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カテゴリ:中央銀行( 227 )

英国のインタゲとは

 以前から1997年にブレア政権が誕生した直後のイングランド銀行の改革に関心があったのだが、あらためてネットで調べたところ1999年に立脇和夫氏が書かれたレポートがアップされており、このレポートも参考に、イングランド銀行の改革を振り返ってみたい。

 1997年5月にブレア政権が誕生し、それからわずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、「独立性」を高めるという大胆な改革に踏み切った。

 この改革とは、イングランド銀行総裁、副総裁、理事、外部らの委員で構成される金融政策委員会(MPC)へ政策運営権限を委譲すること、外国為替市場介入権限を部分的にイングランド銀行へ委譲すること、準備預金制度の法制化、銀行監督権限をイングランド銀行から分離し新設された金融監督庁へ移管すること、そして国債管理業務の財務省への移管などである。

 なぜブレア政権は誕生直後にこのような大胆な改革に踏み切ったのか。それは、中央銀行の独立を強化する目的で中央銀行法を改正する国が相次いでいたこともあるが(参考までに改正日本銀行法施行は1998年4月)、将来、英国が欧州通貨統合に参加する場合に必要とされる中央銀行の独立性確保を念頭においたもの、との見方もあった。

 第二次大戦後イングランド銀行は,アトリー政権下に制定された「1946年イングランド銀行法」によって国有化され、同時に政策運営の独立性を失った。同法はイングランド銀行に対する大蔵大臣の指示命令権を規定し、実質的に大蔵省の付属機関と位置付けていたのである。ちなみに1988年4月のニュージーランドが初めてインフレーション・ターゲティングを導入後、1992年10月に英国も導入した。

 新設された金融政策委員会は「政策運営上の独立性」(Operational Independence)を与えられた。ただし、ここでいう政策運営上の独立性とは政府が定めるインフレーション目標を達成するための政策手段の決定を行う権限を意味しており、政策方針そのものの決定は政府の手に留保されている点を見落してはならないと、立脇氏は指摘している。

 イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC) は、毎月上旬の水曜日の午後と木曜日の午前中に開かれる。MPCのメンバーは総裁1名、副総裁2名、理事2名と、財務大臣により任命された外部委員4名の合計9名である。イングランド銀行総裁及び財務大臣の任命する委員(任命委員)6名の任期は3年で毎年2名ずつ交替する。財務省代表は政策委員会へ出席し発言はできるが議決権は有していない。

 イギリスにおける金融政策の目標は、物価の安定を維持すること及び、成長及び雇用目的を含む政府の政策を支持することと規定されている(改正法第11条)。そして財務省が「物価の安定」の内容を決定し、政府の経済政策を具体化する責任を負っている。量的緩和策の導入やその拡大にあたっても財務相の了承が必要とされる。

 インフレ目標値から1ポイント以上乖離した際にイングランド銀行総裁は、金融政策委員会の議長として財務相あて公開書簡を作成しなければならない。改正法にはインフレーション目標に関する詳細な規定が設けられ、それによれば財務省は一年に1回、物価安定目標値及び政府の経済政策に関するステートメントを公表しなければならない。具体的にはインフレーション目標は毎年の予算教書で明示されている。それは、2004年1月以降は消費者物価指数(CPI)で2%とされている。

 財務省は金融政策に関し、イングランド銀行に対して指示を行う権限を留保しているが、これはそれが公共の利益に照らし、かつ「異常な経済情勢」の下でそれが必要であると財務大臣が判断した場合に限られる、と改正法では規定されている。いわば緊急時の対応ということになろう。

 以上がイングランド銀行の改革に伴った動きとともに、英国でのインフレ目標の状況である。これを見る限り、FRBによる物価に対するゴールとイングランド銀行の物価目標には違いがあることがわかる。1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。しかし、その目標から乖離しても何ら罰則等が設けられているわけではない。ただし、イングランド銀行もあくまで書簡を作成すれば良いだけとも言えるし、キング総裁は何通も書簡をすでに送っている状態にある。このあたりあまり厳格化してしまうと、金融政策の舵取りが難しくなる面もあろう。ちなみに9日、イングランド銀行のMPCでは、資産買い取りプログラムの規模を500億ポンド拡大することを決めた


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by nihonkokusai | 2012-02-10 09:45 | 中央銀行 | Comments(0)

FRBが物価目標としたPCEデフレーターとは何か

 1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。このPCEとはそもそも何であるのか、拙著「ネットで調べる経済指標」などを元にしてまとめてみたい。

 米商務省が発表している個人所得(Personal income)、個人消費支出(Personal consumption expenditures)、PCEデフレーター(Personal Consumption Expenditure Deflator)は米国の経済指標の中にあって、注目されるもののひとつである。公表日時は毎月下旬の東部時間午前8時30分(夏時間:日本時間午後9時30分、冬時間:日本時間午後10時30分)である。

 ネットでチェックするには、下記米国商務省経済分析局のサイトにある「National」をクリック、その中の「Personal Income and Outlays」に最新データがアップされる。

http://www.bea.gov/national/index.htm

 これは米国の個人の所得と消費について調査した指標であるが、このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得のこととなる。この個人所得は消費動向を決定付ける大きな要因ともみられている。賃金給与・賃貸・利子配当等といった所得の構成項目や、可処分所得・貯蓄率なども同時に発表される。

 個人消費支出(PCE)とは1か月間に実際に米国の個人が消費支出した金額について集計したものであり、米国のGDPの7割を占める個人消費の動向は米経済にも大きな影響を与えることで注目されている。特に名目個人消費支出の前月比などが注目される。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものが、個人消費支出(PCE)物価指数もしくはPCEデフレーターと呼ばれるものであり、これも同時に発表される。PCEデフレーター変化率がプラスであれば物価上昇、マイナスであれば物価下落と捉える。

 特に価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「コアPCEデフレーター」と呼び、FRBが物価指標の中で最も重要視している指標のひとつとなっている。その理由としては消費者物価指数に比べて、バイアスが生じにくいためといわれている。

 2007年11月にFRBは金融政策の透明性を高めるための追加措置を発表して、この中で、経済見通し(Economic Projections)の発表回数をこれまでの年2回から年4回に増やし、予測の対象期間も2年間から3年間に拡充し、物価に関してさらに新たな指標として、「個人消費支出(PCE)」の全体価格指数を加えている。これにより、PCEのうち食料とエネルギーを除いたコアPCEでみたFRBの物価見通しも発表されることになった。

 さらに今回、FRBは物価の目標(ゴール)を、PCEデフレーター(前年比)の2%に置いた。今回、FRBがコア指数ではなく総合指数を使ったのは、足下物価動向を見るにはコア指数が良いが、長期的に見ると総合指数が適切と判断したものと思われる。

 参考までに昨日発表された12月のPCEデフレーターは前年比でプラス2.4%となり、FRBが目標(ゴール)とする2.0%を上回っている。


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by nihonkokusai | 2012-01-31 09:48 | 中央銀行 | Comments(0)

今年のFOMCの新メンバーとFF金利誘導目標予想の開始の影響

 本年もよろしくお願いいたします。

 1月3日に公表された米国のFOMC議事要旨(12月13日開催分)によると、1月24日から25日にかけて開催される今年最初の会合でフェデラルファンド(FF金利)誘導目標に関するそれぞれの予想が初めて公表されるそうである。

 最初に2012年のFOMCの開催予定日をFRBのサイトから確認したい。2012年は1月24日~25日、3月13日、4月24日~25日、6月19~20日、7月31日、9月12日、10月23~24日、12月11日が開催予定日となっている。

 FOMCにおいて投票権を持つメンバーは、理事会からの7名の理事全員と地区連銀から5名の連銀総裁の12名によって構成される。地区連銀についてはニューヨーク連銀総裁は常に参加するが、他の11の連銀についてはそのうち4名が参加することで、投票権を持つメンバーが毎年入れ替わる仕組みになっている。

 理事会からはバーナンキ議長、イエレン副議長、デューク理事、ラスキン理事、タルーロ理事の5名が参加する。

 12月27日にオバマ大統領は、空席となっているFRB理事に、ハーバード大教授のジェレミー・スタイン氏と、プライベートエクイティの元幹部ジェローム・パウエル氏を指名すると発表した。両氏の指名が議会で承認されれば、2006年4月以来初めて理事7名の全ポストが埋まる。デューク理事の任期は今月末で切れるが、後任が承認されるまで職務を継続することが可能となっているようである。

 連銀からのメンバーにはニューヨーク連銀に加え、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコ連銀が加わる。つまり今月のFOMCからはニューヨーク連銀のダドリー総裁とともに、クリーブランドのピアナルト総裁、リッチモンドのラッカー総裁、アトランタのロックハート総裁、サンフランシスコのウィリアム総裁が加わる。

 タカ派とされるラッカー総裁以外は、中立からハト派と認識されているようであるが、このメンバー交代がFRB金融政策に及ぼす影響は限定的とみられる。

 そして1月3日に公表された米国のFOMC議事要旨によると、1月24日から25日の今年最初の会合では2012年、向こう数年間、さらに長期に分けてFF金利誘導目標の予想を示すことが明らかになった。さらにFF金利誘導目標を引き上げるタイミングに関する見通しも示すそうである。

 これは金融政策の透明性の拡大をはかったものと思われる。景気や物価の予想に合わせて、金融政策そのものの予想があってもおかしくはないが、それを市場参加者などはどのように捉えるのであろうか。あくまで金融政策の予想は、FRBの景気や物価の予想を基にしての市場参加者の予想に任せたほうが良いのではなかろうか。

 金融政策を変更する際、引き締めの際は市場への影響を抑えるため、それを事前に織り込ませることも必要であり、その意味ではFF金利誘導目標の予想は効果的かもしれない。しかし、緩和時においてはサプライズ効果も必要とされることもあろう。また、自らの予想に縛られてしまうような懸念もないとは言えないのではなかろうか。

 中央銀行の金融政策には市場との対話もたいへん重要である。しかし、金融政策の予想まで、その政策決定者が予想して正式に発表するということは、対話というよりも予想の押しつけともなりかねない。金融市場を取り巻く環境は大きく変化することもありうることで、市場が判断する余地をある程度与えておくことも、むしろ必要ではないかと思われるのである。


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by nihonkokusai | 2012-01-05 08:57 | 中央銀行 | Comments(0)

ECBに見る市場との対話の難しさ

 8日に欧州中央銀行(ECB)は定例理事会で、政策金利であるリファイナンス・オペ金利を0.25%引き下げて年1.0%にすると決定した。また、上限金利である限界貸出金利と、下限金利である中銀預金金利もそれぞれ0.25%引き下げた。総裁会見によれば、利下げについては全会一致ではなく多数決での決定だったようである。

 さらに非標準的手法として、流動性を供給するため期間36か月の長期リファイナンス・オペ(LTRO)を新設する。また、ファインチューニングオペの再開、支払い準備率の2%から1%への引き下げ、適格担保要件の緩和なども行われるようである。

 ただし、証券市場プログラム(SMP)を通じた国債等の買入については、物価安定の使命を外れたことはできない、とドラギ総裁は否定的とも言えるコメントをした上、IMFへの融資を通じた域内国債の買い支え案についても、EU条約に触れるとして応じられないと発言した。

 12月1日にドラギ総裁はブリュッセルの欧州議会で「新たな財政協定が、信頼を回復させ始めるための最重要の要素であることは間違いない」とし「その後には他の要素もあるかもしれないが、順序は大切だ。共有される共通の財政協定を整えることが、何よりも重要だ」と語った(産経新聞)。

 債券購入は「限定的にのみ可能だ」と述べたとも伝えられたが、市場ではこのドラギ総裁の発言から、かなりの期待も込めてか、ECBによる国債買入拡大の可能性ありと判断していたようである。

 ただし、昨日の会見でドラギ総裁は、EU首脳会議で財政規律の強化策に合意すれば、ECBとして積極的に国債を買い入れると言った観測について「答えはノーだ」と言い切り、理事会で議論しなかったと明言した(日経新聞)。

 つまりは市場が勝手に期待してしまったとも言えるものではあろうが、この発言等により欧米の株式市場は大きく下落し、ユーロ圏の債券市場では、イタリア・スペイン国債の利回りが急上昇するなどしてしまった。

 このあたり、ドラギ総裁による欧州議会での発言に考慮が必要であったように思われる。ECBの政策への期待感を出すつもりはなかったのかもしれないが、特に国債買入拡大についてはもう少し明確に否定しておくべきであったと思われる。ドラギ総裁にとって、言わずもがな、であったとしても。

 まだ、ドラギ氏はECB総裁となって日も浅く、マーケットとのコミュニケーションの難しさを今回、かなり認識したのではなかろうか。今後は発言等により気を配ってくる可能性もあるが、とにかく総裁が誰であれ、ECBはあくまでブンデスバンクの血を引いているという事実をマーケットも認識すべきである。

 ちなみにECBは再び政策金利を史上最低水準に戻した。この動き、どこかで見たことを思い出す方もいるのではなかろうか。

 2006年3月に量的緩和政策を解除した日本銀行は、7月にゼロ金利政策を解除し政策金利を0.25%に引き上げ、2007年2月に政策金利を0.50%に引き上げた。しかし、2008年10月に政策金利を0.5%から0.3%に引き下げ、12月には0.3%から0.1%に引き下げた。

 日銀も金融緩和からの方向転換は一時的であり、再び実質的なゼロ金利政策に戻ってしまった。今回のECBの動向を見ても、どうやら歴史は繰り返されるようである。


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by nihonkokusai | 2011-12-10 10:34 | 中央銀行 | Comments(0)

日米欧の中央銀行による協調対応策はあくまで時間稼ぎ

 11月30日にカナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行(ECB)、米国連邦準備制度(FRB)およびスイス国民銀行は、国際金融システムに対する流動性支援提供能力を拡充するための協調対応策を公表した。

 日銀は30日の夜に臨時の金融政策決定会合を開き、上記の欧米の中央銀行と協調し、最近の国際短期金融市場の緊張に対応するための措置を講じることになった。具体的には、現在日銀が実施している固定金利方式の米ドル資金供給オペレーションの貸付金利を0.5%引き下げ、12月5日以降のオペレーションから適用する。この引き下げにより、新たな貸付金利は、貸付期間に応じたドル・オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場の実勢金利に0.5%上乗せしたものとなる。

 加えて、現在FRBとの間で締結している米ドル・スワップ取極、およびこれを原資とする米ドル資金供給オペレーションの期限を、2013年2月1日まで6か月延長することとした。さらに、上記中央銀行との間で、2013年2月1日を期限とする為替スワップ取極を締結する。これにより、日銀は5つの中央銀行が必要とする場合に円資金を供給することが可能となるとともに、日銀が必要とする場合に現行の米ドルを含む5通貨の調達が可能となる(日銀、「国際短期金融市場の緊張への中央銀行の協調対応策」より)。

 欧州危機は深刻化し、ユーロ圏周縁国だけでなく中核国の長期金利も上昇しつつあった。これらユーロ圏国債を大量に保有する欧州系の銀行は、資金の取り入れに困難をきたし、ドル資金の調達コストがじわりじわりと上昇してきていた。

 そんな矢先、格付会社ムーディーズは29日、欧州15か国87銀の行の債務格付けを引き下げ方向で見直すと発表した。さらに30日にS&Pは主に欧米の銀行15行の格付けを引き下げた。これらにより欧州の銀行などのクレジット・クランチ(信用逼迫)も意識されつつある中、緊密に連絡を取り合っていたとみられる日米欧の中央銀行が、FRBを中心に協調策を緊急協議し、臨時のFOMCや決定会合などの開催を経て、それを発表したものとみられる。

 欧州の信用不安の強まりによる国債価格の下落は、ユーロ圏の金融機関の経営を悪化させ、新たな金融危機に発展するのではとの懸念もあった。もしそうなれば2008年のリーマン・ショックと同様にそれが米国や日本経済に多大な影響を与えかねず、リーマン・ショックの際と同様に、すばやく中央銀行が連携して動きを見せた格好である。

 しかし、これはあくまで対処療法であり時間稼ぎにすぎず、根本的な解決にはならない。これについては日銀の白川総裁も「時間を買う政策」とコメントしていた。一時的に欧州の金融機関はドルの資金繰りが楽になるかもしれないが、ユーロ圏の国債価格の下落が止まらない限り、危機は収まらない。その問題解決は中央銀行の仕事ではなく、政治家の仕事となる。

