテンマルクの発行などにより終息することになる。レンテンマルクとそれまでの通貨であるパピエルマルクの交換レートは「1対1兆」と決定された。大規模なデノミとともに政府が財政健全化を発表したことにより、いったんインフレは終息する。このインフレの収束はレンテンマルクの奇跡と呼ばれた。さらにシャハトの指導によるアウトバーンを初めとする大規模な公共事業などによって失業率は改善し、ドイツは1937年にほぼ完全雇用を達成したのである。

 レンテンマルクは法定通貨ではなく不換紙幣であり金との交換はできなかった。しかし1924年8月30日には、レンテンマルクに、新法定通貨であるライヒスマルクが追加された。レンテンマルクとライヒスマルクの交換比率は1:1となった。

 シャハトなどの支援もあり、1933年1月30日にはヒトラー内閣が成立。しかし、ヒトラーがシャハトを解任したあたりから再び状況が変わる。シャハトが帝国銀行の総裁を兼務していた際は国債の発行にも歯止めがかけられていたが、その歯止めがなくなった。ヒトラーは帝国銀行を国有化して大量の国債を引き受けさせ、戦争に向けて軍需産業への莫大な投資を行った。ただし、日本と同様に価格統制により戦時中にハイパーインフレそのものは発生しなかったが、戦後にハイパーインフレが発生することになる。敗戦によりヒトラー政権の発行したライヒスマルクは紙切れ同然となったのである。

 戦後設立されたブンデスバンクは、インフレに対して極度に神経質となり、その要因となった中央銀行による国債引受に対して警戒感というか嫌悪感を強めたのは、この歴史が背景にある。ブンデスバンクは政府からの独立も保障され、ECB発足以前は世界でも最も高い独立性を有する中央銀行の一つであると評価されていた。

 1993年に発効した「マーストリヒト条約」およびこれに基づく「欧州中央銀行法」により、当該国が中央銀行による対政府与信を禁止する規定を置くことが、単一通貨制度と欧州中央銀行への加盟条件の一つとなった。つまり、ドイツやフランスなどユーロ加盟国もマーストリヒト条約により、中央銀行による国債の直接引受を行うことは禁止されている。当然ながら欧州中央銀行(ECB)も国債の直接引受は禁じられている。

 高橋財政による日銀の国債直接引き受けもドイツの事例も戦争が絡んでいる。いまはそんな時代ではない。だからヘリマネを1回ぐらい導入しても問題ないなどと言うことはできない。むしろ戦争という異常時でもないにも関わらず、異常時の対応をすべきと主張している人たちの方が何を考えているのかわからない。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2016-07-14 09:53 | アベノミクス | Comments(0)
line

「債券ディーリングルーム」ブログ版


by nihonkokusai
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー