牛さん熊さんブログ

bullbear.exblog.jp ブログトップ

2012年 07月 30日 ( 2 )

先物取引の重要性と課題

 日銀の白川総裁は、Futures Industry Association(先物業協会)が主催したコンファランスにおいて「先物取引市場と業界の課題」というテーマで講演を行ったが、この邦訳が日銀のサイトにアップされており、今回はこの内容について見てみることにする。

 先物取引は商品だけでなく金融の世界でも歴史はあるが、一般にはあまり知られていない。個人的にも債券先物が取引されるまではほとんど関心はなかった。しかし、現在では金融のデリバティブの世界では中心的に存在ともなっており、たとえば債券市場の動向を見るにあたって長期国債先物(債券先物、JGB先物とも呼ばれる)は、ペンチマークのような存在となっている。

 先物取引といえばシカゴでの取引が有名であるが、そのシカゴが参考にしたのが、18世紀初頭、大阪の堂島では始まった米の先物取引である。この時代すでに証拠金や差金決済といった仕組みがあり、限月などの仕組みも出来ていたのである。白川総裁も先物取引所と呼べる組織が、世界でおそらく最も早く日本で設立されたとしている。

 「洗練された市場が自律的に発展したという事実は、条件さえ整えば、日本において先物取引が繁栄し得るのではないかとの期待が全くの的外れでなはいことを示唆している。」と白川総裁は指摘しているが、現実に債券市場での長期国債先物取引を見る限り、十分活用されていることは確かである。また、日経平均先物も個人を含めて活発な取引が行われている。

 ところがこの先物市場を含めての取引が危機を迎える場面があった。「金融危機の頂点、とくに2008 年の後半においては、欧米を中心に金融市場はほとんど機能を停止した」(白川総裁)状況にあり、カウンターリスクが強まり、CDS取引を含む店頭(OTC)デリバティブ市場において、問題が先鋭化していた際、問題への対応を検討するにあたり、「店頭デリバティブ市場については、比較的問題が少なかった先物市場の経験が広く参照された」とある。

 ここで注意しておくべきは、「先物取引」と呼ばれる取引は、大阪堂島、シカゴのCME、CBTで発達したことでもおわかりのように「取引所取引」である。債券先物は東証、日経平均先物は大証で売買されている。つまり相対で行う店頭取引ではない。外為市場では先渡し取引を先物取引と称することもあるが、厳密な意味では先物取引ではなく、外国為替証拠金取引についても厳密には先物取引ではない。

 改革を進めるにあたり「店頭デリバティブ市場は、先物市場に一層近づくことになる。標準化になじまない商品についても、証拠金の受払いや取引の報告という、先物市場で有効性が確認されている義務が課されることになっている」(白川総裁)とされ、店頭デリバティブは、歴史のある先物取引が参考にされ、今後同じような形式の取引になっていくことが予想されている。

 また、白川総裁は、「先物市場は、取引所とそれに関連した清算を行う仕組みという、すぐに活用できるモデルを示しているが、そのモデル自体に改良の余地が残されている。」とも述べている。この清算を行う仕組みに関しては、下記のような事例も総裁は指摘している。

 「リーマン・ブラザーズの破綻によっても日本では大きな混乱は発生せず、その結果国境を越えた影響は最小限に止まったが、日本国債清算機関(JBGCC)における危機管理の手順に改善の余地があることも明らかになった。・・・リーマン・ブラザーズの法的な倒産手続が始まり、同社が日本国債清算機関に対し国債と資金を引き渡すことができないと判明したところから、必要な国債と資金を手当てできるまでの間、日本国債清算機関は多大な労力を費やした。それは綱渡りであった。」

 この事例研究はかなり重要なものであろう。何かしら大きなアクシデントが生じた際の対応はこのような清算機関にも当然求められるものとなる。しかし、「清算機関は、その利用者が破綻した時でも健全性を維持しなければならないが、これを実現するのは容易ではない」(白川総裁)。

 国債取引に関するリスク軽減への取り組みとして、総裁は日本国債の決済期間の短縮も指摘している。今年4月以降、日本国債の取引は、それまでの T+3 決済からT+2 決済に短縮され、未決済残高が削減された。さらに決済期間を T+1決済まで短縮するための検討も開始されている。

 金融という大きなインフラが構築されているが、その中にあって国債の取引が円滑に行われているのは、実は多くの仕組みに支えられている。特にあまり目立たないが決済や清算機能であり。これが円滑に働いていなければ、市場そのものは成り立たないことにもなる。

 ちなみに資金の決済は最終的に日銀の口座が使われることになろうが、白川総裁は「日本銀行は、証券取引所や東京金融取引所を含むさまざまな金融市場インフラ運営者との間で、長きにわたり建設的な関係を構築してきた。同時に、中央銀行に口座を保有しているからといって、緊急時に中央銀行から自動的に資金供給を受けられるとは限らない点も強調したい。」とも釘を刺している。


*** 「牛さん熊さんの本日の債券」メルマガ配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」メルマガ、通称、牛熊メルマガでは毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。登録申込当月分の1か月は無料でお読み頂けます。ご登録はこちらからお願いいたします。