 ECBが無限大に国債を買い入れれば問題解決するという意見も出ているが、日銀による国債直接引き受け同様のリスクがあり、財政規律はさらに緩むことになりかねない。イタリアなどのユーロ圏の国債価格の下落を取り戻すためには、あらためてユーロ圏の財政規律を確立するとともに、危機に陥っているギリシャやイタリアなどへのしっかりした支援策を講ずるほかはない。つまりユーロ圏の国債の信用回復こそが、問題解決の糸口となるはずである。


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by nihonkokusai | 2011-12-02 10:08 | 中央銀行 | Comments(0)

ECBによるイタリアへの対応

 今月1日にECB総裁に就任したのは、イタリア出身のマリオ・ドラギ氏である。その結果ECBの役員会は、イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁、ポルトガル出身のヴィトル・コンスタンシオ副総裁に加え、スペイン出身のゴンザレス・パラモ氏、ドイツ出身のユルゲン・シュタルク氏、ベルギー出身のピーター・プラート氏、イタリア出身のビーニ・スマギ氏の6名の専務理事で構成されている。

 ちなみにECB役員会はECBの執行機関となっており、最高意思決定機関であるECB理事会が策定するガイドラインに従い金融政策を実施する(日銀のサイトより)。

 ECB理事会にはユーロ圏の17か国の中央銀行総裁も加わる。このため、マリオ・ドラギ総裁、ビーニ・スマギ専務理事、そしてイタリア中銀のイグナシオ・ビスコ氏総裁と、23人のECB理事会メンバーのうち3名のイタリア出身者が存在する。

 イタリアのベルルスコーニ首相は10月にビーニ・スマギ専務理事に対し、フランスとイタリアの関係がこれ以上冷え込むのを防ぐため、フランス出身のトリシェ前総裁が抜けることで役員会の席をフランス人に譲るとして、早期に辞任するよう求めていた。

 しかし、ビーニ・スマギ専務理事は任期が2013年までとなっており、辞任の強制はECBの独立性に対する攻撃であり、スマギ理事はECBの支持を得ているとしてそのまま専務理事にとどまっている。これには、理事会メンバーであるメルシュ・ルクセンブルク中銀総裁なども理解を示すような発言があったが、政治からの独立性を意識すれば妥当であろう。

 そして、そのメルシュ・ルクセンブルク中銀総裁は、もしイタリアが確約した改革を実行しないと判断した場合、ECBによるイタリア国債の買い入れを停止する可能性をECB内で、討議していたことを明らかにした。

 11月3日のECB理事会において、国債の買入増額などは行わず利下げを行った。ECBによる国債買入拡大にはドイツなどの反対があったためとみられるが、メルシュ総裁の発言を見る限り、そもそもイタリア国債の買入増額を議論できるような状況にはなかった可能性がある。

 メルシュ総裁を含めECB理事会メンバーからは、ユーロ圏債務危機解決に向けECBが最後の貸し手となることは望まないとの発言が繰り返されている。メルシュ総裁は責任を果たさない政府を救済するのがECBの仕事ではないとして、名指しはしていないものの、その政府は婉曲的にギリシャ、そしてイタリアを示していたものと思われる。

 イタリア政府は緊縮財政を確実に進めるため、IMFの監視を受けることで合意したと伝えられている。イタリアのベルルスコーニ首相は、2013年までに財政の均衡化を目指す一連の措置を提示したが、これが実行に移されるのかどうか他のユーロ加盟国、そしてECB内でもそれを危ぶむ見方も強いようである。

 欧州の信用不安がギリシャから直接、イタリアに向かいつつあり、これを回避するにはイタリアそのものが財政再建に積極的にならざるを得ず、だからこそ異例ともいえるIMFの監視も受け入れたとみられる。

 イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁を含め、3名のイタリア出身のECB理事会メンバーは、かなり難しい立場に置かれているようにも見える。ドラギ総裁として最初のECB理事会では利下げという手段をとってきたが、そのカードは限られている。出身国を信用不安から救うためには国債買入増額とかではなく、財政再建を促すことが重要となる。しかし、それは国民の痛みを伴うものであり、また政権の実行能力にも問題が残る。イタリア国民の意識を変えられるものなのか、ECBによるイタリアへの今後の対応についても注意しておく必要がありそうである。


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by nihonkokusai | 2011-11-09 08:16 | 中央銀行 | Comments(0)

FRBとECBのスタンスの変化

 ギリシャ問題で揺れ動く中、1日から2日にかけて米国ではFOMCが開かれ、3日にはECB理事会が開催された。

 2日のFOMCでは、金融政策については賛成多数で現状維持を決定した。ただし、最新の経済見通しで、経済成長率や失業率の見通しを大幅に下方修正し、バーナンキFRB議長の会見では、「景気回復の継続を確かなものにするために適切な行動を取る用意がある」と発言し、追加緩和に含みを持たせた。その追加緩和としては、住宅ローン担保証券(MBS)の追加購入は「現実的な選択肢」だと述べたそうである。

 今回反対票を投じたのは、シカゴ地区連銀のエバンズ総裁で、反対理由は追加緩和を求めてのものであった。エバンズ総裁はMBS購入拡大を主張しているとみられる。また、9月のFOMCで反対票を投じたフィッシャー、コチャラコタ、プロッサーの各委員は今回、賛成票を投じた。 

 FOMCの前にタルーロFRB理事が、「MBS購入は選択肢の上位に入れるべきだ」と発言したり、イエレンFRB副議長も経済状況が追加緩和を正当化するなら、量的緩和第3弾は適切な措置になるかもしれないとの認識を示すなど、FRBの執行部もQE3について前向きの姿勢を示していた。それが今回の金融政策の票決にも現れていた。ただし、追加緩和というカードそのものは今回温存された。欧州の信用不安の行方など非常に不透明感が強く、タイミングを見計らってそのカードを切るつもりであろうか。次回のFOMCは12月13日に開催される。

 そして、3日のECB理事会においては、主要政策金利であるリファイナンス金利を0.25%引き下げ1.25%とした。

 10月31日に発表された10月のユーロ圏の消費者物価指数速報値が、前年同月比3.0%の上昇となり、今回は利下げは行わないとの見方が出ていた。このため、市場では今回の利下げには意外感も出て、3日の欧米の株式市場などではこれを好感し上昇した。

 11月1日に就任したばかりのマリオ・ドラギ新総裁は、理事会後の就任後初めてとなる会見で、景気の下振れリスクが増しており、そのため物価上昇率は2012年中に2%未満となるとの見通しを示し、消費者物価指数が上昇する中にあっての利下げの理由を説明した。

 今回の利下げは景気そのものへの配慮したこともあろうが、ギリシャの信用不安で市場心理が悪化している中、少しでもそれを改善することが意識された結果、追加緩和を決定した可能性がある。ただし、ドイツなどが反対していたECBによる国債買入拡大には踏み込まなかった。

 今回の決定は全会一致ともドラギ総裁は語ったようで、ドイツ出身者からの反対はなかった模様である。本来であればECBは採決の結果については明らかにしないが、あえて反対者がいなかったことを強調した格好と言える。また、ドラギ総裁からは、「私はドイツ連銀の伝統に敬服している」との発言もあったようである。ドラギ総裁はイタリア出身ではあるが、ブンデスバンクを中心とした欧州の中銀の伝統を受け継いでいるとみられている。

 このように今回のFOMCとECBでは、これまでと明らかに変化が出てきている。FOMCではフィッシャー、コチャラコタ、プロッサーのいわゆるタカ派が影を潜め、エバンズ総裁のようなハト派の意向が強く意識されるようになってきた。

 そしてECBでは深刻な問題となりつつあったドイツ出身者などとの意見の対立を回避し、その上で欧州の危機対応に向けた姿勢をとった。ドイツやフランスという大国の板挟みとなる中での、マリオ・ドラギ新総裁がどの程度の手腕を発揮できるか注目されていたが、ただのマリオではなく意外にもスーパーマリオであった可能性もある。もちろんそれが明らかとなるのは、今後のECBでの舵取り次第となるわけではあるが。


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