「1998年9月9日の利下げ」
議事録のため分量が多いため、「金融政策運営の方針の決定」から各政策委員の発言内容をチェックしたい。その前に当時の状況を簡単に振り返っておきたい。
当時は輸出企業だけでなく、海外に工場を持つ企業も世界的な金融システム不安に影響を受けやすくなっていたところに、ジャパン・プレミアムが再拡大。設備投資や住宅投資が当初見込みを上回るスピードで落ち込み、雇用・所得環境の急速な悪化が最終需要をさらに一段と下押す危険性が出てきた。金融システム問題を含めた厳しい構造調整局面にあり、これが日本経済の先行き不透明感を強めていた。
各委員の意見を順番に伺いたいとの議長(速水総裁)の発言のあと、最初に発言したのが中原委員。「公定歩合を0.5%を据え置いたままコールレート・オーバーナイト物の目標金利を0.25%前後にすることを再度提案したい」としている。
次の発言者の篠塚委員は低金利による家計への影響などから現状維持を主張。
植田委員は態度を決めかねていると発言したが、その後かなり長い時間発言していた。その中で興味深い箇所があった。「コールレートの誘導目標をたとえば0%から0.3%程度の範囲に設定する」こと方法を述べていた。
藤原副総裁は「8月末のマーケット状況をみると、緩和措置に訴えてはどうか」としている。
山口副総裁、デフレを意識して「金融政策でも手の内で出来ることはやはり実施したほうがよいタイミング」と発言した。
後藤委員は「ここ2日間程悩んでいる」と危機対応のため道具は温存しておく必要性について言及したが、異例の措置ということを表明した上での0.25%程度の緩和措置を主張。
そして武富委員も「見切り発車をする局面」として公定歩合の引き下げを含めての利下げを主張した。
三木委員も一段の金融緩和を進めデフレ・スパイラルに陥るリスクを軽減する方向に寄与する姿勢を示す必要性を示した。
そして最後に議長である速水総裁が意見を述べた。「民間経済の弱さに加えて、株の下落、企業や家計のコンフィデンスが一段と弱まることを通じて、景気や物価が下振れするリスクは前回会合時までに比べてかなり高まっきているように思われる」として、一段の金融緩和に踏み切ることが適当でないかと思うとし、コールレートを平均的にみて0.25%前後で推移するように促すのが良いと考えると述べ最終的に意見を取りまとめた。
そのあと中原委員の発言があり、それをきっかけにたいへん興味深い議論が交わされ、さらに「なお書き」誕生の経緯なども読み取れる。http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gijiroku/gjrk980909a.pdf
こうして最後に議長提案が出され、8対1と篠塚委員以外が賛成と利下げが決定されたのである。