BLOGOS版「牛さん熊さんの本日の債券」
まぐまぐ版「牛さん熊さんの本日の債券」

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp


[PR]
by nihonkokusai | 2012-07-30 13:30 | 債券市場 | Comments(2)

日銀のこれから課題

 日銀は世界の中央銀行の先駆けとなる格好で、1999年2月にゼロ金利政策を導入し、政策金利をほぼゼロ近辺に引き下げた。このゼロ金利政策は2000年8月に解除されたが、その後、日本のデフレ圧力はさらに強まることとなり、2001年3月からは量的緩和政策を導入した。これは政策金利がこれ以上引き下げられないことから、政策目標を日銀の当座預金の残高にするという、過去に例のない政策を打ち出した。これは政策金利を上げ下げする伝統的な手段に対し、非伝統的手段と呼ばれた。

 デフレは日本独自のものであり、よもや欧米の中央銀行が同様の手段を取ることになろうとは、誰も考えてはいなかったのではなかろうか。

 日銀の量的緩和政策は結局、2006年3月まで続くこととなる。7月にはゼロ金利政策も解除され、2007年1月に政策金利は0.5%まで引き上げられた。しかし、日銀の政策金利の引き上げはここまでとなった。

 2007年あたりから、米国のアメリカの住宅価格の下落をきっかけに、サブプライム問題が発生し、それが2008年のリーマン・ショックを引き起こし、世界の金融経済に大きな衝撃を与えることとなった。日銀は再び利下げを行ったが、そののりしろはわずかに0.5%しかなく、オペの増額などで緩和効果を計った。

 それに対して、欧米の中央銀行は非伝統的手段を講ずることとなり、2009年3月にFRBはのちにQE1と呼ばれる量的緩和策を導入し国債等を買い入れることとなった。イングランド銀行も量的緩和策として国債の買入を決定したのである。

しかし、2010年にはいると今度はギリシャを発端とする欧州の信用不安が強まり、これが世界の金融市場を揺るがすこととなった。これに対して2010年5月にECBは市場機能の正常化を目的として、国債の流通市場に介入することを発表した。1999年のユーロ発足以来、欧州の中央銀行が国債の買入を実施するのは初めとなる。

 2010年10月に今度は日銀が、実質的なゼロ金利政策、時間軸の明確化、さらに国債を含めた資産買入等の基金創立を検討するという包括的な金融緩和策の実施を決定した。  そして、2012年1月にFRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くことを決定し、日銀も2月に中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として「中長期的な物価安定の目途」を示すことを決定した。

 これはFRB、日銀ともに正式にはインフレ目標の導入と認めてはいないが、これまでインフレ目標の採用は行ってこなかった主要中銀がついに実質的なインフレ目標を導入したと認識されたのである。

 欧州の信用不安はギリシャを発端として、アイルランド、ポルトガル、そしてスペインに拡大してきた。いずれイタリアにも及ぶ可能性もあるなど、対策は幾度も講じられるが問題解決には至らず、むしろ問題は拡大し長期化する恐れもある。

 このような状況下、日本はさておき、欧米諸国も財政への懸念もあることで、財政政策には頼れず、このため自ずと対策は中央銀行頼みの状況が強まっている。

 安全資産として外為市場では円が買われたことで、円高抑制に向けた対策も日銀に求められ、さらに消費税増税による景気への影響も懸念されるため、この対策も日銀に委ねられた格好となった。

 基金の増額はどうしても国債中心に成らざるを得ないものの、日銀にとり財政ファイナンスとも意識されかねないため、国債の買入増加も慎重とならざるを得ない。

 しかし、このように日銀の慎重姿勢に対する批判も、与野党の一部から出ており、それが日銀法改正の動きにも繋がっている。しかし、この日銀法改正は日銀の独立性を損ないかねない。日本のこのような政治的な圧力は、世界の金融の歴史の流れに完全に逆行するような格好となっている。

 日欧米の中央銀行は、すでに非伝統的手段を取らざるを得ないが、さらなる緩和については限界もある。しかし、対策は中央銀行に期待され、期待を裏切られると批判される。特にその傾向が日本で顕著であり、これは日銀の政策委員の人事にまで影響を与えつつあり、日銀審議委員もやっとここにきてフルメンバーが揃った。さらに2013年には日銀の総裁、副総裁の後任人事も注目されている。今後の日銀総裁の後任人事や日銀法改正などの状況次第では日銀の信認そのものが試される可能性もある。それが日本の金融経済に大きな影響を与えかねない。このため、これからの日銀の動きに対しても注意して見て行く必要があろう。


*** 「牛さん熊さんの本日の債券」メルマガ配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」メルマガ、通称、牛熊メルマガでは毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。毎営業日3本届いて、価格は税込で月額1050円です。登録申込当月分の1か月は無料でお読み頂けます。ご登録はこちらからお願いいたします。

BLOGOS版「牛さん熊さんの本日の債券」
まぐまぐ版「牛さん熊さんの本日の債券」

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp




[PR]
by nihonkokusai | 2012-07-30 09:48 | 日銀 | Comments(0)
line

「債券ディーリングルーム」ブログ版


by nihonkokusai
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー