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カテゴリ:中央銀行( 236 )

ECBやイングランド銀行は追加緩和に躊躇か

 ECBのドラギ総裁は25日のベルリンでの講演で、「時間とともに厄介な副作用が蓄積する可能性があり、金利をこのような低い水準に極めて長い期間維持せずに済むことをもちろん望む」と述べた。さらに「異例の金融支援がなくても物価安定が持続可能な形で達成できれば、緩和措置を解除する」とも述べていた。(ロイター)。

 ドラギ総裁は金融緩和政策の正当性を主張した上で、上記のような発言を行っていた。これはドイツの銀行を中心とする低金利による業績圧迫への不満にも配慮する姿勢を示した格好ともいえるが、追加緩和一辺倒の政策が微妙に変化しつつあることをうかがわせる。

 10月のECB理事会ではQEの期間延長もテーパリングも議題に乗らなかったとされ、市場では米大統領選挙を含めたイベントを確認したのち12月の理事会で、QEの期間延長を決定するとの見方が強まった。

 ただし、この際にドラギ総裁は「QEをテーパリングすることなく、唐突に停止することはない」と発言している。QEの期間延長についても買入国債が不足してくることも予想され、何らかの技術的な配慮(補完措置?)がある可能性もあるが、その間に買い入れる国債の額を徐々に減らし、つまりテーパリングを決定してくる可能性もありうる。ECBも量的緩和のフローからストックの面を市場に意識させれば出口政策ではないとの主張も可能となるかもしれない。

 そしてイングランド銀行のカーニー総裁も25日に英上院委員会で証言し、「金融政策委員会がインフレのオーバーシュートを静観するにも限界がある」とし、11月3日の金融政策会合では、最近のポンド安を「間違いなく」考慮すると述べた(ロイター)。市場では英国のEU離脱の影響もあり、追加緩和への期待もあったようだが、この発言で追加緩和観測は後退した。

 メイ英国首相が低金利など金融緩和策には「悪い副作用がある」と批判したことについては、首相は金融政策運営の変更を提案したわけではないと考えていると、カーニー総裁は述べていた。英国政府も大胆な金融緩和を行ってきた中央銀行から距離を置こうとしているかに思えるが、これは日本や米国なども同様か。

 ただし、カーニー総裁は政治的な圧力よりも素直に通貨安に伴う物価の上昇を意識していることも明らかであり、物価の動向次第では緩和策から引締策に転じてくる可能性もある。もともとイングランド銀行は英国のEU離脱がなければ、FRBに続いて出口政策を模索していたはずである。

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by nihonkokusai | 2016-10-27 09:47 | 中央銀行 | Comments(0)

イエレン議長による「高圧経済」発言の意図とは

 FRBのイエレン議長は10月14日の講演で、経済危機による損失の修復を図るには「高圧経済(high-pressure economy)」政策が唯一の方策となり得る、との考えを示した。力強い総需要と労働市場のひっ迫を伴う高圧経済が一時的に続くことで、経済損失を埋め合わせるための様々な手段が見い出せると語ったそうである(ロイター)。

 中央銀行の金融緩和策を継続させることで、強い需要と雇用の改善により、景気のさらなる改善を図るのが、ハイプレッシャーエコノミーということになろう。ただし、これを続けることによりインフレへの懸念が強まることも確かである。

 これについてフィッシャー副議長は17日に、失業率を押し下げ続ける戦略の追求には限界があると指摘し、「高圧経済」のリスクを警告した。フィッシャー副議長は「われわれの誤りがインフレ率によってはっきりするまで続けるべきだと主張すれば、変更は手遅れになろう」と指摘した(ブルームバーグ)。

 FRBは9月のFOMCで金融政策は賛成多数で現状維持とし、利上げを先送りした。事前にイエレン議長、フィッシャー副議長、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁からは早期利上げを示唆するような発言もあったが、発表された経済指標が予想を下回るなどしたことで市場での利上げ観測は強まらなかった。結果としては市場の予想通りに、利上げは見送られた格好となった。

 ところがその後発表された経済指標は景気の改善を示すものも出ており、少なくとも年内の利上げの可能性はありうるとして、市場では12月のFOMCでの利上げ観測が強まりはじめた。その矢先に今回のイエレン議長の発言があった。

 イエレン議長の「高圧経済」発言の背景として、12月の利上げ観測を後退させる意図があったのではとの見方も出ていたようである。しかし、これはむしろ9月に利上げをしなかったことの理由を説明したとの見方もできるのではなかろうか。利上げの先送りで景気の圧力鍋をさらに沸騰させても、そう簡単にはインフレとはならない。むしろ雇用環境もさらに改善させることも可能との認識を伝えたかったのかもしれない。

 しかし、市場はこれで12月の利上げも困難かと取ってしまったことで、あらためてフッシャー副議長が「高圧経済」のリスクを警告することで、12月の利上げの可能性を維持させようとしたのかもしれない。

 いずれにしても突然出てきた「高圧経済」という用語を使った背景には、何かしらのFRBの意図が隠されているように思われる。それが12月のFOMCでの金融政策の変更の可能性を意識したものなのかどうか。今後のイエレン議長やフィッシャー副議長の発言内容にも注意したい。

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by nihonkokusai | 2016-10-23 11:11 | 中央銀行 | Comments(0)

そもそも金融政策で為替や物価を動かせるのか

 18日に発表された今年9月の英国の消費者物価指数は前年同月比1.0%の上昇となった。伸び率は8月の0.6%を上回り、2014年11月以来の高い水準となった。コア指数は前年比プラス1.5%となり、これも2年ぶりの高水準。英政府統計局はポンド安が消費者物価に大きく作用した明らかな兆候はみられないが、生産者物価に影響していると指摘したそうである。

 しかし、この物価の上昇は英国のEU離脱に伴うポンド安が影響したであろうことも確かではなかろうか。さらに原油価格の反発による影響もあったものとみられる。ここで注意したいのは、8月4日のイングランド銀行による包括緩和がどれだけ影響していたかとの点である。

 8月4日のイングランド銀行の金融政策委員会(Monetary Policy Committee; MPC)では、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。利下げの効果を強固なものとするための金融機関向け低利融資制度を含めてパッケージされた、いわゆる包括緩和政策を決定した。

 金融政策と通貨安、そして通貨安による物価への波及効果については、日本にも事例がある。いわゆるアベノミクスである。これは日銀の金融政策が円安を招き、物価にも波及したとの見方もできなくはないが、円安は自民党が政権を奪え返すとの見方の強まりのなかでの安倍自民党総裁の輪転機発言がきっかけとなっている。

 大胆な金融緩和効果よりも、欧州信用不安によるリスク回避の反動が、ヘッジファンドの仕掛け的な動きにともなって急激な円安が起き、その円安で一時的な物価上昇が起きたといえる。この間、原油価格が高止まりしていたことも物価を押し上げた要因となっていた。さらに消費増税前の駆け込み需要も影響した。金融政策というよりも、円安と原油高などが物価を押し上げていたと言えよう。

 これは今回の英国も同様であろう。イングランド銀行の金融緩和でポンドが売られたというよりも、ポンド安の主因は英国のEU離脱であることは明らかである。

 18日には米国の9月の消費者物価指数も発表された。前月比で0.3%の上昇となり、前年同月比は1.5%の上昇と、2014年10月以来の上昇率になった。食品とエネルギーを除くコア指数は前月比0.1%上昇、前年比では2.2%の上昇となっている。

 言うまでもなくFRBはすでに昨年12月に利上げを行っている。米国の物価上昇の背景にあるのはFRBの金融政策ではない。たしかにFRBのバランスシートは高水準に維持されており、追加利上げは行っていない。緩和的な環境が物価を押し上げたとする説明には無理がある。むしろ原油価格の反発による影響が大きかったとみるべきではなかろうか。

 金融政策がどの程度、通貨安に影響し、それが物価にどう波及してくるのかについては、具体的な検証も必要ではなかろうか。むしろ物価に対しては、いまのファンダメンタル等の外部環境と政策金利がほぼゼロ近辺となっているという状況下では、金融政策の効果よりも、通貨安や原油価格の動向に影響を受けやすいとの見方もできるのではなかろうか。さらに通貨安は、果たして中央銀行の金融政策でもたらすことが可能なのかという点についても疑問が残る。このあたり良い事例を日銀が残してくれたようにも思われる。

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by nihonkokusai | 2016-10-20 09:50 | 中央銀行 | Comments(0)

バングラデシュ中央銀行からの過去最大規模の不正送金事件

 広報誌「にちぎん」47号に、黒田日銀総裁と小説家の宮部みゆき氏の対談記事が掲載され、その内容が日銀のサイトにもアップされている。このなかで黒田総裁が、ニューヨーク連銀にあったバングラデシュの中央銀行の預金が不正に送金された事件について語っていた。

 この事件が起きたのは今年2月。バングラデシュ銀行(中央銀行)が米ニューヨーク連邦準備銀行に持つ口座から、9億5100万ドルの不正送金が試みられた。送金の大半は阻止されたものの、8100万ドルはフィリピンの口座への送金されてしまい、そこから様々な銀行に送金され、雲散霧消してしまった事件である。銀行単一の被害金額としては過去最大とされるが、日本ではあまり報じられることはなかった。

 結果からみるとバングラデシュの中央銀行のお金が盗まれてしまったわけであるが、それがニューヨーク連銀にあった口座というところに注目する必要がある。ニューヨーク連銀は米国の中央銀行のひとつの支店のようなものではない。むしろ世界の中央銀行のなかでの基幹を成すような銀行となっている。たとえば世界の国々の保有する金について、そのかなりの部分が、このニューヨーク連銀に預けられているとされる。これは日本も例外ではない。

 もちろんニューヨーク連銀には日銀の口座もあるし、日銀にはニューヨーク連銀の口座もある。今回の事件では、バングラデシュの中央銀行のシステム経由で、国際銀行間通信協会(SWIFT)と呼ばれるシステムに侵入されて、ニューヨーク連銀に送金指示が出されてしまった。

 国際銀行間通信協会(SWIFT)とはベルギーのブリュッセルに本部を置き、多数の金融機関が所有する協同組合という形態を取っているもので、世界最大のネットワークを運営している組織である。

 ニューヨーク連銀は送金を実行する前に、正式なフォーマットではなかったことから送金指示を拒否していたそうであるが、その後ハッカーはさらに連銀に送金を指示し、その内容が適切な送金依頼のフォーマットになっており、一部実行されてしまった。

 まるで映画のような事件が今年実際に起きていた。黒田総裁は日銀については、これまで日本ではこのような事件は起きておらず、日銀ネットには外部から侵入されたことがないと対談で述べていた。日銀ネットは新日銀ネットという新システムに移行したことでさらに強固になっている。

 日銀ネットは日本の金融システムという重要なインフラを支えているシステムであり、このような不正なアクセスに対して厳重に警戒することが重要となる。しかし、絶対はない。今回はある意味世界の金融インフラの中核を成すニューヨーク連銀も絡んでいただけに、警戒は怠れない。

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by nihonkokusai | 2016-10-19 09:32 | 中央銀行 | Comments(0)

ECBのテーパリング観測は異常な金融緩和策の終焉を示唆か」

 ECBは恐らく量的緩和の期間終了前に段階的に買い入れを減らし、月100億ユーロずつペースを落としていく可能性がある。ユーロ圏の複数の中央銀行当局者が明らかにしたとブルームバーグが伝えた。

 やや唐突感のある記事ではあるが、火のないところに煙りは立たない。ユーロ圏の複数の中央銀行当局者がこのような認識を持っているとしてもおかしくはない。もちろんそれは量的緩和導入時に反対の意向を表明していたドイツなどの中央銀行当局者であろう。

 ただし「一方で、現時点での終了時期となっている2017年3月以降も月800億ユーロの現行ペースで量的緩和を延長する可能性も依然排除されていない」ともしており、ECB内ではドラギ総裁を中心とした積極緩和派とドイツなどを中心とした慎重派の勢力争いとなっていることも伺える。

 9月8日のECB政策理事会では金融政策の現状維持を決定した。量的緩和を延長するのではないかとの市場の観測もあったが、ドラギ総裁は会見で「資産買入れ策の期限延長について議論しなかったと説明」した上で、「資産買入れの円滑な実施を確実にするための選択肢を検討するよう指示した」とも伝えられた。

 この選択肢については日銀同様にECBも大規模な資産買入を継続することが次第に困難になりつつあり、日銀が昨年12月の決定した補完措置のようなことを行い、少しでも資産買入を継続出来る施策を練るのではないかとみていたが、どうやらその選択肢にはテーパリング(月額買入額の縮小)も入っていた可能性がある。

 ECBは当然ながら、今年に入ってからの日銀のマイナス金利の導入から、9月21日の決定会合で導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に至る経緯は分析していたとみられる。日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は量の限界とマイナス金利の副作用を意識した政策とも取れることで、同様の政策を行っているECBにはおおいに参考になろう。

 それとともに、日銀は結果としてテーパリングを意図しているのではないかとの見方も当然出てくる。しかも日本の金融市場はこれに対して動揺は示していない(あくまでいまのところではあるが)。これを見てECBも出口を見据えた政策を取る可能性も意識しはじめたのかもしれない(勝手な想像ではあるが)。実際にECBがテーパリングを行うには、欧州の金融市場に対して事前に織り込ませることも必要であり、今回はその一環となっている可能性もないとはいえない。

 日米欧の中央銀行がこれほど大胆というか異常なまでの金融政策をなぜ行わなければいけなかったのか。その主目的はデフレ脱却とかではなかったはずである。百年に一度という金融経済危機という有事に対する政策であった。しかし、そのリスクはかなり後退している。

 いまなおその政策を継続もしくは拡大しているのは、デフレ脱却のためとかに置き換えられてしまっている。しかし、市場心理を改善するには有効であったかもしれない異常な金融緩和は、物価に対してはそれほど効果的ではなかったという実験結果も明らかにしてしまった。これからは困難とみられている出口政策にそっと道筋をつける事も重要であり、それを多少なりECBも意識しはじめているのかもしれない。

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by nihonkokusai | 2016-10-06 09:36 | 中央銀行 | Comments(0)

FRBが9月21日に利上げをしなかった理由

 28日にFRBのイエレン議長は下院金融委員会の公聴会で証言し、「ことしの就業者の数は毎月、平均して18万人のペースで増えている」と述べ、「決まったタイムテーブルはない」としながら、「金融政策を決める会合の参加者のほとんどが、今の経済の状況が続けば年内に追加の利上げを行うことが適切だと考えている」と述べた。

 9月21日のFOMCでは賛成7人、反対3人で金融政策の現状維持が決定された。市場では利上げがあるとすれば9月の会合より12月の会合でとの見方が強かったことで、想定通りとの見方もできるかもしれない。しかし、仮に年内利上げを模索しているのであれば、タイミングは12月より9月のほうがやりやすいのではないかと個人的にはみていた。

 21日の会見でイエレン議長は今回の利上げの見送りについて、雇用最大化と2%の物価目標という使命の達成に向けて「さらなる証拠を待つことを選択した」ためとした。かなり慎重な姿勢を見せていたものの、「利上げの条件は整ってきた」との表現にはかわりなく、なぜ利上げを見送ったのかが具体的にはわからない。経済にはもう少し改善の余地があると指摘してしまうと今後発表される経済指標がよほど回復を見せない限り、年内利上げはむしろ厳しくなるのではなかろうか。

 21日のFOMCで反対票を投じたひとり、カンザスシティー連銀のジョージ総裁は28日、FRBが後になって急激な利上げをしなくてすむためにも、今緩やかに利上げすることが望ましいとの認識を示した。

 28日のイエレン議長も「経済の過熱を容認すれば、金融当局が望むよりも速いペースで利上げせざるを得なくなる可能性がある」とも発言し、ジョージ総裁と同様の認識であることがわかる。

 それではなぜ9月21日のFOMCでは利上げに踏み込めなかったのか。イエレン議長、フッシャー副議長、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁などが利上げに向けた地均し的な発言もFOMCの前にあっただけに疑問である。ただし、それでも市場の利上げに向けた織り込み度合いがあまり上がらなかったことも事実である。ブラックアウト期間直前に、ブレイナード理事から利上げに向けた慎重発言も出ていた。

 FRBがみているのは経済指標ということになってはいるが、市場の利上げ織り込み度合いとともに、影響力が強まっているとされるブレイナード理事などの反対派が抑えられるのか、そのあたりもキーになるかもしれない。11月と12月のFOMCは米大統領選挙を挟む。イエレン議長は否定しているが、政治の情勢が少なからず影響するであろうことも確かではなかろうか。その意味でもブレイナード理事の存在なども意識しておく必要があるのかもしれない。

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by nihonkokusai | 2016-09-30 09:56 | 中央銀行 | Comments(0)

ブレイナードFRB理事のスタンスはブレず、それでも9月の米利上げの可能性はある

 FRBのブレイナード理事は12日のシカゴでの講演で「米経済は成長力が鈍化しており、金融引き締めは慎重さが求められる」と述べた。利上げの是非は「数か月先までのデータをみて判断したい」として、次回会合での決断は時期尚早との見方を示した(日経電子版)。

 13日から1週間は金融政策の情報発信を控えるいわゆる「ブラックアウト期間」に入ることで、このブレイナード理事の発言内容が注目されていた。いわゆるハト派であり、これまでもFRBの利上げについては慎重な発言を繰り返していた。そのブレイナード理事が、早期利上げを示唆するようなことになると9月20、21日のFOMCでの利上げの可能性が一気に高まるとの見方もあったが、ブレイナード理事のスタンスはブレてはいなかった。

 イエレン議長、フッシャー副議長、さらにニューヨーク連銀のダドリー総裁はそれぞれ補完しあうかたちで、早期利上げの可能性を織り込ませようとしていた。それに対して今回のブレイナード理事が早期利上げに対して慎重姿勢をあらためて示し、またそれに先だってタルーロ理事もやはり慎重な姿勢をみせていた。

 タルーロ理事はインタビューで「私の見解では、講じる措置の内容にかかわらず、現時点で最も望ましいのはインフレ率の上昇が続き、目標に近い水準を維持するという実際の証拠を目にすることだ」と指摘した(ブルームバーグ)。

 ブレイナード理事の発言を受けて、市場では20、21日のFOMCでの利上げ予測は大きく低下した。しかし、利上げの可能性は依然として高いと個人的には見ている。ブレイナード理事は昨年12月のFOMCで利上げを決定した2週間前に「利上げには慎重を期し、実施するときにはゆっくりとしたペースで進めるべき」と発言しており、そのスタンスにブレはない。

 ブレイナード理事は民主党の大統領候補のクリントン氏にも近いとされており、クリントン氏が大統領となった際には財務長官の候補の一人ともされている。FRBの建物内では意図的なものがあったのかどうかはわからないが、ブレイナード理事の部屋はイエレン議長の部屋の隣だそうである。それだけの権力を持っているのではとの見方があり、だからこそ今回のブレイナード理事の講演内容が注目された面もあった。

 クリントン候補が大統領に選出されると、さらにブレイナード理事の存在感を強めることとなり、12月のFOMCでの追加利上げは9月に比べると不安定要素が多くやりづらくなることも予想される。

 共和党のトランプ候補は12日のインタビューでFRBがオバマ政権の意向に沿って政策金利を低く維持しているなどと述べ、FRBを批判したそうである。もしトランプ氏が大統領になった場合に、あらためてFRBに対する圧力を強めることも予想される。

 FRBの正常化路線はまだ道半ばであるが、年内少なくともあと一回の利上げを行いたいのであれば、そのタイミングとしては12月よりも9月20、21日の方がやりやすい。また物価が上がりにくい環境となっていることもあり、慎重になればなるほど先々で利上げがしにくくなることも予想される。正常化路線としてのFRBの利上げは、まさに今でしょうということになるのではないかと私は思っている。

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by nihonkokusai | 2016-09-14 09:48 | 中央銀行 | Comments(0)

米雇用統計受けても米9月利上げの見方は維持

 9月2日に発表された8月の米雇用統計では、非農業雇用者数は15.1万人増と予想の18万人程度を下回った。過去3カ月の平均は23.2万人増となる。8月の失業率は4.9%で前月と変わらず、平均時給の伸び率は前年比で2.4%増、7月は2.7%増となった。

 これを受けて米国市場でのとらえ方はまちまちとなっていた。非農業雇用者数の数字が市場予想を下回り、失業率は低下せずに横ばい、賃金の伸びは鈍化したことで、これは9月20、21日のFOMCの利上げを見送る理由となりうるため、利上げは先送りされるとの見方がある。

 しかしこの見方に対しては異を唱えたい。そもそもここにきてのFRBの施行部の発言からは利上げに向けてかなり前向きの発言をしていた。それにも関わらず本心は利上げはしたくないとの見方に対してはかなり懐疑的である。むろんこれで利上げ慎重派の、ブレイナード理事、タルーロ理事が利上げに向けて異を唱える可能性はあるかもしれないが、全体の勢力分布から言えば少数派となる。ただし、仮に11月の大統領選挙でクリントン氏が大統領に選出されると財務長官候補ともされているブレイナード理事の発言力が大きくなる可能性はある。

 イエレン議長が想定していたであろう正常化への道筋はまだ道半ばである。しかし、追加利上げに関しては、英国のEU離脱というイベントショックがあったことで6月、7月は見送らざるを得なかったとの見方ができる。市場での利上げ観測が急速に後退してしまったことを危惧し、執行部のイエレン議長、フッシャー副議長、ダドリー総裁がお互いカバーし合うようにして、市場に早期利上げの可能性をあらためて織り込ませようとしていた。

 9月の利上げを執行部が想定しているとすれば、今回の8月の単独の雇用統計の数字だけで、そのスケジュールを変更してくることは考えづらい。仮に極端に数字が低かった際には、その要因を掴むまで利上げは先送りされる可能性もなくはないが、過去3カ月の平均が20万人を超えている今回の数字程度では揺るがないとみている。

 6月と7月のFOMCでの利上げの見送り、先送りの要因はイベントリスクといえるものであった。これはたとえば2000年7月17日の金融政策決定会合でゼロ金利政策を解除しようしとした日銀が7月12日に大手デパートのそごうが民事再生法を申請したことで解除が見送られたことに類似している。日銀は8月11日の決定会合においてゼロ金利政策を解除している。FRBの正常化への道筋に変化がない限りは、9月20、21日のFOMCでの利上げの可能性は高いとみている。

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by nihonkokusai | 2016-09-06 09:46 | 中央銀行 | Comments(0)

FRBの追加利上げは2007年の日銀の追加利上げも参考に

 FRBのイエレン議長やフィッシャー副議長、ニューヨーク連銀のダドリー総裁の発言から、年内の利上げ観測が高まりつつある。9月の可能性についてもやっと市場は意識し始めた。それでもまだ利上げはないと見ている向きも多い。金融政策の正常化は如何に難しいことなのかが、これからもわかる。

 金融政策の正常化としては日銀に先例がある。2006年3月の量的緩和政策の解除と同年7月のゼロ金利政策の解除、そして2007年2月の追加利上げの決定である。

 FRBはこの正常化に向けてかなり慎重に事を運んできた。2013年6月19日のFOMC後の記者会見において、当時のバーナンキ議長は、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせるのが適当と見ていると述べた。これをきっかけに米国の株式や債券が大きく下落し、これは「バーナンキ・ショック」と呼ばれた。これでFRBがさらに慎重になった可能性もあるが、それでも正常化路線を進めるため、この年の12月のFOMCでテーパリングの開始が決定された。

 テーパリングが終了したのが2014年10月となった。次のゼロ金利解除まではさらに時間を要し、利上げが決定されたのは2015年12月である。このあたりの時間の置き方を見ても、日銀の量的緩和とゼロ金利の解除に比べてかなり慎重となっていたことがわかる。これもあって次の利上げは少なくとも半年程度の時間を置くであろうとみられたが、結局は半年以上経っても次の利上げは見送られていた。しかし、正常化路線は放棄されていたわけではなく、あくまでタイミングを見計らっていたことも確かであろう。

 日銀が2007年2月に追加利上げを決定した際に、執行部の一人であった岩田副総裁が反対票を投じていた。総裁と副総裁の票が割れることはイングランド銀行はさておき、日銀で起きたのはこれが最初で最後であった。

 8月のワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの記事に使われた写真で印象的であったのが、イエレン議長を挟んでダドリー総裁とフィッシャー副議長が揃って談笑している姿であった。

 これは2007年2月の追加利上げで執行部が一枚岩となれなかったことの反省を生かして、FRBの執行部が利上げに向けて一枚岩であることを象徴したいがための写真であったとするのは考えすぎかもしれない。しかし、FRBの執行部の方向性は同じであることを強調していることも確かである。それを各連銀総裁もフォローしている。ただし、もうひとりのキーパーソンとなっているブレイナード理事からのコメントはいまのところあまり表に出ていない。

 あくまでFRBは足元の経済指標を確認して利上げを検討するというスタンスではあるが、少なくとも利上げが前提にあることも確かで、9月2日に発表される米8月の雇用統計がよほど悪化することがなければ、執行部を中心に9月のFOMCでの利上げ決定にむけて歩を進めると思われる。しかし問題はその次かもしれない。日銀は2007年2月が追加利上げの最後となってしまった。2007年8月にパリバ・ショック、そして2008年9月にはリーマン・ショックが起きている。

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by nihonkokusai | 2016-09-01 10:02 | 中央銀行 | Comments(0)

FRBの9月利上げに向けた布石

 26日のイエレンFRB議長の講演内容が注目されていたが、市場はイエレン議長よりもむしろフィッシャー副議長のコメントに反応していたように思われる。 

 イエレン議長は「引き続き堅調な雇用市場の情勢や経済活動とインフレに関するわれわれの見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利引き上げの論拠はここ数か月で補強されたと思う」と述べた。「われわれの判断は常に、今後入手されるデータが引き続き(FRBの)見通しをどの程度裏付けるかにかかっている」ともコメントした(WSJ)。 

 つまり9月2日に発表される8月の米雇用統計が予想以上の悪化を見せることがない限りは、9月20、21日のFOMCでの利上げの可能性を意識させるものとなる。ただし、イエレン議長からは利上げの具体的な時期への言及はなかった。このためこの発言で市場参加者が9月に利上げかとの認識をそれほど強めさせるものとはならなかった。 

 これに対してもう少し具体的な時期のコメントをしたのが、誰あろうフッシャー副議長であった。 

 イエレン議長の講演後、フィッシャー副議長はインタビューに答える格好で、9月に利上げが実施され、年内に複数回の利上げがあると予期すべきかとの質問に対し、「イエレン議長がこの日の講演で述べたことは、この2つの質問に対し「イエス」と答えることと整合性が取れている」と語ったそうである。ただ、こうしたことは経済指標次第となるとの見方も示した(ロイター)。 

 つまりフィッシャー副議長が市場に向けて、9月の利上げに向けた準備をすべきとの示唆であるようにも受け取れる。 

 ニューヨーク連銀のダドリー総裁は8月16日のインタビューで、追加利上げが適切となる時期にじわじわと近づいていると述べ、9月20、21日の会合で利上げを決定する可能性はありうると指摘した。 

 FRBのフィッシャー副議長は8月21日、コロラド州のアスペン研究所での講演において、米経済が既に金融当局の掲げる目標の達成に近づいており、成長が今後勢いを増すだろうと述べ、これまでの姿勢に変化がないことをあらためて示した。これは少なくとも年内1回の利上げの可能性を示唆したものと受け止められた。ただし、ここではむしろ具体的な時期の言及は手控えていた。そのフィッシャー副議長が今度は具体的な時期について言及してきたのである。 

 過去にはFRB高官が市場の金融政策の変更についての観測を過度に強めさせないようにと、ハト派に対してタカ派的なコメントをするなど役割分担をしていた。しかし、今回は市場が追加利上げはハードルが高いと認識してしまっているため、それぞれのコメントで補完しあいながら、少しでもそのハードルを低くさせよう意図が見え隠れしているように思われる。 

 正常化路線を維持している限り、6月、7月には追加利上げが見送られるなど、多少スケジュールの狂いはあっても、次の一手はやはり年内の利上げであろう。そうなるとFRBの利上げのタイミングとしては大統領選後の12月や議長会見のない11月とかではなく、9月に置いていると予想せざるを得ない。


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by nihonkokusai | 2016-08-30 09:41 | 中央銀行 | Comments(0)
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